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次の日。
僕は久しぶりに、女王である母親に会うことにした。
同じ城の中で生活している家族なのに、会う会わないってのもおかしな話だ。
それも、しょうがないことなんだ。
国に対して希望がない者に対して、目をかけても意味が無いんだから。
僕が両親に会うにも、謁見という形になる。
・・・リムはいつでも自分の都合で会うことができるし、両親だってそうだ。
僕だけ、一般市民と同じ扱い。
ただ、同じ城の中で生活しているだけという。
思えば、物心ついたときから食事だって一人だし、リムや両親に比べると、料理の質だって格段に低いものを食べてきた。
まだ食事を出され、自分の部屋があるってだけ幸せだ。
・・・同じ王族とは思えないよな。
息苦しい。
そんなことも口に出来ない。
意見を言う権利なんて、無いんだから。
・・・僕のことを理解してくれて、優しくしてくれた人なんて今までいなかった。
謁見の間
「・・・クルト、久しぶりね。今日はどうしたの?」
「・・・女王様にご相談があります」
「・・・話してみなさい」
「・・・18歳の誕生日と共にこの城を去る・・・との話でしたが。来月にでもこの城を出て行こうと考えています」
「え・・・?」
「・・・既に私も物心つき、分別が出来る年です。18歳まで待たずとも、早くから社会に慣れておくためにも良いかと。」
「・・・クルト、ちょっと私に着いてらっしゃい」
話はまだ途中だったのだが。
女王の私室
「ここなら・・・気兼ねなく話せるでしょう。元々おかしいよのよね、実の親子なのに謁見だのなんだの・・・」
「・・・女王様?」
「・・・今は二人だけなのだから、お母さんと呼んでもいいのよ?」
「・・・母上」
「・・・はぁ、まぁしょうがないわね」
「クルト、先ほどの来月から出て行くという話ですが」
「・・・はい」
「大臣や審議会などはその意見で大喜びするでしょう・・・王位継承権の無い人間を城から追い出すことができるのだから」
「・・・はい」
「これは私個人の意思であるけど・・・クルト、あなたは私の可愛い息子・・・本当なら城から出て行けなんて認めたくないの・・・王国の規律や法律のせいで、一つも母親らしいことなんてしてあげられなかったけど・・・」
「・・・」
「ごめんね、クルト・・・毎日息苦しい生活を強いられて・・・十分に甘えさせることもできずに・・・クルトが早く城から出て行きたいって気持ちも分かるわ・・・」
「・・・」
「ごめんね・・・今更・・・今更過ぎるわよね・・・でもね、私はいつもあなたのことを思っているし・・・愛してるからね・・・」
「・・・(今更、本当に今更だよ・・・)」
最初で最後の息子の我が侭だと思ってくれて、来月から城を出て行くことを許された。
女王様・・・いや、母上。
僕のことをずっと思っていてくれたんだ・・・
嬉しいような、恥ずかしいような・・・
だけど・・・なら、なぜこんな生活を強いられ続けなければいけなかったんだ、という気持ちもある。
ちくしょう、なんだかモヤモヤする。
自分の部屋
その夜、自室でのこと。
こんこん、と扉をノックされた。
僕の部屋にノックなんてする人間なんていない。
今まで一度もされたことなんて無かったのだから。
「・・・はい」
「私だ・・・クルト」
「・・・開いています」
「失礼する」
部屋に入ってきたのは、父親だった。
王である父親。
女王制の国で、父親もさぞ苦労が多いとは思っていたが。
話をするのも、久しぶりすぎる。
前はいつ話したかな・・・
「・・・王」
「今はいい。で、だ。来月・・・出て行くのか?」
「・・・はい」
「そうか・・・お前の決めたことに、口は出さないが・・・本当にそれでいいのか?」
「・・・決めましたから」
「そうか・・・今まで父親らしいことを一つもできなくて申し訳ないと思っている・・・」
「・・・」
「・・・影ながら出来る限り援助しようと考えてる・・・今まで出来なかったことを、な。お前が外に出れば少しはガードが甘くなるだろうからな」
「・・・ありがとうございます。ですが、気持ちだけ受け取っておきます。もしバレてしまったときのリスクを考えると・・・」
「・・・クルト」
「・・・母上とリムのことよろしくお願いします」
「・・・何一つ家族らしいことしてやれなくて、すまない」
父親は部屋を出て行った。
父親も母親も、今日、僕と話すために結構無理してきたと思う。
それだけ規律は厳しいし、監視の目がいくつもある。
少しだけ規律についての本を読んだが、昔の代では、18歳までになったら出て行く規律も、死刑であったらしい。
それを良しとしない、昔の女王が変えたんだろうな。
そのときもきっと、すごい苦労の末だったんだろう。
自分がお腹を痛めて生んだ子供に対して、愛情がない母親なんていない。
父親だってそうだ。自分の分身なんだから。
ありがとう。
父上、母上。