ファグス - 邪魔な使徒様 -
一南side
「…ほう、初めて純粋な『人間』に有ったな」
「どこの世捨て人だよ。そもそも誰だテメェ。勝負の最中だ、邪魔すんじゃねぇよアホウが」
《これは…!邪神の神気だと!?バカな!邪神に使徒はいないはずだ!》
今ここに、こうして、俺の戦いの邪魔をしてくれてんのは幻影だとでも?
んな訳ねぇよなぁ……それに、こんなに嫌な気配、婆ちゃんを亡くしてヤケ酒飲んでた爺さんくらいでしか感じた事がねぇ。
「口が悪いな。…ほう、そこの魔導兵は随分と良い個体じゃないか。『支配下に入れ』」
男がアルケイドに向かってそう言い放つ。
魔導兵?なんだそりゃ?
「なんだと?貴様、なにを言って…!?なんだ!?ぐっ、意識が…!…ふざ、けるな!俺が従うのは……アルス様ただ一人だ!!」
取り落としそうになった刀を意地でもって掴み。
魔力を乗せた斬撃を男に向かって放った後、そのまま崩れ落ちる。
男は、アルケイドの魔力の乗った斬撃を障壁で軽く防いだ。
「アル様!!」
リリスがすぐに駆け寄った。
アルケイドはかなり消耗している、これじゃ『全力』は出せそうもねぇ。
…なにが起きたんだ?
そして、このクソ野郎は勝負の邪魔をしやがって何様のつもりだ?
…いや、使徒様なんだがね、だからと言って俺の邪魔をしていい理由にはならん!!
「ほう…。使徒の強制力を弾き返したか。時が強制力を弱めたか、それともこの個体が特殊なだけか…。そもそも戦う道具の魔導兵や無魂種に、何故わざわざ意志を宿したのか。仮初の魂か…、興味深い。それに、人の少年、面白い剣だ」
男は、小さな体に大きな大剣を持ち、まるで怯えるように俺とアルケイドを見る少年に視線を送った。
…なんだろうな、お年玉争奪戦の時の王真くんを思い出す少年だ。
いや、外見は全然似てないんだがな?なにか通じるものがあるんだろうか…。
しかし、少年。見れば見る程とんでもない格好だな。
「ん?…!短角種!?この時代にもいるのか!?血は薄れているようだが……使えそうだ」
今度はルナを見てそう言う男……いい加減名前を言え、クソ野郎で固定すんぞ。
しかし、この時代?どういう事だ?
それ以前に、魔導兵だとか強制力だとか訳が分からん。
それになんつった?使える?ルナを道具扱いか?
「短角種?我の事か?お婆様からは、なんかの亜人としか聞いとらんぞ我は」
なんかって、なんだよ。割と重要だろそこ。
少なくともルナみたいな角の生えたのは、あと2人知ってるぞ?
《短角種…。私も聞いた事が無いな》
ガトゥーネでもか、法螺吹いてるようには見えねぇし、なんかあんのか?
「知らないならそれでいい。短角種、命はいらん、その体。貰い受けるぞ」
何?…ヤベェ!?
俺はルナに向かって走り出す。
「『ブリッツシューター』」
やる気の欠片もなさそうに人差し指をルナに向けそう唱えた瞬間。
雷速の速さで指先から弾丸が飛び出した。
たかが雷速の弾丸だ、間合いに入ってりゃ…。
「…シッ!」
斬れねぇ訳がねぇ!
抜刀一閃。
両断した魔法の弾丸は、弾けるように消えて行った。
なんとかセーフってとこかね?
…今度は守れたか。
「……何故邪魔をする?いや、よく反応したと誉めるべきか?」
…まさか、コイツからそんな言葉が出るとはねぇ。
それに、褒められても嬉しかねぇな。
「お主…。何故?」
「……カートス。ルナを連れてバアサンの処に行け」
アルケイドは…、リリスが肩を貸して撤退か…。
悔しそうだねぇ、もう少しだったもんなぁ…。
「イチナくんは……うん、言わなくても良いよ」
おい、なんでそんなに引いてんだよ。
顔に出てんのか?
