仲間募集! やる気のある方求む!!
これって、絶対バカにされすぎだろ?
渡された武器を手に持って、しみじみとそれを眺めた。横には、何とも言えない微妙な顔をしたアディールがその道具を俺と同じように眺めている。
きっと考えていることは同じに違いない。
俺とアディールはとりあえず金稼ぎだ! ということで受付に行った。
受付のおねーちゃんはにこやかな笑顔と共に初心者用の依頼書を出して、丁寧に説明してくれた。
けどさ――初心者用の依頼が、迷い犬さがしと、空き家清掃と、ペンキの塗り替えだった。
……それって、勇者の仕事じゃなくね?
だってさ、異世界トリップって言ったら、チート能力炸裂して主人公最強だったりしない?
初期からチートな主人公は敵を颯爽と倒しちゃったりしない?
それが……この初心者の仕事って、便利屋じゃん。
え? 勇者って、人々の困難を取り除いてやるとか言ってなかった? 困難? こんな程度の困難、近所のやつが手伝ってやれよ!
「あの、敵を倒したりとかしないんですか……?」
俺は新人勇者のために設置された「武器貸出所」で渡された武器であるモップを手に持って、恐る恐る受付嬢に尋ねてみた。
すると、キョトンとこちらを見た受付嬢は一瞬浮かべた「こいつ何言ってんだ?」って顔をすぐに改めると、にっこりと笑顔を作る。
「え? だって、依頼は空き家清掃ですよ? モップが嫌なら、雑巾にします? なんならバケツもつけますよ?」
勇者公社の武器貸出窓口の受付嬢は、ずっと同じ張り付けたような笑顔で俺を見ている。
どうやら難癖をつける初心者勇者の対応は物慣れているらしい。
だが、それでも俺はあえて言いたい!
雑巾て武器ですか? バケツって、それ、おそうじ道具でしょ?!
「えっと、空き家清掃って、敵が出たりとか――」
またまた恐る恐る切り出すと、すべてを言う前に受付嬢に切り返された。
「依頼書、通読されましたぁー?」
にっこりほほ笑む笑顔は先ほどとは変わっていない。
受付嬢は俺の持っていた依頼書をため息交じりに手に取ると、カウンターに広げ、トントン、と指を指した。
「ここにありますとおり、今回の依頼って、このリングア内のお屋敷なんですよー」
語尾を下げながら、青のとんがりハットをかぶったピンクのふわふわ髪のおねーちゃんが、微笑みを崩さずに、目尻だけをひくひくさせて話している。
依頼書には「屋敷清掃のお願い。当カルガリ家の使用されていない屋敷の清掃をしていただける方を募集しています。難易度は高くありませんので、未経験の新米勇者の方、ブランクのある方、どんな方にも自信を持ってお勧めできる案件です。当屋敷、安心安全、リングア内のお仕事です!」と記されている。
その他に、条件面、仕事場所の地図、住所、連絡先が書かれている。そして、ギルド記入欄には、勇者ランク初心者~と記入されていた。
受付嬢は、その「リングア内のお仕事です!」と書かれた項目をトントンと指さしていた。
「わかりますぅ? リングアって州都なんで比較的治安がいいんですよぉ? 敵になるような魔獣が出たら、それこそ州お抱えの魔導師さんたちの首が飛ぶんでぇ、いくら勇者のお仕事といえど、敵は出ないんですよー」
受付嬢の間延びした語尾の話し方に途中途中癇に障りながら「そうですか」と返事をした。
それに「レベル1で敵を倒す依頼は、ちょっと難しいと思われますけどー?」と返され、これ以上は、聞ける雰囲気ではなかった。
「あの、モップでいいです……」
ぎゅっとモップを握りしめて、諦めて俯きながらそう言うと、受付嬢はにっこり笑顔の口角をさらに上げて返事をする。
「では、お気を付けてー!」
勇者を送り出す時の、お決まりのセリフのようだった。
隣のカウンターでも、同じように「お気を付けてー!」と受付嬢が勇者らしきパーティのメンバーに声掛けしていた。
嬉しそうに鼻の穴を膨らまして、貸し出されたばかりの剣を高々と掲げている隣のパーティを羨ましげにちらちら見ながら、モップをもう一度見つめてみた。
