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次の日。
ゆっくり朝食を食べたあと、出発した。
村を出るときも自然に出て、自然に森から出た。
不思議だ。
不思議だから魔法なのかな。
道中、リィム隊長の家族について聞いた。
父親はエルフの国の国王。
母親は女王。
そして、僕と同い年の弟がいるとのことだった。
同い年の、弟かぁ。
今まで同年代の同性と接したことがないから、対面したら緊張しちゃうかもしれない。
夜になりかけの夕方。
エルフの国に着いた。
すごく大きな森の中らしい。
エルフの村と同じように自然に着いていた。
森の中に城があり、城下町がある。
森の外から丸見えなのに、昨日泊まったエルフの村のように、一般人は入れないらしい。
すごい技術だ。
魔法って怖いな、と改めて思った。
森の外からは城が見えているのに、たどり着けないなんて。
城下町を通り、城の前まで来る。
僕の背丈の何倍もある城門の前に、兵士が二人。
「「おかえりなさいませ!!リィム王女!!」」
「うむ、ご苦労」
「そちらがアイネリア国のクルト王子でいらっしゃいますか?」
「そうだ。失礼のないようにな」
「「エルフの国にようこそ!!クルト王子!!」」
開門!!と兵士二人が叫ぶと、重苦しい音を立てて門が開いていく。
観音開きだ。
すごいな。
アイネリアとはまた違った迫力がある。
門をくぐり、中庭まで馬車を進むと停止し、降りるように言われた。
馬車を降りた僕の目には、森の中の城、エルフの城が目の前にいっぱいに広がった。
すごい。
森の中に城が、ある。
従者のエルフの男女を先頭に、僕とリィム隊長は肩を並べて歩いていく。
おそらく謁見の間だろう。
通りすがる城のエルフの人たちは、みな、立ち止まって深々と一礼する。
通り過ぎるまで顔を上げない。
この辺は、同じか。
母上とかリムとか父上とか。
僕はジロジロ見られた挙句、捨て台詞を吐かれる毎日だったけど。
これが王族なんだろうね。
別に優越感などは感じなかった。
違和感だけだった。
謁見の間
「父上、ただいま戻りました」
「おお、リィム、よくぞ戻ってきた!」
結構な高さの階段の上にある玉座から、リィム隊長の父であるエルフ王が降りてくる。
顎にたくわえた立派な白いヒゲが似合ってる、ダンディな雰囲気だった。
ただ、やはりオーラがすごい。
王族の、オーラだ。
やがて僕とリィム隊長の前まで、エルフ王が歩いてきた。
「父上、紹介します。こちらがアイネリア国のクルト王子です」
「は、初めまして!!クルトと申します!!」
「うむうむ。話はそなたの母上であるアイネリア女王から聞いておるぞ。ほう、なかなか素直そうな顔しているではないか」
「・・・」
「女王制の国の王子、か。話には聞いていたが、もっと暗い奴を想像しておったわ」
「!!」
スッと目を細めたエルフ王の眼光に、背筋が凍った。
凍ったのに嫌な汗が吹き出た。
王者の目。
「父上!!」
「リィム、そうカリカリするでない。可愛い顔が台無しだぞ」
「ですが・・!!」
「見たところ何も持っていないみたいだな。おぬしは自分がリィムの夫にふさわしいと思うか?」
「・・・」
何も言えない。
なんだこのオーラ。
口も頭も固まってる。
何も持っていないというのは、物理的な物じゃない。
僕の内面のことなんだろう。
「父上、これ以上クルト王子を責めるのであれば許しません!!」
「リィム、この男のどこがいいのだ?」
「っ・・・!!!失礼します!!!!」
リィム王女は僕の腕を掴むと、ズカズカと謁見の間から出ていこうと歩き出す。
僕は、何も考えられなかった。
何もかも見透かされてるあの目。
恐怖すら感じた。
感じたが考えられなかった。
謁見の間の外
「クルト王子、すまない!!」
謁見の間の外に出て扉が閉まるなり、リィム王女は僕に深々と頭を下げた。
周りにいる城の関係者たちが、ざわつく。
あれ、僕、悪役?
