転生・設立・新たな称号
閑話的ななにかです。
???side
一南達が去ってしばらくした頃、ファグスの城下門には兵と冒険者が集まっていた。
「酷い…」
「俺達の街が…」
「この門…。斬られたのか?いや、まさかな。そんな事出来る訳がない」
「!?おい!この竜『不可侵竜』だぞ!!この4本角、間違いない!」
「バ、バカ言うなよ!?これを倒せる奴なんて、どんな種族にもいないだろうが!?」
集まった兵は悲しみに暮れ。冒険者は、理解できない事に恐怖した。
「おい!ここに人が倒れてるぞ!!…魔導士みたいだ。もうこと切れて…ひっ!?」
死体だったはずの魔導士が、突如、冒険者の足を掴んだ。
「ぐっ、がはっ……『ライフ・ドレイン』!」
「えっ!?あ、ああがぁああ!?」
その叫びに反応する冒険者と兵士達。
「…いざという時の為に、遅延性の蘇生薬を奥歯に仕込んであったを思い出して良かった…。使徒である私を殺すとは……あの化け物め」
使徒。その言葉に兵士と冒険者は、嫌でも矛を収める。
この世界において使徒とは神の代弁者なのだ。
その時だった。
「なんだ?この光…。っ!これ、転生光かっ!?」
冒険者の一人の叫びが、その場にいる全員に伝わった。
「!…そうだ、そうで無くてはな。さっさと起きろバルドカール!」
転生光、条件を満たし長く生きたモンスターが戦いで死んだときにおこる『転生現象』
「転生させるな!魔法隊!風放て!!」
転生現象は転生光を吹き飛ばされると輪廻へと戻る。
ゆえに彼らは必死なのだ。
「させんよ」
懐から一本栄養ドリンクサイズのビンを取り出す使徒。
一気にあおり、魔法を繰り出す。
ビンには[魔力疲れにこの一本!※大量に飲んでも限界値は上がりませんご了承ください。]と書いてある。
「『至高の隔壁』」
地面から鉄の壁がせり上がり、竜の死体の四方を囲んだ。
全ての魔法は、その壁に阻まれる。
「……くっ!奴め。神気と魔力をゴッソリと持っていったな…。あの剣の力か。本来の威力が出せないとは…」
魔法を使った後に凄まじい疲労感に襲われる使徒。
「魔力ポーション1本では足りないか。それほど数を持っている訳でもないのだがな」
そう言いながら、もう1本同じものをあおる。
「使徒様!何故、邪魔をなさるのですか!?」
「黙れ、無魂種が。道具ごときが私の『友』を消そうなど…。そこで黙って見ていろ!」
そう言って、なけなしの神気で威圧する。
それで十分だった。
Sideout
エギュニートside
「…随分と縮んだな」
[……]
辺りには血の海、食い散らされた跡が残り、五体満足な死体は何処にもない。
4本角は健在だが、体長は5メートル程で落ち着いた。
「バルドカール?……まさか思念波すら使えなくなったか?転生の影響、か…。仕方ない、私の騎獣として使うしかないな…」
[馬鹿な事を言うな。誰が貴様を乗せるものか。……エギュニート。奴はなんだ?]
使えるではないか。…奴、か…。
[奴のあの技は、命の力そのものだ。それをあれだけ外に出して、何故生きている!]
「それを喰らったのは貴様だけでは無い。私も心臓に打たれた」
そう、自分の中に他のなにかが入り込み、心臓を食い破るあの感覚…。忘れはしない。
[馬鹿な…。私にあれだけ出しておいて、まだ出せるだと?化け物か…]
竜の中でも貴様に言われたら終わりだな。
[…まあ、いい。それで、どうするのだ?大分力も食われたようだが…。出来るのか?それに、問題は山済みであるぞ]
出来る。とは、神の召喚の事だろう。
それについては、出来る出来ないでは無い。やるのだ。
我が神の体は神域に、精神は……恐らくこの世界に。
本来の召喚は逆なのだ、神域に居られる精神を御神体に呼び込む。
だが、その御神体は神域に有る。
精神の方は、我等が神だ、滅ぶ事は無い。
今の時代の『神々』も神域にいるようだが、本当にそれは『神』か?
