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猫守紀行  作者: ミスター
88/141

ファグス -使徒ー

ゲリラ投稿です。

鬼side


「くははははっ!!邪魔だ!退けや!!」

サウスに跨り、サウスと共に一匁で斬る、斬る、斬る。

おっとヤベェ、貴族っぽいのを斬りかけた。斬るのは魔族だけだ。

ん?護衛と眼鏡の修道服の男を連れて撤退か?兵は戦ってんのに根性ねぇな。

貴族ってのは、どうも好きになれねぇな。


さっき敵の伝令を捕まえてディニア・クライスカラーらしき人物の居場所を聞き出したため、テンションが振り切れてござる。


そうで無くとも、不思議と昂揚していた……血が騒いでいたと言っても良い。

なにが原因かそんなモノは分かっている。

さっき『猿叫』が聞こえた。

ここにアルケイドがいる、ようやくアイツの本気を拝めそうだ。

魔王城とかの方が雰囲気は有ったんだがね、仕方ない。


カートスも俺に当てられたのか。

俺が買ってほぼ使っていない『可変両槍(カヘリョソ)』を自在に使い、クロハの上で無双している。

クロハは、額の剣で斬ったり、刺して盾にしたりと意外と大人しめだ。

サウスも大分、魔力刃の使い方慣れて来たようで、剣速がグングン上がってる。

黄助に至っては氣を使ってのヒットアンドアウェイで戦闘スタイルの確立にこの場を利用し始めている。


背中のリュックの中で、チビーズがガッサガッサと動いてるが、ちいと我慢してもらおうか。

使徒に近づけばガトゥーネが神気を辿って詳細な居場所も掴める。

後は、ルナ達の居場所さえ掴めれば、なんとかなる!

だから、今はただ押し通る、それだけだ!


《見つけたぞ!一南、ここから南西だ!》

なに!?見つけたか!


「見つけたぞ!神敵!我等は教会対罰… 「くはっ!邪魔ぁ……すんじゃねぇ!!」

なんか名乗ってたが、関係無い。

邪魔するなら俺の敵だ!!


俺達は敵を斬り散らしながら戦場を駆ける。





「いやー、テンション上がりすぎたわ…。すまん」

ガトゥーネの見つけた発言に更にテンションが上がった俺は、そこにたどり着くまでに少々やり過ぎたかもしれない。

そう思って俺はサウスから降りて皆に頭を下げた。


「うん、僕は良いんだけどね。鎧袖一触にされたモンスターや魔族が哀れで…。それに、まさか問答無用で教会の人間を斬っちゃうとか…」

「ブルルッ…」

「グルガァ…」

「ガウッ…」

お前等も同じようなもんだったろうが。

特にサウスは俺の事は言えん。


「ま、俺等がどれだけ頑張った処で戦局を覆せるわけでもねぇ。さっさと使徒様を見つけて頼みごとをしようかね」

「あ、教会の事はスルーなんだ」

何のことか記憶にごさいません。

…テンション上がってる時に邪魔する奴がわりぃんだよ。


《一南、神気を纏った神剣を使えばどうとでもなるぞ?それに、それすらも使わず、この人数でこの戦果を挙げておいて何を言っている。来た道を振り返れそこに答えがある》

うん、俺達の来た道には屍しか残っていないね。

……ちと、やり過ぎたか?


