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この世界に勇者っていらなくね?  作者: maruisu
第2章 勇者覚醒――なんて言ってみたかった。 勇者【登録無料! 即日簡単! 未経験でも簡単なおしごとでぇす♪】
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センの熱い勇者活動、ユウカツ、始まるよー♪(中編)

「よし、無事にここまでお前さんを連れてこれたな」

 出会った場所から半日歩いて城壁の前にようやくたどり着いた、旅人と賢者(?)と獣人の三人組と魔法植物一匹は、その高い赤いレンガ造りの城壁を見上げた。

 腕を組んで仁王立ちをして、うんうんとフォラスが頷いている。


「本当ならな、ワーウルフもそんなに危険は少ない魔獣なんだぞ?」

 フォラスは呆れたようにそう言うと、二人を見比べる。

「いいか、セン。お前は勇者登録したら、ちゃんとレベル上げろよ。武器の使い方をちゃんと覚えないとだめだ。

 それにアディールも、武器を見直せ」 


 そう。俺たちは今のところ戦闘には全く向いてない。

 アディールは弓の使い方は一流なのだが、弓自体が軽すぎて殺傷能力はほとんどない。

 

 城門の前に立つと、門の両サイドに立つ衛兵に「お疲れ―」と言ってフォラスは登録証を見せる。

「これは、賢者様ですね。どうぞ、お連れ様とともにお通り下さい」

 門番は頭を下げると、俺たちをちらりと見るとこともなげに中に促す。

 何ともあっさり中に通されて、拍子抜けした。

 アディールは大丈夫だろうけど、漂流者である俺は門の前で尋問されたりするのではと、びくびくしていた。


 門の中に入って安堵していると、

「ほらな、俺が賢者で助かったろう!?」

 と、得意げになってフォラスがこっちを見た。


「俺が高名な賢者様だったおかげで、お前たちはスルーで入れたんだよ。感謝しろよー、俺に」

 かっかっかっかと大声で笑う。

 高名な――はとりあえずスルーして、確かに顔パスで入れるなんて驚きだ。


「登録証を見せたり、賢者だったりすると門を通れるんですか?」

「おう。ギルドの登録証は通行証書も兼ねるからな。どこでも行ける」


 なんだ、じゃあやっぱりフォラスが高名なんじゃないじゃん――と心の中で思ったのは、フォラスには内緒だ。

 あのプレート一つあるとないでは、旅がこんなに違うんだ。


「便利ですね」

「お前、現金なやつだな」

 フォラスが苦笑いする。


 城壁から州城までまっすぐ伸びる大通りの両脇に、建物がひしめき合うように建てられていた。

 往来の人々は絶えることがなく、レンガが敷き詰められた町並みに並ぶ商店の客引きの声や、にぎやかさはまるで活気のある商店街のようだった。

 城壁の中に広がる州都はかなり広く、立ち止まってぼけっと街を見上げて歩く。一本道で遠くまで見渡せる城門の前で、俺とアディールはおのぼりさんよろしく口を開けていた。

 初めて見る街の景色に、ぼけっと口を開けてしまって恥ずかしいと思い隣を見ると、アディールも同じように口を開けて建物の上部に掛けられている看板を見ていた。

 そうか。アディールもずっとあのバニウスの村にいたから、こんなに大きい街に入るのは珍しいんだ。

 

「……広い」

「だろ?」

 まるで自分の手柄のように、フォラスが得意げになる。


「この道まっすぐ行きゃ、ギルドよ。ほれ、行くぞ」

 俺とアディールの間に立っていたフォラスが、二人の背中をバンと叩いて歩き出す。

 さっさと歩いたフォラスは州壁の門と州城がある城壁とのちょうど中間程度のところにある建物の前で足を止めた。

 くるりと振り返ると、さっとその建物を指さした。


「これが、ギルドだ」


 フォラスが指し示す建物を見ると、建物の右上には看板が出ていた。「勇者公社ギルド」と書かれている。

 レンガでできているその建物は、周囲の建物よりも一回り大きく、目立っていた。

 入口は大きく開かれており、人が行き来している。

 甲冑を着ている者がいれば、鎖帷子のようなものを着ている者もいる。町民のような質素なローブをまとっただけの人もいるし、チュニックベストにタイツという格好の人もいた。一人で入る人もいれば、何人かでしゃべりながら入っていく人々もいる。

