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猫守紀行  作者: ミスター
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ファグス - 約束 -

遅くなりました!

腐敗勇者side


「凄い数だね……やっちゃおうかな?」

これだけ数がいるなら私の禁断の魔法を使っても良いよね?

敵とか味方とか判別できないけど。

イケメンかショタにしか効かないけど。

使っても良いよね?


禁断の対軍妄想魔法…『産地直送・触手フィーバー』を!!

あ、産地直送は妄想から直接生み出すのとSAN値をかけてるからね?

ひぎぃは女性だけの特権だけでは無い事を教えてやろう!!

やって見たかったんだよ、男性と触手の絡み。

ちょっと趣味とは外れるけどね?


「ぐふ、ぐふふふっ…」

おっといかん笑いが漏れた。


「なにか嫌な予感がします…」

「そうですね~」

なに言ってんのアイちゃん、ハチカちゃん。

大丈夫だよ、私達女性に害は無いから。

マッキーも……うん、大丈夫!

だからそんなに引かないで。


「魔法っすか?まだ気づかれてない内にやっちゃたほうが良いと思うっす。突っ込んだら乱闘確実っすから」

「……ふぃーばー…駄目…止めて」

パー子ちゃんが私の服の裾を握って切実に止めに来た!?

……これはこれで、萌えかもしれぬ。


「なんじゃ?ふぃーばーとは?止めとけ、お主の創造魔法に碌な物はないからの。せっかく特訓したんじゃ槍でやってみい。我は一足先に勇者に合流して神具を届けてくるからの、仕事は完遂せねばなるまいて」

「そうですね、僕もそう思います。この規模だと将も出てる筈ですし、早く渡さないと勇者様も危ないかもしれません。アンナさんのフォローは僕がしますから、やるだけやって見ましょう?」

ぐぐっ!そんなに私の魔法は嫌か!?…仕方ないかあ、やってやるさ!

女は度胸っていうしね!


「分かったよ、でも危なくなったら使うからね」

「それでよい、行くぞ!!」

許可貰いました!…でも、護衛にガチ兄貴くらいは出そうと思います。


Sideout





アルケイドside


「キィエァアアー!!」

蜻蛉の構えから、眼前の敵に打ちおろす。

一撃必倒、一刀両断。

気迫で押し潰し、剣で断ち切る。

相手が弱かろうが強かろうが魂を込めて、ただ打ち込む。


「アルケイド様!!中央にてザッカイス・ウォルターと勇者を発見しました!」

「…そうか、見つけたか」

刀に付いた血を払い、走り込んで来た伝令へと顔を向ける。


「もう一人の英雄はどうした?」

「ハッ!左翼にてそれらしき人物が支援活動をしているとの報告が上がっています。それと、右翼にて『時姫』ファルナーク・サリスとシェルパの勇者が目撃されたそうです。いかがいたしましょう?」

中央はリリスがいる筈だが、戦力が集中しすぎている。

リリスでは少々心許無いか。

古き英雄も英雄同士纏まっていれば良いものを……仕方ない。


「左翼の英雄は捨て置けもし本当にディニア・クライスカラーの場合被害が馬鹿にならん。ザッカイス・ウォルターの事と共にタカヒラにでも伝えておけ。右翼は戦力を集中させて勇者を潰せ……副長!」

タカヒラ、チャンスはくれてやったぞ?これが活路だ、生かしてみせろ。

お前はガイナスに使われていい男では無いはずだ。


「はい、何でしょうか?」

俺の隊の副長をしているバミ・ラクだ。

突出した戦闘能力は無いが仕切りが上手い。

誰よりも兵の事を知っていて、俺が不在でも隊を回せる稀有な存在だ。


「俺はリリスの援護に向かう、使える奴を選出しろ。俺が出た後は…」

タカヒラはディニア・クライスカラーの方へ向かうと考えて動く。


「隊を押し上げて、モンスター共々城になだれ込みますよ。何だかんだいって、やっぱり大事なんですね。分かりました、と言うか選んであります。リリス様がピンチになったら言い出すと思ってましたから。それにこの戦はよほどのイレギュラーが無い限り負けません」