「貰った!!」

「イチナくん!!」

ああ、イカンあまりに衝撃的な事をさらっと言われて呆然としてたな。

背後からの襲撃に気づかないなんて。

情けないねぇ…。


「…背中に喰らう訳にはいかねぇんだよ」

チビーズがいるからな。


俺の脳天目掛け振り下ろされる剣を背を向けたまま避け。

振り向きざまに、足払いを掛ける。

倒れる前に蹴り上げ、氣を込めた掌底を胴体に叩き込んだ。


「ガフッ!?」

水平に吹き飛ぶ魔族兵、まあ、頑張れば生き残れるかもしれないくらいの氣にしといたから。

背後を取られた反省を込めてサービスだ。

ひと思いに殺した方がサービスだって?そんな事はねぇだろ、きっと。


「…後ろに目でも付いてるのかな?イチナくんは」

いや、妖怪じゃねぇし。

戦場の空気に当てられて、五感は鋭くなってるがな。


「いいから、行くぞ」

「うん」

しかし、神気を纏った神剣ね、加減が出来そうもねぇな…。

戦場を斬り伏せるなら、前みたいに今ある神気の1/1000とかじゃないだろうし、味方諸共は勘弁して欲しい。

前の時も、対象とは関係ない建物が意図せず5、6棟斬れたしな…。

まあ、考えても仕方ねぇ、今は…。


「ご対面といきましょうかねぇ」

視線の先には急造の救護施設。

戦場の救護施設か…、神敵以前に怪我人以外の話しを聞いてもらえるか怪しいな。

治癒の使徒がいるにはぴったりの所だがね?


ガトゥーネの指示にしたがい、10近くあるテントの中から一つを選び迷わず入る。

カートスは足取りに迷いがない事を不思議がっていた。

後でガトゥーネの事を教えてやろう。


サウス達とチビーズリュックをおいて、カートスと共にテントの中へ。


テントの中は応急処置だけで済ませた怪我人で溢れていた。

交代で治癒魔法を掛ける魔法使いも疲労を顔ににじませている。


ただ、一角だけ明らかにおかしい場所があった。

椅子の横に棒の付いたアイアンメイデンが鎮座している…。

そこで怪我人の治療をしているのは、修道服に身を包んだバアサン。

だが…、聞こえてきた会話はこんな物だった。


「このメイデンメイスの中に入れば私のやる気と治癒効率が上がるのですよ。さあ、どうぞ」

イイ笑顔だな、バアサン。治療する気ねぇだろう。

ここからは見えなかったがメイデンメイスの中身を見て悲鳴を上げて逃げる怪我人。

その怪我人の後に付いていたフードの男。

フードの男とバアサンが話し始める。

この気配、どっかで会ったような…。


「…あ、王真くんか!?」

なんで此処に?いや、魔軍の戦力として使われても不思議じゃねぇか…。

仲間に会いに来た?…いや、解呪か。


しかし、雰囲気が暗い、近づいてみるか。

取り敢えず、王真くん相手に気配を殺すのは無駄だろうし、サクッと行こう。


《む?神気を3つ感じるだと?しかもこれは……一南、使徒がもう一人いる。気を付けろ》

神気が3つ?3つあって使徒は一人か?もう一つは神具か何かかね?

ま、行くしかねぇか……王真くんの目的が拉致だったら、どうしてやろうか。


Sideout




王真side


伝令の情報とディニアの性格を考えて、この救護施設を見つけた。

後はしらみつぶしにテントを開けたよ。


そして見つけた。

彼女愛用のギミック武器『メイデンメイス』が置いてあったから直ぐに分かった。

椅子に腰かけた彼女は、昔の面影がのこった綺麗な顔立ちをしたお婆ちゃんになっていた。

僕はローブを深く被り直して、彼女の前へと歩く。

…僕の前にいた怪我人の事は忘れよう。


「次の人……え?…王真?」

どうして、分かるのかな…。

僕が無言でいると、ディニアが謝って来た。


「あら、ごめんなさい。人違いだったかしら…。そうね、彼が居るはずないものね…。それで?あなたは何処を怪我したのかしら?」

「これを外して欲しいんだ…」

そう言って、フードを外し顔を見せる。

一瞬驚いた表情を見せるディニアだったけど。


「…お帰りなさい、王真……若いわね」

ディニアは綺麗な笑顔でそう告げた。

若いか、ザッカイスさんにも言われたよ。

でもねディニア、僕に「ただいま」を返す資格は無いんだ。


「…さっき、ザッカイスさんを斬って来た」

「!?……そうですか。ザッカイスは、笑って逝ったでしょう?」

僕には頷きを返すしかできない。


「それならいいの。それにザッカイス程度で落ち込んじゃ駄目。あれは戦があると歳も考えずに前線で戦いたがるような馬鹿なのよ?あなたに会えるまで生きていたのが不思議なのだから。ザッカイスに会ってくれて有り難う」

「僕が!先にディニアの所に来ていたら、ザッカイスさんはまだ…!」

生きていたかもしれないのに!!


