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「はい、あにうえ、紅茶なのじゃ」
「・・・ありがとう、リム」
「ナルにもはい、なのじゃ」
「ありがとう、リムリア」
食堂のテーブルに座ると、リムが紅茶を用意してくれた。
くぅ・・・本当に良い子に育ったね・・・リム。
「でな、あにうえ!先ほど、母上と秘密会議をしたのじゃ!」
「・・・うん」
「ちょっと、リムリア、秘密会議って何?」
「ナルには言っておらんかったか・・・あにうえが城を出て行かなくてもいい名案が浮かんだのじゃ!それを母上に相談したのじゃ!」
「え、ちょっと、なによそれ」
「・・・具体的には、どういう案なの?」
秘密会議って言ってたけど、教えてくれるのかな。
でも、僕が城に残れるような案って一体・・・
検討もつかないな。
「ふっふっふ・・・それは・・・プリンセスガードじゃ!!」
ナルと僕
「「な、なんだってーーー!!!」」
「っていうか、プリンセスガードって何?」
ひとまず大げさなリアクションを取ったのだが、普通に意味が分からなかった。
プリンセスをガードする?
「読んで字の如くじゃ!わらわを守る親衛隊を結成し、あにうえに隊長になってもらうのじゃ!」
「・・・」
「うーん・・・」
「ちなみに、親衛隊といっても団員は、あにうえだけじゃ!そして未来のことを考え、プリンセスガードになれるのはその姫の兄弟姉妹だけにする規律を作るのじゃ!」
「・・・」
「なんていうか・・・それ、うまくいくの?」
ナルが肩肘を突きながら、お茶菓子のクッキーを食べる。
どっかのオバサンみたいだな、とは言えない。
考えちゃいけない、顔に出る。
僕は無意識にクッキーを、リムの口の前に持っていく。
リムは当たり前のように、ぱくりと食べる。
「ち、ちょっと、二人とも」
「なんじゃ?・・・もぐもぐ」
「・・・何かおかしなことあった?」
「いや・・・クルトがリムリアに普通にクッキーを、た、食べさせてたから・・・」
「?」
「・・・あぁ、ごめん、はい、ナルも」
「え、あ、いや、その・・・ぱく」
「変なナルじゃな。別に良いであろう、このくらい」
「もぐもぐ・・・なんか納得いかない・・・けどちょっと嬉しい・・・」
文句言いつつ、僕が差し出したクッキーをそのまま食べるあたり、良く分からない。
女心、なんて学問は無いからなぁ。
「・・・で、プリンセスガードについて、母上は何て言ってたの?」
「良い案だけど、そうなると、あにうえの剣の実力についてきっと問題が起きるだろうから、「お兄ちゃんに頑張ってもらわないとね!」と言っていたのじゃ!」
「ふーむ・・・確かにそうね。兄弟姉妹ってだけで、本当に何かあったときに守れないような人間が傍にいたって、意味ないもんね」
「・・・頑張るってのはまさか」
僕は何となく展開が読めてしまった。
「もちろん、あにうえには、明日から母上を守る騎士団、クイーンガードに入隊してもらい、訓練を受けてもらうのじゃ!!」
「・・・やっぱり」
「クイーンガードって、クルトとリムリアのおじ様が騎士団長をやっているやつよね・・・訓練とかきつそう・・・」
「あにうえは、「地上に敵は無し」と言われている父上の息子じゃ!その未だ眠っている類まれなるセンスを、訓練で開花させるのじゃ!」
「・・・うーん」
「まぁ・・・私的にはクルトが城に残ってくれるなら、いくら訓練でヒィヒィ言っても構わないんだけど・・・クルトに耐えられるのかな?」
「あにうえはやるときはやる男じゃ!わらわのピンチのときには、いつも助けてくれていたのじゃ!大丈夫じゃ!」
「・・・」
「クルト・・・どうするの?」
「・・・あにうえ、やってくれる・・・のであろう?」
「・・・今ここで、やるやらない言っても始まらないよ。今日、晩御飯の後にでも、4人でもう一度話し合おう」
「ふふ・・・リムリアに関係することだったらすぐに即決するかと思ったんだけど・・・意外ね」
「わかったのじゃ・・・じゃが、わらわは良い返事を期待しておるぞ!あにうえと・・・ずっと一緒にいるためのこと・・・なんじゃからな・・・」
僕はリムの頭を撫でながら、プリンセスガードについて考えていた。
夕方。
ナルも帰り、晩御飯まで少し時間が出来た。
リムは「もう少しプリンセスガードのことについて、案を煮詰めるのじゃ!・・・あにうえと離れるの寂しいのじゃが・・・」と言って、自分の部屋に戻った。
僕は、ふいに訓練場に足を運んだ。
訓練場
「おらー!だらだらするな!そんなことじゃ他国に攻め込まれたときに、誰一人守ることなんてできないぞ!!」
「「「はい!!」」」
父上の怒声が響き、団員たちはキビキビと剣の型の訓練をしていた。
鎧も重そうだし、訓練用の剣は真剣でないにしろ重くしてあるだろうし。
「失礼ですが・・・クルト王子」
「・・・あ、すいません、邪魔でしたか」
訓練場の入り口から、こっそり見ていたのだが、後ろから女性に声をかけられた。
僕は振り向く。
僕より背が高い、ショートカットの青い髪をした女性だった。