掲示板の仲間募集の張り紙には、求む! 勇者! と書かれていたり、それぞれの職業を名指しで募集がかけられている。お! これは!? と思う募集の張り紙を見つけても、募集勇者レベル20以上とか、経験者求む、とか書いてある。新規勇者にはあまり優しくない。だからまだ希望に沿った仲間を作れずにいた。
仲間になります! と書かれた張り紙も、同じようにリーダーのレベル30以上なら、喜んで仲間になります。とか、当方レベル50オーバー、ベテランパーティで、欠員募集の方、お気軽にお声掛け下さい。と書かれており、これまた新規勇者が連絡を取ったら鼻で笑われそうな勢いである。
とりあえず、依頼をこなすしかないか……。
ため息をつきながら、掲示板をまた隅々と見る。これは! と思うと、ランクF以上などと書かれている。俺はまだ依頼をこなしていないので、ランク外の初心者となっている。
一度でも依頼をこなすと、自動でランクが登録されるらしい。振り分けられたランクは自動的にギルド登録証に記載されるとマニュアルに書かれていた。
「セン、気を取り直して依頼を片付けましょうよ」
慰めるようにアディールに言われ、俺はしぶしぶ頷く。マドラはおまけで借りたバケツの中に入って遊んでいる。平和な奴だ。
「そうだね、アディールも破れたままのスカートじゃみっともないもんな。
武器とかもこれから必要になるだろうし、とりあえず、依頼をこなすか」
手にしていた依頼書を見ながら、思わずため息を吐いてしまった。
「あーあ」
「はーあ」
自分でも思いのほか大きなため息が出たと思ったら、同時に隣から俺より大きなため息が聞こえてきた。
「はーあ、やっぱりないか……」
隣から聞こえてきた独り言が、俺の心情とぴったり一致したので思わず隣に視線を向ける。
そこに立っていたのは、黒髪に褐色の肌の女の子だった。その子も、こちらをちらりと見る。
目が合うと、女の子は紫色の目を細めて、にこりとほほ笑んだ。
ああ、目が合った時に会釈してくれる文化って、和むなあ。日本じゃさっと目を逸らされて終わりだもんな。としみじみ喜びながら、笑みを返した。
「仲間、探してるんですか?」
女の子が掲示板を指さしながら、尋ねてきた。
すると俺の横にいたアディールが警戒した顔をして、俺より半歩前に出る。
「そうですよ。でも、なかなか戦士系の仲間募集の案内がないんです」
アディールがにこやかに、答えている。はずなのに、なんとなく口調に棘がある。俺たち、戦士系の仲間を集めてたっけ?
すると、黒髪の子はアディールの顔をまじまじと見つめ、それから横にいたマドラを見つめた。
マドラも自分が見つめられていることに気がつき、顔であろう部分を黒髪の子に向け、首をひねってみせる。
すると彼女は目を見開いて、マドラと同じ視線の高さにしゃがみ込んだ。
「え!? この子、マンドラゴラじゃないですか!!」
マドラの両脇を抱えて持ち上げると、黒髪ちゃんはうわっと驚いた。
「マンドラゴラって有名なの?」
アディールに尋ねると、アディールはひくひくと口端を持ち上げて笑顔を作っていた。
「ええ。マンドラゴラは魔法生物なので、魔導師には欠かせないアイテムなんですよ。身を乾燥させてすりつぶせばいい魔法の粉になるので」
「へえ――」
ちらりと横目でマドラを見る。ってことは、金に困ったらマドラを魔導師にうっぱらえばいいってことだな?
とよからぬことを企んでいたら、マドラがジト目(のような気がするだけだけど……)でこちらを見ている気が、した。
「うわー、本物のマンドラゴラだ~! いいなー」
ほわーっと幸せそうな顔をして、黒髪ちゃんはマドラに頬ずりしている。
マドラはぎゅうぎゅうと頬を摺り寄せられて、困ったように俺と彼女を見比べている。
「えっと、君……仲間探してたんだよね?」
俺がそう尋ねると、アディールが横で俺の服を引っ張っている。
あれ? 俺、なんか余計なことを言ったか??
「そうなんです! でも登録したばかりなんで、やっぱり依頼がなくて」
彼女も困ったようにため息をつきながらもマドラをつんつんと指でつついて、ぼやいている。
「どこも、不況なんですかね?」
「はい?」
俺は首を傾げる。異世界に、不況。そんなのあるの?
