28
数日後。
食堂
「あ、クルトだ!おーーーーい・・・って」
「トモエ隊長に~、連れて行かれちゃったね~、惜しかったな~」
「まさか・・・すでにクルトをドMに調教済みなのか!?」
「いや、それはないだろ、おはよう」
「それはないよ~、ベアおはよ~」
「いいや、ありえる!おはよう!突撃ー!」
「あ、待ってよジェシカ~」
ジェシカが声をかける寸前のこと。
「クルト、早いな」
「あ、トモエ隊長!おはようございます!」
「いつもの3人はどうした?」
「そろそろ来ると思いますが」
「ふむ・・・では一足先に空いているテーブルを探そう。たまにはみんなと一緒に食事を取るのもいいだろう」
「はい」
トモエ隊長に促され、移動しようとしたところに、ジェシカさんの叫び声が聞こえてきた。
「クーーーールーーーートーーーー!!」
「朝からうるさいやつだ」
「ジェシカさん、おはようございます!」
「おーーーーはーーーーよーーーーうーーーーー!!」
ジェシカさんは猛ダッシュでこっちに近づいてきたと思ったら、急ブレーキで止まった。
叫び声は止まらないようだ。
「トモエ隊長、クルちゃん、おはようございます~」
「おはよう」
「テレーズさん、おはようございます!」
遅れて、テレーズさん到着。
「おはようございます」
「ベアか、おはよう」
「ベアさん、おはようございます!」
ベアさんはさすがの貫禄だった。
いつもの4人に、トモエ隊長。
若干の緊張感を感じるのは、なんでだろう。
「もぐもぐ」
「・・・」
「(ちょっと、なんかクルトとトモエ隊長、全然問題ないみたいに見えるんだけどヒソヒソ」
「(毎日あれだけやったりやられたりなのに~ヒソヒソ)」
「(お前ら・・・あからさまに失礼だぞヒソヒソ)」
緊張感で何も喋れなくて、ひたすら食べている僕と、静かにご飯を口に運んでいるトモエ隊長。
ジェシカさんたちは、その光景を見て、珍しがっているみたいだった。
「あ、そういえば明日非番だった!何しようかなー!」
僕はいきなり空気を変えようと頑張った。
「え、あ、そ、そうだったねー!私も非番だー!何しようかなー!」
ジェシカさんが合わせる。
「お菓子作りしよう~」
テレーズさんが天然を発揮する。
「何言ってるんだよテレーズ!宝探しだよ!また怪しげな人から買った宝の地図が!」
「クルちゃんは疲れているだろうから~、ゆっくりして~、甘いもの食べてもらった方がいいよ~」
そして始まるいつもの喧嘩。
「おいおい・・・」
ベアさんは動かなかった。
「ふむ」
トモエ隊長が、箸を置いた。
みんなの動きが止まった。
なぜ、止まってしまったんだろう。
「クルト、お前、明日非番なのか?」
「えっと、はい!そうです!」
「そうか、それは良いことを聞いた」
それだけ言って、お先、とトモエ隊長は席を立った。
意味深であるような、そうでないような。
でも、多分、これだけは分かる。
ジェシカさん再起動まで、
5
4
3
2
1
「まさか!明日はもしかして!」
がさごそとポケットやら自分の胸倉やらを探り始める。
胸に何か隠している人なんて、いるのか?
誰も何も言わないので、僕も黙っていた。
「じゃじゃーん!シフト表!!」
ジェシカさんがシフト表の紙を掲げる。
「どれどれ~」
「トモエ隊長は・・・この行か」
「ふむふむ」
「な、何か反応してくれよみんなー!!」
この流れ・・・悪くない。
「明日は~、トモエ隊長も~、非番だね~」
いつもニコニコ笑顔のテレーズさんが言った。
「不覚!・・・きっとあのクルトへの確認は、何か悪いことを考えているに違いない!」
「いや、トモエ隊長に限って、そんなことはないだろう。あの人、やるときはやって、やらないときはやらないってきっちりした人だぜ?」
「いーや!これは絶対に何かある!もしかしたら、クルトボコボコ番外編~非番だってボコボコだよ☆~が、開催されてしまうのかもしれないよ!?」
「それはない」
「それはないよ~」
「・・・多分、無いと思います」
「く、クルトにまで否定された・・・うわーん!!もうやっていけないー!!」
「・・・ていうかジェシカ~?否定しなかったら~、クルちゃんは~、非番の日までボコボコにされちゃうってことだよ~?」
「全くだ」
「・・・」
「は!?・・・いや、それをどうにかして阻止しようぜ!という流れに持っていきたかったんだけど・・・無理やりかな?かな?」
「よっしゃ、いこうぜ、クルト」
「クルちゃん~、久しぶりに手繋いでいい~?」
「あ、えっと、行きましょう!」
「・・・みんな待ってーーー!!!」
いつものみんなとの会話で、僕は元気がでた。
夕方。
訓練場
今日の僕は一味違うってところを、トモエ隊長に見せないと。
