30
さらに数日後。
トモエ隊長にボコボコにされ始めてから、一ヶ月近く経っていた。
食堂
いつもの3人が列に並んでいるのが見えた。
「みなさん、お疲れ様です!」
「あ、クルト!おつかれ!」
「クルちゃん~、おつかれさま~」
「よう、クルト」
「・・・トモエ隊長・・・おつかれさまです」
「おつかれ」
「おつかれさまです~・・・」
「おつかれさまです」
3人は、僕がトモエ隊長と一緒だと分かるとテンションがだだ下がりだった。
・・・分からなくもないけど。
「クルト、傷とか大丈夫?」
「あ、はい!大丈夫です!この通り動けていますから!」
「あまり無理しないでね~、あれだったらミーティングのあと~、マッサージとかしてあげるよ~?」
「こらテレーズ!さっきジャンケンでそれは私がやるって決まっただろー!」
「記憶にございません~」
「相変わらずだな、この二人は・・・」
「はは・・・」
いつも通りの展開だったが、やはりトモエ隊長は我関せずといった態度だった。
カウンターで晩飯を受け取ったあと、みんなで席に着く。
だが。
「・・・もぐもぐ」
「・・・」
「もぐもぐ!」
「もぐ~もぐ~」
「・・・もぐ」
会話がない・・・
これはもしかして、僕は試されているのか!?
「いやー、このコロッケおいしいですね!」
「・・・」
「普通だよ」
「味付けが甘いね~」
「・・・(クルト・・・)」
空振り・・・
これが空振りってやつなのか・・・
トモエ隊長とベアさんに至っては、言葉が無かった・・・
ちょっと辛かった・・・
「ふむ」
トモエ隊長が箸を置く。
みんな、小さくビクっとして動きが止まった。
「クルト、明日の予定は?」
「えっと、今のところありません!」
「そうか。3人とも、明日はクルトを一日借りてもいいか?」
「え!?」
「え~!?」
「はぁ・・・」
トモエ隊長の言葉は簡潔だった。
3人は驚いていたが。
「えっと・・・今回はまだ特にやること決まってなかったので・・・」
「そうだね~、クルちゃん次第だね~」
「まぁいつも一緒だったし、たまには違う人と非番の日を過ごすのもいいんじゃないか?」
しぶしぶ、といった感情が目に見えてるのはジェシカさんとテレーズさん。
ごめんなさい・・・
「ん。では、クルトは私に一日付き合うように。詳細は後で伝える」
「わ、分かりました!」
「ふん・・・せいぜい楽しむことね」
「ジェシカ~・・・」
「(がんばれ、クルト)」
「(はい・・・)」
ジェシカさんはそっぽを向いて、どうでもいいような感じで言ってきた。
だいたいこういったときは、寂しいときだ。
ごめんなさい、ジェシカさん。
作戦会議室
「よし、では伝達事項は以上だ。尚、私は明日非番であるため、緊急時以外は、副隊長を通すように。以上だ」
「「「はい!!」」」
「では、解散。本日もご苦労だったな」
トモエ隊長の言葉により、隊員はばらばらと作戦会議室を出て行く。
僕も席を立とうかな、と思ったときにトモエ隊長から声がかかった。
「クルト、ちょっといいか」
「あ、はい!」
「クルちゃん~、またね~」
「おつかれ、クルト」
「・・・ふん」
3人はそれぞれに僕に声をかけてくれたが、ジェシカさんだけ不機嫌マックスな態度だった。
ごめんなさい、ジェシカさん。
この埋め合わせはいつか・・・
隊員が全て出て行ったあと。
「ふむ、そろそろいいか。クルト、明日のことなんだが」
「はい」
「一日、外出をする。この城に帰ってくるのは明日の夜になる。それは大丈夫か?」
「え・・・あ、はい、大丈夫です!」
「よし。そして明日の朝はかなり早く城を出る。そこで、今日は私の部屋に泊まれ」
「・・・はい!?」
淡々といつもの真顔で話を進めていくトモエ隊長。
しかし、あのトモエ隊長が、自分の部屋に僕を泊めるだって!?
「なんだ、嫌なのか?」
僕のリアクションに、トモエ隊長は少し驚いた表情をした。
「嫌ではないのですが・・・いいのですか?」
「問題はない。朝すぐに起こすことができるし、すぐに出発できるではないか。ただ、私と同じベッドで寝てもらうことになるがな」
「あぁ、なるほ・・・えぇ!?」
「む、私と一緒に寝るのは嫌だというのか?・・・風呂で背中流してやる特典もついているぞ」
いや、それはむしろ逆効果なのではないだろうか・・・
一緒のベッド・・・
いや、深く考えてはいけない!
「あの、本当に僕でいいんですか・・・?」
「お前だから、だ。今まで私の部屋に足を踏み入れたのは、私がこの騎士団に入隊してから、お前だけなんだぞ?何も問題はない」
問題、あるだろ・・・
この前、トモエ隊長の部屋にお邪魔した僕は、偉大な人物だったんじゃないか!
