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猫守紀行  作者: ミスター
94/141

ファグスから、『ホーム』へ

書き上がりなり。

何となく予約投稿してみました。


一南side


「こんな…。こんなの、どうするんですかぁ!?」

小さい体でよくそんな声量が出るな、お兄さん驚いちゃったよ。

ギニャー!と奇声を上げるチビ勇者…、うちは勇者が多いなぁ。


「4本角…!?鬼いさん…。あの竜は拙い!ここは、逃げるしかないよ!」

「王真くん、アレの事知ってんのか?まさか、勇者時代に戦ったとか?いやー、ちゃんと勇者っぽい事やってんだねぇ」

いや、今も勇者か。

ちょっと羨ましいかもしれん。

さて、俺も準備しねぇとな。


「ちゃかさないでよ!…アレは『不可侵竜バルドカール』。魔国に有る魔憑山(マヒョウサン)の番人だよ…。山に入るのを止めるのも当然だけど、山から出ようとするモンスターを止めるんだ。モンスターランクを付ける事が出来ないような化け物を、その山に留めるのが仕事なんだ」

なんの為にだよ、野に放っちまえそんなもん。

俺は一向に構わんぞ?


…しっかしなぁ。

クソ野郎は上でニヤニヤしてやがるし、この巨竜を放って置くと国が滅ぶ。

まず、間違いなく。


まあ、この国に知り合いいねぇし。

滅んだら、滅んだで、城の破損の罪は有耶無耶に出来るから別に…、って感じだが…。

うちの連中が何を思うかは別だ。


ちなみに巨竜は今やっと上あごまで出て来た処だ。

全身出てくるまで時間の猶予はある。


しかし、奇声を上げていたチビ勇者も今は凍ったように動かない。

いや、動けない。

これは、チビ勇者だけじゃない。

カートスも、ルナもなんとか動けるかという状態だ。


勇猛なバトルホース達ですら、萎縮している。

むしろそっちが問題だ。


むろん、クロハ、黄助、サウスもだ。

チビーズがどうなってるか心配だが、アイツ等はなんとかなってそうだからなぁ…。


俺達を、俺達を睨む漆黒の竜の赤い瞳。

テンの分裂元である、Sランクモンスター『ストレンジャー』のマーチ君を遙かに超える威圧感。


「くははっ!そんな眼で睨んでくれんなよ…。ちびっちまうじゃねぇか、なぁ?」

そう王真くんにふってみると、引き攣った笑顔で返してくれた。

あの時はびびって抜刀しかけたが、今は無い。

成長したのかね、俺も。


「……7000年もたったからか、大きくなったな。昔はこれで一瞬で呼べたのだが…。流石、我が神に『邪竜』の称号と名を頂いただけは有るな、超空魔龍ウルトラスカイバスタードラゴンよ」

これも邪神ネーミングか、ある意味、光ってるな。


[我が神には感謝している。私のような4本角の異形に、称号どころか名まで与えてくださったのだからな。しかし、貴様がその名で呼ぶなエギュニート。バルドカール、そう呼べ。我が神以外にその名を呼ぶ事は許さん。それに、7000年何もしなかった貴様と違い、私は神への供物を集め守り抜いて来たのだ。私が召喚されれば供物たちも逃げる……それが分かって呼んだのであろうな?]

ああ、邪神への供物だからこそモンスターを逃がさないようにしたのか。

そして狩られないように、入れなくしたと。


……いや、何これ?

今更だけど、頭に直接響いて来るんだが。

まるで、ガトゥーネ達と会話してる時みたいだ。


「なにもしなかったのではない。出来なかったのだ。いや、今まで寝ていた事に変わりは無いか…。貴様こそ何故我らが神を守れなかった?1人で逃げたのではないだろうな?」

おい、仲悪いのかよコイツ等…。

呼ぶなよ、そんなの。


っと、んな事も言ってられねぇな。

そろそろ動かにゃ、頭が出てくる。

あんな巨竜でもブレスくらいは吐けるだろ、それは御免だ。


[フン…。あの方は、お優しい。貴様が封印されたと分かって私に逃げろと命じられたのだ…。貴様が居れば我らが神を召喚できる。それを必ず成し遂げてくれると信じてな…。だが、今は頼みの純血の短角種の絶対数が少なすぎる。その為に足しになればと魔力の高い供物を集めていたのだがな…]