…私の魔法では調べられない。
天神の権能の及ぶ処であるのは確かだろうな。
いや、今はそれよりも、我が神の事だ。
「…体は本来の物ではなく、憑代を見つけ使おうと思う。そして、奴もその候補だが、…ただ、気になる事がある」
[ふむ、神降ろしか。確かに奴ならばこれ以上ない程の能力を持っているが。気になる事とはなんだ?]
魂の特性、ただ戦いの中で『剣豪』練度が上がっているだけかと思っていたが…。
アレは、異常だ。
人を憑代にするということは、魂が二つ混在する事になる…。
大体は強い方に飲み込まれ、力とされる。
神よりも強い魂は存在しないだろうが…、何故か気にかかる。
「奴の魂の特性を『剣豪』と決めつけ、『魂の鑑定』をしなかった」
[それだけの事か?]
それだけの事…、今回もたかが剣士とあなどり、バルドカールの威圧には耐えられん。
と高をくくった油断が死を招いた。
奴は、全てを覆す。
警戒をしすぎるという事は無いだろう…、奴に対してだけは。
「出来れば奴は最終手段としたい。まずは『力』を戻してからだ、そして奴以外の憑代となる体を探す。それともう一つ、力を戻すのと並行して、こちらにある筈の天神の体を探す。我が神が復活しても、人の体では、天神が出てきたら……終わる。だからこそ、天神の体は壊しておきたい」
[…いいだろう。力を戻すためには、やはりあそこか]
ああ、そうだ。
天神の体を使う事も一瞬考えたが、我が神との相性が悪すぎる。
壊してしまうのが妥当だろう。
「ああ。『魔脈』へ向かう。そこで魔力を補充し…。神気を流す」
[モンスター共の底上げか。今の無魂種ではどうしようも無くなるだろうな]
それが狙いだ。
「そうだ。そしてたとえ、無魂種と混じっていようとも魂を持つ英雄が、頭角を現すだろう」
魂を持つ者は、魂の入れ物が存在する。
無魂種や魔導兵には無いのもだ…。
稀に無機物に魂が宿る事があるが…。
…7000年の時を経ている、今。
無魂種や魔導兵にも『魂の鑑定』をしておいた方がよかったかも知れないな。
今の神は無知なのか、天神に教えられていないのか。
人を憑代にする方法を知らないとみえる。
魂の入れ物は、神の憑代とするには絶対に必要な条件。
それが、探さずとも出て来てくれるのだ。
…奴のようにな。
[ならば、魔王も強化しておいた方がいいだろうな。時間稼ぎにはなる。だが、今のままでは奴か天神の使徒が出たら一瞬で終わるぞ]
魔王か…。
[懐かしいか?『魔法王』よ。天神もよほど貴様が厄介だったのだろうな。居なくなった世界でも、魔導兵の王に『魔王』と付けるくらいだ。我らが神も、その名を付けたからこそ介入したのだろうな…]
…魔王に介入できる力が残っていながら、なぜ私には命を下さらないのですか?
いや、きっと深いお考えがあるのだろう…。
「…そろそろ、魔導兵共がこの城を落としに来るか」
このままならば容易に制圧できよう。
[力が戻るまでだ、乗せてやる……いいか?貴様の為じゃない我らが神の為だ!]
ああ、分かっている、友よ。
「…先に魔王に神気を与えに行く。付き合え、バルドカール」
[ふん、反逆の魔王には、あまり期待できんがな…]
私とバルドカールはその場から飛び立ち、魔国を目指したのだった。
Sideout
アリーナンside
暗将のお爺ちゃんから情報が届いた。
きっと、ファグスはイチナの怒りに触れたのね…。
崩壊しなくてよかったわ。
まあ、これは、置いときましょう。
イチナなら一切問題ないでしょうし。
それよりも私の目的、いえ、以前から思っていた事を実行しましょう。
「ちょっと、そこの」
「ハッ!なんでしょうか盟主様」
近くの兵士に声を掛け、近場の祭壇は何処か聞く。
「は?祭壇ですか?いや、しかし。流石に盟主様を外に出す訳には…」
「あらどうして?「貴様、自分が拉致されてきている事を忘れているのか?」…アルスじゃない、研究は終わったの?…なんで、目頭を揉んでるのよ!」
言いたいことがあるならハッキリ言いなさい!
