ファグス - 価値 -
遅くなりました。
一南side
「ウゼェ!!」
走りながら一匁を振るい、エギュニート…。じゃなかった、クソ野郎だったな。
クソ野郎が放った黒い剣の形をした魔法を斬り払う。
《ウマウマ》
…あの霧の魔法以外は美味しく頂けるようだ。
たった30メートル。
その距離が中々縮まらない。
当然ながら、クソ野郎は俺が走り込むまで待っている訳もなく。
その場で魔法を放ち、地面に魔法でトラップを仕掛け、足を止めた処にデカいのをかましてきやがる。
魔法自体は霧のやつ以外は問題ない。
神気が混じっていようと、一匁が食い散らしているから。
問題は魔法トラップだ、一度踏み抜いて空転で離脱した。
ガトゥーネに教えて貰わねぇと分からねぇ『地雷』
発動すれば、爆発音も無く3メートル程の抉り取ったようなクレーター出来るとか…。
それを各所に設置して移動ルートを狭めてきやがる。
誘導されている気がしないでもない。
足を止める事も出来ない、止めたら…《一南!来るぞ!》ほら来た!
さっきは『イビルレーザー』だったか?唇を読んだから名前は合ってるはず。
直径30cmの5本の黒いレーザービームだった。
速かったが見切れない程でもない、一匁が美味しく頂いた。
なんか甘くて美味しいらしい。
俺はクソ野郎の唇を読む……『イビルレーザー』?芸がねぇな。
次の瞬間、奴の手から飛び出したレーザーの数は50近く…。
「って!?アホか!」
一匁じゃ手数が足りん!
《アー、アマアマガー…》
何か言ってる一匁を鞘に納め、刻波に手を置きレーザーに突っ込んだ。
「ついでだ、ぶちかませ波平!」
《御意!》
俺は攻城戦技『塵走』を仕掛ける。
…と言っても血気盛んな神薙流の先達(甘坂の人間)が、戦国時代にやらかした事に無理やり名前を付けただけらしい。
走りながらの抜刀武技と無手武技を繋いだだけの『一対城用の技』という事になっている。
そう言えば、この技、爺さんが戦争で使ったらしい。
とある国の大統領が外遊に来るときは、国から爺さんを家から出さないようにSPが派遣されて来る程度には、数を斬ったらしいが、何故か日本の表舞台には知られていない。
爺さんが笑顔で脅したか、とある国のメンツで公表できなかったか、爺さんが法螺を吹いてるかのどれかだ。
どれにしろ、甘坂は戦犯一歩手前だったらしい。
とある国の軍の上層部はいまだに日本を『鬼ヶ島』と呼ぶ奴もいるくらいだ。
なら、モモタロウは何処だと聞きたい。
爺さんとやりあえるモモタロウ……ぜひ会ってみたい。
まあ、今回は抜刀武技のみだから、移動する『限無』だと思えばいい。
そこに神気の斬撃を加えるとあら不思議。
レーザーは跡形も無く斬り落とされ、トラップももれなく斬り散り、町を守っていた防壁も飛んだ斬撃により瓦礫と化した。
響く轟音…。
やはり、一回も二回も同じだろうと思ってかましたのが拙かったかね?
「あ…」
……斬撃が王城の一部を切り落とした。まあ、問題ないだろ。
まあ、端っこの方だし?きっと大丈夫、笑って許してくれるさ(現実逃避)
…奴は癪な事に無傷だ。
恐らく自分の神気を斬撃に当てて、逸らしたのだろう。
城の方に飛んだのはきっとそのせいだ。うん。
でもまぁ、邪魔なトラップも無くなった、今度はトラップを張る時間なんてやらねぇぞ?
俺は一直線に奴の元へ走り込む。
「…出鱈目な奴め、私との戦いでこの国を滅ぼす気か?まあいい…」
奴の体が浮き始める。
もう少しで間合いに入るんだ、勝手に飛ぼうとすんじゃねぇ!
