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王位継承  作者: るーく
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マリアの家



マリアさんに案内されたのはリビングだった。


僕の横にはトモエ隊長が座っていて、目の前にはマリアさんがいる。


テーブルの上には、マリアさんが入れてくれたお茶とクッキーがある。


僕は何を話したら良いのだろう、と考えていた。



「それにしても本当に久しぶり、姉さん」


「あぁ、実際に来ようと思ったのは昨日だったんだ」


「そう。で、今日、そっちの子と一緒に来たのは何か意味があるの?」


「うむ、実はな・・・」


トモエ隊長が、今日僕と一緒にマリアさんの家に来た理由を話した。



「そう、まさかとは思っていたけど、やっぱり王子だったのね」


「え?」


「あぁ、クルトはアイネリア王国の王子だ。アイネリアの規律は他国と比べて特殊だからな。」


「確かに。女王制の国なんて、アイネリアしか聞いたことないから」


「それでな・・・」


早々に僕が王子だということがバレた。


ていうか、僕の名前から知っていたような風でもあった。


でも、いいのかな。王子だってバレても。












「ねぇ、君。クルトって呼んでもいい?」


「あ、はい。構いません」


「別に萎縮しなくてもいい。クルトのことは、姉さんから何度か話を聞いたことがあるから、王子だっていうことは知っていたの。今日のことも口外するとかそういうのはないから、安心して」


