せっせ、せっせと旗立てる
パレサートside
余はパレサートの王、ジャファンだ。
「………怖すぎるわ!!…聖人と逆星の勇者に召集令状を出せ。ガイア商会から呼び戻す」
衝撃的な映像を見た後に発した命令は間違ってはいないと思う。
もうすぐ教会の人間が殴りこんでくるだろう。
世界の敵を討伐せよ、とな。
正直言おう。
あんなの触りたく無い。余裕で死ねる。
元々武辺だったから分かる。一度会ったのだからな。
アレは、イチナは規格外だ。
「はぁ、あの者達にですか…?しかし逆星は使えませんよ?聖人は商人としての才覚が有りますし、兵糧を集めるのに役立ちますが、とても世界の敵を討伐できる力があるとは…」
軍部の人間が声をあげる。
嘆かわしい事だが、こいつ等は我が国の勇者と呼ぶ事もしなくなった。
「よいか?アレは討伐出来る出来ないでは無い、敵対したら拙いのだ」
それも、叶わぬかもしれぬがな…。
パレサートは教会の力が強い。
なにより、慣例とはいえ末娘が人質なのだ。
はぁ…、奴が関わっていると予知巫女が意味を成さん。
どういう結果になるか、まるで分からんのも怖い。
「ご冗談を、たかが一人ですよ?物量で攻めてもよし、彼の仲間を人質に取るもよし。いくらでも方法は有るでしょう」
くっ…!コイツ分かっていない!軍人なら今の映像で見抜け!!
あの自尊心の高いハンマルクの子倅ですら、殺気だけで心を折られたのだぞ!?
かく言う余もだ!
それに人質だと?論外だ!!
「…話は勇者が来てからだ!いいな?」
「…分かりました」
勇者達は奴と顔見知りも多い。
説得、とまではいかないが、殺されることも無いだろう。
勇者達には悪いが、それに教会を納得させるのに勇者を出す必要が有る。
教会は軍よりも勇者を信用しているのだからな。
イチナには人を付けて身動きを制限した方が良い。
余はそう思っていた。
殴り込んで来た教会の人間が、世界の敵からのアイナクリン王女奪還という名目を出してくるまでは。
Sideout
バルクside
「フフッ……ぶほっ!?」
飲んでいた紅茶を吹き出しちゃったじゃないか!
新魔王ガイナスの演説は微笑ましく見てたのに…。
「…ねえ、バルク様。彼は誰?」
ミアガット…、なんで恋する乙女な顔をしてるの?
「彼ってどっちかな?勿論無表情の方だよね?」
「もう、分かってるくせに!…あの慈愛の微笑み。精悍な眼差し…。素敵すぎる!ああ、愛したい」
…慈愛?…精悍?
「慈愛というよりは、凄惨な笑みだし。精悍より、殺意の凝縮した眼光だよ」
凄いねミアガットの乙女フィルター。
「ハァハァ、やだ、濡れてきちゃった…」
うわ、今のコイツと一緒の部屋にいたくない。
そんな時、教皇の部屋にいっている娼婦の一人から連絡が入る。
《バルク様、教皇様から連絡です。あの映像に一瞬映った女騎士を捕らえて献上しろとの事です……そんなの映りましたか?》
教皇が自室に籠って初めての命令がコレか…。
「…映ってないと思うけど、エロジジイの事だから目聡く見つけたのかもしれないね。でもどうやって映像の事を知ったの?」
《…今日はバルコニーでお楽しみでしたので》
ああ、そう。
女騎士の名前は分かる。
ソルファ・カンバス。
シェルパのツァイネン領出身、ランクCの冒険者で二つ名は『守護騎士』
問題はイチナくんの嫁候補という事。
教会が手を出したら下手をしなくても、躊躇なくやられる。
ファルナーク達の記憶を消すっていう前科かあるからね教会は。
「全く、死にたくなければ忘れて欲しいなー」
もう、僕だけでイチナくんを狙うのは止めた。
賞金より、国の方が旨味が有るからね。
どう教皇を説得しようかと考えていると、今度は僕の『切り札』の一つから連絡が入る。
《バットネン好色……侯爵が動きましたでござる。シーバンガの勇者。カートス・マリゲーラ。ファルナーク・サリスをギルド前にて捕捉。手勢と『武神』のコバンザメ達を連れて向かっているでござる》
「…僕がギルドに張り込ませておいた『手』はどうした?」
ござる口調はキャラ作りって言ってたけど、最近馴染んで来たね。
好色についてはつっこまないよ?