「馬鹿だ、馬鹿だと思っていたが。その馬鹿に自分の軍を掌握される気持ちが分かるか?周りがどんどん腑抜けになっていく様を見ている俺様の気持ちが…」
……なん、ですって?。
「腑抜け、ですって?白たんを思う気持ちを腑抜けと?「おい待て、スイッチを入れるな!」
スイッチ?そんな物最初から入りっぱなしよ!!今日こそアンタをこっちに引き込んであげるわ!!」
私はいつもより一層、力を入れて『講義』を開始する。
なにか忘れてる気がするけど、今はアルスよ!
2時間後…。
「……もう、いい。「その時黄助が…」もういいと言いているだろう!?ワクバラン!手を挙げるな!何を質問する気だお前は!」
「む、いや。次はどんな衣装が良いだろうかと…」
流石、職人ワクさんね。彼の作る衣装は、妥協が一切無い素晴らしいものよ。
「私としては、あの毛並をそのままに彼等に攻撃が当らないものが良いと思います。魔法障壁がベストですが、常に張り続けるというのは将以外では難しいかと…」
あえて着せないという選択肢…。流石智将バルマストね。
「おい、ポンコツ。喋るな。そんなのは気合でなんとかするんだよ。…なに、アイツ等の気合いなら大丈夫だ」
彼は新しく合流した双将ジャマカダ。
リーゼントで決めたお爺ちゃんよ。
白いロングコートを羽織り、背中に『喧嘩上等』の文字とコートの内側に、亡くなった自分の奥さんの若かりし姿を刺繍してある気合の入った将よ。
お孫さんが魔軍の将に居るらしいわ。
自分の武器を譲るほど溺愛しているらしいのよね。
乱暴だけど魔法球白たんには優しい処がgoodね!
魔法球白たんへのツンデレは将の中で一番よ!
その姿を見た時は、アルスも嬉し涙を流していたわ!
「そうね、次の議題はそれにしましょう!」
「おい。まだ続けるのか…?」
なに言ってるのアルス、当然よ!
4時間後。
「では、今日はこの位でかまわんかの」
途中からきて、諦めの表情で進行役を務めていたチャンター老が、締めの言葉を口にする。
流石、アルスの補佐役。頼りになるわ!
「ええ。まさか、兵士から頭巾という発想が飛び出すとは思いませんでしたよ」
バルマストに誉められ、照れる魔族兵。
この場に階級なんて存在しないのよ!
「なあ…。我が将達、兵士達よ。一つ聞きたいんだが…」
私は入って無いのね?何かしら?
皆、アルスの方を向き、言葉を待っている。
「…お前等、何のために俺様の元に集まったか忘れてはいないだろうな?」
何の為に……はっ!そうだったわ!
「そうよ!忘れる訳ないでしょう!」
「…?待て、何故お前が返事をする。…いや、いい。喋るな、口を開くな。そのまま黙れ」
だが、断る。よ!
「ここに、『白亜教』の設立を宣言するわ!!宗教に必要なのは崇める神様……アンタよ!白たんの魔法球を作れるなら大丈夫!やれるわ!」
本当は、祭壇で『有志』を募るつもりだったんだけど、こんな近くに居たじゃない!
その宣言を聞いて、拍手と歓声が巻き起こる。
フフン、当然ね。これは歴史的瞬間よ!
「………なんだこれは。おいチャンター。お前は覚えているよな?俺様、先祖の夢である、世界支配をやろうとしてたはずだな?答えろチャンター。なんだコレは?」
静かに、チャンター老に問いかけるアルス。
「坊ちゃん…。遅すぎたのです、行動を起こすのも。娘を殺すのも。すでに邪神の教義すら塗り替えられておる者も出ております。何度か殺そうと思いましたが、坊ちゃんが楽しそうでしたのでな……申し訳ありませぬ」
物騒な話声が聞こえ来たわね…。
「すればいいじゃない、世界支配」
「…なんだと?」
「そう、宗教で…。白亜教で、教会に成り替わり、白たんを愛でるのよ!!」
白たんを広め、白たんを愛で、白たんを見守る。
もちろんテンに黄助やサウスだって忘れてないわ!
私はあの仔達で世界平和を目指す!
魔族でも白たんの魅力を分かったんだから、他種族なんて問題じゃないわ!!
「フ、フハハ…。宗教で、か。…面白いな。教会は前々から気にいらなかったのだ。根こそぎ潰して、成り替わってやろうじゃないか」
(世界支配も、神の力を手に入れたから、やってみるか程度だ。ならば、面白い方を取るだけだ。……決してアリーナンを殺したくないからでは無いぞ!)