騎士団の鎧を着ていることから、クイーンガードの団員だと分かった。
・・・うーん、美人だ。
おっと顔に出ないようにしなくては。
「・・・」
「・・・どうぞ」
「申し訳ありません」
僕が半歩下がると、女性はシャキっと僕に一礼をして通っていた。
父上が言っていたことは、本当だったな。
かなりの美人だった。
それにクールな感じで・・・
声も綺麗だった・・・
年は何歳くらいかな・・・
年上だろうな・・・
きっと剣の腕もべらぼうに強いんだろうな・・・
なんたって、クイーンガードにいるくらいだし・・・
「くーるーとー」
「・・・ち、父上」
「ちーちーはーみーてーいーたーぞー」
突然、背後から父が現れた。
「・・・あの」
「ふっふっふ・・・今クルトが話していたのは、3番隊隊長のトモエだ。年齢は今年27歳。独身。フリー。若くして隊長を任される程の実力とクールなキャラクターが人気の、今期一番のおすすめ!スリーサイズは上から9・・・」
「あーなーたー!」
「な、ま、また!なんでいつもこういうときに現わ・・・ふぁらば!!」
「クルト・・・本当にお父さんみたいになっちゃだめよ?」
「・・・は、はい」
母上は目にも止まらぬ速さで、父上を葬り去った。
「地上に敵は無し」と言われた父も、母上には敵わないようだ。
母は強しだ。
「ちなみに、トモエちゃんより、私の方が胸は大きいからね~!」
その母上の言葉に、僕はどう反応して良いか分からなかった。
母上は、父上が良からぬことを言い始めると必ず現れる。
そして殲滅する。
今の光景を見て、一国の王と女王とは思えない。
・・・でもこういった一面があるってことは、家族としては嬉しいこと・・・のかな?
クイーンガードとは。
この城を、女王を守る騎士団の名前だ。
その編成は、騎士団長には父上。
そして、1番隊から3番隊までの3隊編成。
1隊10人の構成で、隊長と副隊長が一人ずつ。
計、31名。
城を守っていくのに少ない人数だと思えるが、その実力は向かうところ敵無しと言われているほどだ。
ただ、人数集めたって意味がないってことだ。
騎士団長が「地上に敵は無し」といわれている父上が率いる騎士団なのだから、強いに決まっている。
ってことは、だ。
訓練も相当キツイってことだよな。
うーん。
「クルト、どうしたの?難しい顔しちゃって」
「・・・すみません、考え事をしていました」
「ふふふ・・・お母さんの胸とトモエちゃんの胸のことでも考えていたのかな?」
「・・・違います」
「もう、しょうがないなクルトは~、そういうお年頃だもんね~」
そう言って母上は、僕の顔を胸に抱きしめてきた。
今まで母親の温もりというものから程遠かったため、嬉しい反面めちゃくちゃ恥ずかしい。
でも、この包容力は・・・やばいな。
「・・・母上、苦しいです」
「顔はそうは言ってないわよ?」
「・・・恥ずかしいのですが」
「私は恥ずかしくないわよ。愛しい息子を抱きしめているんですから」
「・・・」
「うふふ・・・ごめんね。今までこういう風にしてあげられなかったじゃない?だからちょっと・・・はしゃいじゃった」
「・・・ありがとう、母上」
「ふふ・・・クルトは可愛いわね」
母上はたっぷりギューっとしてから、僕を解放してくれた。
これが母親の愛、なのかな。
でも年頃の息子を抱きしめる行為ってのは、あんまり無い気がするけど。
・・・家族によって、その形は違うもんだ。
うちの家族はこういう風なんだってことに、しておこう。
食堂
夜ご飯の時間になり、家族4人で食堂に集まった。
「いただきまーす、なのじゃ!」
「はいはい、いただきます」
「・・・いただきます」
「クルト、唐揚げ一個くれ」
「あなた!いただきますもしていないし、息子におかずをたかるなんて、父親としてどうなんですか!」
母上がビシッと、父上の箸を持っている手を叩いた。
「あうち!・・・ゴメンナサイイタダキマス」
「・・・はい、父上」
「うう・・・クルトは優しいな・・・(今度お前の大好きなトモエの丸秘情報教えてやるからなヒソヒソ)」
「・・・(好きなんて言ってないけど・・・)」
「聞こえてるわよ、あなた」
「本当にすいませんもうしません」
「・・・あはは」
「やっぱり4人で食べるのが最高じゃ!賑やかでいいのじゃ!」
当たり前のような家族の会話。
僕は・・・ちゃんとその輪に入れているだろうか。
なんせ・・・こんなに話すようになったのは、昨日のことなんだから・・・
「クルト、また難しい顔しちゃってるわよ」
「・・・すいません」
「気を使う必要は無いのよ?私たちは家族なんだから」
「・・・」
「ほら、お父さんに唐揚げ一個取られちゃったでしょ・・・私の一個あげるわ・・・はい、あーん」
「よっしゃ!あーん!!」
「あなたじゃないわよ!」
「・・・ぐすん」
「・・・」
「クルト・・・はい、あーん」
「・・・あーん」
「ふふ・・・本当にクルトは愛しいわぁ・・・」
母上の目があやしく光っている。
じ、実の息子だから大丈夫・・・だよね?