まるで溜息を付くように鼻息を出す巨竜。

これだけで飛ばされそうになる。


短角種は『神の召喚』に必要な要素か…。

アリーナン、魔王、アルス。

ただでさえやる事は多いってのに……面倒くせぇ。

取り敢えず、今はやれる事からやって行こうか。


「……教会辺りに知られたら、大変な事になりそうだね」

言うなよ、カートス。考えないようにしてたんだからよ。


「まあ、近くに人はいねぇから問題ねぇとは思うが…」

《強力な思念波だな。これ程の思念波…、何処まで届いているか分からないな》

おい、ガトゥーネ、俺の淡い希望を刈り取るんじゃねぇ。


しかし、うちの連中はまだ動けないか。

引くに引けないってやつだねぇ。

…しゃあない、やるか。


「…そうだったか。では、バルドカール。貴様の集めた供物も使おう。貴様は7000年もの間、忠義を果たしたのだ。今度は私が…[エギュニート!]っ!またこれか!?」


「波平武技、刻波竿(コクナミノサオ)って付けてみた、どうよ?」

刻波先端から鞭が伸びて釣竿みたいになるから。うん、我ながら適当だ。


クソ野郎は、この威圧感の中、動けるとは思っていなかったのか。

今度は片足だけではなく、体ごとガッチリキャッチ!

取り敢えず、今は動きを封じるだけでいい。


[小童が!]

バルドカールが怒りを顕わにするが…。

お前さん、まだ下顎が完全に出てないんだよねぇ。

大きすぎるってのも難儀なもんだな?


「ちょっ!?鬼いさん!?」

「いい機会だ。教えてやろう…」

それだけ言って、俺はバルドカールの頭の上まで一気に駆け上がる。

…軽い丘だなこの頭は、全体像が一切想像できん。


そして『準備』していた、技を拳に乗せて…。


「戦いの中で俺を放置すると、どういう事になるかを!!」

「鬼いさーん!?」

すまんな!うちの連中が動けるようになるのを待っていられなかったんだ!

やらなかったら『準備』も無駄になるしな!


それにな、何時もなら付き合うが怪獣相手に、出てくるのをこのまま待つ義理も無い。

待っていたら、確実に仲間が死ぬ…。

それだけは許容できん!!


(つい)えろ。…天鎚!!」

バルドカールの脳天に突き刺すように拳を穿ち……解き放つ!!


無手武技の奥義『天鎚(てんつい)

体の中で氣を循環し、圧縮。

拳に乗せて放つ技。

今回は、十分すぎる程、溜められたし俺の少ない魔力も混ぜた。

今までの中で最大級の威力を叩きだせると自負している。


「ギャォオオオォオォォオオオオ!!!???」

うぉっ!?声がでけぇ!!耳が!?

…まあ、巨竜の断末魔だ、好きなだけ吼えろや。


次いで、「パンッ!」と軽い破裂音。

…うん?ああ、目玉がはじけたか。

口からも大量の血をまき散らし、その血の中にはピンクの物体が混じっている。

OK、鱗にゃ傷一つつかなかったが脳は破壊できた、上々だ。


「バルドカール!!くっ!」

クソ野郎……いや、エギュニートは刻波鞭から逃れようと、神気を纏い、もがく。


「…安心しろ、次はテメェだよ」

改めて氣を軽く練り上げる。

刻波鞭を振りほどかれる前に、引き寄せ。

氣を乗せた掌打を抉るように心臓辺りに叩き込んだ。


まるで歯を食いしばるように顔を顰め、そのままくずれ落ちるエギュニート。

パキリと食いしばった歯が折れる音…、にしては軽い音がした。

我慢せずに恨み言の1つでも吐けばいいのにねぇ。


さっきの音が気になるので、一応止めに一匁を突き刺しておく。

《メシダー!》

…一匁は、欠食児童かなんかなんだろうか?