「大人しく…。斬り散れや!」
《チレヤー!》
地面から奴の足が50cm程浮いた処で『空転』を使い。
一気に間合いを詰めて、抜刀しながら一匁を振り抜く。
「貴様の土俵では戦わない、そう言ったはずだ」
《カオスフウミ?》
カオスフウミ?ああ、カオス風味ね。…いや、どんな味だよ。
…って、これ魔法か!?いつ使った?目は放して……たな、うん。
トラップに気を取られていたのも事実だしねぇ。
ズルリと一匁が奴の体をかき消した。
「イミテーションブラフという魔法だ。ただの嘘像だが、貴様のような剣士にはよく効く魔法なのだがな…。そちらの剣は、魔法を消す。…いや吸収しているのか?神気を込めたものが、一体丸々吸い取られるとは……興味深い」
見えない処から言葉が届く。あの野郎、かくれんぼか?
声からして、あそこか?なんか違和感があるし多分そうだろ。
壊れた防壁近く、地上10メートル付近って処か。
しかし、態々虚像だと教えてくれるなんて優しいねぇ。
魔法名が魔法名だけに疑っちまうだろ?
教えてくれたお礼に神気の斬撃を飛ばしてやろうか…。
そんな事を考えていると動きがあった。
「…おいおい、無詠唱でか?なんでも有りだな使徒様は」
魔法の紹介が終わった瞬間、次々と空にエギュニートが出現し。
20にも上る黒服陰鬱痩身クソ野郎の群。
……ウゼェな、カラスの群の方がまだましだ。
「貴様が素晴らしい戦闘力を持つ『人間』である事は認めよう。だからこそ、天神に使われる前に、憂いは断つべきだろう」
隠れていたのに、態々出てくるクソ野郎。
ここに来て、初めてクソ野郎の眼に殺気が宿った。
イイねぇ、静かだが確固たる殺す意志が感じられる。
「クハッ!出せるじゃねえか、殺気。聞きたいことも有るし、無知な俺にご教授願いましょうかねぇ」
斬る前に聞くか、斬ってから聞くかそれが問題だがな。
張りあうように殺気を漲らせ、構えながら口元に笑みを浮かべる。
「この状況で笑うか。…狂人め」
「いや、邪神の使徒なんぞやってるテメェに狂人って言われたくねぇな」
おう、更に殺気が強くなったよ。
「貴様…。神気を飛ばせる程度で、我が麗しき神を侮辱するか…!」
軽いカウンターのつもりが入っちゃいけない処に入ったみたいだ。
「ん?タブーだったか?悪いね、『無知』なもんでよ。それに、狂信者の相手ってのは慣れてないんだわ」
白狂いの相手は慣れてるがね?普通の狂信者なんぞ、まともに相手したこと無いからな。
まあ、やる事は白狂い相手と一緒か。
…いつもやってる事と変わらない気がするねぇ。
《神気を飛ばせる程度…》
《まあ、過剰に放っているだけだからな。未熟と言われても仕方ないぞ波平》
おい、波平に止めを刺すなガトゥーネ。
「間違えるな、信者では無い。使徒だ。貴様の言動は私の誇りを汚し、素晴らしき神を侮辱するものと知れ!」
なんか、殺気に怒気が混じり始めてんな…。
やっぱ、戦いは意志の有るものじゃねぇと俺が楽しくねぇ。
おっと、その前に聞いておかなきゃねぇ?
「…その麗しいだの、素晴らしきだの、テメェの神の事は心底どうでもいいから。短角種の価値とやらについて教えろ」
魔導兵の事も聞きたいが、後回しだ。
今ここに神を呼び出せるなら話は別だけどねぇ。
「貴様…!それで本当に答えると思っているのか!?」
え?なにが拙いんだよ?……言い直してみるか。
「麗しいとか、素晴らしいとか、そんな統一性の無い神様の事は、今はどうでもいいので。短角種について教えてください」
これでどうよ?
