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王位継承  作者: るーく
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非番の日。


前にミーティングで言われた通り、居住区の掃除をやる。


・・・全て。



50人近くが住んでいる場所だから、それなりに広い。


でも、しょうがない。


やるしかないんだ。












・・・ふぅ。


午前中から始めた掃除、昼前には半分終えることができた。


モップで床を掃除、雑巾で壁を掃除。


いつもは気にしていないところも、掃除しようとすると色々なところが目に付く。


埃や小さなゴミ。


それらも箒と塵取りで片付ける。











クルトの部屋


とりあえず昼御飯を食べようと、自室に戻ってきた。


あれ、なんかいい匂いがするぞ。











「ク~ルちゃん~」


「あ、テレーズさん、いらしてたんですか」


「うん~、今日はクルちゃんが大掃除するって言ってたから~、何かお手伝いでもと思って~」



僕が部屋に入ると、テレーズさんがいた。


基本的に鍵をかけない僕だから、別に不法侵入だとか気にしない。


どうせ、取られるものもないし。


ハリボテ王子だから、命を狙われる危険もないし。




「勝手に部屋に入っちゃって~、ごめんね~」


「別にいいですよ、取られて困るものもないし」


「お詫びといっては何だけど~、お昼御飯作っておいたから~」


「本当ですか?ありがとうございます!」


「えへへ~、こんなことでしか協力してあげられないから~」




ちょっと待っててね、と言うテレーズさんはキッチンの方へ行った。


部屋に帰ると誰かいて、食事を作ってくれる。


なんだかとても、嬉しいようなくすぐったいような気持ちになった。




「はい~、お待たせ~」


「うわー、すごくおいしそうです!」


「ちょっと頑張りすぎちゃったかな~、えへへ~」


「いただきます!」



お昼御飯にしては豪華すぎる食事だった。


どれもこれもおいしくて、箸が止まらなかった。




食後は、テレーズさんの淹れてくれた紅茶で一息。



「同じ茶葉を使っているのに、テレーズさんが淹れると全然味が違います」


「うふふ~、ありがとう~。きっと~、隠し味が入っているからだね~」


「隠し味?」


「ヒントをあげよう~」



テレーズさんはそう言うと、僕を背後から抱きしめた。


突然のことに身動きが取れなかったのと、手にしたカップから紅茶をこぼさないようにしたため、なすがままだ。



背中にテレーズさんの胸の感触と、近距離のため漂ってくるテレーズさんの匂い。


僕は顔が熱くなるのを感じた。




「これがヒントだよ~」


「え、えっと、わかりません」


「分からないか~、しょうがないね~。じゃあしばらくこのままだね~」


「答えは・・・教えてくれないんですか?」


「いずれ分かるよ~、スリスリ~」



テレーズさんは柔らかくて、暖かくて。


僕は安らいだ気持ちで、受け入れていた。













居住区


テレーズさんのおいしい昼御飯を食べて、やる気が出てきた。


抱きしめられたのもびっくりしたけど、気持ちよかったし。


変な意味じゃないよ。


さ、午後も張り切っていこう。











ジェシカの部屋の前


掃除は順調に進んで、後は僕ら一般兵が住んでいるところだけになった。


掃除をしているうちに、ジェシカさんの部屋の前にきた。


・・・少しジェシカさんのことを考えそうになったが、すぐに考えるのをやめた。


掃除だ、掃除。













「クルト」


「え?」


背後から聞こえた、僕を呼ぶ声。


この声は・・・ジェシカさん・・・



「あ、す、すみません、邪魔でしたか」


「・・・」


「え、えっと、すぐ済みますんで」


「・・・もう終わり?」


「え?」



ジェシカさんの顔には、表情が無かった。


真顔、何の感情も現れていない顔。


僕は、少し恐怖じみたものを感じていた。












「一応、ここで・・・終わりですけど」


「そう」


「・・・」



僕がそう答えても、ジェシカさんは動かなかった。


てっきり、部屋の中に入っていくものだと思っていたんだけど。


思っていたんだけど。












ぐい。


掃除が終わって移動しようとした僕の腕が、急に掴まれた。


顔を上げると、やっぱりジェシカさんだった。




「ちょっと、いいかな」


「あの・・・掃除道具を片付けないと・・・」


「そんなの後でいいじゃない」


「ですが・・・」


「四の五の言わずに、黙ってついてきなさい」



常時、低いとも取れるジェシカさんの声に、僕は圧倒されていた。


これはまた、あの時のようなことになるんじゃないか・・・


どうしよう、どうしようと思っていたが、ジェシカさんの部屋に連れ込まれてしまった。












ジェシカの部屋



以前と同じように、対面式で座らされた。


飲み物が出されたあたり、少しは歓迎されているのかなとか思ったけど、終始無言なあたり、僕は怖くてしょうがなかった。





「クルト」


「は、はい・・・」


