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王位継承  作者: るーく
32/60

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「クルト、クルト」


「んん・・・」



眠っていた意識が徐々に引き戻される。


同時に、包み込まれているような暖かさ、心地よさが感覚として感じる。


何かにしがみついていて、顔がやわらかいもので包まれていて。


綺麗な声がささやくように聞こえてきて。


あぁ、そうか。


トモエ隊長と一緒に寝たんだよな。











「クルト、朝だぞ」


「はい・・・」


「幸せそうな顔をして。そんなに気持ちが良いか?」


「・・・」


「離したくなくなるではないか」


ぎゅうっと強く抱かれ、僕の顔はトモエ隊長の胸にさらに深く埋まる。


呼吸ができないってことさ。



「幸せか?」


「くるひいでふ」


「この前、私の胸に顔を埋めて幸せだと言っていたではないか」


「ふいまへん・・・くるひいでふ」


抱きつく力を緩められ、呼吸ができるようになる。


見上げると、目を細めて愛しむ目をしていたトモエ隊長と目が合う。



「おはよう、クルト」


「おはようございます」


「気持ち良さそうに寝ていたな」


「トモエ隊長のおかげです」


「それは良かった。さて、では出発の準備をしよう」


なでなで、と頭を撫でられながら会話をしたが、それがまたくすぐったくも気持ちの良いものだった。


精神的にも、ね。










城門


トモエ隊長の部屋で準備をしたあと、城門に向かった。


僕は持っていくものは無いに等しいが、トモエ隊長も同じようだった。


そういえば、どこに行くか聞いていないし、聞かされていない。


トモエ隊長が言わないってことは、なんか、あるんだろうな。




「よし、では馬に乗って移動する」


「馬、ですか。乗ったことがありませんが」


「大丈夫だ。私が手綱を取るから、クルトは後ろに乗って、私に掴まっていれば良い」


「わかりました」



トモエ隊長は、ひょい、っと馬に跨り、手綱を取った。


さぁ後ろに乗れ、と言われたが、どう乗ったら良いか戸惑った。


トモエ隊長に教わりながら、なんとか後ろに乗ることが出来た。












「よし。なるべくゆっくり行くから、落ちるなよ」


「はい」


「では出発する」


トモエ隊長が手綱を引くと、馬は歩き始め、徐々に速度は上がっていった。











「そんなにギュッと掴んで、怖いのか?」


「なんか、不思議な感覚です」


「自分で操るともっとおもしろいぞ。馬も乱暴に扱わなければ素直で可愛いものだ」


「機会があれば、乗馬も訓練してみようと思います」


「早く筋トレから抜け出せ。そうしたら色々と仕込んでやるから」


無意識のうちにトモエ隊長にしがみつく力が強かったのか。


でも、慣れてくると段々と周りの景色などを見る余裕が出てくる。


風を切って走る、という感覚に心が少し躍り始めていた。











しばらくして、城下町を抜けた。


絵で見たことがある、壮大な景色が広がっていた。


通行路になっている道以外は、草が生えていて自然そのものだ。


木々や山、全てが目に新しかった。




「クルトは以前、あの3人と街に出たと聞いたが、街の外にはまだ出たことが無かっただろう?」


「はい・・・」


「世界は広い。同じところばっかり見ていても見識が狭まる。たまにはこういったことも良い刺激になるであろう」


「トモエ隊長・・・ありがとうございます」


世間知らずで、ある意味箱入りだった僕のために、今日は連れ出してくれたんだろう。


胸の奥が熱くなる。


感謝の気持ちでいっぱいだった。











しばらくして。


川が流れているあたりで、休憩を取ることになった。


馬は僕らが降りて、紐に繋がなくても逃げて行ったりはせず、川の水を飲んだり、草を食べたりしていた。


よく教育が行き届いていると思った。




「よし、そこの木陰で少し休憩しようか」


「はい」



まだ朝も早い時間だったが、日が昇り始める時間だった。


徐々に明るくなっていく景色を馬から見ていて、世界は広いということを肌で感じ取っていた。










「なぜ離れて座るのだ?」


「え?」


「近くに来い。まだ朝も早いから肌寒い。風邪を引かれても困るからな」



人一人分空けて腰を下ろしたら、トモエ隊長から咎められた。


深く考えてはいけない。


深くは。



「少し早いが朝食を取ろう。さきほど手早く準備したため、それほど手が込んでいないのが申し訳ないのだが」


「いえ、そんな、ありがとうございます」


「サンドイッチだ。好きなだけ食べろ」



トモエ隊長が持っていたバスケットが開かれると、色とりどりの食材が使われたサンドイッチがずらっと並んでいた。


僕が見た感じでは、手が込んでいないというのは嘘だと思えるほどのできばえだった。










「うまいか?」


「ほいひいでふ!」


「ほら、紅茶だ。温まるぞ」


「ありはほうほはいまふ!」


「慌てて食べて喉に詰まらせないようにな」


一つ食べ始めると、二つ三つと手が止まらなくなった。


この味は・・・食べたことが無い味で、でもおいしくて、トモエ隊長の手作りだっていうこともあって、とてもおいしかった。