…違う、リリスは苦手だ。

だが、好意を寄せてくれる同族に……死んで欲しくは無い。

それだけだ。

しかし、イレギュラーか。

シェルパの勇者はまだ未熟。

時姫がいるとしても右翼の戦力を集中させれば身動きが取れなくなるだろう。


しかし何だ?この感覚は…。

まるで奴と斬り合った時のような昂揚感……ああ、そうか。


「来ているのか。…後は、任せるぞ副長」

「来ている?何がですか?あ、はい分かりました」

確信は無い。

だからこそ、選出された兵と馬を連れ、足早に救援へと向かう。

奴を、一南を探しながら。


Sideout





???side


「無理ですよ師匠!?僕に人は斬れませんー!!」

鞘に入ったままの大剣サイズの聖剣を振り回し、こっちに来るなと切に願う。


僕の名前は、栗原光樹、16歳。

シーバンガっていう国で召喚された、特に特徴も無い、背は150cmで低めですけど。

女顔の影の薄い、ごく普通の高校生です……嘘です3cmさば読みました、147cmです。

部活は茶道部に所属していました。

先生に「栗原は、欠席か?」とか本気で言われるタイプですよ!?

女子からは小動物とかショタ子とかあだ名を付けて貰いましたけど。

そんな僕が、斬れる訳ないじゃないですかぁ!?


「甘えるな、光樹!!今までの訓練の成果を出して見せろ!」

そう言いながらザッカイス師匠はバッサバッサと魔族を斬っていく……うう、見ていて気持ち悪くなってきた。

この人が僕の師匠、本当ならの勇者パーティーの師匠になるはずだったんだけどね…。


このファグスに着いて宿をとって起きたら、抱き枕にしていた聖剣以外何も残って無かった。

パンツ一枚と聖剣を担いでなんとかザッカイス師匠に会って調べて貰ったら、付いてくるはずのパーティーは全員無名都市出身の詐欺師集団だった。

選出は大臣の仕事らしいから、女王陛下は知らないらしい。

大臣が誤魔化すために指名手配もされないんだって、彼らは大仕事をやり遂げた訳だ。


…僕の制服とか、学校鞄とかも持ってかれて最初は凄く泣いた。


「俺達が負ければ、奴等は王都の制圧を開始するのだ!気合を入れろ、バカ者が!!」

そうだ、そうだった。

負けられないんだ、王都の人の為にも、僕を心配してここに送り出してくれた女王陛下の為にも。

だって、僕は…。


「僕は、勇者ですから!!」

ザッカイス師匠にならった踏込で、正面で剣を振り上げている魔族に向かって踏込み。

鞘の付いたままの聖剣を胴体に叩き込み、振り抜いた。


……あれ?水平に凄い勢いで飛んでいったんだけど?

後ろから来ていた魔族たちが巻き込まれて大変な事になってるんだけど?

ザッカイス師匠は軽く流してたから、まさかこんな事になるなんて…。


「ご、ごめんなさい!?」

思わず謝った僕は悪くないと思う。


「誰に謝っているんだ。それよりも、…来るぞ」

来る?なにが?そう聞こうと思ったら、戦場では一際異質なゴスロリの格好をした魔族の女の子とフードを深くかぶった……え?人族?


「やた☆勇者と英雄が一緒だし☆アル様への好感度を上げるためのポイントになってね☆英雄は任せるよ奴隷君☆」

その言葉に奴隷君と呼ばれた人は、ただ無言で返すだけだった。


「…っ!」

この子、他の魔族と魔力の桁が違う!!

もしかして魔軍の将!?


「ザ、ザッカイス師匠!…え?」

あれだけ余裕のあったザッカイス師匠が、対峙するだけで汗を浮かべてる!?


