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猫守紀行  作者: ミスター
95/141

『ホーム』 勇者の偵察

一南side


あれから5日。

警戒しながら(主に男衆が)カートスのホームに向かっている。


ファグスを出る前に、アニマルズの異変に気付く。

あの巨竜の脳味噌は3匹に劇的な変化をもたらした。


サウス、体毛が銀色に変化、尻尾が2本になっていた。

カートスとルナが見たこと無いと言う程度には、珍しいものに段階を飛ばして進化したらしい。

モフ度がアップしたから種類とかあんまり気にしない。

取り敢えず撫でくり回した。


黄助、なんか一回り大きくなった。体長1メートルくらいの子供と青年の間に。

今まで普通サイズが子虎だった為、感慨深いものがある。


クロハ、絞られていた筋肉が厚くなり、片刃の角もより日本刀に近づいた。

取り敢えず、馬の中では一番良い漢であると言っておこう。

纏う気配は戦国武将といった処だ、実に頼もしい。



そして、これまであった事を適当な感じでお送りしよう。


王真くん、天鎚を覚えるために、氣の圧縮の修行と並行して修行を始める。

一度に氣を大量に叩き込まれ死にかける。

しかし、治癒の使徒のばあさんの介入により、治されながら氣に蝕まれる恐怖を味わう。


ばあさん、不眠不休で治癒を続ける。

王真くん3日掛かって氣の圧縮と天鎚を習得。

そのまま、静かに泣き出す。


ばあさん爆睡。


マキサック、王真くんに強制弟子入り。


王真くんがチビ勇者に避けられる。

俺、チビ勇者に避けられる。


チビ勇者、テンと共にマキサックの元で走る。


腐敗勇者、王真×チビ勇者の薄い本が完成。王真くんに見せる。

王真くんの目から光彩が消え、復活に1日を要す。


チビ勇者、ルナに弟子入り。初日で倒れる。

チビ勇者、チビーズになめられ下に見られる、チビーズ入りを逃した。


…こんな処か。

意外と楽しい道中だったな、うん。


しかし、なんか嫌な予感がする……おもにアリーナン関係で。

まあ、気にしてても仕方ねぇ。




「着いたよ、ここがホームの入り口だよ。ちょっとまってね、今結界と施錠魔法を解くから…」


「…ここがか?」

そこは、森の中にポツンとある真新しい墓石。

カートスが作業を終え、墓石に触れると、墓石の横に下へと向かうなだらかな下り坂の通路が現れた。

結構デカい、これなら馬車ごと通れそうだ。


「これは…」

《古い遺跡のようだな。墓石は目印と始動キーとして新しく作った物だろう》


「レイドのホームとなると小さい村1つ分でも足りないからね。偶然見つけた遺跡を改造したんだ。…あの頃は仲間にドワーフもいたから。…グスッ…」

思い出して泣いてんじゃねぇよ…。

そんなカートスに呆れながらも、俺達はホームの中へと進むのだった。





「えー…」

中にはいるとそこは、レースとフリルの世界だった。

作り掛けの編み物も散乱している…。

この空間で団員達はよく頑張ったと思う。賞賛を送りたい。


使っていなかったため、埃が溜まっているが旅馬車ごと入って来れるほどの空間があり。

そこから、通路が幾つも伸びていた。

部屋は通路の奥に幾つも有るらしい。

ここは食堂か何かに使ってたのかねぇ、かなりの数の机や椅子が置いてある。


「部屋は……どうしよう、皆戻って来ると思う?もし戻ってきて、使われていたら悲しいかな?」

「俺に聞くな」

その質問に答えて良いのか?泣くぞ、お前。


「…カートスよ、もうちょっと割り切った方がよいのではないかの?お主の性格じゃから、忘れろとはいわんがな、好きに使えくらい言えんのか?」

俺もそう思う。


「…我はイチナと、…あ、相部屋でも構わんぞ?」

おい、あの固い貞操観念はどうした!?

襲うぞ、間違いなく!


「あ、ぼ、僕もです!」

ソルファまでか!?


《一緒に寝るくらい別にいいのではなのいか?》

それじゃ確実にすまねぇから焦ってんだよ!

神様に性教育は無いのか!?