「あ、ありがとうございます」


「姉さん、クルトって可愛いね」


「そうだろ?でも、ちょっと前まではな・・・」



小さい頃の僕、最近の僕、トモエ隊長は嬉しそうに話していく。


なんか、恥ずかしい。




「クルトのこと、よく分かった。姉さん、ありがとう」


「あぁ。もしクルトが助けを求めてきたら、協力してやって欲しい」


「えぇ、構わないわ。私なんかで良ければ、いつでも会いに来てくれていいから」


ニコっと笑って小首をかしげる仕草をしたマリアさんは、とても綺麗だった。


トモエ隊長とはちょっと違った雰囲気もあるし、なんだか緊張してしまう。



「私はこの村で薬草を調合したりして、生計をたてているの。姉さんみたいに、剣が強いわけでもないから」


「マリアは元々、争いごとが苦手であったからな。それは私の仕事だ」


「そうなんですか」


剛の姉に対して、柔の妹って感じか。


いや、ちょっと違うか。


トモエ隊長は剣も学も両方すごいし。


パーフェクト姉妹か。











少しずつ慣れていって、会話も順調になってきた。


でも、さすがトモエ隊長の妹というか、要点だけを中心に話すのは変わらない。


二人、トモエ隊長がいるように感じてしまう。




「クルトは、好きな子とかいないの?」


「え!?」


「ほう、それは私も興味があるな」


「もしいれば、惚れ薬とか作ってあげようか」


「・・・えっと」



僕は助けを求めようとして、トモエ隊長の方に視線をやった。


だが、それがまずかった。



すかさずマリアさんが。


「姉さんが、好きなの?」


「ええええ!?」


「ふむ、そういえば昨日も押し倒されたしな」


「ちょ、トモエ隊長・・・あれは・・・」


「その話、詳しく聞かせて、姉さん」



本気なのか、本気じゃないのか。


これも言葉遊びの一つだと気づいたのは、だいぶ後。


さんざんからかわれたあとに、冗談だということで話は落ち着いた。


大人の女性ってすごいと実感した。










「む、そろそろ昼時か」


「そうね、あ、食材買いにいかないと。姉さんたち来るとは思ってなかったから、買い置きがない」


「では、私が買ってこよう」


「僕も行きます」


「いや、一人で行ってくる。クルトはマリアと留守番をしていてくれ」


「分かりました。お気をつけて」


「いってらっしゃい、姉さん」


話が終わるとすぐに家を出て行った。


その決断力と行動力は、目を見張るものがある。


でも、マリアさんと留守番か。


会話、持つかな。











マリアさんがソファに行こうというので、移動した。


やっぱり、横に座られた。


これはもしかして・・・



「ふふ、緊張しないで」


「あ、はい・・・」


「まだ16歳だったね、あんまりこういうのは慣れていないのかな」


マリアさんの手が、僕の頬をスルッと撫でた。


僕はくすぐったさに、身をよじる。


だが、マリアさんの体は僕に密着していた。



「双子でもね、やっぱり色々違うんだよ。確かめてみる?」


「え、確かめるというのは」


「胸の大きさとか」


「・・・・・・」


「別に触ったからといって姉さんに言うわけじゃない。大人の女性は嫌い?」


「・・・・・・・・・・嫌いではありませんが」


「ふふ、顔を真っ赤にして。可愛いわね」


言われて気づいたが、吐息のかかる距離で女性と会話していて、顔を赤くせずにいられないだろ、というのは僕の心の中の突っ込みだ。


身動きが、とれない。


トモエ隊長と同じ顔。同じ身長。同じ匂い。


そのせいで、余計にガードが崩れてしまいそうだった。



「私と大人のキス、しようか」


「・・・!?」


「それとも、その先の方がいいかな?」


「・・・!?!?」


「力まないで。私に身を委ねて・・・」



マリアさんの顔が近づいてくる。


といっても吐息のかかる距離だったため、さらに近づく。


身をよじろうにも、気がつけばマリアさんにロックされていた。


これは、やばいだろ・・・










「マリア、その辺にしておけ」


「あら、姉さん。おかえり」


「・・・おかえりなさい」


「あぁ、ただいま。マリア、あまりクルトを刺激しすぎないようにな」


「分かってるわ。さ、姉さんが買ってきてくれた食材で私が昼食を作るわ。二人は休んでいて」


救世主、現る!というのはこのことだった。


でも、ドキッとしたのは体に悪い気がした。


寿命が縮まる思いだった。











マリアさんはエプロンをつけて、キッチンの方へ行った。


トモエ隊長はキッチンに食材を置きに行ったあと、僕の方へ戻ってきた。



「ふぅ、久しぶりだったが村の人は覚えていてくれたよ。大サービスを受けて、たくさん買ってきてしまった」


「荷物持ちでも手伝えれば良かったですね」


「いや、いいんだ。お前とマリアが打ち解けられるように、しばらく二人にしたんだ。私の身内で申し訳ないが、味方は多い方が良い」


「ありがとうございます」


「だが、妹だからといって安心はできないな」


すっと伸びてきた腕は僕の首に巻きついてきて。


そのまま僕はトモエ隊長の胸に顔を埋めていた。


脳が思考を停止しようとするのを、必死に我慢した。



「私の体の感触を忘れないように、これからは一層触れ合わなければならないな」


「・・・それって」


「またクルトから押し倒されるように、私ももっと自分を磨いていくことにしよう」


「その話は勘弁してください・・・」


「なぜだ?私は嬉しかったのに。クルトも私の胸を掴んで、顔を真っ赤にしていたではないか」


「あうう・・・」


なぜだ?→答えにくい、といういつものスパイラル。


悪意は全くなく、いつもの声のトーンとテンションで聞いてくるからさらに困る。


下手なことをすれば、一瞬にして死を招きかねないトモエ隊長の実力も知っているからこそ、困ってしまう。










「はいはい、二人とも、昼食の用意ができたからこっちに来て」


「む、マリア、今良いところなんだ。しばし待て」


「料理が冷めるから、後にして」


「・・・(ぐーーーー)」


「クルトはもう、頂きますしている。姉さんも諦めるべき」


「仕方ないな」


しぶしぶといった感じで、離れるトモエ隊長。


だけど、僕の腕を引っ張ってくれて、一緒に立ち上がった。


部屋中を漂っている料理の良い匂いに、また僕の胃袋が勝手に頂きます宣言をしてしまった。


素直すぎるにも程があると思う。


あとで叱っておこう。