「それだけ美味そうに食べてもらえると、作った甲斐があったというものだ」


「ふいまへん!がっふいてしまっふぇ!」


「いいんだ、私の腹はもう満たされた。あとは全て食べてしまって良いぞ」


「ふぁりふぁふぉうふぉふぁいまふ!」


なでなで、と頭をまた撫でられた。


このサンドイッチというものは不思議で、何個も何個も食べられる。


新しい発見だ。


今度、自分でも作ってみよう。












数分後、僕はトモエ隊長が作ったサンドイッチを全てたいらげた。


「ごちそうさまでした!とてもおいしかったです!」


「そうか、それは良かった。また作ってやろう」


「ありがとうございます!」


「あれだけがっついて食べたのだ。少し胃を休ませろ、ほら、こい」


誘われるまま、膝枕をされた。


この流れ・・・悪くない。


こんなに甘えてしまって良いのだろうか。


これからの自分に不安が募ってくる。











「なんだか、甘えてばかりで申し訳ないです」


「甘えられる相手がいること、甘えられる時間があること、それは大切なことだ。やるべきことをやっていれば、何も問題ないであろう」


「でも、僕は毎日トモエ隊長と手合わせをしても、合格をもらえていないし・・・体も実力も精神的にも学力的にも、劣っていますから」


「自分に誇りが持てるようになるのは、ある程度力が付いてからだ。努力すること、結果を出すこと、自信を持つこと、それらを経て人間は自分という存在を理解し始めるのだ。お前はまだこれからだ」


「はい、がんばります」


「だが自分というものをしっかり持たないと、道はいつまで経っても見えてこない。剣を振るだけでなく、周りに目を向け、考えることも重要だ」


「分かりました」


顔をトモエ隊長の両手で、撫でられる。


くすぐったい。


くすぐったさに目を細めると、トモエ隊長はふふ、っと笑いながら、さらに撫でてくる。


あぁ、なんだか幸せという感情が込み上げてきそうだ。












しばらくして、また馬に跨り、走り始めた。


結局どこに行くのか、あとどのくらいで着くのか分からないけど、今は深く考えないようにしようと思った。


トモエ隊長に後ろから抱き付いてみて分かったけど、腰が細かった。


そして、柔らかかった。


たるんでいるとかではに、女性特有の柔らかさだと思う。


余計なことを考えると見透かされるから、もう止めよう。うん。












一時間くらい走っただろうか。


小さな村が見えてきた。


村の前まで来ると、馬を走らせるのを止めて、歩かせた。


ゆっくりと村に入っていく。


ここに、何かあるのだろうか。












「よし、では馬を下りるぞ」


「はい」


トモエ隊長に言われ、馬を降りる。


この村は、十世帯ほどの小さな村だったが、森の中にあるためか優しい雰囲気が漂っていた。


のどか、という表現はこういった村に当てはまるのだろうか。












トモエ隊長が馬を引きながら、一緒に歩いていく。


静かな村の中は、馬の蹄の音と、僕らの足音しか聞こえなかった。



「さて、今までお前には目的地については何もいっていなかったな」


「はい」


「ここには、私の妹が住んでいるのだ。久しぶりに会いに来たという訳だ」


「トモエ隊長の妹さん・・・」


「実質、会うのは数年ぶりになるかもしれん。中々来る機会がもてなくてな」


それでもトモエ隊長はこの村を良く知っているのか、歩き方に迷いは無い。


しばらく歩いていくと、村の一番奥、少しだけ他より大きな家の前にたどり着いた。


トモエ隊長は馬から荷物を降ろし、馬の顔を撫でながら何か呟いた。


馬はそのまま森の奥に入っていった。



「いいんですか?」


「あの子は頭が良い。私たちの用事が終わる頃にはここに戻ってくるであろう」


「すごい、ですね」


馬をただの移動や運搬の道具で使うのが勿体無いぐらいだ、と思った。


生きているもの全てに、役割があり能力があるんだということを痛感した。












トモエ隊長は、扉を叩く。


しばらく待っていると、静かに扉が開いた。



「朝早くからすまない。私だ、マリア」


「トモエ姉さん?」


「久しぶりに会いに来たんだ」


「ほんと久しぶり。あぁ、立ち話も何だから上がって」


「うむ」


扉が完全に開かれ、中からトモエ隊長の妹と思われる人が出てくる。


・・・あれ?



「そちらの方は?」


「私の部下の、クルトだ」


「あ、クルトです!よろしくお願いします!」


「よろしく。私の名前はマリア」


「む、どうしたクルト。表情に疑問がいっぱいあるな」



だって。


全く同じ顔で、全く同じ身長で、全く同じ声で。


違うのは髪形だけだった。




「えっと、その、お二人ともあまりにもそっくり過ぎて、ちょっとびっくりしてしまいました」


「なんだそんなことか、当たり前であろう?私たちは」











「「双子なんだから」」



な、なんだってーーー!!


というリアクションを、ジェシカさんとかナルだったらするんだろうなぁと思ったが。


正直、驚いた。


双子を始めて見たということもあったが、まさかトモエ隊長に双子の妹がいるとは思っていなかったからだ。


あぁ。


美人姉妹が双子、ってことだよね。


・・・意表を突かれて、僕はギクシャクしてしまった。

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