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初めての出産

 初めての出産は途中で降りることが許されないジェットコースターのようでした。


 出産前日の夜八時ごろから突然の五分ごとの陣痛が始まり、前駆陣痛なのか本陣痛なのかわからないまま病院へ。検査の結果、高位破水だとわかり即入院になりました。高位破水とは高い位置で破水する為破水に気づかないことが多く、量もちょっとだけなので尿漏れと勘違いを起こしやすいのです。私も破水していることに気づかず普通にシャワーを浴びてました。破水してからシャワーをするは絶対ダメです。赤ちゃんに感染症の危険があります。……私はシャワーしちゃいましたけど。感染症予防のお薬飲みました。

 

 入院が決まって、ようやく赤ちゃんに会えるんだ! と、夜中なのにワクワクと陣痛の痛みで全く眠れずそのまま朝を迎えました。陣痛が治まる時に5分程度寝たのを覚えてます。5分なのに一瞬で眠りに落ちて痛みで目が覚めるんです。

 陣痛が中々強くならないので朝から病院の階段を上り下りして運動。痛みに耐えながら結構頑張りましたが、子宮口が全く開かず生まれる気配なし。

 仕事を休む気満々だった旦那を仕事に行かせました。


 その後もずっと5分おきの陣痛に耐えていたらお昼過ぎから痛みがグレードアップ。夕方には陣痛室に移動しました。陣痛のたびに母がお尻を強く押してくれて『いきみのがし』を頑張ってくれました。この時で子宮口は5㎝ほど。10㎝にならないと赤ちゃんは生まれてきません。


 喉がカラカラになって過呼吸も起こして、あまりの痛みに叫びまくる新米妊婦な私。仕事が終わった旦那からの電話にやっとの思いで出て「はやく……き、て……」と言って電話切りました。ホラーか。旦那はすぐ生まれる! と思って病院まで車をとばしてきたそうです。

 

 旦那が到着し、母と交代したところで子宮口が一気に開き8㎝に!

 あれよあれよと言う間に10㎝に到達し分娩室に移動しました。もうこの頃には何分おきとか言ってられないくらいの痛みが連続で襲ってきます。

 お尻から何か出ちゃう! 出ちゃうよ! 出していいの!? って感じ。何かっていうか赤ちゃんなんですけどね。お尻じゃないし。

 

 旦那が一生懸命励ましてくれたのはわかったのですが、何を言ってるのかわからないほど必死にいきみました。

 どこに力を入れていいのかわからず、いつ息をすればいいのかもわからず、とにかく必死でした。先生の声もどこか遠くで聞こえる感じで意識朦朧。完全に酸素不足。

 とにかくお尻の方に力を入れて、何度も何度もいきみ続けて、心の中で赤ちゃんに早く出ておいでと呼びかけ続けて、どれだけそうしていたかわからないけど先生の「はい、もう力抜いてこっち見てて」という言葉に顔を上げると――



 「ギャアアアア!」



 何もなかった空間に元気に泣き叫ぶ赤ちゃんが現れました。


 おおおお! 赤ちゃんが出てきた! すごい! 髪の毛薄い!


 という感想でした。感動? あれ? どこいった?

 それよりも疲れが酷くて、満足感と疲労感でぐったり。涙も出なかった。旦那は感動していたけど。

 疲労困憊の顔で赤ちゃんを抱いて記念撮影。後日頂いた写真は酷い顔をしてました。


 お腹の中から現れた赤ちゃん。初めて胸に抱いた時は柔らかくて頼りなくてふにゃふにゃした生き物でした。

 可愛さと愛おしさで胸いっぱいになって、生まれたばかりなのにおっぱいを飲む赤ちゃんの生命力ってすごいと思いました。



「やっと会えた~。貴女がずっとお腹を蹴っ飛ばしてたのね!」

「ママのあばら骨がパキッてなったんだぞ」



 パパになった旦那と二人で笑いました。そして



「ママとパパを選んでくれてありがとう」

「ママとパパの所に生まれてきてくれてありがとう」



 頑張ってくれた赤ちゃんにお礼を言いました。

 赤ちゃんはぱっちりと目を開けて「これが私のママとパパか……!」という顔で私たちをじーっと見てました。普通の赤ちゃんは生まれてすぐは疲れているので寝ちゃうことが多いようですが、この子は真剣な顔でこちらを見ていました。病院に駆けつけてくれた両家の両親達の顔もしっかり見てました。

 なんだろう。赤ちゃんらしくない赤ちゃんでした。もっとしわくちゃな顔だと思ってたのにものすごく大人っぽい綺麗な顔で生まれたんですよ。マジで。


 ……はっ! これが親ばかと言うものなのか!