「………いいだろう。貴様は生きて帰さん!」
凄まじい怒気と共に、一斉に動き出す20体のイミテーションブラフ。
おかしい…。何処が駄目だった?素直に言っただけで、挑発した覚えは無いぞ?
一体が破裂し、暗闇をばらまく。
所々、まばらに光が射すだけで、何も見えねぇ…。
やっぱりただの嘘像じゃねぇじゃねぇか。
俺はその場で一匁を振るう。
《オー。ナンカ、パチパチスル。ノドゴシガイイ!》
よく分からん、炭酸的な?のどごしなら、ビール的な感じか?
ずびーと音がしそうな勢いで暗闇を飲んでいく一匁。
視界が晴れると、俺を取り囲むように配置された、残りの19体が魔法陣へと姿を変える処だった。
「…『黒き光明』を1秒未満で散らすか。だが、もう一歩だったな」
その言葉通り、次々と発動する魔法陣。
「イミテーションブラフは、私の魔法を一つ付加することが出来るカウンターマジックだ。もっとも先ほどは付加した魔法ごと吸収されたがな。もちろんこれは任意での発動も出来る……肉片すら残さん、我が愛しき神を侮辱した罪その身で償え」
全方位から迫る、炎に雷撃、風に水の刃、地面からは土の杭がせり上がってくる。
ついでとばかりにレーザーまで放ってくる始末。
風の刃が地面に当り、破裂。
土煙を巻き上げた。
この状況どうしたもんか…。
そんな状況の中心でも俺は笑う。
「…クハハッ!」
この状況でも『諦める』という事を考えていない自分が可笑しくてたまらない。
まあ、俺は甘坂で神薙だからねぇ…。
さあ、やろうか。
今の俺に出来るのは、斬る事だけだしねぇ。
俺は土煙の中、一匁を左手に持ち替え、右手で刻波を抜いた。
Sideout
エギュニートside
「フン…、愚かな。私だけでなく、我が神さえも侮辱した者の末路だ」
土煙と轟音を上げ、その中心を攻撃し続けるイミテーションブラフ。
その場に着地し、哀れな男の末路を鼻で笑った。
…しかし、おかしい、何故攻撃を止めない?
まるで…。
「ん?…来たか、天神の使徒」
この神気は、間違いない。
だが、人の気配が違う、7000年の間に代替わりしたか。
私の視界には『単騎』で駆けくる男姿が映っていた。
「そんな……。城下が滅茶苦茶に…。お前がやったのか!」
それは、濡れ衣だ。
「違うな。私では無い。私は無駄な破壊を好まない。しかし、戦場を単騎駆けとは、流石私と同じ使徒だ。いや、昔と違い『人間』が少ないこの世界ではこれ位出来て当然か。そうだろう?天神……いや、創世神の使徒よ」
対極の使徒が向かい合って話し合いも無いだろう。
かつては互いの神が治める地を奪い合った仲だ、その使命は時がたっても変わらないはずだ。
「っ!?なんでそれを!そうか、お前も使徒なのか。…それと、好きで単騎駆けをしたんじゃない!」
(人間が少ない?どういう事だ?あと、先に偵察に出た方がいいって、ディニアに脅されて無理やり……あれ?)
「…鬼いさん。いや。甘坂一南…さんは?ここでお前と戦っていた人はどうした!!」
(まさか、こんな奴に?……いや待て、王真。鬼いさんだぞ?あの『理不尽の塊』の孫だぞ?…ないか、直接止めを刺されてない限り……ない)
「なんだ、アレはお前の兄か。分かるだろう?あの魔法の中心だ。すでに肉片も残っていないだろう」
気がかりなのは、まだ魔法が発動している事だ。
明らかに長い、久しぶりに使ったせいで設定を間違えたのか?