 フォラスが入り口をくぐっていたので、その後に続いて入っていった。


「ピ、ピィ!」とマドラに呼ばれ、俺はああ? と足を止めて振り返った。マドラは入口で困ったように立ち尽くすと、俺の顔を見てから入口に突っ込もうとしていた。

 しかし、頭は見えない壁に押さえつけられているかのように、中に入ることが出来なかった。

「なんだ? お前遊んでるのか?」

 呆れてそう問い返すと、マドラはプルプルと頭を横に振った。ん? と俺は手を差し出してみたが、そこには何もなく手はすっと伸びていく。

 しかしマドラはやはりそこに壁があるように、両手を精いっぱい伸ばすと見えない何かをぎゅうぎゅう押すようなしぐさをしていた。


「ああ、すっかり忘れていた。おいマンドラゴラ、お前、魔族だろ?」

 フォラスはマドラを指さしながら言う。マドラは「キュ?」っと言いながら首を傾げている。

 どうやら自分が魔族だという自覚は全くないらしい。


「ギルドの入り口には、結界が張られているんだ。光の国のギルドは登録していない魔族は入れないんだよ」

 フォラスのその説明に、俺は首を傾げる。


「魔族も、登録できるんですか?」

 俺のそんな質問に、フォラスは軽く頷いて見せる。


「魔族は魔領のギルドで登録するんだ。

 ギルドはアルフガルドにも魔領にもあるんだ。だから魔族でも勇者になることはできる。ただ魔族は勇者のことをヒーローやらパラディンとは言わないがな。

 魔族の勇者は登録すると、一定のレベル以上になったものが爵位を得て、魔王軍を率いることができるんだ。

 言ってみれば、魔族の将軍だな」

 

「へえ……」

 返事をしながら、にわかには信じられなかった。魔族にもギルドがあって、そちらは光の王を討伐するために人員を選ぶんだ。

 なんか、勇者って名前だから光の国にしかいないのかと思ったら、魔族でも勇者を名乗ることが意外だった。

 マドラに外で待つように言うと、首を横に振った。

 どうやら一人で待つのは嫌らしい。だが、魔族だから入れないだろうし……。

 するとフォラスは「にわか処置だからな?」と言って、マドラに向かって何やら呪文のような言葉を唱えると、よしと一人で頷いていた。


「今、マンドラゴラを俺の仲間にした。

 仲間になればレベル不足の魔族でも光の国に入ることができるようになる。そして、ギルドの結界も解かれる。

 登録前に仲間になっていれば、魔族でもアルフガルドで職業登録ができるようになる。

 とまあ、細かいようでいろいろ抜け道がある。フレキシブルに考えるのが一番いいんだろうな。

 今回は応急処置だが、覚えておくといい」

 フォラスにそう言われ、俺とアディールは顔を見合わせた。マドラはフォラスの方へ頭を向けると、不思議そうに自分の額をキュッキュッと擦っている。


「ああ、仲間の印を額に埋め込んだからな。俺の場合、仲間にするには呪文で縛るんだ。

 まあパーティによっていろんな方法があるんだが、口で仲間にすると発するだけで構わなかったりする。

 それはそのパーティーそれぞれだから、方法を決めておくといい。プレートにその方法を打ち込んでおけば、離れている時に他の誰かを仲間にしてもパーティーのメンバーにはわかるようになるからな」

 フォラスはそれだけ言ってマドラを抱え上げると「ほれ、行くぞ」とそのまま入口へ入っていった。


 俺たちもその後ろに付いて中に入った。さっきまで全然動けなかったマドラは、フォラスの手のひらの上でそのまま通り抜けることができた。

 

 少し薄暗い室内は、人の話し声や、椅子を動かす音や、足音、ペンの音、あらゆる音で賑やかだった。

 室内の湿った石の匂い。人が歩くと舞い立つ埃が小さな窓からさ差し込む光に浮き上がり、その場に降り積もっていく。

 そこには人が生きて動いているんだという実感を呼び起こさせた。

 