「さて、面倒事はこれで一つ減ったか。…わりぃな」

一匁を引き抜き。巨竜に対し待たなかった事を謝り、俺は仲間の処に戻る。


《ふむ、私としては、不可侵竜を正面から打ち破れる男になって欲しいな》

…最大級の天鎚で頭を潰すのが精一杯の怪獣をか?無理だろ、流石に。

謝ってはみたが、正面からやり合いたいとは思わんぞ。



戻った俺を待っていたのはドン引きした仲間達だった。

引くな、悲しくなるだろうが。

取り敢えず馬車まで移動しながら、皆の声を聴いて行く。


「…あり得ない。氣をあれだけ使って平気な顔してるよ、この人」

「いや、お前さんだって出来るだろうよ」

出来ないよ!と叫ぶ王真くん。

何故に?魔力より楽じゃね?


「イチナくん…、流石に引くよ。でも有り難う。あのままだと、どうもしようも出来なかったからね」

「気にすんな、面倒事は早めに終わらせるに限る」

まあ、我慢できなかっただけなんだが。


「イチナは、どこまでいく気なのかのう……置いていかんで欲しいの」

「そうですね、強くなっても突き放されるって…。追いかけても、追い付けません」

二人の声がよく聞こえねぇ、何話してんだ?

それとソルファ、遠い目で何処を見てるんだ?


何故か黄昏れる二人に声は掛けづらく、スルー。


「……のーみそ、ぱーん…略して…のーぱん」

「略すな、アホウ」

パー子にツッコミながらサウスに頭を撫でてやる。

へこんでんのは、うちの仔達も一緒だからな。


「サウス、黄助、クロハ。食って来い。食える部分は落ちてる脳味噌しかねぇが」

「ガウッ!」

「がぅ」

「ぶるるっ!」

強くなるのに素晴らしい餌が転がってるんだ使わない手はない。

その場から一斉に動き出す、甘坂動物園の年長組。


「チナさんは出鱈目すぎるっす。なんすかアレ」

「奥義だな。無手術の」

答えが軽いっす…。そう言ってがっくりと肩を落とすマキサック。

こいつも氣の量が多いから教えりゃ、氣を使う事も出来る気がしないでもない。

ただし、俺は教えるのは苦手だ……王真くんだな。

天鎚を伝授する代わりに、コイツに氣を教えて貰おう。決定だ。


「…なに企んでるっすか?顔が笑ってるっすよ?」

「なに、お前もあの位できるようにするための、先生を付けてやろうと思ってな……拒否権は無い」

コイツ単体なら死なねぇ気もするが『守り』の力は多いほうがいい。

知ってるか?守りって書いて攻撃って読むんだぞ?

