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猫守紀行  作者: ミスター
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戦の始まり

ファグス王都 -ザッカイスの屋敷-


「よく来たな……とでも言えばいいか?久しぶりだなディニア」


ディニア・クライスカラーにそう告げたのは、御年70歳のザッカイス・ウォルターだった。

細身の老人だが、目の光は衰えておらず、武人の眼というに相応しいものだった。

ゆったりとした体格を見せない服を着てはいるがその体は歳を感じさせない程鍛え上げられていた。

鞘に入った厚みのある両手剣を片手に、玄関にて客人を出迎えた。


「老いたな、お互いに。死んだと聞いたが、やはり生きていたか。……その装備は如何にかならなかったのか?目立ちすぎる。…それとはみ出しているぞ」


「私がそうそう死ぬと思いましたか?久しぶりですね。…ザッカイス私は逃げて来たんですよ?これでも最小限の装備です。はみ出している?昔のように露出のある物を着ている訳では……あら、いやだ。はしたない。ホホホ」

ディニア・クライスカラー、御年68歳。


ゆったりとした修道服に身を包んだ、髪の長い品のいい老婆だが、昔は相当に美しかったことが窺える。

腰には鞭と太めの鞘に入った細剣、そしてなぜかペンチ。

背中には『アイアンメイデン』を小型化し頭部の部分に持ち手の付いた自称メイスを背負っていた。


既に中になにか入っているようで、モンスターの指らしきものが絶え間なくビクンビクンと動くのが見えた。


「相変わらずエグイ…。さっさと殺してやれ。治癒の神気を流すのを止めてやればすぐにでも終わるだろう?…神気をそれに使ったのが原因で教会に軟禁されたのだろうに」


「…そう、ですね。久しぶりに外に出ましたから、はしゃぎ過ぎたかもしれません」

バツの悪い顔をして、神気を止めるディニア。

しばらくして絶え間なく動いていたモンスターの指の動きが止まる。


「ハァ…。『拷問聖女』は健在か」

その呟きは、幸いにもディニアの耳に入る事は無かった。

「…さて、中に入ってお茶でも飲もう。…それは置いていけ」

渋々、棒付きアイアンメイデンを玄関の隅に置くディニアだった。


屋敷の一室でメイドにお茶を運ばせ、二人は昔話をしながらティータイムを楽しむ。


「…お前は、知らないだろうが王真の奴はウォルガイに帰ったその日に『強制送還』された。かつての王は、王真を恐怖の対象として見ていたらしい。本来なら子を儲けるまで帰される事は無いのだが、王に発言権を持つ聖女様が教会に取られてしまったからな」

そう言ってディニアの方を見てにやりと笑った。


「知っていますよ、何年教会都市にいたと思っているんですか。引き止めるだけなら貴方でも出来るでしょうに。…王真はそれに従ったのでしょう?優しい人でしたから、人や魔族を斬る事に耐えられなかったのでしょうね。いつも心を殺して敵を斬ってましたから」


「余りにも無様だったから心の殺し方は俺が教えた……剣で教える事は無かったからな、こっちの武術を色々齧らせては見たがね。剣では間違いなく最強の勇者だ。しかし…」

流石、恋するババアだ、よく見てる。と思わず口にするザッカイス。

返答には、風を切って細剣が振り抜かれた。

ギリギリで座っていた椅子から飛び退き、躱すザッカイス。


「なにしやがる!?」

「ホホホ、口調が昔に戻りましたね。当っても大丈夫ですよ、細かい返しが付いてますから傷口の治りが遅くなって血がよく出るだけですからね?…昔のように麻痺毒は仕込んでませんから」

「エグイ!?しかも治すとは言わないんだな!?唯一の安心できる処が毒を仕込んでない処なのはどうなんだ!?」


「…二度とババアと言わないで、分かったかしら?ザッカイス」

恋するは良いのだな?と思いながら、ディニアの有無を言わせぬ迫力にコクコクと頷き席に着くザッカイスであった。


茶をすすり、一息ついた処でザッカイスが話し始める。


「ふう。シーバンガの王女陛下は、お前を死んだという事で正式に発表したぞ。教会はまだ『治癒の神気』を持つお前を放したくないらしいがな。俺の所にも教会の者が来て、お前が来たら捕縛するようにと言っていた。もちろん仲間を売る気は無いが」