いくら神造剣を持とうと、たかが剣士。
生きているという事はまずないだろう。
「あの中に?直接止めを刺した訳じゃないのか…」
なんだその表情は、何故私を可哀想な目で見る。
「魔法の設定ミスだろう。たかが剣士すでに死んでいる」
7000年の眠りから覚めたばかりだ、そういう事も有るだろう。
「…分かってない、分かってないよ。僕達神薙の一族は『たかが』じゃない。そしてその中でも群を抜いて『神薙』に執着している甘坂の事も。その甘坂家の理不尽さも。君も使徒なら僕が相手をするべきだけど……」
何を言っている?それではまるで…。
「…鬼いさんに斬り散らされるから、止めておくよ」
その時、土煙の中心から『神気の斬撃』が飛び『イミテーションブラフ』であった魔法陣を斬り裂いた。
「なんだと!?」
一つ斬り裂いたら、場所が分かったとでも言うのか、次々と魔法陣が斬り落とされていく。
「馬鹿な…!」
「甘坂と…、鬼いさんとやりあう時は、多少の理不尽で驚いていたら死んじゃうよ?…あれ?皆来ちゃったのか。…僕が偵察に来た意味あまりないね」
皆だと?…態々逃がした短角種まで引き連れ、大所帯でこちらに向かって来ている。
戦騎兵と短角種が突出して来たか。
今なら狩れるが……どうやらそれどころではないらしい。
「タカヒラさん!イチナさんは!?まさかあの中……大丈夫そうですね」
「タカヒラ殿!イチナは!?……うむ、元気そうでなによりじゃの」
魔法陣が半数落とされた時から、加速度的に落とされるスピードが上がっている…。
そうか、魔法の軌道を読んでいるのか。
いや、半ば勘か?あの土煙の中で正確に軌道を読めるとしたら『予知』しかあり得ん。
後方から近づく馬車が天神の使徒達に合流したころ、魔法陣は残りわずか。
そして、最後の5体は円を描くように一刀で…。
なんだ、今のは…。
届くはずもない範囲の魔法陣が、飛ぶ斬撃ではなく。
白色のなにかで斬り伏せた…。
速すぎて分からなかったが、神気で形成されたモノだという事は分かる。
騒がしい馬車の連中も、天神の使徒も、…この私ですらも土煙の中の『なにか』に気おされていた。
ゆっくりと土煙からあの剣士が出て来た…。
足音が嫌に耳につく。
「ククッ、クハハハハ!!ありがとう、クソ野郎。テメェのおかげで久しぶりに死にかけた。真剣持った爺さんを前にした感覚を思いだしたわ…。お礼にゃ斬撃しか返せねぇが問題ねぇよな?」
この男は、アマサカといったか。
見た処、私の魔法を幾つも受けている。
いや、受けていると言っても致命傷になりそうなものは無い。
…放たれた魔法を、全てあの『二刀』で斬り伏せたとでも言うのか!
「……化け物め」
殺気、ただの殺気の筈だ。
先程までは軽く流せていた筈の殺気が、今はまるで物理的な力でもあるかのように圧し掛かる。
アマサカの殺気に押され、その一言が口をついた。
「あー…。よく言われるねぇ。俺としては、いたって普通のつもりだが(甘坂として)。さあ、続きをやろうか。…テメェの魔法のおかげで大分、神気やら魔力やらが補充できたしねぇ」
(流石、カートス。きっちり仕事はこなしてくれたか……ルナとソルファの嬉しそうな顔も久しぶりだねぇ。後は…)
アマサカは、短角種と戦騎兵の方をチラリと見た後、口元に笑みを浮かべていた。
っ!更に殺気が強くなるだと!?