「光樹、あのフードの男には手を出すな。そこの小娘程度ならお前でも本気を出せばやれるはずだ。良いな、なにがあっても手を出すんじゃないぞ」

見たことも無いような険しい顔……何があってもって、そんなに強いの?


でも、僕が女の子に本気で剣を振れるのかな…。

違う、やるしかない。

やらなきゃダメなんだ、じゃなきゃ王都が落ちる。

僕は初めて大剣タイプの聖剣『グラクニス』の鞘を外した。

その刀身は美しく輝き、これからの事を考えると吐き気を催すほど忌々しかった。


「いっくよー☆」

黒い釘バットを持って突撃して来る女の子。

この子、僕をザッカイス師匠から引き離すように動いてる!?

…やるしか、ないんだ!!


「うわあああっ!!」

振り上げから叩きつけるように『グラクニス』を振り下ろす。

「おっそーい☆…えっ!?」

軽く回避した女の子が驚愕の表情を浮かべる。

地面が割れたのだ、5メートルくらい。


「…え?」

シーバンガの勇者は攻撃力重視ですよ。って女王陛下から言われていたけど……これなの?

当ったら死んじゃうよ!?


「小っちゃい癖に凄い力☆こっちも本気でいっくよー☆」

「貴方の方が小さいです!ほわあっ!」

止めてください、死んでしまいます!?


Sideout





王真side


僕への伝令の報告を聞いたリリスに連れてこられた。

まさか、ディニアに会う前に、この人に会うなんて……くそっ!


首輪の呪いは命令を拒否する事を拒む。

その事を知っているからこそ誰も付けず『遊撃』の任を与えたアルケイド。


…間抜けだった、ディニアがいると思って安心してた。

まさかこの子の「ほら行くよ☆」が命令に分類されるとは思わなかった…。

活路を見出したければ生きる事だ、か。

僕は、唯一のチャンスを潰してしまった…。


「光樹、あのフードの男には手を出すな。そこの小娘程度ならお前でも本気を出せばやれるはずだ。良いな、なにがあっても手を出すんじゃないぞ」


ああ、ザッカイスさん…。

本当にお爺ちゃんになっちゃたんだね。

昔と比べると覇気がない、闘気も弱い。

僕と対峙して汗を浮かべるような人じゃ無かった。


…僕は、この人を斬らなきゃいけないのか?

ザッカイスさんにならった武術で、ザッカイスさんに褒められた剣技で。


……せめて、気づかれない内に一撃で。


反りの浅いシャムシールの鞘に左手を添える。

僕がしたのはそれだけ、たったそれだけなのに…。


「…?…王真?」

「あ、…なんで」

なんで気づくんだよ…、気づかれるような動作じゃないはずだ。

…気づかないで、くれよ。


「まさか、本物か!?…手が鞘にいった時、親指が鍔に触れるように添えるのはお前の癖だ。ディニアなら何もしなくても見抜くだろうな……何故『そちら』側にいるんだ」

僕は諦め、フードを取る。


「…若い!なぜそんなに若いのだ!!くっ、ディニアが報われないな…」

そこかい!?でも、ディニアが報われないってどういう事だろう?


「いやそれよりも、隷属の首輪か…。どうやったかは分からないが、今は魔王の手下という事か?ディニアが喜んで解呪してくれるだろうが……そうもいかないようだな、魔王は俺の命が御所望だなんだろう?」

そう言って僕に向かって剣を構えるザッカイスさん。

僕は小さく頷きながら、震える右手を剣の柄に乗せる。


「僕の心を折りたいみたいだよ。…ガイナス、様は」

「ガイナス!?あの性悪の小者がお前の主だと!!だからあれほど殺しておけと……いや、終わった事を言っても仕方ない。これも運命だと思うしかないか」

小者、か。そうだね、その通りだ。

その小者に良いようにされてる僕は、なんなんだろうな…。


「…嫌な、運命だね。本当に運命なら神を呪うよ僕は」

「俺もだ、せっかく会いたかった奴が目の前にいるというのに、話し合いじゃなく殺し合いだからな。しかも、若い」

若いは関係ないよね?