「でも、あなたは来れなかったのでしょう?その隷属の首輪のせいで。さあ、外してしまいましょう?それに、頬の傷も治しましょうか」

「頬の傷は治さないで、ザッカイスさんが付けたものなんだ。僕が殺した事を忘れないために付けておきたいんだ…」

「…そう、無理に忘れてとは言わないわ。始めるわね」

項垂れる僕の首にそっと手を伸ばすディニア。

ディニアの手が白く光り、首輪を包む。

だが…。


「これは…、別の加護?それに神気ですって!?これでは、呪いに干渉できない…」

なんだって?

「どういう事なのディニア?」

「この首輪は作られた後で、更に加護を受けてる。そっちは問題ないの、でもね…。神気で解呪できないようにコーティングされてるのよ…」

これを作ったのは術式改造が得意なアルスだ、改造した作品に加護を付けるなんて許さないだろう。

だが、使用したのはガイナスだ、アイツなら間違いなく、やる。

だとしたら付いている加護は…。


「『邪神の加護』か……くそっ!」

邪神の加護は応用が利く、他の神の加護の能力を持っていると言っても良い。

創世神の加護と同列の最古神の加護だ。

共に創造、成長、トイレなどの特化神気は専門で無いと扱えないらしい。

治癒も特殊だ、癒すための使い方が分からなければ、だだの神気でしかない。


魔族が強い理由もこの邪神の加護に有る。


どんな効果が付いているかは分からないけど、多分最低なものだと思う。

例えば、隷属の魔法を魔法紋として刻むとかね…。

そうなるとガイナスの意志一つで、僕は『奴隷』に戻る。

魔法紋を刻む時に使うものは、邪神の加護で代用できたはずだから。

多分これが一番あり得る。


それに、神気の出所は邪神の可能性が高い。

邪神は創世神と対立し対を成す存在だから。

自分の入れたウイルスを消されないように、ガイナスに手を貸したのかもしれない…。


「あー…、わりぃ。立ち聞きしちまった」

「すいません、そんなつもりじゃなかったんだけど…、ごめんなさい」

……!?


「鬼いさん!?」

「あなたは…、神敵の方だったかしら?それにそっちはカートス・マリゲーラね?二人とも有名人ね」

カートス…、この人がAランク冒険者?

この人が?……なんだろう、どことなく女々しい。


「俺も治癒の使徒に用があってねぇ。仲間の解呪をしてくれるなら手を貸すが……どうよ?」

「どうよ。ってあなた、神気ですよ?悔しいですが、どうにもできませんよ…。消えるのを待つにしてもどれだけ時間がかかるか…。もし出来るなら喜んでお仲間の解呪をしましょう」

こればかりは、どうにもできないはずだ。

…だよね?


「よし、約束だ。要は、その首輪の神気が無くなりゃいいんだろ?加護は喰えんだろうが、神気ならいけるだろ。さあ、王真くん……首を差し出せ。心配すんな、痛みはねぇ…」

そう言って、鬼いさんは愛刀の一匁時貞を静かに抜いた。

ああ、確かに、鬼いさんの剣速なら痛みなんて感じないかも知れない。

じゃなくて…、殺れられる!?