ザッカイスは、そこでまた茶をすすった。


「そうでしょうね、教会都市では上層部の延命のために力を使わされましたから。おかげで待遇はよかったですよ。今教皇になっている男に夜這いを掛けられましたが、縛り上げて外に吊るしておきましたけど」

それぐらいですかね危なかったことは。と特に思い出の無い教会都市の生活で一番濃いイベントを口に出した。


「あの色ボケ教皇か…、よくその程度ですませたな。で、ディニア。これからどうするのだ?」

「……ウォルガイへ戻ろうと思います。滅んだとは言っても、故郷です。私の帰る場所はあそこですから」

「そうか…。せめて今日くらいは俺の屋敷で休んでいけ。俺は城に上がってシーバンガの勇者を鍛えなければならんのだ。性根から鍛え直さねば、しんぱ……無様過ぎて戦いに出す事も出来ない」

「フフフ、相変わらずですね。ザッカイス……有難う御座います」

おう、と返事を返すザッカイス。

二人の間に穏やかな空気が流れる。

そんな時、王都ファグスの物見塔からの警鐘が響いた。


「!敵襲か!!」

「…そのようですね」

ザッカイスは嬉しそうに、ディニアは険しい表情で立ち上がるのだった。


Sideout





腐敗勇者もとい高松安奈side


「あれがファグス……なんか王城って何処も同じ格好のお城だよね」

もっとこう、斬新なデザインは無いのかな?デザイナーマンションみたいな。

馬車の席に一緒に乗っているハチカちゃんにそんな疑問をぶつけてみた。


「王城ですから~」

「答えになってないよ?」

ザックリしすぎて全く分からないよ。


「え~と~、ですね~。王様に上下関係は無いと言う現れらしいですよ~?過去には~、他より立派なお城を立てて戦争になった事も有るそうです~」

なんか、心が狭いなこっちの人。

そんな理由で戦争とか情けないなあ。

そんな事を考えながら談笑していると、先行していたソルファちゃんとファルっちが戻ってきた。

なんかあったの?


「皆さん!!」

「王都が魔軍に襲われとるようじゃ!軍が展開しとる!このままでは、届け物が間に合わん!急ぐぞ!!」

休憩は?ベットは?美味しい料理は?……無しですか、そうですか。

魔軍が来るのは聞いてたから知ってたけどさ、もうちょっとこう、ね?


「急ぎましょう!」

「マジっすか!行くっす!拳が唸るっす!!」

「……ごーごー」

アイちゃん、筋肉、パー子ちゃんが馬車の中から顔を出し急かす。


「…許すまじ!魔軍!!」

髪とかお肌の手入れとかしたかった。

ファグスのイケメンを掛け算したかった…。

この憤り、腐力に変えてぶつけてやるぅ!!


Sideout





バルクside


どっかのアジト


「へぇ、あの白いのが枷を壊して回ったね…。聖なる魔力かな?先天的に持ってるとしたらとんでもない値打ち物だね。…それに白い蛇を生む剣に魔力を食べる剣か。やっぱりクロナンを囮に使ってよかったよ。ありがとう『アミィ』」

この情報を渡すだけで賞金額が跳ね上がりそうだね。


「別に、カオスイヤーとズームアイで何時も通りの情報収集だったし。バカ親父とクロナンが注意を逸らしてたから、ばれてないと思う。それよりさ、よかったの?アマサカを敵に回して。何の躊躇もなくクロナンの背骨砕いてたよ?バカ親父だったらどうなるんだろう……見てみたいかも」

我が娘ながら、酷い事言うなー。

ちなみにアミィは『小規模転移球』で戻ってきてるからね?

ちょっとした伝手からの横流し品なんだけど、勿体なかったかな…。


アミィは動きやすさを重視してかなりの軽装……何時もの服だね。

オープンフィンガーグローブの内側には、カオスイヤーの魔法紋を施し、専用の補助術式も刻んである。

背中にはチューブトップで隠せるようにズームアイの魔法紋が刻んである。

僕が娘をただ溺愛してる訳ないでしょ?

戦闘能力はほとんど無いけど、子供ってだけで情報は入りやすいんだから使わなきゃ損だよね。

…しかし、鬼だね白守くん。


「大丈夫さ。僕達は教会と手を組んだんだからね。アミィの持ち帰った情報は有意義に使わせてもらうよ。さ、お母さん達の処に……あ、今は教皇様のお相手中か」

いやー、一晩でうちの娼婦を全員相手にするなんて、とんだエロジジイだよねー。


まあ、そんなエロジジイだからこそ女と情報を提供できて、何時でもトカゲの尻尾切りが出来る僕と手を組んでくれたんだろうけどね。

ま、尻尾切りなんてさせないけど。

流石、教会。探せば探すほど、黒い情報が集まる。

これを使えば僕と手を切ろうなんて思えなくなる……それ以前に娼婦達で骨抜きだけどね?