「ハイハーイ!私も!私も俺様王子と!!」

おい、腐敗!顔真赤にして言ってんじゃねぇ!

……?

というかなんで、お前も手を上げてんだよ?



「いやー、チナさん。も…」


「なんだ、マキサック。今下らねぇ事ぬかしたら天鎚かますが……それでもいいなら言え」

氣の威力を知ったからか、王真くんとの比較のために一発軽いのを叩き込んだせいか。

そのまま押し黙るマキサックだった。

パー子ですら、開きかけた口を閉じ、サウスの背中に顔を埋めた。


後にマキサックは語る「アレは本気の眼だったっす」と。

すまん、適当にいった、下らんことを考えてないと、溜まってるから思考がピンクに染まりそうなんだよ。


「…えーと。一番離れた部屋がいいかな?」


「おい、カートス。へんに気を回すな。頭がそっちにいっちまうだろうが。大体結婚してからじゃなかったのか?」

俺は一向に構わんが…。じゃねぇ、ガトゥーネが居るから無理だったな。

……性教育の一環って事で、教える事も大切だな、きっと。


「うむ、ソルファと共に禁呪に掛かり、手間を駆けさせた詫びをどうすればいいか考えたんじゃ。それで、の」

二人で抱かれる事を選択した。と…。

詫びの選択肢が二人同時とか、色んな意味でぶっ飛んでんな。


「アホウか。アホウだな。アホウなんだな?誰が詫びに体を要求したよ?そんなもん、お前等が治りゃそれでいいんだよ」

気にしすぎだ、アホウめ。


「じゃが…」

「ですが…」

詫びで抱くなんざ…。

…据え膳ってのは食わなきゃいけないんだよなぁ。

※そんな決まりは有りません。


っと、いかんいかん、頭の中がまだそっちに走ってる。


「…あの、鬼いさん。そういうのは、皆が居ない処で……」

「王真、駄目ですよ。空気を読みなさい。今はじっくりと観察すべき時間です」

……よし、冷めた。


圧縮と天鎚の修行もばあさんの介入で何とかモノになったし。

※彼女が居なければ、一南が込めすぎた氣によって爆散していた。


後は圧縮と天鎚の練度を上げるだけ…。

そうだな、氣を使った無手での打ち合いでもしてみるか。

爺さんとよくやったしな。


「え、何この寒気…?」

気にするな、問題ない。


「ぴぴー!!」

「み~!」

「……?」

「痛い痛い!つつかないで!?えーと…。アイリンちゃん、なんて言ってるの?」

「えと、イチナさんは、僕達と寝るから駄目だって言ってます」

チビーズに頭の上に陣取られ、テンに苛められているチビ勇者がアイリンに質問した。


このチビ勇者、チビーズに下に見られている。

……あれ?コイツ、もしかしなくても連れてこなくてよかったんじゃねぇの?


「残念でしたね~…。イチナさん~?」

「喧しいぞ、ハチカファ」

まあ、最近白達とものんびり出来てなかったし、丁度いいんだが…。


惜しい事をした…。

他の女じゃ、どれだけ溜まってようが、ここまで惜しいとは思わん。

まあ、口には出さんが。


俺とルナ、ソルファの間になんとも言えない空気が流れる。



「フゥ…。ま、仕方ないの。白には勝てん」

「ホッ…。そうですね。別の形で考えましょう」

「わ、私はバッチコーイ!だよ!」

黙っとけ腐敗、せっかくこの話題が終わりそうなんだから…。

というか、なんか安心してねぇかお前等。

それはそれで傷つくんだが?


「うむむむ…。流された、扱いが違う。やっぱり『言われた通り』嫁宣言をするのが先か…」

声が小さすぎてよく聞こえない、なんて言ったんだ?


「よし!「イチナくん、先にご飯にしようか?食材は魔法倉庫で保管して有るからいつでも作れるよ?」…えー」


「え?あっ、ごめん。なにか言う処だったのかな?邪魔してごめんよ」

本気で謝り落ち込むカートス。

いちいちへこむなと言いたい。

さて、腐敗勇者はなにを言おうとしたのか。


「じゃ、じゃあ、改めて…。私も[ズドオォン!!]なる!!」

腐敗勇者が話している最中に轟音。


「なにがあった!?」

「…すぐ真上からだ。ここを知っているのはレイドメンバーだけだけど、それなら入口から入ってくるはず…」

その後もゴン、ガンと音は続きながら離れていく。

…偶然か?