 ゲームの中の世界なんて思っていたけど、こうして動いている限り、この世界は今の俺にとっての現実だ。


「っと、まずは勇者登録だな」

 フォラスがあたりを見回す。

 カウンターに置かれた緑色のプレートに「勇者登録所」と書かれていた。その下に、「パーティ関連職業の方は、右奥の職業登録所へお願いいたします」と書かれている。フォラスが窓口で中にいる人に何か話しかけていた。受付の人が何か言ってから、フォラスが俺を見て指差した。

 そして何かを説明するように、大仰な手振りで受付嬢に何か言うと、受付嬢は頷いてからにこやかにフォラスに紙を見せながら告げていた。

 フォラスは受付嬢に紙をもらってくると、こっちに戻りその紙を指し示す。


「お前、字は書けるか?」

 フォラスに言われて、うーんと考えた。


「こっちの文字は、書けません。書いてある意味は分かるんですけど、文字まではちょっと……」

「そりゃそうだよな。いいか、俺が今から読み上げるから、その項目にお前の国の言葉で記入しろ。ギルドで文字入力処理してくれるってからよ」


 漂流者がギルドに登録に来た時に行われるサービスだそうだった。

 本来は受付嬢が対応し、書類を読み上げて、書き込みと署名をするらしい。こちらの人間にはわからない言葉で書かれていても、あとで魔法をかけて文字をこちらの文字に変換し直すことができるとのことだった。

 フォラスは次にアディールを呼ぶと、右奥の受付で職業登録して来いと言った。

 考えてみればアディールもプレートを持っていなかった。


 フォラスに職業登録って何かを尋ねると、ギルドに職業登録しない限り、一般人は村人や市民といった非戦闘系の職業に就くことになり、プレートは持たない一般職になるという。

 アディールが言うには、村人はたいていモブ職と呼ばれる職業に就くので、プレートは必要ないんですよと笑っていた。

 

 アディールが職業登録しに行くと、フォラスはこちらに向き直り、書類を読み上げ始めた。出身地を記入する欄、名前、性別、年齢などなどを記入し、他には勇者の心得のようなことが書かれているらしかった。

 仲間の募集の仕方、登録の仕方、依頼の受け方、そう言ったことの一つ一つが説明されて、最後に、「別紙における勇者公社規約、ならびに勇者法を違反する者は厳罰に処する。以上全ての項目に同意できる者は下記に署名をお願いいたします。なお、登録証の発行をもって、勇者の登録は完了です」と書かれていた。

 フォラスが署名欄を教えてくれて、そこに名前を書き込む。フォラスは俺が名前を書き終ったのを確認してから、書類にざっと一通り目を通していた。


 確認が終わった書類をフォラスと一緒にその書類を窓口へ持っていくと、署名を見て、受付嬢が「確かに漂流者の方ですね。かしこまりました。文字入力いたしますので、登録まで少々お時間をいただきます。それまでに、マニュアルを一読することをお勧めいたします」とにこやかに言った。


 しばらくすると俺の名前が呼ばれ、カウンターで登録が完了した旨と、登録証の発行をするから地下へ行くように受付嬢に言われた。

 アディールを待ってから、三人で下に降りていくと、地下は写真スタジオのようになっていた。


「ここで登録証に情報を書き込むんだ。俺のプレートに書き込まれていたろう? あれだよ。ギルドと登録証に能力を記憶させるんだよ。

 一回登録すれば、情報は自動更新されるからな。プレートやステータス画面も勝手に更新されるから楽なもんよ」


 と、フォラスが教えてくれた。これはどんな仕組みなのかと思って尋ねると、ギルド職員限定の魔法能力だそうだ。

 魔法ってすげえ!

 スタジオの中を見てみると、勇者登録を済ませた新規登録者が並んでいた。椅子に座った勇者初心者がカメラのようなものでギルドの職員に写真というのだろうか、を撮られている。

 まるで運転免許証の発行のようだった。


 俺とアディールもその列に加わり、順番が来るのを待つ。


 自分の番が来ると、椅子に座るように言われ、座った途端にカメラのようなものを構えられた。パシャッと音がすると、「はい、いいですよー」と言われ、それでその作業は終わった。

 30分ほどすると、登録証が出来上がり、1階の受付で真新しいぴかぴかの登録証をもらって、勇者の登録は完了した。


 ……これでもう、俺は勇者だった。

 正直、こんなに簡単に勇者になれるとは思わなかった。

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