「お母さん達はお仕事かー…。バカ親父の相手してても仕方ないし、どっか遊びに行こうかな?せっかくの『王都』だし」

「酷いなー。ま、僕もやることがあるからね。……『女王陛下』の弱みを握るっていう大事な仕事がさ」

裏で覇権を握る教皇様と僕。

…イイじゃないか、頑張っちゃうよ?


そういえば、白守くんは、今頃は目的地だね。

クロナンの施した『探査術式』がちゃんと動いていて嬉しいよ。


たしか魔軍の侵攻が有るって情報が『手』から入ってたね。

そのごたごたを狙って…、とも思ってたけど、ちょっと白守くんに対抗できる手札が、今は無いんだよねー。

僕は僕の仕事に精を出して、教会に白守くんの剣の情報を売ろうかな?

勘違いさせる方向でさ?神剣辺りが良いかな?

魔剣なんかとは喰いつきが違うよね。きっと。

楽しく踊ってくれるはずさ、教皇様へのいいアピールにもなるしね。


「フフ、悪だくみって楽しいなー」

「…程々にしなよ、バカ親父」

聞こえなーい。


Sideout





一南side


「おい、盗賊くずれ。ここがファグスか?」

転移方陣から出たのは廃墟、だが妙に綺麗に掃除されている。


「俺にはバクナゲンと言う名前があってだな…「質問には答えような?」…そうです、王都の外にある貴族様用の出入り口です。いい加減襟首を放してください、お願いします」

貴族様用か、だから掃除してあんのかね。

まあ、掃除するなら入り口の所に隠れている2人もついでに掃除すればいいのに。

見張りか何かかね?

カートスに目配せすると分かったように頷いて見せたので、盗賊くずれを放すついでに投げる。


「ふんっ!」

「えっ!ちょっと!?ぶべらっ!?」

一人はカートスが木の壁越しに貫き、もう一人は木の壁ごと盗賊くずれと一緒に吹き飛ばされた。

へぇ、流石はワクバランの弟子か、いい腕してやがる。

まるで流れるような動きだ、素晴らしい。


「みー!みー!」

「ぴぴー!」

「……!?」

「…お遊びじゃありません。列を作るな」

順番に並んでも投げないからな?

投げないと分かったのか、白が羽を広げ白ライダーテンになって、すごすごとクロハの上へと戻っていった。

なんか悪い事をした気分になるのは何故だろうか…。


「……壁、脆いな。もっと頑丈かと思って強めに投げたんだが、死んだか?」

俺達は廃墟から出て盗賊くずれ達を確認するため近づいた。


「僕様の方は、仕留めきれてたよ。この鎧、皮かな?色で誤魔化して騎士鎧に見せてるけど、ここの護衛に雇われてた盗賊かな?……いろいろ砕けちゃってるね」

腕や脚、あと首が致命的な折れ方をしているな。

おお、アバラもボロボロだ。

…盗賊くずれはどうなった?逝ったか?