まさか、ね。
「でも・・・」
「あぁ、そうか、お前も年頃だからな。でも安心しろ、お前が襲ってきたとしても、私は対応できる経験はあるつもりだ」
「・・・えっと」
「どうしても嫌だというなら、明日の朝、部屋までいくが?」
最近、トモエ隊長の鉄面皮の表情が分かってきた気がする。
最後の言葉、普通に言っている気がするが、実は少し寂しがっている風にみえる。
それは、言葉ではなく、表情に表れている。
微妙な、違いなんだけどね。
「あの、分かりました!今日はお世話になります!」
「うむ。では、用意が出来次第、私の部屋に来るように」
「了解です!」
あーだこーだ言ってもしょうがない。
これも経験だ、と自分に言い聞かせた。
でも・・・少しの期待は持っても、いいよね。
あれ。
僕、変わったかな・・・
トモエ隊長の私室
作戦会議室を出たあと、自分の部屋に戻り、今日の夜の準備と明日の準備をして部屋を出た。
静まった居住区の廊下。
トモエ隊長の部屋の前。
少し緊張しながら、ノックをする。
「クルトです」
「あぁ、入れ」
トモエ隊長は、リビングのソファでワインを飲んでいた。
僕が入ってくると、顔をこちらに向け、少し微笑んだ。
「風呂には入ったか?」
「あ!・・・入っていません」
「そうか、私もだ。早速、入ろう」
「では、僕は自分の部屋に戻って・・・」
「その必要はないだろう。私と一緒に入ればいいだろう?」
「・・・・・・・え?」
不思議そうな顔をされても困る。
それが当たり前みたいに言われても、困る。
風呂に入らずに部屋まで来いって言われた時点で、何かあるのではないかと模索していたが。
・・・喜ぶべきことなのだろうか。
風呂
「クルト、なぜ脱がない?」
「あの、トモエ隊長が僕のことをじっと見ているから」
「同じ3番隊の隊員ではないか。何を恥ずかしがることがある?」
「あの・・・仁王立ちされると、目のやり場に困るのですが」
「? なぜ困るのだ?」
風呂場前の脱衣所に二人して入ったが、トモエ隊長はスパッと衣服を全て脱いでしまった。
いつまでも脱ごうとしない僕に対して、トモエ隊長はずっと見てきた。
その視線に耐えられなかった。
「別に多少欲情することは、この際しょうがないであろう?クルトは思春期であるからな。でも、私は別に気にしないぞ。見たいなら見ればいいし」
「・・・余計に脱ぎにくいのですが」
「では、脱がせてやろう。クルトも甘えん坊なんだな」
「ちょ、ちょちょちょ!・・・自分で脱ぎますから」
タオルを片手に持っているくせに、全く体を隠しもせず、仁王立ち。
これが、軍隊式なのだろうか。
でも・・・これは違和感だ。
しゃー、とシャワーが流れる音がする。
今は、僕が湯船に浸かっていて、トモエ隊長が体を洗っている最中だ。
「よし、私の方は終わったぞ。クルト、来るんだ」
「あ、はい」
湯船を上がって、椅子から立ち上がったトモエ隊長の前に行く。
もちろん、タオルは局部を隠したままだ。
トモエ隊長は、相変わらず隠しもしない。
「よし、ではクルトの全身を洗っていくぞ」
「え!?」
「お前だけの特別サービスだな。こんなこと、他の団員にはする気はない」
トモエ隊長はタオルを湿らせ、ボディソープをつけ泡立てると、僕の背中から洗い始める。
家族ではない違う人との入浴に、僕の平常心はどこかにいってしまっている。
「どうだ、気持ちいいか?」
「はい」
「どこか気になるところはあるか?」
「いえ」
「胸で洗ってやろうか?」
「はい・・・って、えぇ!?」
僕は振り向く。
しかしそれは失敗だった。
トモエ隊長は隠しもせず、そのままでいたからだ。
「クルトも男の子だな。胸で体を洗って欲しいなどと」
「あ、いえ、さっきのは取り消しです!」
「よし、準備完了だ。クルト、前を向け」
「いや、その!」
「前を向くんだ」
「・・・はい」
やっぱりこうなるのね。
濁りも陰りもないトモエ隊長の目線は、もうNOとは言わせない雰囲気だった。
「ほら・・・どうだ?」
「・・・」
「男は女性の胸に並々ならぬ幻想を抱くらしいが・・・当の私にはこれがどのように良いのか全く分からん」
「・・・」
「耳まで真っ赤だが、のぼせたか?湯船から出ているのにおかしいな」
「・・・のぼせていません」
僕の背中を、トモエ隊長が体で洗っている。
胸にボディソープをたっぷりつけて、僕の背中を上下している。
なんだよ、これ。
気持ちいい以外の表現が思いつかない。
でも、下手なことは言えない。
なにしろ、やっているのはトモエ隊長なんだから。
「よし、次は前だ」
「前はだめです!」
「何がだめなんだ?背中と変わりは何もないだろう?」
「いくらトモエ隊長といえど、それはだめです!」
「む、なぜだめなんだ?納得する理由を言ってもらおうか」
トモエ隊長は、全てがそれが当たり前のように言ってくる。
そりゃ、それだけの強さも権力も持っているだろうが。
・・・ちょっと天然なんだろうか?