腕の一本へし折られたら、たまったもんじゃない。
色々考えてきたさ。
でも全身は痛い・・・
「きたな、クルト」
「今日もよろしくお願いします!!」
「ほう、いつもより威勢がいいな、よし、来い」
10分後
「はぁ!」
「ふん、どうした、やはり昨日と変わりはないな」
とりあえずいつも通りにいったら、傷が増えていく一方だった。
でも、昨日と違うのは、頭で考えているってことだ。
トモエ隊長の動きを観察し、わずかでもいい、隙をついていくんだ。
「いっちょ前に、私の動きを観察するなんて、良い度胸だな!」
「・・・は!」
「ふん、では、この動きが見えるかな?」
何か来る、と思ったときにはもう、トモエ隊長が目の前にいた。
やばい、と思ったときにはもう、僕の体は後ろに吹っ飛ばされていた。
「く・・・がはっ!」
「まだ終わらないぞ」
ちょうど起き上がろうとうずくまっている僕に、さらに詰め寄ってくるトモエ隊長。
僕は一瞬の判断で、横に飛んだ。
しかし、トモエ隊長は予測していたのかそのまま横っ飛びした僕に突っ込んでくる。
あっ、と思ったときには、僕は横っ飛びした反対側に飛んでいた。
剣で側頭部を思いっきり殴られたのだ。
脳が・・・揺れる・・・
ずしゃあああ、と僕は地面の上を滑っていく。
まずい、起き上がらないと。
しかし頭部のダメージが大きく、視界は揺れているわ、体まで信号が届かないわだった。
ずん、と横向きに倒れている僕の前に、トモエ隊長の剣が突き刺さった。
「これが戦場だったら、お前は死んでいるな。100回ぐらい」
「・・・ぐ」
「立て」
僕は体を起こし、膝に手をつきながら立ち上がる。
徐々に脳の揺れも治まってきているみたいだ。
「ただ考えているだけでは、剣はうまくならないぞ。全く、昨日私がアドバイスしたことを全く生かせていないじゃないか。とんだ時間の無駄だったな」
あの時間が無駄・・・
本音だったら相当悲しい・・・
少し怒りが込み上げてきた・・・
「このままじゃ、やはり一本ぐらい骨を折っておかないといけないかもな。まぁ、それでもお前は何も変わらないと思うがな」
「・・・昨日の時間は、無駄だったんですか?」
「無駄だ」
「・・・そうですか」
僕はまた全身が熱く燃え滾るのを感じた。
でも、昨日とは違う。
冷静な怒り。
昨日の夜のことが無駄だったなんて、信じたくなかった!
剣を構える。
トモエ隊長は、自然体のままだ。
だからこそ攻撃の糸口が見えないってこともある。
でも、策はあった。
僕は剣を振りかぶり、トモエ隊長の頭から振り下ろす。
それを、トモエ隊長は片手で剣で受け止める。
ここだ!
僕は咄嗟に身を低くして、トモエ隊長の両足にタックルをした。
が。
「バカが」
普通にトモエ隊長の膝蹴りを顔面にくらい、僕はそのままうずくまった。
「それがお前が考えた結果か」
「うぐぐ・・・」
「確かに剣だけでは、戦場は潜り抜けられない。よし、いいだろう、今日は体術だ」
「・・・え?」
立ち上がった瞬間、僕の顔面はトモエ隊長の右ストレートに殴られていた。
さっき剣で殴られたところと同じところを殴られ、目に涙が滲んだ。
「そら」
そのままミドルキックをわき腹にくらい、僕は痛がっているヒマも無かった。
「殴る、蹴るだけではない」
「うぐ!」
僕の後ろに回りこんだトモエ隊長は、そのまま僕の首を腕で締め上げる。
「どうした、抜け出してみろ」
「うぐ・・・ぐう!!」
「女の腕力からも逃げられないのか?」
「・・・あが!!」
「いっそこのまま、死ぬか?」
「・・・!!!」
ぎりぎり、と締め上げられ、息ができない状態が続く。
もがいても、もがいても、トモエ隊長の腕からは逃げられない。
自分の顔が真っ赤になっていくのが分かった。
いきなり解放され、僕は地面に倒れた。
「つまらない男だな」
トモエ隊長のその言葉は、僕の心に突き刺さった。
ギリギリだった僕は、そのまま意識を失った。
「それでは、今日の訓練はこれまでだ。」
「「「はい!!」」」
「クルトは?」
「・・・まだ~、はじっこの方で意識を失ってます~」
「分かった、あとは私がやっておくから、みんな上がっていいぞ」
「「「はい!!」」」
「(なんかおかしくないか?)」
「(何が~?)」
「(いつもなら、放っておけ、って言ってすぐ行っちゃうのに)」
「(ふふーん、閃いたぞ!ピコーン)」
「(え、なんだよ、ベア)」
「(歳の差10歳のラブロマンスだ!)」
「(ベアはやっぱり死んだほうがいいね~)」
「(殲滅!)」
「(おたすけー!!)」
ジェシカ、テレーズはベアを追いかけ、3人とも訓練場を出て行った。
当初の疑問はどうしたのかっていう話だ。