突然、ジェシカさんが話しかけてきて、僕は焦った。


また、何か言われる。


王子のこととか。


結局、テレーズさんやトモエ隊長とは親しくしているし。

でも、助けてくれたのは二人だから、しょうがないよね。




瞬時に僕は色々な言い訳を考えていた。


おかしいな、こんなに言い訳するなんて。











「ごめん!」


「え?」



ジェシカさんは、僕に向かって頭を下げた。


僕はなぜジェシカさんが頭を下げたのか、全く意味が分からなかった。




「私の言った言葉で、クルトを傷つけちゃって、本当にごめん!」


「え、えっと、ジェシカさん?」


「ずっと、ずっと謝りたかったんだ・・・!でも、中々言い出せなくて・・・」


「いや、その・・・」


「ごめんなさい!ごめんなさい!」



突然のことで、僕は頭が回らなかった。


ジェシカさんが、僕に謝ってる。

この前のこと、だろう。


肩を震わせているジェシカさんは、きっと泣いている。


僕は・・・なんて言えばいいのだろう。




「仲間だから・・・何でも言い合えるって勘違いしちゃって・・・アタシ・・・ひどいことをクルトに言っちゃった・・・」


「・・・」


「分かってるの・・・10歳近くも年が離れているのに、同じ目線で話していたって・・・でも・・・あの後テレーズに、人には言われたくないことだってあるって言われて・・・すごく後悔して・・・」


「ジェシカさん・・・もう、いいんですよ」


「良くない!アタシが16歳のときには、もっと脳天気に生きてた・・・!家族に甘えて・・・友達がいて・・・好きなことをやって・・・でも・・・クルトは違う・・・誰にも甘えることができなかったのに・・・」


「・・・ジェシカさん」










僕は、俯いているジェシカさんを後ろから抱きしめた。


リムも泣いているときは抱きしめてやると、次第に落ち着いていった。


無意識の行動だった。


ジェシカさんを抱きしめていると気づいたとき、僕はその事実に少し微笑んでしまった。




「ク・・・クルト・・・?」


「ジェシカさんの言ったことは事実でしたから・・・でも、もういいんですよ。僕に対して言ったあと、後悔してくれたんでしょう?・・・だから、もういいんですよ」


「でも・・・でも・・・」


「そもそも、僕がいけないんです。王子だって丸分かりなのに、いきなり軍隊に入隊して。多分、みんなジェシカさんと同じことを考えていたんですよ」


「クルト・・・」


「ただ・・・今、ジェシカさんが仲間だから何でも言い合えるって言葉、とっても嬉しかったんです。王族だから、今までそんなものはなかったし。僕のために後悔してくれて、それを謝ってくれて、僕は・・・嬉しかったです」


「・・・クルト!!」




ジェシカさんは振り向くと同時に、僕を押し倒しながら抱きついてきた。


ごめんなさい、と何度も言いながら。


僕はただ、ジェシカさんの頭と背中を優しく撫でてあげた。

していいのか分からなかったけど、自然とそうしてしまった。












「ごめんね、クルト・・・」


「いいんですよ」



しばらくするとジェシカさんは、泣き止んでいた。


それでも僕から離れなかった。


落ち着いたのは僕も同じで、でも同時に抱き合っているという状況が、あんまり良くないと思ったり思わなかったり。


邪なことを考えないように必死だった。





「・・・本当に甘えたいのはクルトのはずなのに・・・大人のアタシが甘えちゃってたら・・・意味ないよね・・・」


「ジェシカさんのことは姉みたいに思っていましたが、この状況だと妹みたいに感じてしまいますね」


「・・・年上の妹、か。ふふ」


「やっぱり、ジェシカさんには笑顔が一番ですよ」



なんだか甘い雰囲気のような気がしてならない。


いい年の男女が二人きりの部屋で抱き合っているんだから。


・・・何を考えているんだ、僕は。






「クルトって、ふいに言う言葉がとってもキュンとくるんだよね」


「はぁ、よく分かりませんが・・・」


「考えなくてもいいよ・・・クルトはそのままで・・・いいよ」




ジェシカさんが顔を上げて、僕の顔に近づけてきた。


あれ、こ、これってまさか・・・













「はい~、そこまで~」


「テ、テレーズ!?」


「テレーズさん」




がらっ、とジェシカさんとテレーズさんの部屋の仕切り戸が開いた。


と同時にテレーズさんが現れた。






「も~、せっかくお昼寝してたのに~、二人でおもしろそうなこと始めちゃったから~、つい聞いちゃったじゃないの~」


「く・・・アタシとしたことが、テレーズの部屋と繋がっていたことを失念していた・・・!」


「ジェシカはほんと~、どっか抜けてるんだから~、ふふふ~」


「ぬ、盗み聞きなんて趣味悪いぞ!」


「盗んでないよ~、勝手に大声で喋ってた誰かさんの声が壁を突き抜けて聞こえてきただけだよ~」


「ふ、ふん!でも、いいんだ、クルトと仲直りできたんだから!」


「クルちゃん~、ほんとに許しちゃっていいの~?絶対これから苦労するよ~?だって、ジェシカだよ~?」


「え、えっと・・・」


「アタシじゃ何が不満なんだよ!今まではお姉さん気取ろうとしてたけど、これからは年上の妹スキルも習得したんだからね!甘え甘えられての、スーパーコンボなんだからね!」