「いやーこれでも、数年前は景気良かったんですよ。勇者の依頼なんてバンバンあって、仲間も、どんな初心者の勇者にでもガンガン募集が来たり、新米勇者が仲間になってくださいって募集しても、山のように応募が来たりしてたんですけどね。いい時代だったんですけど~、最近の仲間募集は、渋いのばっかりですね」
腕を組みながら頬杖をついて、まるで見てきたように遠い目をしながら彼女が言う。おいおい、あんたも初心者じゃないんですか? とツッコみたいのを我慢して「あー、そうなんですかー」と平坦な声で言った。
「あっと、そんなこと言っても仕方ないことですよね。ごめんなさい、愚痴っちゃって」
てへ、と舌を出しながら、女の子は笑った。だから君も、初心者じゃないの? とツッコみたかった。
「あ、じゃあ、俺、依頼があるんで」
そう声をかけると隣のアディールはほっとした顔をする。アディールは笑顔で彼女からマドラを返してもらおうと手を伸ばしていた。
しかし、黒髪ちゃんは俺とアディールとマドラをまじまじと見つめている。
「あのー、私が言うのもなんなんですけど、あなた、多分仲間集まらないですよ。リーダーがそのレベルだとちょっと厳しいかな~?」
黒髪ちゃんは首を傾げながら、うーんと呟きながらくるくる目を動かしている。
どうやら、俺のステータスを読み取ったらしかった。
「は?」
大概失礼な話である。レベルが低いのは百も承知だ。
だけどそんなのは初心者だからだ。それを、同じ初心者の、しかも女の子に突然そんな不躾に言われて、ちょっぴりむっとする。
「あの、ステータス……読めますよね?」
恐る恐るといった様子で、彼女がこちらを窺う。ああ、そうか。ステータスが頭に浮かぶんだっけ。はっとして、ステータス、ステータス……と意識を集中させた。
すると、目の前に立っている女の子の横に、ぽんとホログラムのような画面が浮かんできた。あ、ほんとに出た。ほんとにできるんだと意外だった。
ユマ・リリム
【称号】 薬師 Lv3
【スキル】 基本:薬学 特殊:――
HP 200/284
MP 20/38
EXT 2740
Next 760
攻撃力 18
防御力 16
精神力 32
体力 20
知力 23
敏捷性 21
運 3
と書かれている。そして、別項目のコマンドメニューのスキル欄にはスキル特性 アイテム利用 と書かれていた。
「え? 初心者で、レベル3なの?」
「ええ。それでも私は、レベルが低い方なんですよ。えっと、モブでもなかなかレベル1というのはありえないんですけど……」
おかしいなー? と彼女は首をひねっている。
「僕さっきまで旅人レベル1だったんで、それでかも」
尋ねてみると、彼女はますます怪訝な顔をした。
「あなた、漂流者の様なので知らないかもしれませんけど、このメージャーイン世界では、成人の職業選択の時に、モブか勇者関連職に就くか選択するんですよ。モブ職は、商店とか、工場とか、使用人とか、そういった村人タイプですね。そして、勇者関連職が勇者、剣闘士、武闘家といった戦い関係か、魔術・魔法、特殊職関連なんですけど……、モブ以外を選択した時点で、特殊ボーナスとしてレベル3以上から始まるんですよ。
ちなみに、モブでもレベル2はありますよ。大体レベル2か3なんです。こちらはステータスは表示されないんで、固定パラメーターになるんですけど……」
うーんと考えながら、首をひねる。
「勇者レベル1って……モブより低い値じゃ、なかなか仲間は見つからないと思いますよー?」
女の子に言われて、軽くショックを受けた。
モブより低い……。
や、確かにフォラスにも笑われたけど、こんなレベルの低い子にそんなこと言われるとショック度が激しい。
「ちなみに、旅人って普通のレベルはいかほどに?」
「まあスタートは若い子ならレベル2ですかね。他国を旅するなら、レベル3はないと厳しいと思いますけど?」
と平然と返された。
レベル1とは、子どもを指すらしい。俺はこの世界では子ども並み……ということか。
ショックを受けて真っ青な顔をして、モップを支えにして涙ぐんでいる俺の肩をアディールがぽんと叩いて慰めてくれた。
何その、ドンマイ! 的な顔。せつなくなるからやめて!
「で、物は相談なんですけど――私を仲間にしません?」
「は!?」
その言葉に俺より先に反応したのは、アディールだった。