でも、今回は助かったから、無罪放免にしてやろう。











マリアさんの料理はとてもおいしかった。


やっぱりというか、トモエ隊長の料理と似たものが出てきた。


そりゃ出身地も同じだし、家族だからだよね。



「クルト、いっぱい食べてね」


「ふぁい!」


「ふふ。クルトは私が作った料理もいつもおいしそうに、出したものは全て平らげてくれるんだ」


「あら。じゃあ残されたら、姉さんよりおいしくなかったってことなのね」


「クルト、妹の料理はうまいか?」


「ふぉっふぇも、ふぉいひいふぇふ!!」


「これなら心配いらなそうね」


僕が料理にがっついている横で、あやしげな会話をしていた二人だった。


でも、残してはいけない、残せないほど美味しかった。











「ごちそうさまでした!」


「あら、あれだけあったのに本当に全て食べてくれたのね」


「クルトは男だし、若いからな」


「とても美味しかったです!」


「本当に見てて気持ちが良かったわ。ありがとう」


「あの!せめてもの恩返しといってはなんですが、僕が全て片付けさせてもらいます!」


「あら、いいの?」


いつもいつもトモエ隊長にも作ってもらって、片づけまでしてもらっていたから、いつかやろうと思っていたことだ。


良い機会だから、と僕は宣言して片付け始めた。











洗剤やそのた諸々のことをマリアさんから聞いて、洗い始める。


洗って汚れが落ちたあとの皿が、キュッキュと奏でる音になんか達成感を覚えた。


覚えたのだが。



「あの、マリアさん」


「なに?何か分からないことがある?」


「あの、抱きつかれていると、その」


「背中がきもち良い、かな?」


「・・・・・・」



トモエ隊長と同じ身長だから、僕より頭一つ分背が大きい。


たまに僕の後頭部に顔を寄せて、すりすりしてくるのもダメージが大きい。




「姉さんの胸の方が、良い?」


「いえ、その、マリアさんの胸も柔らかくて気持ちが良いです!」


「ふふ、姉さんの言ったとおり、はっきり言うのね。そういうの嫌いじゃないわ」


「いや、その、すいません!」


「謝らなくていいの。嬉しかったんだから」



さらにギューッとされると、背中に押し当てられている胸がさらに密着する。


この感触は、男を惑わせる魔性の感触だ。


振り向いて胸に顔を埋めたいと思ってしまった僕は、やっぱり変わったと思う。











洗いものが全て終わり、食器も全て片付けたあと、またテーブルに戻った。


マリアさんが淹れてくれたお茶を飲みながら、また談笑が始まる。



「あと何年かしたら、姉さんもこの村に来ない?」


「む、なぜだ」


「軍隊なんて危ないところにずっといるより、そろそろゆっくり暮らすのもいいんじゃない?そのときは、クルトも連れてきて、3人で暮らそう」


「クルトもいるなら、考えないでもない」


「と、トモエ隊長・・・」


「クルトも、大人の女性二人との生活に憧れない?好きな方と結婚すればいいし」


「結婚、か。そうだよな、私たちも良い歳になったものだ」


「年齢なんか感じさせないほど綺麗で若いと思っているのですが・・・やはり女性は年齢を気にするものなのですか?」


「「かなり気にするな」」


「すいませんでした・・・」


「さりげなく、綺麗だって言ったね、クルト」


「クルトは時々はっきり言うから、年甲斐もなく動揺してしまうときがあるな」


「姉さん、毎日楽しそうね」


「クルトが隊に入ってくれたときから、だな」


「・・・あはは」



トモエ隊長がずっと軍隊にいるとは限らない、という可能性をこのとき僕は考え始めた。


女性は結婚して、社会から身を引くというのが一般的だ。


だが、必ず結婚しなければいけないという訳でもないし、マリアさんみたいに一人で自活している人もいる。


この二人と、この村で、生活するって考えると。


・・・なんだか容易に想像することができて、恥ずかしくなってきた。


毎日、この二人と一緒にいられるってこと、だもんな。



「あれ、クルトが赤くなった」


「今になって、私たち二人と生活するってことを考え始めたのだろう」


「16歳には刺激が強すぎたかな」


「クルトは今まで、王子といえども女王制のため、かなり厳しい生活を強いられてきた。そう思ったら今度は国の軍隊に入隊だ。女性を知らなくて当たり前だな」


「そうだよね。クルト、私たちと一緒に暮らせば、毎日甘えたい放題だよ?その代わり、私たちもクルトに甘えると思うけど」


「クルト、良い男になれ」


二人が色々言っていたけど、それは逆効果だった。


だって、今は抱きしめられたりとかマスコット扱いみたいなところがあるけど、大人になるっていうことは。


いや、考えてはだめだ。


どつぼにはまる。















午後も談笑に華を咲かせ、あっという間に夕方になった。


食後のお茶が終わったあと、ソファに移動して両サイドをトモエさんとマリアさんに陣取られたときは、どうなることかと思ったけど。


二人とも、とても優しくて、綺麗で、僕は自然と接することができたと思う。


肌の触れ合いには、これからも慣れそうにないけど・・・




「では、そろそろ城に戻ろうと思う」


「そう。またいつでも来て」


「あぁ。また近いうちに来るから、それまで達者で暮らしてくれ」


「姉さんも」


「マリアさん、今日は本当にありがとうございました!」


「いいのよ、クルト。私も久しぶりに若い子と話が出来て、楽しかった。姉さんが甘えさせてくれないときとか、城を抜け出して、私のところまで来ていいから」


「マリア、私はクルトが求めれば、甘えさせないことなどないぞ」


「ふふ、昼間は訓練でしごいて、夜は甘えさせる。飴と鞭戦法でしょ。いつまでクルトが持つかどうか」


「戦法ではない。隊としての任務中は、ただの上司と部下だ。それは当たり前であろう?」


「耐えられなくなったら、いつでも私はここにいるから。遠慮しないでいいよ」


「えっと、はい!」


「クルト、剣を持て。なんだかそういう気分になった」


「すいません、トモエ隊長!剣を持ってきてません!」



あはは、と最後に3人で笑いあった。



マリアさんの家を出て、村の入り口まで、マリアさんは見送ってくれた。


「またね」と、頭を撫でてくれたマリアさんは、ともて優しい表情をしていた。


僕は、また来ますと伝え、トモエ隊長が走らせる馬にしがみつき、帰路についた。

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