 とにかく可愛い可愛い赤ちゃんは女の子。名前は(あおい)(仮名)ちゃんになりました。



 葵が生まれて、今までにないくらいの幸せを貰いました。言葉では言い表せないくらい幸せな夜でした。全世界の人に「私は今とてつもなく幸せです!」と叫びたくなるくらい幸せでした。

 前日、陣痛の合間に5分しか寝ていないはずなのに出産を終えると興奮状態で全然寝れないんです。アドレナリン出っぱなしなんです。結局2時間くらいしか寝れなかった。そこから始まる初めての育児。


 初めてのオムツ替え。緑の便にビックリして助産師さんに相談しました。(生まれたての赤ちゃんの便はみんな緑です。いやそんなん知らんがな)

 初めての授乳。赤ちゃんに上手く乳首を咥えさせられず乳首が切れて出血。

 初めてのげっぷ。げっぷが出ずに大泣きする赤ちゃんにオロオロしてナースコール。


 私、退院できない。


 真剣にそう思いました。こんなに手のかかる赤ちゃんを日中一人で見るなんて無理。

 けれど私が出産した病院は普通分娩は5日で退院なんです。あっという間に退院しました。

 幸せと不安が渦巻く中、実家で母のお世話になりながらの育児がスタート。旦那は週末だけ赤ちゃんに会いに来ます。それも寂しくてストレスだったんだなぁ、と今なら思います。


 退院後すぐにやってきたのはマタニティブルーでした。


 夜中に授乳で起きる葵がおっぱいをのんでも中々寝なくて、夜中もぎゃん泣き。マンションだったので近隣に迷惑をかけてしまうことと、お世話になっている両親の睡眠妨害が気になってストレスになって「なんで寝てくれないの~!」と私も葵と一緒に泣きました。

 マンションの高い位置に部屋があったので「ここから飛び降りたら楽になるかな……」と思ったこともありました。週末に会いに来る旦那に「死にたい」と泣きついたことも。

 今思えば全然大したことなかったのに当時はかなりのマタニティブルーでした。一カ月もすればなくなりましたけどね!

 そうなんです。マタニティブルーは割かし早めになくなります。個人差はあるでしょうが、心配しなくてもそのうち大丈夫になります。あ、マタニティブルーの時は心配してあげて下さいね!悪化すると産後鬱になりますよ。 


 待望の赤ちゃんが生まれたのに『幸せ』と思う時間と『辛い』と思う時間が交互にやってきたのには驚きました。

 うまくバランスが取れているというかなんというか。赤ちゃんって可愛いだけじゃないんだなと実感しました。



 だから、どこかに出かけたときに小さな赤ちゃんを連れているママを見ると心の中で「がんばれ!」と密かに応援するようになりました。



 電車の中で泣いていても、泣き止まないのは当たり前です。お腹が空いているのかもしれません。「母親なら泣き止ませろ!」と怒るのは育児を経験してない人だと思います。 赤ちゃんは泣くのが仕事です。むしろ仕事熱心な赤ちゃんなんです。言葉が話せない赤ちゃんにとって『泣く』という事は感情を伝える唯一の手段なのです。



 そんな赤ちゃんを泣きやませるのに有効なのは、周りの人が赤ちゃんに話しかける事だと私は思います。



 もちろん赤ちゃんの泣いている状況によりけりなのでさらにぎゃん泣きする可能性もあります。デット オア アライブ。 

 ですが、泣いている赤ちゃんに「泣けるね~、辛いね~」と話しかけるとピタッと泣き止むことがあります。うちの子はスーパーでぎゃん泣きしている時におば様方に話しかけられるとなぜか泣き止みます。自分の気持ちをわかってくれた! と思うのでしょうか? 

 赤ちゃん全員に効くわけではありませんが、話しかけられたことによって泣くことから興味が逸れる場合もあると思います。


 ま、その後泣きだすんですけどね。こればっかりはしょうがない。

 話しかけられるのが嫌なママもいるでしょうし。一概には言えませんが私は話しかけてもらえると嬉しいです。一瞬でも赤ちゃんが泣きやむのでホッとします。

 


「赤ちゃんは泣くのが仕事だからね~。だから泣いていても大丈夫よ」   



 以前、私が知らないおば様に言われた言葉です。

 赤ちゃんを公共の場で泣かせっぱなしにしている自分は何てダメな母親なんだと凹んだ心に染みわたるとても温かい言葉でした。

 赤ちゃんが居なければこんな風に知らない人から声をかけられることはありません。


 赤ちゃんが居るから苦労して、赤ちゃんが居るから優しくされて、赤ちゃんが居るから場が和んで幸せになる。


 そう教えてくれたのは、日々健やかに育っていく可愛い我が子でした。

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