「チッ…!」
その場から『フライ』で飛び立つ。
一度落ち着く必要が有る。
私はこれ程殺気が厄介だとは思わかった、チクチクと集中力を削られる。
その事が焦りを呼び、更に集中力を欠く……致命的だ。
いや、この男の殺気だからか…。
使徒である、この私に明確な死のイメージを伝える程の……化け物。
この男の殺気を私は流せなくなっていた。
この戦いで成長しているとでも言うのか?
Sideout
鬼side
あん?えらく慌てて飛びやがったな…。
「ま、飛ぼうが逃げようが関係ぇねえな……波平、叩き落とすぞ」
《御意に》
《オ?オー》
一匁、お前はあんまり関係無い。
《エー…》
散々食っただろ?ちいと休んでろ。
そのまま一匁を鞘に戻した。
ちなみに、うちのお仲間は今こんな感じ。
カートスとルナ、ソルファ、あと王真くんだけだ、何時でも参戦できるのは。
後は、まあ、いつも通り過ぎて笑えてくる。
サウス、黄助、クロハは雑魚敵をサーチ&デストロイ。パー子を添えて。
…魔石ぶち込んでやらねぇとな。
マキサックは腐敗勇者の妨害、これは詠唱を止めるという崇高な任務だ。
アイツの趣味からして確実に味方にしか被害がでねぇ。
アイリン、ハチカファは馬車の守り兼、チビーズのストッパー。
今、白達に暴れられたら色々削げ落ちるからな、流石アイリン分かってるねぇ。
ばあさんも使徒だから出てこりゃいいのに、旅馬車の居住区に引っ込んだまま。
ダボついた服の少年は王真くんに熱い視線を送っている……腐敗勇者にネタにさせそうだな。
「くはっ!この空気感も久しぶりだ。…さて、実戦は熟練の母って、爺さんから良く聞かされたもんだ…」
その爺さんの言葉は正しかった。
あの魔法の中で神気の扱いを学んだ波平は、神気の扱いの練度が上がって、こういうことが出来るようになった。
波兵は、あの土煙の中で、ヌルリと直ぐ切れる神気の触手ではなく。
鞭として使用に耐えうる物を伸ばす事に成功した。
鞭の先端は短刀型だ、そのせいで余計に扱いが難しい。
まあ、居合刀だし?抜身で使う事はあまり無いんだけどねぇ。
それに、俺の抜刀速度に合わせて一瞬だけ刀身を伸ばすなんて事も出来ない。
ガトゥーネにも聞いたが、波平が俺と同じ感覚を持ってないと絶対無理だそうだ。
…波平も神だし、イケんじゃねぇの?と思った俺は悪くない。
構えは、横薙ぎ。『応路』の構え。
さっきは振り回しただけだが…。
「…『伸ばせ』波平」
言葉と共に刻波を振り抜く。
勿論ガードはされている。
右手を前に向け神気で、盾らしき物を造ってしのごうとしていた。
明らかに見切れてない。
そんなんじゃ、捕らえちまうぞ?
「チッ…、鞭か!」
残念もう遅い。
「こっち…、来いやぁ!」
刻波の先端から伸びた神気の鞭が奴の右足首を捕らえた。
そのままフルパワーで自分の方へと引き込む。
…まるで釣りでもしてるような気分だ。
フィーッシュ!とでも叫んでみようか?
「うおおおお!?」
絶叫を上げながら俺の元へと引っ張られて来るクソ野郎。
このまま『天鎚』でもかませば終わるんだが、生憎と溜めが間に合わない。
よって、引き寄せた勢いをそのままに…。
左手を刻波から外して、右足首を掴み。
一度振り回し、勢いを増してから地面に叩きつけてみた。
「ガッ!?しかし、この程度…!」
叩きつけた衝撃で浮いた処に、追撃で抜身の刻波での『空居合』
「ぐうっ!」
これは神気でガードされたが、衝撃は通ったようだ。
随分と性能がいいな、そのローブ。
ここでコイツを仕留めて置けば、ルナは狙われない。
短角種とか、魔導兵とか気になる事も有るが…。
コイツしか知らない知識だ。
危険な知識なら広がる前に潰したほうがいい。
というより、だ。
俺の嫁さん(候補)に手を出そうなんざ、億年はぇえんだよ!!