取り敢えず先に腐敗勇者の話しを聞いておくか。


「もう無理、心が折れたよぅ…。ソルファちゃん、ファルっち、次のチャンスまで時間をちょうだ~い…」

「はい。よく頑張りましたよ。えらいですよ、アンナさん」

え?話しは?あ、今日は無しですか、そうですか。

腐敗勇者は、ソルファの腰に抱き着き頭を撫でられている。


「…誰かが上でモンスターと戦っておるのかもしれんの。あの音からすると大規模な討伐やもしれんが、離れていくようじゃし放って置いても問題ないじゃろ。しかし……タイミングが悪いのう」

何のタイミングだよ?


どうも、ルナも、ソルファも、腐敗勇者の話しの内容を知っている感があるな。

どういう事だ?……いや、自意識過剰か、俺コイツに優しくした事ねぇし。


「……あー、まあ、放置で良いだろ。こっちも疲れてるしゆっくり寝てぇ」


「そんな!もしかしたら戦いで命を落とすかもしれない人が、いるかも知れないのに見捨てるのか!鬼いさん!!」

えー、なんで熱血入ってんの王真くん。


「あのなぁ、王真くん。俺は正義の味方じゃねぇんだよ。むしろ最近、逆なんじゃねぇかと思えるのが、ちと悲しい処だ…。それにな、先の戦いで消耗して、更にここに来るまで追手を警戒しっぱなしだったんだから。…飯食って寝てぇんだよ」


王真くんは死にかけてたから、更に消耗してるはずなんだけどねぇ?

※王真の死にかけは確実に一南のせいである。


「そ、そうです。その人の意見に乗るのは嫌ですけど。見捨てるの、良くない!…と思います」

そうか、その意見はアイリンに隠れず言おうな?


「わかった…」

「鬼いさん!」

「鬼さん!」

「おい、今なんつった、チビ助」

あふぅん!?と何処から出したか分からない声をあげ、更にアイリンの背に隠れるチビ勇者。


「…まあ、いい。お前等で偵察行ってこい。ばあさんは連れて行ってもいいぞ」

勇者が二人に使徒が一人、実に豪華だ。

王真くんが居るなら問題ねぇだろ、『多少』消耗してようが神薙一族だ。


「「……え?」」

なんだその意外そうな声は。


「カートス、飯頼むな?お前の美味いからよ。…あ、飯時には帰って来いよ?」


「うん!分かった、任せてよ!オウマくん、コウキくん、使徒様ご飯作って待ってるから!行ってらっしゃい」

カートスは鎧の上から何処からか取り出したピンクのレースエプロンを付け、やる気に満ちている。


パー子は銀色のサウスに乗って、ご機嫌でこのホームの探索に。

マキサックは、部屋の隅で腕立て伏せを始めている。

黄助はクロハの近くで丸くなり、クロハも体を休めている。


ルナとソルファは落ち込んだ腐敗勇者と一緒に席についてなにか話している。

気にならないと言えば嘘になるが、俺がいっても良い事は無さそうだ。


ハチカファはカートスの手伝いに。

そして、アイリンは、そんなハチカファが調子に乗らないように監視に行った。




残ったのは、チビ勇者の頭から飛び降り、俺の足元に纏わりつくチビーズと。

王真くん、ばあさん、チビ勇者の三人。


「鬼いさんがそんな人だなんて…。そんな人だったね…」

おい、冷血漢みたいに言うんじゃねぇよ。


「え?僕この人と行くんですか!?」

いや、行きたいんだろ?