ジェシカさんとテレーズさんの会話って、噛み合っているようで噛み合っていない、でも何だか聞いていると楽しくて。


僕は自然と笑っていた。





「あ~、クルちゃんが笑ってるよ~」


「きっとテレーズのことだな!ざまぁ!」


「クルちゃんに笑われるようなことはしてません~、ジェシカじゃあるまいし~」


「あはは」



三人とも、笑顔になった。


この感じ、やっぱり好きだ。


この感じを大切にしていきたい。

僕は強くそう思った。











「それはそうと~、私のクルちゃんから早く離れてよ~」


「断る!クルトを傷つけちゃった分、これからはいっぱい良くしてあげるんだから!」


「・・・でも、今度クルちゃんを傷つけたら、本当にジェシカと縁を切るからね」


「・・・え?」


「分かってる・・・本当に後悔してたんだから・・・クルト、何度も言うけど、ごめんなさい」


「い、いや、もういいんですよ」



テレーズさんの本気モードは、本当に迫力がある。


一瞬でスイッチが切り替わるのも、すごいけど。


僕は二人に言っておきたいことが、あった。











「・・・やっぱり人間って、仲良くするだけじゃなく、時には衝突することもあると思うんです。そうやって絆を深めていくものだと、僕は思っています。だから、これからは気を使い合うだけじゃなく、何でも言えるような関係を、みなさんと築いていきたいです」


「クルちゃん・・・」


「クルト・・・」


「すみません、年下が生意気言ってしまって・・・でも、僕はそう、思ったんです」


「・・・本当に~、クルちゃんって16歳~?・・・なんだかとっても大人だよね~」


「クルトの言ってることは正しい!そうだ!ぶつかりあってこその人間関係だ!」


「あはは・・・」


「ジェシカの場合~、他人とはぶつかってばかりだからね~、どうしようもないね~。クルちゃん~、早くこっちにおいで~、他人を思いやれる優しいお姉さんと一緒の方がいいでしょ~」


「誰が暴れ馬だ!クルトは渡さん!」


「む~、せっかくクルちゃん争奪戦から脱落したって思ってたのに~」


「ふふ~ん、このことが後々のポイント差に響くかもねー!分かり合い、ぶつかり合い、また分かり合い・・・絆が深くなるに決まってるもんね!」




マシンガンのような二人のトークは、しばらく続いた。


その間も、僕はジェシカさんに抱きしめられたまま。



もし、さっきテレーズさんが現れなかったら・・・


僕は、どうなっていたのかな・・・


なんて少し思ってしまった。












その後、仲直り記念パーティーだ!というジェシカさんの要望により、ベアさんも招集された。


ジェシカさんと離れていた時期も、結局は非番の日を同じにしてくれてたと思うと、なんだかちょっと嬉しかった。




「「かんぱーい!!」」


「かんぱ~い~」


「か、かんぱい」



「いやはや、一時はどうなることかと思ったが、やっぱりこうなったか、うんうん」


「あはは・・・ベアさんとこうして話すのも何だか久しぶりですね」


「全くだ、ジェシカが余計なことするからだな」


「余計なことってなんだ!・・・本当にアタシは後悔してたんだからね・・・なんで言っちゃったんだろうって・・・でも、アタシはクルトのことを真剣に仲間だって思ってたから・・・だから・・・」


「仲間以外の感情がありそうなんですけど~?」


「全くだ」


「そ、それはテレーズだって同じじゃないか!アンタみたいに腹の中なに考えているか分からないような女なんて、いずれツラーイ現実が待ってるんだからね!アタシみたいに裏表ないタイプが男を落とすんだよ!ふん!」


「む~、人を悪人みたいに言って~!クルちゃん~、私の全部見せて聞かせてあげるから~、今日は私の部屋にお泊りしよ~」


「え、ぜ、全部?」


「お、クルトがピンク色の妄想に入ったぞ」


「なにをー!アタシの部屋に泊まんな!甘えつくして、甘えられ尽くしてあげるから!」


「ジェシカ意味不明~」


「わけわからんな」


「あはは・・・」


「な、なんかオチみたいな扱いされてるのは気のせいかな!?かな!?」





そんなこんなで、大掃除非番の日は過ぎていった。


もちろん、僕は自室に帰って寝たよ。


ジェシカさんとテレーズさんが酔いつぶれちゃ、そうなるさ。




・・・酔いつぶれなくても、部屋に帰ったよ。本当だよ。

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