「斬り散れ!!」
《メシー!》
刀を切り返え、鞘に入ったままの一匁で空居合を放つ。
「!?『ジャンプ』!」
なに!?このタイミングでかよ!?
《アレ?コレダケー?》
チッ…、まあ仕方ねぇ。
一匁なら、あのローブごとバッサリ殺れる事が分かっただけで、良しとしようか。
斬ったのは左腕の肘から下。
しかも斬り落とした感覚は無かった。
感覚的には皮一枚で繋がってるって感じかね?
「しかし…。あの場面で魔法を使うとはねぇ。だてに使徒やってねぇってか?」
飛んだ先は、壊れた門の上だった。
「ぐぅっ!…まさか、我が美しき神から頂いた『超黒星・光鎧』が、いとも容易く…。編み込まれた神気や魔力は、その剣の前では無力か」
す、すーぱー?なにその中二病、そのローブの名前だよな?
うちの技名も相当だが、これは酷いと思う。
コイツの使っていた魔法名と大分違うから、『邪神』のセンスか…。
流石神、突き抜けてるな。
まあ、俺が心底どうでもいい事を考えてしまったために、奴に時間を与える事になった訳だが。
奴は宙に浮いたまま、右手で懐から一本の『缶ジュース』を取り出し、一気飲みした。
「…ぶはぁっ!」
飲んだ缶を俺に投げて寄越す。
それを左手で指差し……おい待て。
「貴様達は知らないだろう?7000年前はこのような『回復ポーション』が安価で取引されていたのだ。今では製造方法すら残っていないがな」
ポーションなんぞ見たことねぇ、それに7000年前って…。
(おい、ガトゥーネ)
《あんな物がこの時代に有ったら、治癒の神なんて存在しない。それに邪神の使徒は長く存在していないはずだった、間違いないだろう》
うちの奴等も驚愕の表情を浮かべている。
腐敗勇者は「まさかポーションが隠しアイテムだなんて!」とか叫んでるが。
俺は出来の悪い缶を拾いラベルを見る。
{中くらいの傷までカバー!一気くんプラス※戦闘中のご使用はお控えください、隙につながります。}
親切な注意書きだった。そして、思わず握り潰した。
「フ、そう言えば貴様は短角種の価値について知りたいのだったな?」
そう言うとクソ野郎は更に高度を上げ高く飛び、スーパー…。いやローブでいいか。
ローブから何かを取り出した。
それは、ルナのように短い角の付いた、全身骨格だった。
「不遜で傲慢な物言いだったが、特別だ。教えてやろう…」
全身骨格の指を一本外し、残りはローブにしまう。
「短角種の体はその全てが召喚魔法の為の『媒体』であり『生贄』だ。ゆえにサモニングを使う魔導師から珍重され、私の時代には乱獲された。今有る召喚術式は神モドキから授けられた別種だが。さあ、来い『邪竜・超空魔龍』!呼びかけに答えよ!……『召喚』」
その外した指を地面へと落とした。
おい、名前が明らかにおかしいだろう!?
それで呼び出される方が可哀想だぞ!
地面に広がる魔法陣。
その魔法陣からは、とてつもない気配が漏れ出してきていた。
「…さあ、貴様の知りたがった『価値』の一端だ。存分に楽しめ」
その言葉と共に、ゆっくりと、特徴的な4本の角が見え始めたのだった。
Sideout
……ポーション使ってなかったよね?
なんか不安になってきた。
うん、大丈夫だったはず。
急遽思いついて入れた処だからすごく不安。
どっかで使ってたら教えてください。
私も読み返して確認します。
では、byミスターでした。