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「ん・・・」
顔を撫でられている感触がする。
後頭部が柔らかく、むっちりした物に乗っている気がする。
これは・・・一体・・・
「気がついたか?」
「・・・え!?トモエ隊長!?」
僕がばっと目を開けると、目の前にはトモエ隊長の顔があった。
そして、半分くらい胸で見えなかった。
「まだ、そのままでいいぞ。いきなり起き上がると良くない」
「はい・・・でも、膝枕・・・」
「昨日の夜やったときに、癖になってしまった」
普通癖になるのは、膝枕されている方だと思うんだけど。
そんなことは言えない。言っちゃいけない。
うん。学習した。
「昨日の、夜・・・」
「あぁ。もしや、さっき私が言ったことを勘違いしていないか?」
「え?」
「昨日の夜の時間は無駄ではない。だが私のアドバイスを生かしていないお前を見て、アドバイスしていた時間だけ無駄だと言ったのだ」
「え、え?」
「無駄だと言ったあとのお前の様子を見て、勘違いしているな、と思ったんだよ」
「・・・」
思いっきり勘違いしてしまった。
恥ずかしい!!
悪いのは僕じゃないか!!
恥ずかしい!!
僕はバッと両手で顔を隠そうとしたが、トモエ隊長の手にはじかれてしまった。
バッ
バシッ
バッ
バシッ
「恥ずかしいです・・・」
「誰にだって勘違いはある、気にするな」
「あの、恥ずかしいんで顔を隠したいんですが」
バッ
バシッ
「却下だ。私は恥ずかしがっているお前の顔が見たい」
なんてドSな人なんだ。
なにそれこわい。
なんて言えない。
バッ
バシッ
ぐっ
「ほう、そうくるとは」
「・・・」
僕は顔の前ではじかれた手で、トモエ隊長の手を握った。
両手とも。
だが。
余計に恥ずかしくなってしまった。
「お前の顔がさらに赤くなっていくが」
「・・・ごめんなさいすいません恥ずかしいです許してください」
「手を握ってきたのはお前じゃないか。なぜお前が余計に恥ずかしがるのだ?」
「・・・何も言わずに手を離してください許してください」
「却下だ。私はお前と手を繋いでいたいし、さらに赤くなった顔を見たい」
ニコニコと僕の顔を見つめるトモエ隊長。
いつもそうなんだけど、手合わせのときのギャップがすごい。
普通なら、トモエ隊長のことを嫌って当たり前なのに、終わったらどうでもよくなってしまう。
それは・・・トモエ隊長の話を聞いたからなのだろうか。
「離してください」
「却下だ」
「そろそろ離しましょう」
「却下だ」
「せーの!」
「却下だ」
「・・・」
「却下だ」
「何も言っていません・・・」
「却下だ」
全てが却下されてしまった。
自分からやっておいて、さらに恥ずかしくなるなんて、僕はバカなんだろう。
でも・・・こんなこと、今まで自分からしたことなんて無かったな・・・
「せっかくお前から手を繋いできたんだ。このチャンスをものにしなくてどうする」
「・・・自分でも驚いているんですよね」
「ほう、ついやってしまったのか。それだけ、私と手を繋ぎたかったと、本能で動いたのだな」
「・・・そうかもしれません」
「ふふ、あまりいじわるしてもしょうがないな」
手を離してもらい、僕は起き上がった。
もういいのか、とまたトモエ隊長に聞かれた。
良くないけど、いい。
なぜか、僕はすごい引き込まれている気がした。
「すみませんでした、ずっと膝枕をして頂いて」
「いいんだ、私がやりたいからやったことだ」
「ありがとうございます」
「そろそろ晩飯の時間だ、行こうか」
「はい」
立ち上がり、訓練場の出口に向かって歩き出そうとしたとき。
トモエ隊長が、じっと僕の目を見ていることに気づいた。
じーっと。
じーっと。
「分からないのか?」
「今、分かりました」
トモエ隊長の手を握り、僕は歩き出した。
少し遅れて歩き出したトモエ隊長は、すぐに歩調を合わせてきた。
「鈍感王子だな」
「敏感王子と呼ばれたくないんです」
「ふふ、なんだそれは」
「なんでしょうね」
僕らは食堂付近まで手を繋いで歩いた。
人にいるところでは、まだ手を繋げない。
ただの上司と部下、なんだから。




