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数日もすると、僕が城を出て行く話も場内に広まっていた。
「クルト王子が出て行くらしいぜ」
「やっとか・・・もっと早くても良かったな」
「だが・・・あの無能王子が外で生きていけるとは思わねーけどな」
言いたい奴には言わせておけばいい。
何かに成功するために城を出て行く訳じゃない。
目標なんてないんだから。
それを、探しに行くんだから。
廊下
リムが前から歩いてくる。
心なしか覇気がなく、元気がないように見える。
僕の存在に気がつくと、一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの表情になった。
「・・・来月出て行くそうじゃな?」
「・・・うん」
「ふん・・・やっとか!せいせいするわ!!あと2年も出来損ないの顔を見ずに済んだしな!!」
「・・・今まで、兄らしいことしてやれなくて、ごめんね」
「・・・く・・・全くじゃ!ふん!!」
どこか迷いの気持ちが目に表れていた。
少しでも、兄として思って貰えてたらなんて・・・
儚い願いだ。
数日後
元々、持っていくものなんてない。
そして、一月ぐらい生活できる金は貰えるらしい。
また波風立つと嫌だからいらないと言ったが、
「こんなことでしか親らしいことできないから、受け取っておきなさい。本当はもっとあげたかったんだけど・・・ごめんね」
と母親は言っていた。
ありがたかった。
中庭
またヒマになったので、中庭で寝ていた。
僕には何ができるのだろう。
何がやりたいのだろう。
わくわくする気持ちと、不安な気持ち。
きっとこの生活が恋しく・・・なるのかなぁ。
里心なんて、この城にあるかなぁ・・・
「クールートー!!」
「・・・」
「こんなとこで寝てる場合じゃないでしょ!来月出て行くってどういうことよ!?」
「・・・ナル姫、僕の顔の上で仁王立ちされると、下着が丸見えだよ」
「・・・・!!!」
ナル姫はバッと身を翻すと、しゃがみこんだ。
良いものが見れた・・・なんて思ってはいけない。
邪な考えなんてすぐに顔に出るんだから。
「じ、実は見えてなかったとか・・・!?」
「・・・しましま」
「ぐぅううううう!!!不覚!!!一生の不覚!!!」
「・・・ごめんね」
「え、あ、いや、クルトなら別に知らない仲じゃないし、別に気にならないって言ったら大嘘だけど、あーもう!!」
「・・・僕ももう忘れるから、ナル姫も何も無かったことにしてくれないかな」
「な、無かったことにされるのもそれはそれで悲しい気がしないでもないけど、そうなると私がクルトのことをあーでもこーでもない・・・・」
ナル姫は焦りに焦りまくっている。
気にしないでって言ってるのに、そこまで気にされると僕もやりきれない。
しばらくして、ナル姫再起動。
「18歳になったら出て行くんじゃなかったの?」
「・・・今でも18歳でも同じだと思ったんだよ」
「・・・そんなに・・・苦しいの?女王制の王子って・・・?」
「・・・ノーコメント」
「ごめん・・・ちょっと配慮に欠けた」
「・・・いいんだよ、もう」
中庭の芝生の上に座っている僕。
僕の横にちょこんと座っているナル姫。
「私の国に・・・来ない?」
「・・・ごめん。自分が何が出来るか、探したいんだ。だから一人になりたいんだ」
「・・・城に入らなくても、城下町で生活するとかさ・・・そうすればいつでも会えるし、何か困ったことがあったら力になれるし・・・」
「・・・そうできたらかなり助かるけどさ、スキャンダルの元だよ。城下町の一般市民と一緒にいるところを見られたら、みんなどう思うのさ?」
「でも・・・でも・・・なんで・・・」
ナル姫が泣き出してしまった。
強気なナル姫が泣くところなんて見たことなかった。
僕は、リムがまだ小さい頃に、よく泣いていたときのことを思い出した。