「ちょっと、イチナくん!?」

「あなた、王真を殺すつもり!?」

「……僕は約束を果たすまで、死ねないんだ!!」

「あれ?俺悪者?……ああ、すまん、すまん。首輪な首輪。首じゃなかった。お前とやるんだったら、正面からやり合いたいからねぇ。差し出せなんて言わねぇよ」

悪びれも無く、そう言って来る鬼いさんだった。

…笑みを浮かべないでください、僕は鬼いさんとは戦いたくないです。


「王真くんも知ってる一匁だがな。魔石を斬って魔剣になった後、ちいとあって魔力やら神気やら喰うようになったんだよ。だから、首輪の神気を餌にしようかと思ってな」

相変わらず、なんて理不尽なんだ…。

この人が僕の立場ならどうするんだろうか?つい、そんな事を考えてしまう。


「納得したか?したな?してなくてもしろ。さて……餌だぞ、一匁。喰い尽くせ」

ゴリッと切っ先を隷属の首輪にあてがい、イイ笑顔でそう言う鬼いさん。

…克服したはずのトラウマが刺激され体が震え、生きた心地がしなかった。


Sideout




一南side


「納得したか?したな?してなくてもしろ。さて……餌だぞ、一匁。喰い尽くせ」

笑顔で言っては見たものの、言う事を聞くんだろうかこの刀は…。


しかし、まさか王真くんが使徒だとはねぇ。

まあ、ガトゥーネに教えてもらったんだが。

それに仲間を斬ったか……使徒であっても抜け出せない隷属の首輪ね、不幸の一言で終わらせるにゃ、ちと重いな。

せめて、首輪くらいからは解放してやりたい。


(一匁時貞よう、前菜は散々戦場で喰ったんだ、メインディッシュにゃちょうどいいだろ……残すなよ)

《ガンバル》

うお!?片言だが返事が返って来た!?子供のような高めの声だ。

次の瞬間から目に見えて変化が現れる。


一匁時貞の刀身が黒色に侵食されるようにマーブル模様に変わっていくのだ。

「!?やべぇ!無事か一匁!」

慌てて刀を引いて一匁の中の何かに呼びかけた。

王真くん達が不可解な目で見て来るが気にしない、する暇がなかった。


《オイシイ、モット》

…あれぇ?あ、色が戻っていく。

なんでだ!!

《一南、神気の色はどんな神でも白だ。恐らくだが、中の者が今まで吸った神気や魔力で成長し、感情を色で表したのではないか?》

いやでも、黒は無いだろ!?喜んでんなら黄色とかさ…。


「はあ…。まあ、いいか」

「あの鬼いさん?だいじょう…、ひぃ!?」

考えるのを諦め、無造作に一匁の切っ先を首輪に当てる。

《ウマウマ》

よかったねぇ…。


《一南、すまないがこっちも頼めないか?少しでも力を溜めておきたい》

《お頼み申す、その方が効率も上がるかと》

(あいよ。…神気ってのは味がする物なのか?)

一匁時貞を左手に持ち替え、刻波を抜き首輪に押し付ける。

あれ?王真くんの顔色がおかしなことになり始めたな……まあ、いいか。


《いや、我々は食べている訳ではないからな。恐らくそっちの剣にいるのは神とは別物だろうな。魔剣の階位が上がると意志が宿るからな、それかもしれんが…。食欲が有る魔剣など聞いた事も無いな》

だろうな。


《主殿、よろしいか?魔石を斬ったのは一匁時貞のみ。もし神が宿って居たとしても、神気を作れぬ神である事に違いは無かったでしょう。己も神気を持たぬ頃は脆弱な身だった故、一匁時貞の神は魔石を取り込んだ事で形を変えたのかも知れませぬ。一匁時貞は形を変えた神、魔剣の特性に特化した神ではないかと推測いたす》