何考えてるのかしら?
まあ、いいわ。これで『白亜教』本格始動よ!
「フホホホホホホッ!」
「フハハハハハハッ!」
「…似た者同士ですな。……ほれ、皆の者。解散じゃ解散」
チャンター老の呟きは私の耳には届かなかった。
…あれ?アルスってイチナに狙われてるんじゃなかったかしら?
……別に崇める神様は一人じゃなくてもいいのよね。
明日でもバルマストを連れて祭壇に行ってこようかしら?
うん、やっぱり明日祭壇に行きましょう!
いっその事10人くらい白亜教の神様になって貰おうかしらね。
そう、白たん達の元に神様も集うのよ!
「ホーホッホッホ!!」
「アーッハッハッハ!!」
Sideout
なんちゃって教皇補佐side
シーバンガの教会にはかなりの情報が集まる。
何故か、だって僕が居るからね!
なんで賞金首が教皇の補佐かって?
簡単さ、僕はバルク・ガンズィーナだけど『空声』じゃない。
教会の元で『改心』した人間は、冒険者なら『二つ名』を取られる。
新しくやり直すという意味でね?
本来僕みたいな賞金首は教会に出入りすらできないんだけど…。
僕には教皇がついていたのだ!
この改心さえやってしまえば、教会のお膝元に居る限り、誰も手出しは出来ない。
教皇様のお墨付きだ、賞金だって取り下げられた。
という訳で僕は今、ちょっと悪だくみが好きな補佐役をやってるのさ。
恩を感じるかって?勿論、感じないさ!
だって、そう仕向けたの僕だもの!
「……これ本当?」
「ハッ!間違いありません!『バルク様』!前々から教会討伐者に潜入させていた者が、知らせてきました」
カートス・マリゲーラに手を出して勝手に死んでいった奴はどうでもいいけど、潜入してた子はお手柄だね。
ただ…。
「…この情報をどう使えと?」
これはヤバい。
神様召喚の鍵は『短角種』。
この短角種がどんな種族か分からないからヤバい。
教会においては、全大陸で角を持つ全ての亜人を狩りだすだろうって位の情報だ。
あとカートスと勇者パーティーの乱心。
現在カートス・マリゲーラを神敵、もしくは賞金首に認定するか協議中、と。
ふーん、ギルドの方はまだ武神の転移方陣を塞いでないんだ?
ああ、転移は一方通行で、帰りは魔具を使ってたんだっけ?
一応転移用の目印はギルドの中にあるらしいけど、それが発見できないのか。
それとも、泳がせているのか…。
でも、ここに報告が上がるような事をしでかして態々ギルドに転移するなんてこと無いだろうけどね。
ファルナーク・サリスも同様か。
この国の貴族に先に知られたら、この情報で何かしようとするかもしれないね。
美人だし、ファルナークは。
イチナくんがそばにいたら、死んで帰って来るのがオチだけど。
もう一つはシーバンガの勇者が神敵に拉致された。
…もうね、馬鹿なんじゃないかな?
そして、最後の一つ。
こっちはただの、通達書。
「イチナくん、マジ何やってんの?」
どこかの使徒と戦い王都を破壊した『神敵』…。
……あれ?これ情報速くない?なんで通達書?
「…僕より先に報告上げたんだね?それに、このカートスの情報もだね?言ってごらん?」
「いえ、私は、カーツにこの資料を届けてくるように言われただけですので…」
…だよねー。
カーツ…、カーツ・カネラだったかな?
この報告に来た男は、確かカーツの友達だったと思うんだけど。
さくっと売ったねコイツ、いざとなったらペラペラ喋るタイプだ。
今分かってよかったよ。
しかし、金か、女か、地位か…。
こんなヤバい情報を、やってくれたね…。
教会か貴族か、何処に報告を上げたのか分からない。
割と利用できるやつだったのになー。残念だよ。
あとで処理しとこ。
しかし、凄いよイチナくん。
こんな称号貰った人族なんて、僕知らないよ?