《一南、怒気が漏れているぞ》
そいつは失礼。
「…黄助、お前も行け。ルナを頼むな。ついでにあそこの少年も連れてけ」
「グルガァ…」
心配すんな。と一撫でして、魔石を補充し送り出す。
魔石も大分少なくなってきたし、なんとか補充してぇ処だ。
「分かった……気を付けてね」
クロハを駆り、少年を拾い、ルナを愛馬のマリアに無理やり乗せ、黄助と共に囲いを叩き斬りながら駆けだすカートス。
「この私が、行かせると思うか?『イビルブラ「やらせるかよ、アホウが!」
何!?」
俺は刻波で魔力の斬撃を飛ばした。
咄嗟に障壁を張りガードするクソ野郎。
「…なんのつもりだ?」
ぁあ?
「なんのつもり?テメェこそ、なんのつもりだ?勝負の邪魔はするわ、人の女に手を出すわ…。叩き落とすぞ、クソ野郎が!!」
俺の殺気と怒気に囲いを作る魔族兵は腰を抜かし、クソ野郎が引き連れた魔族兵が引いていた。
「……短角種の価値を知らない愚か者が。貴様なぞ魔導兵で充分だ。行け」
そう言って魔族を嗾けてくるクソ野郎。
(波平、神気使うぞ。先に魔族を片付ける、調整は任せるぞ)
《御意!!》
おう、張り切ってんな、結構結構。
機械的にこちらに向かってに走ってくる魔族兵に八つ当たりを込めて、刻波を振るう。
横一閃の抜刀、白い斬撃が飛び、風を巻きこみ、魔族兵はもちろんの事。
門が無い王都の街が……街が!?
「……うわお、やっちまったよ」
クソ野郎に砕かれた門、そこから見える街並みが…。
軒並み斬られ、風に巻かれ……倒壊した。
うわあ…、バッサリだよ。
街の人が避難済みであることを祈るしかないな。
…アルケイドの副長も勢いでやっちまったな。
まあ、しょうがねぇか。
《……少々込めすぎましたな》
《あの敵の規模なら込めた半分以下で済んだな。まだ調整が甘いな波平》
「反省会は後にしてくれ、頼むから…。賞金額が上がりそうだな、チクショウ…」
まあ、神気を使うと言ったのは俺だ、責任は俺に有るはずだ…。
普通に斬り散らせるのに、横着した罰だ。きっと。
「…神気だと?使徒では無い貴様が何故神気を使える!そうか、その剣、天神が新たに造った神剣か!」
「違うわ、アホウが。この刀は元々俺のだ。2本とも、うちのお抱え鍛冶師が丹精込めて打った名刀だぞ?天神とか訳の分からん奴が造ったとか、いちゃもんつけてんじゃねぇよ」
《神剣だがな》
《神剣ですがな》
《メシマダ?》
上から順にガトゥーネ、波平、一匁……一匁、まだ食い足りねぇのか?
「まあ、いい。血の薄れた短角種ならばいつでも狩れる。降魔の神、今は邪神だったか?その使徒の邪魔をしたのだ。…その魂と神剣。貰い受けるぞ…『ハイネの霧』よ!」
そう言うとクソ野郎は地面に降り立ち、右手に柄だけの剣を出現させ、魔法で刀身を作る。
「『ソウルライブラリ』より特性『剣豪』『未来視』を選択、…貴様の土俵で戦ってやろう。悔いを残さず上質の魂を寄越せよ?」
なんだぁ?隙が無くなった?それにあの剣、いや魔法か?……ヤバそうだ。
死神を気取るのも頷けるほど、嫌な感じはあるな。
《…なんだ、あの魔法は?知らない物だぞ。効果が分からない……神気剣と同じように魔法を固めているのか?一南、気を付けろ!》
ガトゥーネも知らない魔法ねぇ…、置いとこう、分からねぇし。
クソ野郎は、俺の土俵でやってくれるって言う割には、剣を扱う土台が出来てねぇ感じだ。
それなのに隙がない。
構えや剣気も一流。なのに、対峙しても楽しくねぇ。
むしろ、アルケイドと対峙した時の熱が冷めていく…。
多分魔法なんだろうな、俺達剣士が鍛錬を重ねて行く場所に、魔法一つで登って見せた訳だ…。
…実に気に喰わねぇ。
それに、たかが一流程度の腕で神薙流を狩れるなら、俺の一族はこの世にない。
俺の土俵でやるってんなら、相応の覚悟はして貰おうかねぇ…。
「俺の土俵でね…。なら名乗れ。斬り散らした後も1日くらいは覚えておいてやるよ」
「傲慢だな、まあいいだろう。エギュニート・ゲンデル、降魔の使徒だ」
ようやくクソ野郎の名前が分かったな。
《メシー》
ああ、そうだな。たらふく食わせてやるよ。
俺は一匁時貞を抜き放ち、名乗りを上げる。
「神薙流拳刀術、甘坂一南。二つ名は『白守』だ。俺の魂、簡単に刈り取れると思うなよ、クソ野郎」
今一燃えない相手だが、敵としては十全だ。
互いに踏込み、袈裟斬りから、鍔迫り合いに持ち込んだ…が。
《メシー!!》
食欲全開の一匁が魔力を放ち相手の魔法剣とぶつかっただけで衝撃波を生んだ。
おいバカ止めろ、せっかく詰めた間合いが無駄になる!