久しぶりの長文だな、波平。

魔剣の特性ね…、確か吸収と成長だったか?モンスターにも言える事だが、『器』さえ魔力

で満たせば階位が上がり強く成れる。

それを武器でやるから魔剣なんだそうだ。


魔剣自体は簡単にできる。

魔族の作る魔石を武器で壊す事で、器ができて魔剣になるからな。

その魔石の主に操られる事も多々あるのだが。

俺も一回やられたし。


《ウマー》

吸、収か?…成長はまだ分かる、いきなり話し始めたからな。

…消化とかしてんのかね?まあ、推測だからな。


「あの、イチナくん?凄く慌ててたけど、大丈夫かい?」

「ん?ああ、そうだな。これが終わるまで説明しとこうか…」

ルナ達を解呪したらアイツ等にも説明しねぇとな。

俺は刻波と一匁時貞を王真くんの首輪に押し付けたまま説明を始める。


闘技都市でアルスと戦い。

精霊と化したガトゥーネが刻波に宿り、波平が先にいたことが発覚した。

更に一匁の中になんかいる事が最近分かった事を話した。

おい、なんで皆そんな微妙な顔してんだよ?


「教会に反逆して認定さていた神敵だと思っていたら、本当に神の敵だったのですね…」

「実際、神に挑んで生きて帰って来た人はいないんだよ。イチナくん」

…なに?


「え?その程度の理由で神敵認定されるのか?もっとこう、神の顔面に蹴り入れたとか、フルボッコにして川に投げ捨てて神敵認定されたとかよ。そういうハートフルストーリーはねぇのかね」

「鬼いさん…。それ、自分がやりたいことだよね?」

……。


「そ、そんな訳ねぇだろうよ。俺はほら、アルスを斬り散らせれば問題ねぇし?神に戻ったガトゥーネとは正面から戦って勝ちたいとは思ってるが…」

《う、うむ。私もだ、一南。その、なんだ。改めて言うな、恥ずかしい…》

何故照れる?…そう言えば、勝ったら嫁にもらうって言ったから、これがプロポーズの言葉になるんだったな。

…我ながら物騒だな、おい。


「「「……」」」

(((神敵認定は妥当です)))

「あれ?無言?」

《クッター》

《主殿、終わりました》

あ、そうかい。

俺は刻波と一匁時貞を鞘に納める。


「終わったってよ。試してみ?」

「え、ええ…。嘘、本当になくなっているなんて…。でも、これなら」

神気で白く光る手を王真くんの首輪にそっと添わせると、ビキリと音がして隷属の首輪が割れて地面に落ちた。


「これで自由よ…?これは、魔法紋?まさか、この術式、隷属の魔法!?」

「はは、やっぱりか…」

何故深刻そうな表情をしているのかさっぱり分からん。

王真くんに至っては天を仰いでいる。


「面倒臭いなら神気でけしゃいいだろうよ。古き魔法つたってまだ発動してねぇし。ただの魔法だろそれ?発動キーくらいは壊せるんじゃねぇの?」

「イチナくん、凄いね。僕様そんな事思いつきもしなかった」

術式を神気で壊せるのは実証済みだし。

神気を使えるなら思いつくようなもんじゃねぇの?


「あ…、そうか。魔法自体じゃなく、魔法紋の魔力の受信ラインを切ってしまえば…」

「気づいたなら、さっさとやれ。俺んトコも解呪して欲しいんだからよ」

まあ、ルナ達の居場所はこれから探すんだがね?


二人が術式破壊をしている最中にそれは起こった。

ズンッと言う重低音と遠くから聞こえる悲鳴。

そして、飛び込んでくるサウス。テントの中大混乱。

なにがあったんだ?

「ガウゥ!ガウッ!」

「なんだ?…カートス、ちいと見てくる」

分かったよ。と頷くカートス。

そのまま、サウスに引っ張られ外にでる。


「ガウッ」

「……えー」

外に出た俺は、遠目で見てその存在に呆れる。

この距離でも見えるから結構デカいんじゃないだろうか。

ピンクの半球体、それがなんか蠢いていた。

ばらけては敵や味方の兵を大量に捕獲して、言えない事をしでかす何か。

触手、なのか?なんかもう、全体的にモザイクをかけて欲しいんだが…。

くそう、目が良いのは良い事ばかりじゃねぇな…。


《……聖なる魔力の産物だな、創造魔法か。効率の悪い倒し方だ》

あんな物を創造魔法で作る勇者は一人しか知らない。

この戦場に来ていたのは喜ばしい、これで移動されてもサウスの鼻で追える。

だが、今は近寄りたくはない!