《取り込まれたようでござるな》
使えないなー…。
《察知した対罰者も向かっている様子、いかがいたす?》
教会の人間が行ってるんなら、動かなくても文句は言われない。
だけど、気にくわないね。
「…ファルナークの目的とか分かる?」
《女王陛下への謁見のようでござるな。……バットネンの雇った武神のコバンザメがシーバンガの勇者を確保、戦闘に入ったでござる》
キター!このまま会わせれば女王の弱みを握れる!
「変装してファルナークの手助け!顔さえ見せなければ、手段はどうでもいいよ。城まで誘導して。頼んだよ」
《それはファグスの勇者としての拙者にでござるか?それとも暗殺者としての拙者にでござるか?》
もちろん、暗殺者としての君にだよ!
素早さ重視の勇者で暗殺者って使わない手が無いよね?
ねぇ、猿飛空也君?
Sideout
堕ちたファグスのアルケイドside
「そうか、王族は捕虜にしたか。住民は避難済み、ファグスの巫女は自害。だが軍と王は捕虜、戦果としては上々か…」
王家の人間が使う執務室で報告を受け取る。
ファグスの勇者は国の危機にも現れず、か。
ファグスがまとめていた勇者についての報告書を読む。
サルトビ クウヤ。
ウォルガイに旅だった後、勇者の護衛に選ばれた者が次々と死体で発見され、勇者本人は行方知れず。
ギルドや国境砦を越えた形跡も無し。
捜索も断念。
ファグスは魔王討伐すら断念すると書いてあった。
「…異世界人というのは予想外な者が多いのか?」
アマサカイチナ。暗将を継いだフルクスの情報では奴も異世界人らしい。
今のままでは敵わない相手。
それが分からないほど、弱くは無いつもりだ。
「……それに、あの男。いや、恐らくは邪神の使徒様、か」
言葉一つで兵を操る恐ろしい技だった。
我々がこの城に突撃をするときに飛び立った竜とそれに乗った男は、間違いなく彼だろう。
「本来ならば逆らうなど許されないのだがな。…気にいらん」
あの技に二度と掛からぬよう、アマサカに負けぬよう、鍛錬を更に過密にせねば。
「ア、アル様!!空!ガイナスが!」
執務室の扉を壊す勢いでリリスが部屋に入って来た。
慌てすぎて、いつもの☆を付けていない。
「落ち着け。なにを言っているのか分からん」
「映像が浮かんで!ガイナスが喋ってます!」
………映像が浮かぶ?…レビーニャか。
ガイナスは先先代の魔王を踏襲するつもりか。
俺はリリスに腕を引かれ、その光景を目の当たりにする。
話しの途中で吹き飛ぶガイナスを。
そして…。
「ヒッ…!?ア、アル様?」
リリスが短い悲鳴を上げ、俺から手を放す。
「…すまない。思わず殺気と闘気が漏れたようだ」
私もごめんなさい。と謝られた。
改めて空を見上げる。
既に映像は掻き消えているが、アレを見た兵達から動揺した声があがっていた。
「…引き上げだ、ファグスを放棄する。魔都に戻るぞ」
イチナとタカヒラ相手に生き残れるほどガイナスは強くない。
あの映像を見た者達の間に新しい魔王の死を連想しない者がどれだけいるか…。
アルス様に合流したいが、民の事も有る。
「援護に行かないんですか☆」
む、口調が戻ったか…。
リリスの意見はもっともだ。
しかし、ガイナスが自分の息のかかった者以外を排除した今の魔城は最弱だ。
それに今回の件でガイナスが単騎で出る訳も無い。
恐らくは軍を連れて出ているだろう、そうなると魔城の防衛能力が危ぶまれる。
まともな将は暗部のフルクスしか居ない事と文官たちはガイナスに都合のいいように編成されている。