踏ん張りながら、なんとか鍔迫り合いの形を保つことが出来た。
そして、直ぐに大人しくなる一匁。
《……コレ、ニガイ》
魔法を固めた剣を味見したのか、そんな感想が聞こえてきた。
(ったく…、どういう効果があるか分からねぇんだから、むやみに喰うんじゃありません!)
《ゴメンナー》
まあ、いいか…。
「さて、テメェは何分割がいい?今なら特別に、リクエストに応えてやるよ」
特上の殺気をぶつけながらそう言ってみたが。
「貴様…、何者だ?何故『未来視』が働かない?貴様は世界の理の外にでも居るというのか?」
いや、知ったこっちゃねぇし。
そんな事きいてねぇだろ。
まあ、巻き込まれてこの世界に来てるから、身に覚えはあるが…。
懇切丁寧に説明してやる義理もねぇ。
一騎打ちの邪魔をして、さらに俺の目の前でルナを狙ったんだ。
その報い、その身で受けて貰おうかねぇ…。
俺は鍔迫り合いにかける力を強くし、一匁を押し込みながら徐々に刃をクソ野郎の首に近づけていく。
「……このまま、潰れろ。な?」
流石は使徒様か?王真くん並の身体能力(多分)で耐えてやがる。
このまま潰せる程、甘かねぇか。
クソ野郎は、魔法剣を絡めながら、体を逃がし受け流そうとする。
本当によくやる、技量も一流だ。
それでも、違和感が残る……このクソ野郎と戦ってる気がしない。
俺は流されるまま、一匁を振り下ろし。
クソ野郎の魔法剣が俺の体に届く前に、一匁を返し、魔法剣を跳ね上げ…。
「甘いな」
一瞬だけ、刀身を靄のような状態にして一匁をスカされた!?
面倒くせぇ剣だな、おい。
また剣の形に変え斬りつけてくる。
それを半身で避けながら、更に接近し氣を込めた膝蹴で浮かせ。
膝蹴りを放った足で震脚さながらの踏み込み。
そこから力任せの横薙ぎ、『王路』へとつなぐ。
「オラァ!」
「がはっ!?」
障壁を張られ膝蹴りは威力を殺されたが、氣までは防げなかったらしい。
見事に浮いてしまった。
浮かなかったら、震脚モドキで足を潰して、零距離でのタコ殴りだったんだが…。
王路までつながっちまった、残念だ…。
弾むように5メートルほど転がっていくクソ野郎だった。
「……ぐっ!バカな。神気障壁だぞ?何故たかが膝蹴りの衝撃が通る?何故剣で破れる?何なのだ貴様は…!」
《シンキウマー》
喰ったのか…。
しかし、王路を喰らったにしては元気だな、両断されてもおかしくないんだが…。
あの黒いローブのせいか?もろに入ったのに斬れてねぇからな。
面倒くせぇ奴だ。
「ちっ!頑丈だなぁ。しっかし、テメェくらいの使い手だったら楽しくてテンション上がるんだが、別人と戦ってるみたいで面白くねぇ。千歩譲って魔法で剣士モドキになったのはいい。だが、テメェから殺気を感じねぇのが不満だ。殺す気がねぇのか?」
振り下ろした剣からは、殺意が読み取れなかった。
まるで作業でもしているかのような気軽さだ。
独特の張りつめた緊張感も無ければ、気負いも無い。
俺も殺気を出さずに斬ることは出来るが、ここまで作業感を出す事は出来ん。
「殺気?相手にダメージを与えられない無意味なものだ。それに戦いに面白みを求める趣味も無い」
無意味、無意味かぁ…。
「殺気ってのは、ダメージ云々じゃねぇ。殺す意志だ、自分の覚悟の象徴だ。意味がねぇとは言わせねぇ」
いやまあ、脅しや威圧に使ってる俺が言えた義理じゃねぇんだけどな。
「くだらないな。それに魔法では無い、特性だ。私の魔法はそれを保存、付加するための物だ。そしてこの剣は…」
そこまで言って、その場で剣を振り抜く。
振り抜かれた剣はその場で靄へと姿を変える。
「人間の魂に刻まれた特性を収集するための魔法『ハイネの霧』…決して逃れられない、死の具現だ」
魂に刻まれた特性?