「甘坂さん、あなたも酷な事をしますね…」


「ま、軽く偵察でいいさ。俺自身、追われる身だからな。態々、大規模討伐かも知れないって処に出て行きたくはないからねぇ」

本当に大規模討伐だったら、不測の事態も想定してきっちり準備してるはずだからな。

他の奴等もそれが分かってるから動かないんだろうねぇ。


まあ、巻き込まれる、首を突っ込むとかは別にして、今は休憩タイムだ。

それに、助けた相手に剣を向けられるってのは、気分がよくねぇ。

王真くんはともかく、チビ勇者は一度経験しておいても良いかもとは思っている。


どれだけの人数が居るかも分からないし、そもそも本当にモンスターを追っているのかも不明。

可能性としては低いが、おびき出すために態とやってるって事もあり得る。


「偵察、ですか。甘坂さんは罠かも知れないと?」


「ま、可能性は無いとは言い切れねぇだろうよ。なにせ、俺達が入ってから、真上で轟音だからな。手綱は任せるよ、ばあさん」

誰が罠を、と言われると。

教会、ファグス、魔族と結構いたりする。


「本当なら、あの時の戦いで、一緒にいたお前等には外に出て欲しくないんだがねぇ…。ちゃんと帰って来いよ?」

何かしらの面倒事に巻き込まれる可能性が大だからねぇ…。

もちろん、チビ勇者が王真くんを敵視してるのは、知ってるぞ?


「鬼いさん…。行けって言った人の言葉じゃないよ」

「うん、知ってる」

ついでだから気分転換に行って来い。とは言わない。

一緒に出した処で、気分転換にならないだろうしねぇ。


Sideout





光樹side


「……」

「……」

「ふぅ…。あなた達、もう外に出てきてしまったのだから、動きましょう?」

鬼さんに、反発したら偵察に逝けと言われてしまった。

字はこれであってると思うんだ、多分。

しかもこの人と逝けって…。


ザッカイス師匠の仇。

師匠から話しに聞いた『最強の勇者』

…高平王真。…さん。


「聞いてますか?……お仕置(ソフトな拷問)か、動くか選びなさいと言ってるんです」


「「イエス・マム!!」」

えふぅっ!?怖い、使徒様怖い!?

偵察しなくちゃ!(恐怖感)

僕達は轟音が聞こえた、ホームの真上を目じゃした!

…か、噛んでないよ?心の中で噛む訳ないでしょ!?





そこにあったのは大きなクレーター…。

このクレーターを作った時にあの轟音がしたんだと思う。

それと雨も降ってないのに水たまりが出来ていた。


「…構えて、あそこに人影がある」

なんで仇のいう事を聞かなきゃ…。


「構えさない」

「イエス・マム!」


僕は聖剣『グラクニス』を背中から外す。

鞘はつけたままだ。

だって、怖いから…、人を斬るのは。


僕が構えを取ると二人とも懐かしそうな顔で僕を見た。

使徒様は何かを思い出すような表情で。

師匠の仇は……泣きそうな表情だった。


そんな顔するくらいなら殺さなければよかったのに!

グラクニスを握る手に力が入る。

僕にも、鬼さんみたいに、斬り飛ばすだけの力があれば…!

……あ、でも。あそこまで突き抜けたのは要らないかなー…。


「…怪我人のようですね。あ、王真!待ちなさい!」

使徒様が怪我人と言った瞬間、高平王真は走り出していた。


「どうした!何があった!」


「あ、あんたは?あんたも『あの竜』を狙って来たのか?なら仲間を助けてくれ!まだ奴を追ってるはずだ!ヒーラーの俺が抜けたんじゃ危ない!」

あの竜…?まさかあの時の4本角の事?死んでたよね?確認するまでも無く死んでたよね!?


「アイツは死んだはずだ…!」

高平王真もその考えに至ったのか少し焦った顔でそう呟いた。


「はっ?死んだ?ぐっ、いててっ…」

「ディニア!彼を頼む!僕は、彼の仲間を助けに行く!…光樹君は、鬼いさんにこの事を知らせてくれ」

戦力外通知。確かに、それが一番正しいのかも知れない…。


「王真、連れて行きなさい。「だが!」…ふぅ、冷静になりなさい。本当にアレが生きていて、このバカな冒険者と戦っていたとして、アバラと足の骨だけで済む訳がないでしょう。それに周りへの被害も無さすぎるわ。それにその水たまり、魔力を感じるからその竜の仕業でしょうね、水竜の類かしら。あなたも冷静になればこの程度分かるでしょう?」

……使徒様、凄い。


「あ、あの。助けにいって貰えるんですかね?あと治療は…」

「ヒーラーなら、自分で治しなさい。骨の矯正はしてあげます。魔力切れ?時間がたてば回復するでしょう?王真、光樹。さっさと行きなさいな。私はここで彼がモンスターに襲われないように見ていますからね」

だ、大丈夫ですよね?最終的には治してあげるんですよね?