こんなこと考えているなんでバレたら、一ヶ月くらい入院生活を送ることになりそうだ。
トモエ隊長になぜ女性の体で、男性の体の前を洗うことがいけないことなのかを説明した。
それは男の生理現象や、女性の生理現象の話にまで及んだ。
僕は、どうしても回避しなくてはいけないことだと、途中から必死になっていた。
「男女の本能というのは・・・」
「お互いにその気持ちになっていなければ問題ないであろう?もし片方が意識していたとしても、もう片方にその意識が無ければ問題がないはずだ」
「男性の生理現象というのは・・・」
「女性の体に興奮してしまうのは、男として至極当然のことである。健康である証拠だ。何が問題あるのだ?」
「・・・」
「私はもしクルトに襲い掛かられても、対処できる能力はあるつもりだ」
「あの・・・」
「分かった。お前がそこまで拒否するなら、前は諦めよう。困らせてしまって、すまなかったな」
僕の必死であるが適当な意見に、トモエ隊長は折れ、湯船に浸かりに言った。
あぁ、良かった。
のか?
僕は自分の体と頭を洗い終えた。
そこを見計らって、こっちに来いというトモエ隊長に逆らえるはずもなく。
僕はトモエ隊長と一緒に湯船に入ることになる。
「ほら、私の前に座れ」
「はい・・・」
「少し抱きしめてもいいか?あぁ、いいな。湯船に浸かりながらクルトを抱きしめるのは」
「(背中にトモエ隊長の胸の感触・・・)」
「髪もしっかり洗えているようだな・・・同じシャンプーを使っているとはいえ、良い匂いだ」
「(くすぐったい・・・)」
「ふぅ・・・この入浴方法も癖になりそうだな」
僕は石になった。
もう僕は石だ。
そう思わないと、余計な感情が脳を支配してしまう。
全てが支配されないように、50%は石になった。
リビング
もちろん、風呂から上がったあと、体を拭いてやろう騒動が起きたのは必然だ。
これはもう、ある意味世間知らずとか言うレベルではない。
トモエ隊長が僕のことをどう思っているのかは分からないが、それは誘惑でしかなかった。
「良い風呂だったな」
「はい・・・」
「ほら、髪がまだ濡れているぞ。こっちにこい」
「はい・・・」
いいえ、と言えない気持ちというのは慣れていると思っていたが。
ある意味純真であるトモエ隊長の行動に対して、拒否し続けるのもいけないことだと思ったが。
石だ。
僕は石だ。
しばらくして。
「明日も早い。そろそろ就寝しようか」
「はい・・・」
「寝室へ行こう。さぁ、こっちだ」
しばらくして、のしばらくの間。
僕はトモエ隊長からの純真?な誘惑攻撃に耐え続けていた。
それは頭を撫でられることから始まり、抱きしめられ、膝枕などの過程を経ていた。
寝室
「ベッドは元々、一人で寝るには大きすぎるものだったから、二人で寝ても大丈夫であろう」
「・・・」
「クルト、どうした?」
「・・・トモエ隊長」
我慢の限界が来ていたのだろうか。
でも、こうでもしないとトモエ隊長は僕を本当の男として意識してくれないと思った。
僕はベッドに、トモエ隊長を押し倒した。
「クルト」
「トモエ隊長・・・僕だって男なんですよ?お風呂のことだって、さっきのリビングのことだって、我慢し続けられません」
「そうか、いいぞ」
「・・・・・・へ?」
「我慢しきれなくなったお前が、私にどのようなことをするのか興味が出てきた。いいぞ」
「・・・・・」
トモエ隊長の表情は変わらない。
それは、こういった状況に慣れているとかいうものではなかった。
自分に何か悪いことが起こったとしても、それを未然に回避することができるという表情だった。
・・・くやしい、という感情を抱いた。
この場で、なぜくやしいのか、と思うのは後のことだった。
むに
動揺してしまったが、僕の行動はトモエ隊長の胸を揉むことだった。
押し倒したトモエ隊長の左胸。
トモエ隊長の格好は、スケスケのネグリジェ的なもの。
下着はもちろん、つけていない。
「くすぐったいぞ」
「・・・」
「それで、次は?」
トモエ隊長の表情は変わらなかった。
でも、それも予想できたことだ。
意識しているかいないかで、性に直結する行動が成立するかしないか決まるのだから。
「次は、キスか?それとも、下半身に手が進むのか?」
「・・・」
少しにやり、といった表情をするトモエ隊長は余裕しかない。
これが大人の女性なのか。
・・・多分、性という感情が人より乏しいのではということだ。
「キスがいいな、したことがないし」
「・・・」
「む、やはりこの歳で異性と接吻したことがないのは、意外なことだったのか?では、尚更だな」
「・・・」
「クルト?」
「・・・」
僕はもうどうしたら良いか分からなかった。