かなり間違っていると思うが、爺さんから教わった『爺さん』の信条だ。


「マジっすか…。どんな苦行っすか!?」

マキサックの叫びはスルーする。

ちなみにチビ勇者は、俺に怯え、マキサックの背後に隠れてしまっている。

これは、しばらくそっとしておいた方がいいだろう。


さて、チビーズの様子を見に行こうかね。


ん?馬車の前で女4人(一人はばあさんだ)が集まって何か話している。


「…もう、『白守』じゃインパクトに欠けるよね?鬼は入れなきゃいけないと思う」

おい、聞こえてんぞ腐敗勇者。


「ん~、じゃあ~。白鬼さんですかね~?」

止めろ、白守で良いだろ。


「武神をもじって鬼神なんてどうかしら?」

黙れババァ。そんなのがいるなら俺が戦いたいわ。


「皆さん、止めましょうよ…。それに、ギルドに申請が通りませんよ。私は白守で良いと思いますよ?…はわっ!?」

あ。アイリンが俺に気づいた。

その様子を見て皆が気づき徐々に距離をとっていく、1人を除いて。


「…白鬼、鬼神、うーん。私は鬼守かな!「それは誰を守ってるんだよ、教えて欲しいねぇ」……えっと、私?」

俺が声を掛けると、油の切れた機械のように振り向きながらそう言う腐敗勇者。


「みぎゃーーーーーー!!」

久しぶりに片手で吊し上げた。




「ばあさん、治癒は任せる」

地面で投げ捨てた痙攣中の腐敗勇者の治癒を頼んで、馬車の中へ。


「チビ共、無事か?……うん、こんなこったろうとは思ったよ」

チビスラは馬車の天井の細めの梁に絡んで、雫のように垂れ下がり。

その先端に、テンをくるんでブランコのように揺れていた。

イメージ的には赤ちゃんの揺り籠の上で回ってるアレ。


「ぴぴー。ぴ!」

テンが羽ばたく事で勢いを付けてるみたいだな。

飛ぶ練習も兼ねてるのか必死だ。


「み~♪」

白はそれを夢中で楽しそうに追っては跳ねてを繰り返す。

変身してない処にルールがあるっぽい。


……あの状況の中で新しい遊びを開発してたのかこいつ等は。

まあ、もうちょい遊ばせとくか。


「イチナくん」

「ん?どうした、カートス」

白達を眺めていると、カートスが声を掛けて来た。


「これからどうするんだい?魔軍も総大将が引いたから一度前線からは撤退したみたいだけど、諦めてないようだし。イチナくんは追われる身だよ?それに…」

城下町まで滅茶苦茶にしちゃったからねぇ…。


「まあ、長居はできんわな…」

本当なら国を救うのは勇者の役目だから、勇者共を置いて行くのが筋なんだが。

城下の門を破られ(俺がやったんだが)、未だアルケイドは健在、リリスもいる。

魔軍には、結構な打撃は与えたが引くつもりは無いらしい。


今度攻めてくる時は、死に物狂いで来るだろう。

ファグスは落ちる、確実に。

ここでアルケイドとの決着をつけても良いんだが、いかんせん皆も消耗している。


全部、あの巨竜とエギュニートが悪い。

※消耗の半分は一南の殺気のせいである。


味方の兵ごと殺っていいなら、神気の斬撃で片を付けるんだが。

それじゃ殺戮になっちまうから却下だ。


それに、ばあさんが治癒を終わらせた時点で、次の目的が見えなくなった。

順当にいけば、アリーナンを助けて、アルスを仕留めて。

嫁を貰って。

魔王は適当に仕留め、『勇者』によって世界の平和は守られた!的な流れで良いんだが。


まず、魔王以外どこにいるのか見当もつかん。


「……どうすっかなぁ」

俺の勘で言えば、一番ヤバいのはアリーナンの放置だと思うんだがねぇ。

殺されるとか、そういうヤバいじゃなく脱力的な意味合いで。

アリーナンが死ぬ?白が生きてるのに死ぬ訳ないだろ。アリーナンだぞ?


「…まだ決めかねているなら、僕様の『ホーム』に行かないかな?あそこなら転移方陣もあるし、料理の為の食材も山ほどあるんだ。僕様一人になってから出てくるときに魔法施錠してきたし、破格の結界石を使ってきたから荒らされていないはず。そこを拠点にするのも良いんじゃないかな?」

そうか、そうだな。


「よし、行くか。カートスのホームに」

「うん、えへへ。友達を呼ぶなんて初めてだよ…。なんか緊張するね」

おい、お前の実家じゃないだろうな?


「み~?」

「お?遊び終わったのか?」

白を抱き上げながら、テン達の方を見ると…。

遊び過ぎてぐったりしていた。


チビスラも疲れて、梁から落ちる。

テンも一緒に。


「ぴ!?」

「……!?」

チビスラに潰されるテン、しばらくもがいていたが、そのまま眠ってしまった。


「くぁ…」

白も眠いようだ。


「くくっ、カートス。悪いが、皆に声を掛けて来てくれるか?さっさと出発しよう。先導たのむぞ?」

「任せてよ。言って来る」


俺は眠りそうな白の背中を撫でながら、エギュニートの事を考える。

神の召喚、それが出来る唯一の男。

……惜しいとは思わない、召喚に短角種が必要という時点でだ。


「…嘘だな、惜しい。呼べるもんなら呼んでくれ、俺の前に…!」

7000年前の使徒。

アイツは寝ていたと言っていた。

つまりは寝起きだったと。

なら、本来の力は、出してないんじゃないか?生きてるんじゃないか?

邪神を直ぐに呼べたんじゃないか?


「み~…」

《一南…》

「…すまん。…止めよう、らしくねぇ」

心配そうに俺の名を呟くガトゥーネと、同じく心配そうに俺を見上げる白を撫で、思考を切り上げる。

この手で殺した野郎の事を、考えるなんぞ本当にらしくねぇ。


白を抱いたまま、クロハに向かって歩き出す。

俺の中で燻る、甘坂の……神薙の血を押し殺して。


Sideout

ふう、これでファグスは一段落。

間が空いたからさらに長く感じたな・・・。


今月はこれで終わりです!

次回の投稿は来月になりますので!


したらば。

byミスター


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