「リ、リィム隊長、頭を上げてください!!」
「上げられぬ!!あんな失礼なことを・・・クルト王子を侮辱するようなことを・・・我が国の王である父上が・・・!!!」
「い、いいんです、慣れてますから、ね?」
我ながら情けないけど、その通りだ。
別に僕が悪く言われることには慣れてる。
なんとも思わないといえば嘘だけど、そこまでショックは受けない。
今まで何度も同じようなことがあったから。
でも、あの目。
王の目に、僕自身を見透かされている感じがしたのに、驚いただけなんだ。
「良くない!!せっかく招待したのにこれでは、クルト王子に申し訳が立たない!!」
「あ、あの、他の人が見てますから・・・」
「王の失態は国の失態!!連帯責任だ!!」
「お、落ち着いてください」
顔を上げたリィム隊長の顔は、ケチャップもびっくりするぐらいの真っ赤な色だった。
頭から湯気が出そうなほどだった。
綺麗な金髪のロングヘアーの毛も逆立ちそうなほどだ。
「姉上ーーー!!!」
声のした方に目を向けると、走り寄ってくる男が見えた。
「! ヘクターか」
「あ、弟さん、でしたっけ」
「あぁ」
ヘクター。
僕と同い年の、リィム王女の弟。
うわ、すごい美形だ!!
さすがエルフの男子。
しかも王族。
「お前がクルトか!!」
「え?」
「姉上をたぶらかした罪、万死に値するぞ!!」
「やめろ!!ヘクター!!」
リィム王女の静止も聞かず、助走をつけた飛び蹴りを食らった僕は吹っ飛んだ。
何が起こっているか、まるで分からなかった。
壁に打ち付けられ、地面に落ちる。
いてて・・・
リィム王女が駆け寄ってきて、僕を抱き起こしてくれた。
「大丈夫か!?クルト王子!?」
「だ、大丈夫です・・・」
「ヘクター・・・!!なぜこのようなことを!!」
リィム王女は弟のヘクターを鋭く睨む。
こんな怖い顔のリィム王女は見たくなかった。
本気で怒っている顔だ。
「姉上!!目を覚ましてください!!アイネリアの王子と結婚したいだなんて、我がエルフの国の恥です!!」
「ヘクター・・・貴様なんということを!!」
「女王制の王子なんてゴミ以下の存在ではないですか!!城に住んでるだけの一般人以下の!!」
「父上といい・・・ヘクターといい・・・!!!!私を怒らせることがどういうことか分かっているのか・・・!!!」
姉弟ゲンカが始まりそうだ。
これはまずいな。
見たところ、ヘクター王子も剣の使い手だ。
こんなところでケンカされたら、他の人たちに被害が出てしまう。
僕は立ち上がった。
「すみません!!僕が全部悪いんです!!僕だけが悪いんです!!」
叫ぶ。
周りの人達の視線が、集まる。
「城からも街からも出ていきますから!!失礼します!!」
僕は走り出す。
こうするしかない。
「ま、待て!!クルト王子!!」
「姉上!!追いかけてはなりません!!」
「離せ!!ヘクター!!」
僕の後ろから叫び声が聞こえる。
自分が情けない。
場を沈めるために、逃げ出すしかないなんて。
エルフ王の言った通りじゃないか。
何も、持っていない。
廊下に出た。
城門を目指して、走る。
一本道だったはずだ。
チラッと後ろを見たが、誰も追ってきてはいないみたいだ。
ホッとすると同時に、涙が出てきた。
情けない。
泣いても何も解決しないのに。
何やってんだよ、僕は・・・
違う国の城で・・・
これじゃまるで・・・
腕で涙をぬぐい、前を向いた瞬間、人の姿が見えた。
高級そうなドレスを来ている、すらっと背の高い女性。
気品の溢れる顔。
誰かにそっくりだ・・・
僕はその人の目の前で急ブレーキで止まる。
オーラが。
エルフ王のときと同じオーラを感じた。
だがエルフ王と違うのは。
僕を拒絶していないオーラだった。
「捕まえた」
女性はそう言うと僕の腕を優しく掴み、近くの部屋まで連れて行く。
扉を開け、僕を先に入れ、女性は後から入り、後ろ手にドアを閉める。
「クルト王子、ね」
「・・・はい」
「騒がしい家族でごめんなさいね」
「・・・え?」
にっこりと微笑んだ女性。
あ、そっか、リィム王女にそっくりだ。
ってことは・・・
「エルフの国へようこそ。クルト王子」
言われなくてもわかる。
エルフ女王だ。




