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王位継承  作者: るーく
25/60

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数日後。



正午。

いつも通り筋トレを再開しようと訓練場の隅っこに移動した僕に、トモエ隊長から声がかかった。




「クルト、ちょっといいか」


「はい!なんでしょうか!」


「一ヶ月以上筋トレのみをやってきて、だいぶお前も体が出来てきたと思う。そこでだ、私と剣の手合わせをしよう」


「え?」



もしかして、筋トレ地獄から脱するチャンス?


でも、トモエ隊長と手合わせって・・・



「私が合格とみなせば、筋トレは終わりだ。通常任務の当たってもらう。だが、不合格なら、合格が出るまで筋トレだ」


「(やっぱり)」


「どうする?私はいつでも手合わせしてやるが」


「えっと、では、よろしくお願いします!」



自分の実力、筋トレの効果、非番のときの自主トレの効果、ベアさんやテレーズさんから教わった効果、色々知るのに良い機会だと思った。










非番のときの自主トレの回想。



「は!」


「うん、なかなか良いぞ!」


「・・・ぐ!」


「だがな、こういう切り返しもあるんだぜ!気を抜くな!」


「はい!」



僕は、非番のときに何もやることがないときは訓練場で自主トレをしていたが、たまにベアさんに剣を見てもらっていた。


ベアさん本人は気まぐれだ、と言っていたが、僕が一人のときはいつも来てくれた。


ちくしょう、良い男だなぁ。




「クルトー、がんばれー」


「クルちゃん~、ファイト~」



決まってそういうときには、ジェシカさんとテレーズさんが見物に来ていた。


そして、ジェシカさんはたまに僕と手合わせをしてくれた。


いい加減そうに見えて、ジェシカさんも相当の剣の使い手だった。





「よーし、じゃあベア、交代ね!」


「はぁはぁ・・・ベアさん、いつもありがとうございます!」


「いや、なに。熱心で真面目な後輩を持つと、どうにも構ってやりたくなっちまうもんだ」


「ベアも素直じゃないな~、クルちゃんだからだよね~」


「へいへい、そういうことにしておいてくだせぇよ」



ベアさんはどっかりと座り込んで、タオルで汗を拭き始めた。


テレーズさんはベアさんに飲み物を渡している。




「クルト、休憩しなくて大丈夫?」


「大丈夫です!よろしくお願いします!」


「分かった。手加減しないよ?」


「はい!」



剣は扱う人によって、すごく違いが出る。


好みの剣の太さも違うし、戦闘スタイルや剣術スタイルにもよる。


ジェシカさんは細めの剣で、手数やフットワークで勝負するタイプだ。


対してベアさんは、太目の剣で剣さばきと一撃の正確さにこだわるタイプだ。


テレーズさんは・・・分からない。

手合わせをしたことがないからだ。





「そらそらー!クルト、足が止まってるぞー!」


「く・・・」


「お!いいねぇ、今の動き!」


「うぉおお!」


「・・・やるじゃん!だいぶ動きが様になってきてるよ!・・・でもまだまだ甘い!」


「・・・あ!」


初めてジェシカさんとやりあったときより、だいぶ動きについていけるようになったと思ったが、やはり負けてしまった。


ジェシカさんによってはじかれた僕の剣は、宙を舞い、少し離れたところに突き刺さった。




「ふぅ・・・よっし!アタシの勝ちー!」


「おいおい、ジェシカ・・・いつの間に勝負になっていたんだ?」


「何言ってるんだよ、ベア!お互い剣を構えたら、それはもう勝つか負けるかの勝負なんだよ!」


「ジェシカは~、誰かに教えるってタイプじゃないからね~」


「背中で語るタイプか・・・体育会系だな」


「・・・」



ベアさんやジェシカさんに手合わせをしてもらって、でも、最後には二人にやられてしまう。


僕は経験が浅いし、素人同然だから当たり前のことなんだけど。


やっぱり。




「・・・くやしいです」


「クルト?」


「クルト、お前はまだ始めたばっかなんだ。何年もやってきた俺たちに敵うわけがないんだよ。焦るな」


「でも・・・時間が・・・」


「時間~?」


「・・・いえ、なんでもないです!みなさん、今日もありがとうございました!」



忘れてはいけないこと。


プリンセスガードになるための試験は、18歳の誕生日。


今までの規律だったら、城から出て行かなくてはいけない日。


それまでに、リムを守れる実力がつかなければ・・・


僕は・・・











回想終了。



「よし。ではクルト、剣を持て」


「はい!」



僕は今までやってきたことを信じて、トモエ隊長にぶつかっていこうと決めた。











「どうしたクルト!手が止まっているぞ!」


「ぐ・・・はぁはぁ・・・はい!」


「そんなことではクイーンガードを名乗る資格などないぞ!」



どす、という鈍い音がした。


トモエ隊長の剣が僕のわき腹に突き刺さった音だ。


僕は片膝をついてしまう。


真剣ではないにしろ、痛いものは痛い。




「立て!まだ終わっていないぞ!」


「・・・ぐう・・・がは」


「剣を握っている間は下を向くな!騎士団としての誇りを持て!」


僕はよろめきながら立ち上がる。


自主トレのときとは違う。

相手の体に剣を当てるとなると、もちろん痛みがある。


そして、トモエ隊長はやっぱり強すぎた。





「甘い!」


トモエ隊長が振り下ろした剣を、かろうじて自分の額の上に構えた剣で受け止めたが。


すかさず、切り替えされ、鳩尾の辺りを剣で突かれた。


その動きが・・・見えなかった。


全くついていけなかった。



「ぐあ・・・!」