あ、イチナくんは異世界人だったね。
その称号は『世界の敵』
賞金が討伐報奨になり、50倍に跳ね上がっている。
ランクSの討伐モンスター並みの金額になってるよ。
丸金貨500枚…。
ソロやパーティーを組んで倒すレベルのランクSじゃない。
レイド組んで倒すレベルの金額。それでも多いくらいだよ、これ…。
払えるのかな、この額。
なにより、魔王以外で『世界の敵』になった個人はいまだかつていない。
……ある意味、魔王が二人いる事になるね。
ここまで来たら、尊敬すら覚えるよ。
こういう書類は教皇の処に行く前に、僕の処にくるはずだけど…。
というか、自室に籠ってうちの娼婦と遊び呆けてるあの教皇から許可を取らなきゃいけないんだけど。
どうやって許可をとったのか…。
まあ、女を使ったんだろうけどさ?そんな上等な女を保有してる所なんてあたったかな?
自慢じゃないけどうちのは凄いよ?性癖、趣味趣向、外見まで選りすぐった子ばかりだからね。
最初に全員抱かせたのはその為でもある。
何処に報告が上がったかによるけど、点数稼ぎが好きな貴族が多いからね、この国。
おかげで女王陛下の弱みはまだだけど、貴族連中の7割は脅せる。
その7割は僕から報告を先取りしようなんて思わないから、残りの3割だろうね。
この3割がひどい。
この僕なんかより、よっぽど悪だくみが好きな人だったり、隠れ外道だったり。
その上に立つ女王殿下はホント、ガードが堅い。
まあ、いざという時は、力技も起こせるくらいには掌握してるけど。
あんまり趣味じゃないし、まだ時期じゃない。
女王陛下は善政を敷いてるしね、そこを壊さないとただの馬鹿だ。
「下がっていいよ」
「あ、あの。実はカーツの弟が人質に取られて…」
ふーん、可哀想だね?残される弟さんがさ。
それとも、すぐに後を追わされるのかな?まあ、どっちでもいいけどね。
人質を取られるような部下はいらないし。
人質に取られるような弟もいらない。
そして、君もイラナイ。
だから、そんな友達が心配です。みたいな演技は要らないよ。
「下がっていいよ?」
「あ、う…。はい…」
弟を見捨てれば助かったのに、バカだねー。
報告に来た男が部屋を出て行ってから、僕は暗闇に声を掛ける。
「いるー?」
「へいほー。なんですかバルク様。私はアミィを監視してハアハアするので忙しいのですけど?」
それ、お前の趣味だよね?
うちの娼婦や女たちは須らく、アミィ関係で趣味を持っている。
コイツのは酷いけどね。
気づいたらトイレや風呂まで覗いてるからねコイツ。
「名前はカーツ・カネラ。それと今出て行った男ね。処理しといて、ミアガット」
ミアガット。
腰まである赤髪とドブのように濁った濃い灰色の瞳。
娼婦と言うには鍛えすぎた体。
抱くには硬い筋肉の鎧をまとった、…美人だ、悔しい事に。
僕の切り札の1つ。
そして、ファルナークと同じ角を持つ女…。
…あれ?コイツの事じゃないよね?短角種って?
もしそうなら、結構な爆弾に成るんじゃないかな?
…どうしよう、本当にそんな気がしてきた。
小さいときに偶然拾って、顔も良いから調教して上級娼婦かな?と思っていたころも有りました。
でも、コイツ、狂ってるんだよね。
殺した相手じゃないと感じない、変態中の変態。
「か弱い女にそんな命令するなんて……この外道♡」
いや、君、血を見るの大好きだろ?
「喜んでないで、さっさと行きなよ。ここじゃ、あんまり殺すチャンスも無いんだから」
「そうね、久しぶりに楽しんでくるわ!」
ヒャッホーイ!と声を残してその場から掻き消えた。
「能力は高いんだけどね…。扱い辛くてしょうがないよ」
次の日、シーバンガのスラムで下半身剥き出しの状態の死体2つが発見される事になる。
あの性癖だけは理解できないよ…。
それと、態々、街中でやらないで欲しいなー…。
動きにくくなるじゃないか。
さて、問題はすでに報告された『短角種』…。
誰に報告されたのか、どこが動くかで分かるだろうね…。
それとも、動くのは召喚方法を確立してからかな?
…どちらにせよ、人同士の戦争の匂いがするね。
それに乗じて城を乗っ取るのも悪くないかな?
問題山積みだけどね…。
Sideout
サブタイトルが思いつかなかったんだ!
byミスター