何が大丈夫かなんて分からない・・・けど。
・・・そう、母上の言う通り、気を使う必要なんてないんだ。
焦らず、徐々に慣れていけばいいんだ。
「・・・母上、はい」
「あら、いいの?あーん・・・うーん!おいしいわぁ!・・・もう・・・クルトったら本当に可愛いんだから!」
母上は食事中なのも関わらず、また僕の顔を胸に抱きしめてきた。
これが・・・幸せっていうのかな・・・
「・・・母上ずるいのじゃ!わらわもしてもらいたいのじゃー!」
「リムはいつもお兄ちゃんと一緒なんだから、こういうときくらいお母さんに譲りなさい」
「ぶー、なのじゃ」
「父は・・・父は寂しいぞおおぉぉお!!」
「あなた、食事中は静かにしてくださいね」
「なんだよ、お前だって食事中なのにクルトをハグってるく・・・せ・・・に・・・すいませんほんとすいませんだからそのギザギザがいっぱい入っている棍棒を下ろしてください」
「はい、父上、あーんなのじゃ」
「リム!父は嬉しいぞ!あーん!・・・くぅ・・・涙が止まらん!」
「・・・あはは」
「ふふ」
「みんなでいると楽しいのじゃ!」
「がっはっは」
楽しくも賑やかに、食卓は進んでいった。
食後。
プリンセスガードのことで、話し合うことになった。
「クルトに頑張ってもらう以外に・・・厳しいわねぇ」
「あにうえなら大丈夫なのじゃ!」
「うーん、今日クルトと少し訓練したときに、剣のセンスを多少なりとも感じたからな。しばらく鍛えれば、それなりな実力はすぐにつくんじゃないか?」
「でも私は・・・今までクルトには苦労させちゃったから・・・なるべくなら、今のままで城に残れる方法を取りたいんだけど・・・なかなか閃かないのよねぇ・・・年かしら・・・ふぅ」
「・・・あの、新しい規則をたてることについては、大丈夫なのですか?」
「あぁ、それなら大丈夫よ。来月出て行くって話は、この件で揉み消して・・・本来城から出て行かなくてはいけない18歳になったときに、試験でも何でもやって、突破すればそのまま法律制定!って流れにすれば」
「・・・あと2年も無いんですね」
ここで父上が、真剣な目で僕を貫いてきた。
「クルト・・・センスがあるとは言ったが、それを生かすも殺すもお前次第だ。死に物狂いで、砂を噛みながら、何度でも立ち上がる根性や気持ちが、お前にはあるか?生半可な気持ちじゃ、誰一人守ることなんて出来ないんだからな」
「・・・あなた」
「父上・・・」
「オレは中途半端は許さないぞ?それが例え実の息子であってもだ」
「・・・」
「クルト・・・お前が決めるんだ。オレたちがとやかく言っても、最後はお前の気持ちなんだからな」
父上は最後に、僕の背中をバシッと叩いてから食堂を出て行った。
・・・騎士団の訓練は本当に辛いものなんだろう。
今はそういう風に感覚でしかない。
人を守るっていうのは、たやすいようにみえて、本当に難しいことである、ということだよな。
少し冷めている、年の割には達観しているような自分に、それが務まるのか?
何の目標もなく、ただ、日々を過ごしていた自分が、誰かを守るために、死に物狂いになれるのだろうか。
「クルト・・・お風呂上がったら、私の部屋にいらっしゃい・・・少し話をしましょう」
「・・・はい」
「・・・あにうえ、お風呂にいくのじゃ」
「・・・うん」
風呂場
「あにうえ・・・わらわは間違っておるのだろうか」
「・・・ううん、そんなことはないよ」
「・・・今までのあにうえのことを考えず、プリンセスガードなんて案を出して・・・その案を実行するためには・・・あにうえに苦労をさせしまうのであろう?」
「・・・今の僕には何も無いから。母上は女王。父上は騎士団長。リムは次期女王のためのに毎日努力している。僕は・・・何も無い」
「あにうえには、何も無くはないのじゃ!あにうえはわらわが困っているといつも助言を授けてくれたし、助けてくれたのじゃ!わらわの我が侭にも嫌な顔せずに付き合ってくれるし・・・」
「・・・」
「あにうえ・・・」
「・・・ありがとう、リム」
僕には、何ができる?