誰かが戻って指揮をとらねば、魔族が終わりかねん。
「ああ、我々の『魔王様』だ。たった二人に負ける事など無いだろう。全軍に伝えろ」
「あの…。本気でガイナスが負けないと思いますか?」
「……………………ああ」
☆も付けず真面目に聞いてくるリリスに、なんとか答える。
早く戻ってアルス様に連絡を取らねば…。
今の魔国にはアルス様が必要だ。
ジャンならアルス様と連絡が取れる筈だ。
そう考えながら撤退の準備を進めていくのだった。
Sideout
白亜教side
未だ洞窟内で燻り続けるお馬鹿さん達は、まず最初に何処に布教すべきかを協議していた。
四角い机で無理やり作った円卓に老将、アルス、そしてアリーナンが座っていた。
「…今現在、魔族との戦闘がない辺境から広げていくのはどうでしょう?」
胸元の大きく開いたドレスに平凡な顔のバルマストが案をだす。
「まて、まずは魔国の民達から布教してはどうか?我等が行けば抵抗なく受け入れるだろう」
そう言うワクバランにアルスは自作のハリセンをブチかます。
スパーン!と軽快な音が鳴り響く。
神気を込める事で相手の意識を奪う対暴走用のハリセンだ。
最近は常時携帯している装備の一つになっている。
「抵抗するに決まっているだろう!なんのための邪神崇拝だ!ほいほい乗り換える奴がそうそういる、か……いるな、お前等がそうだったな」
勢いよく突っ込むがその場の視線を受け諦めが入ってしまう。
大きくため息をつき、席について突っ伏したアルス。
既にやる気というものを削がれ尽くされたようだ。
「いえ、魔国は後回しでもいいかと。今は人族や亜人を取り込む事を優先した方が良いでしょう。魔族では教会の力は削げませんから…」
少し間を開けバルマストが説明を始める。
「今の教会は、世界中の加護を加護を管理しているといっても過言では有りません。しかし、教会都市を潰した事で本部を失い、布教神官もへりました。盟主アリーナンが白亜教の為に、神々と交渉の末10の神々との契約をもぎ取りましたので、その加護の更新は教会では出来なくなっています。リストアップしましたので目を通してください」
配られた紙には、教会が可哀想になるような名前が幾つもあった。
それがこれだ。
創造の神 アリョーシャ
見識の神 マイガート
砂の神 ゼプリバン
食の神 ウマカー
次元の神 タヌァークァ
運命の神 ノーディス
狩猟と隷属の神 ライソネール
時の神 クロノフール
鍛冶の神 マッコス
公平の神 カイナクス
戦の神 アルス
「これは……放って置いても、教会は潰れるんじゃないか?おい、アリーナン。これは施設さえ立てれば教会の代わりが出来るメンツだぞ」
アルスは今まで沈黙を守っていたアリーナンに声を掛ける。
「当然でしょ?白メイツだもの。白メイツは基本的に教会と同じ事しかしないわよ?世界に干渉する限界がそれなんですって。教会に力を貸さない代わりに白メイツに約束したの。この世界を白たんで平和にするって!!白亜教を普及させれば問題ないわよ」
その言葉に、ウンウンと頷く老将達。
「まず布教すべきは、シェルパのツァイネン領!うちの妹に後ろ盾になって貰うわ!!ついでにおじい様をギャフンと言わせるのよ!」
「「「「「おー!」」」」」
それを見てアルスは思った。
(駄目だ、コイツ等なんとかしないと…!)
そのリストに自分の名前が入っている事に気づかないアルスであった。
Sideout
短いし、載せるかどうか迷った。
流れをぶった切ったかも…。
次回 『模倣の仮面』