お兄ちゃんっ子だったから、いつも何かあると僕に何でも言ってきたし、甘えてきた。
ちょっと懐かしかった。
「泣かないで、ナル」
僕はナル姫を抱きしめ、頭を撫でた。
リムはいつもこうすると泣き止んでいたんだ。
「だって・・・だって・・・もう会えないかもしれないなんて・・・嫌よ・・・」
「・・・大丈夫・・・生きていればいつか会えるよ」
「私は・・・リムリアも・・・クルトも大好きなのに・・・何年か前から3人で話すことも無くなって・・・」
「・・・ごめんね」
「なんで・・・クルトが謝るのよ・・・誰が悪いなんて決め付けられないけど・・・。どうして・・・。リムリアは・・・何か言ってた・・・?」
ナル姫は、次第に泣き止んできていた。
僕が抱きしめていることも、頭を撫でていることも咎めてこない。
・・・ちなみに、周りに誰もいないってことを知っててやってるからね。
「・・・ノーコメント」
「出来損ないの兄がいなくなってせいせいする・・・とかなんか言ってなかった・・・?」
「・・・」
「私には女王制のしがらみとか・・・聞いた話とかでしか理解できないけど・・・そんなに兄妹がギスギスする必要あるのかな・・・ごめん・・・勝手なこと言った・・・」
「・・・いいんだ。これでウチの城も少しは空気が良くなるんじゃない。・・・これからもリムの友達でいてやってね」
「言われなくても・・・あ、すごく良い名案が浮かんだんだけど!」
「・・・なんとなく想像がつくのが嫌だな」
「・・・何よー」
ナル姫はもう泣き止んでいた。
良かった。
また子供扱いするなとか、体に触れたから云々とか言われなくて良かった。
でも、離れてくれないな。
普通に兄に甘える妹みたいになってる。
「・・・私と結婚すればいいじゃない、でしょ」
「分かっているなら話が早いわ。さ、早く手続きしに行きましょう?私の国が反対する理由はないわ」
「・・・できるわけないでしょ。政略結婚になっちゃうんだから。国同士の結婚は特に敏感になるところだし」
「私と結婚して、母国に復讐しないとは言い切れない、ってこと?」
「・・・僕の境遇からしてね。良く思う人はいないよ」
「むーーー・・・・」
「・・・でもさ、ナル。もし僕と結婚したら、ずっと僕と一緒にいることになるんだよ?昼も夜も」
「え?・・・・・・・はっ!」
「・・・そんなの嫌でしょ」
広いところを見すぎて、近くを見ないなんてことはよくあることだ。
リアルな部分っていうのも、結局は求められるんだから。
「べ、べべべ、別に嫌ってことはないけど・・・」
「・・・子供は何人くらい欲しい?」
「そ、そそそそれは・・・わ、私の体クルトに気に入ってもらえるかな・・・ち、違う!・・・く、クルトの体も全部見ることに・・・あぁあぁ!!」
僕の腕の中で、真っ赤な顔でナル姫は悶絶している。
可愛いな。
14歳らしい。
しばらくして
「もう・・・決まっちゃったことだもんね・・・」
「・・・うん」
「住む所が決まったら・・・教えてね・・・絶対・・・教えてくれなかったら往復ビンタに牢獄30年の国外追放なんだから!!」
「・・・ナルの国に住む訳じゃないんだから国外追放は無いんじゃない?」
「細かいツッコミは無し!」
「・・・はいはい。でさ、ナルが泣き始めてからずっとこの体制なんだけど、いいの?」
ナル姫はハッとしたが、少し考えると、自分からも抱きついてきた。
「いいの・・・最後かもしれないし・・・き、今日はサービスなんだからね!!」
「・・・ありがとう、ナル」
「ふ、ふん・・・せいぜい私のスイートな体の感触を楽しむといいわ!!」
すりすりと顔を僕の体にこすり付けてくる。
小動物みたいだ。
本当に・・・仕草がリムみたいだ。
・・・懐かしいな。
「元気で暮らすのよ!!」
「・・・ナルもね」
最後の別れみたいなセリフを残して帰っていったナルだが。
それから2日に一回は城に来ていた。