「ちょっ!骨の矯正って…!」

「正しい位置に戻すだけですよ…。そのままくっつくと大変ですからね?」

ほほほほ。と笑う使徒様に冷や汗が吹き出る。


「……い、行こう。光樹君。は、早く行かないと間に合わなくなる」

「そ、そうですね。行きましょう」

この人と意見が合うのは嫌ですが、行きましょう!すぐに!


「ちょ、ちょっと待って!?俺も!怪我してても良いから仲間の処に!!?」

…ごめんなさい。

きっと良くなるから!その人、治癒の使徒様だったと思うから!!


僕達は、叫び声を聞きながらそれを振り払うように、冒険者さんの仲間の処に急いだ。


Sideout





王真side


「…丸々太ってて美味しそうですね」

冒険者の救援に来て、その冒険者が戦っているモンスターを見ての光樹君の一言だ。


アレは空魚竜の『サマール』ドラゴンはつかない。

普段は海に生息していて、この時期になると稀に陸に上がってくる。


見た目?見た目は…、20メートルの巨大なサンマだ。

変わった処は、目の上に小さな角が生えているのと。

15cm程の蝙蝠の羽で飛んでいるって事だけだ。

空魚竜の名の通り、竜に分類されている。何故か。


攻撃手段は、跳ねる、突撃、目から水撃。

自分を潤すための水だが、水弾としても放ってくる。

あのクレーターは、あそこで跳ねたんだろうねきっと。

断続的に続いた音は、跳ねながら離れて行ったんだろう。




「コイツは見た目はこんなのだけどね、苦くてエグイんだ…。身の食感は焼き鳥のモツに近いよ」


「ええー…。この見た目で…?」


昔、嬉々として倒して、食べたが酷かった…。

コイツの味は、全ての調味料を殺し。

ゴーヤによく似た、ちょっと青臭い苦みと、よく分からないエグミが広がる。


ソレをモツの食感で噛み続けるという拷問だった。

ディニアが、喜んで食べさせた理由がよく分かる一品だった。アレは。


僕が元の世界でもサンマとゴーヤが食べられない理由がコイツにある。



「おいぃ!?見物に来ただけなら帰れ!援護に来たなら動いてくれ!!」

思った以上にピンチだったみたいだ。


「光樹君…、いけるね?」

「人助けです!あなたとでも行きますよ!!」

…嫌われてるね、仕方ないけどさ。

僕としても、その方がいいよ。


互いにやる事、できる事は分かっている。

光樹君は冒険者達と一緒に足止めを。


僕がその間に、仕留める。

ただそれだけ。


「逃げろ!尻尾が来るぞ!おいチビ!何してる逃げろって!!」

「チビって…。言わないで…くださーい!」

むっはぁ!と不思議な気合の入れ方で。

振るわれる尻尾…。いや、尾びれに聖剣を叩きつける光樹君。


ガゴォン!と打ち負けることなく、弾き返した。

へぇ、凄いじゃないか。

人相手じゃなければ、結構出来るのかも知れないね。


「チビじゃなく、えーと…。思いつかない…!?」

……この子がよく分からない。

いや、そんな事よりも、せっかく足止めしてくれたんだ。


行こう!


僕は空を駆ける。

神気ではなく、魔力を足場にして。

イメージ魔法は慣れたものだ、足場を作るのも意識せずに出来る。


そのまま、空魚竜の真上まで駆け上がり、サマールの頭の上に立つ。


「はぁっ!!」

そのまま、シャムシールを抜刀。

…弾かれた。


流石に、竜に分類されるだけあり、硬い。

前にコイツを倒した時は、『聖剣バルドニク』を使っていた。

その時は、何の抵抗も無く刃が入っていったから、こんな苦労はしなかったよ。


神気を使う?……いや、天鎚を使ってみよう。

僕も鬼いさんの理不尽さには多少なりとも憧れがある。


鬼いさん曰く、溜めに多少時間が掛かるらしいから、水撃が飛んでくるここじゃだめだ。

死角を探して、溜めに入ろう。


下で何か叫んでいる。

……『速く、やっちゃてください!?』…もう少し我慢してください。


初めて、自分の氣で放つ『天鎚』

修行のために鬼いさんの氣を送り込んでもらって放つものとはまるで違う。


循環、圧縮を繰り返し、一つの氣の塊を右手に溜めこんでいく…。

嘘だろ…?たったこれだけで、こんなに消耗するのか!?