「魂に刻まれた特性ってのはなんだ?加護みたいなものか?」
《私も聞いた事が無い……いや、稀に生まれながらにレベル付きの加護を持つ者や、二つ以上保持している者もいるが、ソレの事か?》
「無知だな。まあ、いい。魂に刻まれた特性は、その者が保有している『奇跡』の欠片だ。人が等しく持っている奇跡の力、環境に左右され形を変える。剣を持ち、戦いに身を置く者なら『剣豪』が多い。学ぶ事に全てを捧げた男は『博識』だったか。その全てが特性を認識し目覚める訳では無い、ゆえにこれは才能と言い換えた方がいいかもしれないな」
成程、分からん。
もしかして、あの意味不明な『慣れ』の正体はそれか?
しかしなぁ…。
才能なんぞ気合で補え。
奇跡は無い、その時自分が動くか動かんかだ。
俺は爺さんにそう教わった。
もし本当にそんなのがあるんなら、俺の魂には何が刻まれてんのかね?
「しかし、大したものだ。貴様の土俵でやりあっていては、勝ち目が薄いという事が分かった。魂の特性は恐らく『剣豪』だろう。すでに持っているモノだ、態々付き合って純度を上げてやる必要性も無い。終わりだ」
クソ野郎がそう言った瞬間、靄が動きだした。
「…なんかヤベェな」
俺は靄から逃れるように、距離を…「『グラスバインド』」何!?
一瞬の足止め、右足にガラスで出来た靴を履かされた、地面に縫い付けられたように動かない。
力を入れて足を上げるだけで壊れたが、ちいと遅かった。
既に靄に囲まれ逃げ道がない。
「安心しろ、痛みは無い。あるのは心と魂を喰われる恐怖だけだ」
「戦いの場で諦めろと?無理だねぇ、甘坂の男はそういう風には出来てないんだわ」
(一匁、喰えるか?)
《ムリ、ニガイ。ヒトクチナライケル》
そうか、なら吹き飛ばすだけだな。
俺は一匁を大上段に構え、イメージ魔法を乗せる。
イメージするのは当然、風。
この靄を吹き飛ばす、竜巻。
足りるかな魔力……最近イメージ魔法は、使ってなかったから、腕輪にも魔力が溜まってんだろ、それ頼みだな。
「しっ!!」
振り下ろしと共に爆発する魔力。
足りない!イメージしたのと全然違う!!
《ボクモー》
「え?うおう!?」
ゴウンッ!と神気交じりの魔力の風が吹き荒れ、靄が飛び散り。
……俺も飛んだ。飛ばされた。
ヤベェ、すさまじくピンチだ。
…大体、地上50メートルくらいか?どう着地したもんかな。
空から眺めるファグスの街は閑散として門近くは廃墟だった。
助けてもらってなんだが…。
「…一匁。もう少し加減ってもんを覚えようか」
《?》
空中で体勢を整え、落下しながら着地方法について考えていた。
「一匁、もう一回だ。弱めにな?」
《ワカッター》
地面が5メートルにまで迫った処で風を放ち、勢いを殺して無事着地した。
……真上に飛ばされた訳じゃねぇから、結構離されたな。
大体30メートルか?互いに視界には入っている。
「まあ、まだ一匁に『おやつ』を上げてねぇから。行くんだけども」
《オヤツ……オヤツ!》
うん、なんかテンション上がったみたいだ。
「それに、あいつを放って置く訳にゃいかねぇしな。聞きてぇ事もある」
短角種、魔導兵。
前者はルナの事だ、いずれあいつはルナを狙う……確実に。
だからこそ、ここで仕留めるなり、深手を負わせるなりして注意を俺に向けたい。
「…燃えねぇとか言ってられねぇな」
俺は、一匁を肩に担ぎクソ野郎に向かって走りだしたのだった。
Sideout
『魔神愚連隊(設立完了)』side
これは悪夢か?それとも俺様の判断が間違っていたのか?