一瞬、息ができなくなり、僕はまた片膝をついた。



「そんなことではいつまで経っても任務を任せることなどできんぞ!どうした!もう終わりか!」


「・・・ま・・・まだ・・・まだ!!」


「生きている間は何度でも立ち上がれ!相手を見ろ!」


「う・・・うおぉぉ!」


「ただやみくもに突っ込むだけでは意味がないぞ!はっ!」


「!・・・あ・・・ぐぁ・・・う・・・」


僕は力を振り絞ってトモエ隊長に向かっていったが、やはり一蹴されてしまい、またうずくまってしまった。


致命傷になる箇所は避けてくれているのだろうが、もちろんそれに手加減はない。


今までに経験したことの無い痛みの連続で、僕はくじけそうになっていた。




「立て!」


「ぐ・・うぅ・・・」


「早く立て!」


僕はよろめきながら、全身に力を入れるが、中々立ち上がれなかった。



「男のくせに、女の私にやられて悔しくないのか!そんなことでは家族や大切な人、誰一人守ることなどできないぞ!」


「は・・・・・は、はい・・・!」


「・・・よーし、よく立ち上がったな。いくぞ!」




立ち上がりは、やられ。


立ち上がりは、やられ。


途中からはもう、しっかりとした意識なんてものは無かった。


ただ、悔しかった。


ジェシカさんやベアさんに感じた悔しさとはまた違う。


・・・誰かを守れる力が、今の自分には全く無いのが、悔しかった。











それからも、僕が意識を失うまでトモエ隊長との手合わせは続いた。


徹底的に、やられた。


片膝を何度もついていると、剣で頭をぐりぐりやられて、叱責を受けた。


うつ伏せに倒れると、今度は足で頭をぐりぐりやられて、叱責を受けた。


・・・父上が砂を噛みながら、苦しくても何度も立ち上がれるかと言っていた言葉の意味が分かった。



これは・・・ただの感覚の話ではない。


本当のことだった。










「クルト、お前はこんなものか?」


「・・・」


「お前はまだ筋トレだ。そして、明日からは毎日、訓練終了前に私と手合わせだ。分かったな!」


「・・・は・・・い・・・・」



意識が無くなる直前、なんとか返事だけはできた。


そのまま僕は、気を失った。











「クルト・・・トモエ隊長にボコボコにされたね」


「そりゃな。でもまぁ、これも通過儀礼だ」


「でも~、あそこまでやる必要は~」


「いいか、俺たちは士官学校とかで腐るほど剣をやってきたんだ。護身術程度の実力で、いきなり、しかもトモエ隊長ほどの実力の相手に勝てる訳が無い。それに・・・あれは俺たちだって経験したことだろう?」


「まぁ、ね・・・剣を始めたてのころ、教官にはいつもボロボロにされてたし」


「うん~・・・」


「最初が肝心なんだ・・・ただトレーニングをして、ただ剣を振って満足してはいけないんだ・・・それを、士官学校の教官の変わりに、トモエ隊長は教えたのさ」


「訓練するために剣を振っているわけじゃないからね・・・」


「クルちゃんの~、男の見せ所がきたってわけだね~」


「クルトなら大丈夫さ・・・信念が強いからな」


「妹さんのため、だもんね」




「そこの3人、何を喋っているのだ!手が止まっているぞ!」


「「はい!」」


「はい~!」











「・・・ぐ」


はっと気づくと、なぜ自分は横たわっているのかと疑問が浮かんだ。


すぐにそれは当たり前だと思考が認識する。


トモエ隊長と手合わせして、ぼこぼこにされたから。



どれくらい、意識を失っていたのだろうか。


起き上がらないと・・・と頭は認識していても、体が動かなかった。


筋肉痛とは違う、怪我としての痛み。


その痛みに対して、体が負けている。


分かっていても・・・立ち上がらないとだめなんだ。






とりあえず訓練場の隅っこにいたこともあって、壁に寄りかかって座ることはできた。


どのくらい意識を失っていたのだろうか。


今日は3番隊は訓練の日だ。


まだ、隊の訓練は続いているみたいだ。


訓練場の窓から差し込む日をみる感じ、1時間くらいか。





「ぐ・・あ!」


痛くない!痛くない!と全身に力を入れて、立ち上がる。


よろめくが、そこも根性でなんとか耐える。


深呼吸を何度かする。


立ち上がれるってことは、重度の打撲程度の怪我か。


さすがトモエ隊長・・・強いだけじゃなく、うまい。


そして・・・精神力も違う。





リム。


僕は目を閉じて、リムの顔を思い浮かべる。


笑った顔、怒った顔、泣いた顔、真剣な顔。


全て・・・守りたい。


守らなければいけない。


守るんだ。


リムのことを思うと、力が沸いてきた。




「うおぉおぉぉお!」


筋トレ再開だ。


痛いけど痛くない。


そんなものは動いているうちに、忘れるんだ。


ぎこちない動きになっているのに気づいたが、体の動きを止めるわけにはいかなかった。










「ほう」


トモエ隊長はクルトの方を見て、そんな言葉を漏らした。




「トモエ隊長?どうかしたんですか?」


と、ジェシカが声をかけると。


「いや、すまない。では続きだ!」


「「はい!」」




「(クルト・・・なかなか見込みがあるな)」


トモエ隊長の意見。



「(あんだけボコボコにやられたのに、根性あるー!」


ジェシカの意見。



「(強くなれよ、クルト)」


ベアの意見。



「(クルちゃんなら~、きっと大丈夫~!)」


テレーズの意見。








そんなみんなの意見なんて、当の僕には分からない。


さっきの手合わせのとき、トモエ隊長に言われたことを心に深く受け止め、ただ目の前のことに集中した。

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