「行くぞ王真。お前が勝ち取った平和、その50年間の感謝を剣に込めて叩き込んでやる」

ザッカイスさんは昔みたいにニヤリと笑った。

多分ザッカイスさんは、この戦いの結果が分かっている。

僕は涙をこらえて柄を握る。


「うん……いくよ」

僕とザッカイスさんは同時に踏み込み、一瞬の交差をしてそのまま背中合わせになった。


「歳はとりたくないものだな…。昔は見えていたお前の剣閃が全く見えなくなった。かすり傷が手一杯とはな」

それは創世の神から身体能力の底上げをされているからだよ…。

ザッカイスさんは闘気や覇気はともかく、剣の腕は衰えて無かったよ…。

防御力重視の勇者の僕に、その歳で傷を付けれるのは流石だよ…。


僕は頬から流れる血をそのままに、シャムシールに付いた『血』を眺めた。


「…ごめん、ごめんなさい」

「謝るな、王真は50年もの平和をくれた。俺を含め昔の仲間にお前を恨む奴はいない。お前と最後に戦ったのは、先に逝ってる奴等への良い土産話になる。…ガハッ!」

ビシャっと血を吐く音が聞こえ慌てて振り返り、倒れるザッカイスさんを受け止める。


「ザッカイスさん!」

「分かっていただろう?泣くな王真。出来れば光樹…、シーバンガの勇者には手を出さないでくれ。あいつは剣の腕はともかく昔のお前によく似ている。お前と比べると悲壮感に欠けるがな」

ザッカイスさんは、リリスと戦っている少々危なっかしい勇者に目を向ける。

光樹君と言うのか…、必死すぎてこちらに気づいていない。


「分かった、分かったよ!だから…!」

死なないで。でも、自分で斬っておいてその言葉は吐けない。

そして、自分で斬ったからこそ……致命傷だと分かってしまう。


「それとな、次は必ずガイナスを殺せ。俺の分も含めて細切れを希望する。……それじゃな、こっちにはジジイになるまで来んなよ?………」

最後に昔の口調になってニヤリと笑い、ザッカイスさんの体から力が抜けた。


「うん、分かった…」

…僕が殺した。

命令だった、奴隷だから、とか言い訳は出来ないし、しない。

僕が、仲間を、殺した。

その事実に心が死んでいくのを感じる。

心を殺す方法はザッカイスさんに教わった、でも死んでいくのとは意味が違う。

それでも…。


「…約束するよ、ガイナス、様は殺す」

こんな時でも様付させる呪いが恨めしい。

ディニアがこんな僕の解呪をしてくれるか分からないけど、探そう。

約束は必ず果たす、それまでは泣く事も叫ぶこともお預けだ…。

僕はその場にザッカイスさんの剣を突きたて、ディニアを探し走り出す……。


「待ってください!!」

光樹君か…。

僕は光樹君の話を聞くため振り返った。

あれだけ必死に戦っていたのにリリスはもいいのかな?

……そうか、待ってもらってるのか。

なんて言うか、ずれてるなリリスもこの子も。

リリスは命令すれば僕を止められる筈だけど、アルケイドに何か言われてるのかな?


ん?この子、泣いているのか…。


「ザッカイス師匠とは、短い付き合いでしたけど、大好きでした!」

僕もだよ。

「命令だからとか、奴隷だからとか言い訳はいりません!」

しないよ、僕が斬ったんだから……言い訳なんて出来ないさ。


「僕はあなたが許せない!師匠に手を出すなと言われました。今の僕じゃ勝てないからです。でも決めました、あなたを斬ります!今できなくても必ず!!」

「僕には約束したことがある。でも……それも良いかもしれないね」

それだけ言って、僕はこんどこそ、その場を後にした。


背後から、「もういい?さ、やろっか☆」「ぐすっ…。はい…」という声が聞こえ直後、剣撃の音が響き渡っていた。


Sideout

腐敗と王真の落差がひどい・・・。

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