結果的に言えば、加護を魔法球に詰める事は出来た。
騎獣として使いたかったため、アリーナンの術式を解明、改造を繰り返しようやくたどり着いたのだが…。
しかしその代償は大きかったのだ…。
ああ、途轍も無くだ。
「バカ言うな!オラのシモーヌの方が可愛いに決まってる!!」
「違うね!俺のマンダムの方だ!見ろよこのつぶらな瞳!もうメロメロだぜ!」
おい、そこの兵士少し黙れ。
自分の騎獣自慢はよそでやれ!せめて。俺様の近くでは、止めてくれ…。
定期的にアリーナンが開く『講習会』。
それに行った者たちは須らくこのような状態だ。
「納得いかないわ!!」
「なにがだ、元凶。これ以上ない出来だろう?…少々予想に反して酷い事になっているが」
元々戦力として求めていたのだ、問題ない……ないのか?
あのチャンターですら頬を綻ばせる程のものを、戦場に出す事をこいつ等は容認するのか?
「ええ確かに。白たんの色違い、黒やティガー柄、まだら模様。素晴らしいと思うわ…。大きさも、仕方ないけど容認してあげる。でもね、肉球は駄目よ!何これ!?滑り止めになってるじゃない!!」
それのどこが駄目なのだ?騎獣にするのだぞ?
「白たんはね、教会や王城の石造りの階段を登れないの。滑るの。可愛いの。……そこを再現しないでどうするの!!?」
「…馬鹿か!?」
騎獣として使うのに滑ってどうする!?
「まあまあ、落ち着いてくださいアルス坊ちゃん」
コイツは『智将』バルマスト・ハイオル。
チャンターの幼さな馴染みで俺様の先生でもある。
見た目は、特筆すべき処が無い若い魔族の女、中身はババァな人だ。
体に張り付く様なドレスを着ている。
見た目的にどうかと思うし、歳を考えろ。
この人がいたら実験は自重せざるえないと思っていたんだが…。
「まずは実用性を検証すべきです。アルス坊ちゃんは、よく滑る階段を作ってくださいな」
「流石バルマスト!分かってるわね!」
イエーイ!とハイタッチする二人。
馴染み過ぎだろうアリーナン!
「考えてから物を言え!実用性なんて皆無だろう!?」
ポンコツの智将なんていらないんだぞ!?
…この二人は異様に仲が良かった。
老将の中で一番最初にアリーナンの餌食になったのはバルマストだ。
得意の人間観察が仇となった、引き込まれたが最後抜け出せなくなって今に至る…。
ワクバランも最近到着したのだが、傷の治療も有り今は使えない。
アマサカイチナ…、本格的にどうしよう。
俺様の天敵オウマまでいるし…。
それに最近ワクバランは、リハビリと称して自作の服を着せて、騎獣と共に散歩しに行くらしい。
敵から恐れられ、味方から憧れの対象となっていた『剣将』は何処に行った!!
それに、暗将に何か頼んでいたが私用だといって教えてくれなかった…。
俺様の味方はチャンターだけか!?いや、チャンターも怪しいが。
ジャンの冷静な顔がよぎる。
くっ!密偵として魔城に出さなければよかった!
最後の希望は『双将』ジャマカダだけか…。
…頼む、早く来てくれ。
「……どうしてこうなった!?」
胃が痛い、俺様神様なのに。
ここは俺様の加護を付けた神の軍団なのに……胃薬作ろう。
…俺様も、アリーナンのように振り切れば楽になるのだろうか?
俺様、白い悪魔よりリザード系のモンスターの方が好きなんだが…。
Sideout
もう一つのサブタイトル『魔神愚連隊 - 後悔のアルス -』こっちにしようか本当に迷った。
byミスター