こんな物、一発撃ったら倒れてしまう。


それなのに、鬼いさんはこれよりも何十倍も大きな氣を圧縮して叩き込んだ後、さらに練り上げ放っていた…。

僕がソレをしたらどうなるか、想像もできない。


僕だって『神薙』だ、氣を拳に乗せる事くらいは出来る。

だけど、練り上げ、操るすべは教わらない。


氣はそれだけで必殺になるから。

奥義まで覚えているのは『甘坂』くらいだと父から聞いた事がある。

使ってみてその理由がよく分かる。


これは、常人(甘坂以外)には命を削る危険な技だ。


「…っ!天…鎚!!」

サマールの死角から移動し、頭の真上へ。

そこで、拳を振り下ろした。


拳が当り、氣を開放。

結果を見ないまま、『魔力』を使い、頭の上から離脱した。


びたーん、びたーんと空魚竜の最後の足掻きらしき音が聞こえる。

そういえば、頭を潰しただけじゃ、しばらくは生きているんだったアレは…。

ほうわぁ!?とか、ちょっ!?激しいですよ!?とかが聞こえてくるが、そちらに顔を向ける事も出来ない。


「ぐっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…!こんなものを軽く使っていたのか?鬼いさんは…!」

その出鱈目さに、改めて恐怖を覚えた。


「王真!大丈夫ですか!?」

ディニアが先ほどの冒険者の治癒?を終えてこちらに来た。


「……酷い消耗ですね。サマール程度に一体なにがあったのですか?」

「覚えたての天鎚を使ったんだよ…。まさかここまで消耗するとは思ってもみなかった。倒れなかっただけ、有難いよ…」

そう言うと、ディニアは無言で治癒を施してくれた……温かい。


「ありがとう…」

「気にしないでくださいな。王真を治癒するのは、50年前から私の役目ですからね?」

お婆ちゃんになっても、優しい微笑みはそのままなんだな。


「……コイツ、ババ専か?こんな危険物のどこが…ひぃっ!?」

ディニアに治療されたヒーラーがそう呟いた。

ああ、駄目だよ!相手はディニアなんだよ!?


「…まだ、治療がたりなかったようですね…。入ってみますか?『コレ』に」

背中のメイデンメイスを取り出し、ヒーラーの顔数センチの処で止めた。

昔は、問答無用だったから丸くなったのかな?


「おい、モーダ。なに恩人に喧嘩売ってんだ。うちのヒーラーがすまねえ。それに治療までしてくれたみたいで。礼を言わせてくれ」

このパーティーのリーダだと思われる男が話しかけてきた。


「ああ、そうだ。お宅らのギルドネームを教えてくれ。今回はあんた等が倒したようなもんだ。報酬を送らせてもらう。とはいえこっちもシーバンガからの出向だ、このまま帰ると大赤字なんで、多少はもらうが…いいか?」

シーバンガから来てるのか、これは追手とか罠とかは関係なさそうだ。


「あ、あの!女王陛下は元気ですか?風邪とか引いてませんか?」

「え?あ、おう。……ってお前、勇者の坊主か!?パレードで見たきりだったからな。気づかなかったぜ。そうか、ファグスに来てるんだったな」

シーバンガか、報酬よりも情報を貰った方がいいかもしれない。

ギルドネームは、50年前のものが今も使えるとは思えないしね。


「報酬は要りませんから、シーバンガの情報をくれませんか?その子も知りたいでしょうし」

ここに光樹君がいてよかった。

すまないけど、餌に使わせてもらうよ。


「それでいいのか?こっちとしては有難いが…。分かった。俺の知ってる範囲の事を話そうか…」

この話を聞いた後、僕達は迎えに来たハチカファさんと、すぐにホームへと戻る事になる。

…『これから』を決めるために。


Sideout

ゴーヤとサンマは大好物です。

モツもうまいよね。

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