「取り敢えず、アレが消えるまであそこには行きたくねぇな…」

きっとアイリン辺りが必死に止めている筈だ。


「イチナくん、どうだった?……あっちは右翼の方だね」

そっと尻を押えながら呟くカートス。

続いて王真くんと、バアサンも出て来た……そうだ!


「王真くん。馬を確保して来い」

「え?」

「バアサンと二人で『アレ』を目印に俺の仲間を解呪して来い。安心しろ道案内は付ける。サウス一緒に行ってやれ」

二人とも使徒だし大丈夫だろきっと。

アレはモンスターは襲ってないしサウスもいけるはずだ。


「え?アレって『アレ』?ええ!?……僕は守り切れるんだろうか」

目を凝らし、何かを確認した王真くん。尻を押えてそう言った。

バアサンと二人の時のシリアス感がゼロになってんな。

いやー、誰のせいだろな、サッパリ分かんねぇなぁ?


「あなた、ええと…「一南だ。甘坂一南」そう、甘坂さんね?あそこに解呪を必要とする仲間がいるのね?「ああ、大事な仲間がな」…分かったわ」

流石に嫁さんというにはちとハズイしな。


「…僕も覚悟を決める。行こう」

いや、そこまで強い覚悟をしなくても……無理も無いか、ある意味貞操の危機だ。

王真くんは馬を探してくると走って行ってしまった。


「…バアサンには、コイツ等を渡しとく。アイリンか、ハチカファにサウスと一緒にチビ共を見せて説明すれば信じて貰えるはずだ。チビ共この人はルナ達を治してくれる大事な人だ、失礼のないようにな?サウス、バアサン共々チビ達を頼む」

「ガウッ!!」

リュックを開けチビーズに声を掛けてから、バアサンにチビーズリュックを渡す。

チビ共という単語に疑問を抱いたのか、受け取って直ぐにリュックの中を覗いていた。


「あら、可愛らしい。よろしくね、オチビちゃん達」

「みー?」

「ぴぴ?」

「……?」

「ふふ。……それで?この仔達を預けて、甘坂さんはどうするのかしら?」

取り敢えず、解呪は任せる。この二人がたどり着くまでくらいは持つだろ。

ルナもいるし、援軍の意味を込めての王真くんだ。

…それに、賞金首が、神敵が関わるよりはいい筈だ。


だから俺は将を打ち取ると決めた。

『猿叫』の響いてきたのは、確か中央、城の方角だった。

それに、さっきから嫌な感じがするんだよねぇ…。


「俺は中央の軍の援護でもしてみるさ、城を落としに来るだろうからな…」

この嫌な感じがなにか分からねぇが、きっと碌な事じゃねぇ。


「なら、僕様も行くよ。だから、その……クロハをもう少し貸してほしいんだ、駄目かな?」

いや、馬探して来いよ。

あと、涙目で懇願すんな。


「グルゥ」

「黄助?…乗れってか?」

「グルガァア!」

…ネコ科の黄助、むしろ虎。

乗り心地は悪そうだが、まあいいか。


「見つけて来たよ」

王真くんも返って来たようだし、行くか。


「…二人とも、仲間を頼む。カートス、クロハに乗れ。…クロハすまんな」

「有り難う!」

「ブルルッ」

…このままクロハを取られるんじゃないだろうな?無いか、カートスだしな。

バックルに魔石を補充し黄助に跨る。


「さて黄助、行くぞ!」

「グルガァアアア!!」

俺達は邪魔する敵を斬り散らしながら、王城へと向かうのだった。


Sideout

可愛そうな教会対罰者様、テンションの振り切れた鬼の前に描写すらなく散りました。

背後から狙った兵の方が活躍する不思議。


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