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部屋の中
「おかけになって」と言われ、部屋の中央にある丸いテーブルを囲んでいる3つの椅子の1つに座る。
エルフの国の女王と思われる女性は、静かに紅茶を入れてくれた。
どうぞ、と差し出された僕はティーカップの取っ手をつまみ、1口飲む。
そこで意識がなくなった。
気がつくと、すごく暗い場所だった。
石で囲まれているような、冷たい感じがした。
地面に横たわっていた僕は、起き上がり辺りを見回した。
鉄格子が見える。
あぁ、牢屋だ。
アイネリアの城にも あったな。
明かりが少ないから暗いんだな。
当たり前か。
窓もないし、正面は壁だし。
横並びの牢屋なのかな。
なんで冷静なんだろう、と疑問に思った。
無意識にこうなることを、予測していた?
……こうなって欲しかった?
いや、牢屋の中に入りたいなんて思わない、はずだ。
でも、罪人として牢屋に入っていれば、訓練もしなくていいし、人にも関わらなくていいし、プリンセスガードの試験を受けなくてもいい。
そして、いつか殺されるんだ。
人生を終わらせてくれるんだ。
なんだ、簡単じゃないか、牢屋に入る人生の方が。
だめだだめだ。
なんてネガティブなんだ。
暗いからかな。
母上は、こうなることを分かっていて僕を1人でエルフの国に送ったのかな…
遊んできていいなんて、都合の良いことを言って…
僕に関わり過ぎて、審議会に目を付けられたのかな。
はぁ…
でも、トモエ隊長が一緒じゃなくて良かった。
きっと迷惑かけちゃうから。
でももし一緒だったら、なんとかしてくれたんだろうな。
そんな、気がする。
肌寒いな…
荷物も何もないし…
リムはどうしてるかな…
ジェシカさんやテレーズさん、ベアさんは元気かな…
壁に寄りかかって色々考えているうちに、寝てしまったみたいだった。
足音が聞こえる。
意識が戻る。
鉄格子の前に現れたのは、リィム隊長だった。
「…」
「クルト…すまない…こんなことになってしまって…」
「……」
声が、出なかった。
なんて返していいのか分からなかった。
疑って、しまった。
「クルトに喜んでもらうために、エルフの国に連れてきたのに……父上も母上もヘクターもどうして……」
「…」
「私がアイネリアに行く時に、クルトを連れて帰ってきてもいいかと言ったら3人とも「喜んで迎えよう!」と言っていたのに…とうして…」
リィム王女は終始うつむきながら話していた。
僕も僕でリィム王女ではなく、地面を見ていた。
「リィム、こんなところで何をしている」
「!! …父上」
国王が牢屋までくるなんて、あるんだな。
勝手な想像だけど。
「その男に構うな。何も持っていない男に用はない」
「!! ですが、父上!!」
「…」
否定してくれないのか、王女…
まぁ何も持っていないのは事実なんだけど…さ。
「その男の処刑の日は既に決まっている」
「処刑!?罪も犯していない者をどうして!?」
「リィムをたぶらかした、エルフ侮辱罪だ。人間は狡猾なことばかり考えるから好かん」
「本気ですか…父上…」
「冗談で処刑などと、私が言うと思うか?」
「…」
僕の知らないところで、僕のことが決まっていく。
アイネリアと同じだ。
どこも王族なんて変わらないんだな。
「言葉すら出てこないか、人間」
「……」
あぁ、処刑されてしまうんだな、としか思ってない。
言い返す言葉を持っていない。
ハリボテ王子の末路なんて、こんなもんだろうなと再確認しただけだ。
「人間と共存するにはまだ早かったようだ。何も持たぬ者に大事な娘をやれるものか」
「……」
「残された時間でせいぜい、自分の出生を呪うんだな」
リィム王女はもう何も言わなかった。
逆らえないのだろう、娘であっても。
「こんなところにいつまでもいたらイカン。きなさい」
エルフ国王はリィム王女の手を取り、歩き去った。
なんだ、もう終わりか。
どうせなら自分が生まれた国で死にたかったな。
僕を知ってる人が少なからずいるから。
良い感情を持ってるかは抜きにしても。
あのときリムを助けずに16才で城を出ていたら……
なんて、後悔、してるのかな…
死ぬのが決まったから、心が弱くなって、自分のしてきた行動に、自信が持てなくなってきてるんだな…