「ぐぐぐっ…。酷い、放せとは言ったよ?でも投げろとは言ってないですよね!?」

腕がプラプラしてる、首もどこかおかしいが…。

「…頑丈だなぁ、お前」

「すごいね、彼。こんなになってまで喋れるなんて……ちょっと怖いよ」

全くだな。


「装備のおかげだな、感謝しとけよ?」

「反省なし!?普通は人を投げるって選択はしないもんだよね!?」

なに言ってやがる。


「目の前に手ごろな盗賊くずれがあったら投げるだろ、普通」

「…イチナくんって、意外と過激なんだね」

「そうか?」

うん。と頷くカートス。

…確かに元いた世界では、やらなかったな。

こっちに来て色々溜まってた物が解放されてる気がする。


「とんでもねぇ旦那に捕まっちまった…」

痛みを通り越して普通に会話する盗賊くずれ。

まあ、ファグスには着いたからコイツは置いといてもいいんだが。


その時、お座りしていたサウスが突然、何かに気が付いたように吠えた。

「ガウッ!」

「どうした?サウス」

次の瞬間、カーン!カーン!と警鐘が鳴り響く。


「イチナくん!ファグスに敵襲だ!」

「くはっ!来て早々かよ。カートス、治癒の使徒は戦闘に出てると思うか?」

「分からない。でも戦闘で傷ついた兵や民衆を癒すために出るかもしれない」

どうしよう、まともな方法が思いつかない。

カートスは、いい奴だから巻き込めないな……。


「カートス。お前はギルドに行って国の援護にまわれ」

「イチナくんはどうするんだい?」

俺か?俺は…。


「賞金首らしく……拉致る」

「え?…ええ!?らち、拉致るって、使徒様をかい!?」

それ以外になにがあるよ?


「いやまあ、真正面から頼みこむってのも考えたんだがね?俺、神敵だし。いうなれば使徒の敵な訳よ。話を聞いてくれるかも怪しいから、ちいと強引にオハナシしようかと…」

「旦那、それ俺達のやり方ですけど…」

うるせぇよ、盗賊くずれ。

…分かってんだよ、んなこたぁよ。


「賛成できない。だから僕様も行くよ。僕様がいれば多少は信用してもらえるでしょ?」

眩しい、カートスが眩しい。

まるで後光が差しているようだ。


「…おう、有難うな」

「旦那、俺は…「寝てろ」ぐふぅっ!?」

折角の感動に水を差しやがって。

大丈夫、死んじゃいない。

首はすでにヤバい感じだから、鳩尾にアリーナンを沈める程度の強さで拳を叩き込んだだけだ。

…うん、死んでない(だけ)。


「うし!なら、急ぐぞ!カートス」

「うん!…あ、馬が無い」

……クロハに頼んでみようか。

俺は……サウスに乗せて貰おう。

そう思い、うちの家族に頼み込んだのであった。



俺はチビーズの入ったリュックを背負いサウスに乗って地を駆ける。

カートスはクロハに黄助と乗って貰った。

取り敢えずは王都のはずれから移動しなくちゃ話にならん。

クロハにはちいと我慢してもらおう。


「凄い、このバトルホース普通のバトルホースより全然速いよ!僕様もバトルホース買おうかな」

「野生で捕まえて来い。その方が絶対良いから」

どのくらい違うかと言うと、事務仕事を嫌々やるOLと仕事に誇りを持った職人くらい違うから。


「さて、何処にいるのかねぇ…。使徒様は」

そう呟きながら戦場を目指す。


Sideout





王真side


眼下に広がるのはモンスターの群と魔族の部隊。

いつか見た決戦の舞台を思い出させる光景だ。

ファグスの兵の士気も高い、でも…。


「どうだ、タカヒラ。50年前とは逆の立場になった感想は…。すまん、聞くまでも無かったな。許せ」

「…アルケイド、様」

鬼いさんと同じような雰囲気を持つ魔軍の将…。

戦えば負けるとは思えないけど、今はそれを考える余裕も無い。


「…本来なら、ザッカイス・ウォルターは将である俺が討つべき相手だ。貴様は雑魚を片付けていればいい」

「止めてください…。僕だってこんな命令聞きたくないんだ!!…すいません、お心遣い感謝します」

そう言いながら忌々しい首輪に触れる。

何度か首輪に神気を流してみたけど、外れる気配は一向に無い。

やはり彼女じゃないと駄目なのか…。

生きていたらお婆ちゃんか…、ザッカイスさんも70歳になってるはず。

戦場に出てるのかな?……立てなくなってても、出てくるだろうなあの人は。

そういう人だから。


「強化版の隷属の首輪か、アルス様も余計な物を作る。やると言うのならやり通せ、活路を見出したければ生きる事だ。老いても英雄、その技量はお前がよく知っているはずだ」

確かに僕は、ザッカイスさんからこちらの武術を仕込まれた。

聖剣が両刃の直剣だったため、その剣に合わせて居合が出来るように最適化した結果だ。

でも、どうしてそんな事を言うんだ?

それに活路って?


「……我々が一気に攻めないのは、ここに勇者がいる事と老いた英雄がもう一人来ているという情報を掴んだ事にある……お前とも戦ってみたいものだ」

ここにディニアがいる?本当に?

それに、それは敵になれって言ってるんですか?


「フッ、気にするな。まずはお前よりも一南からだ、賞金首になった今、何時会えるか分からないがな。さて、そろそろ出るぞ準備をしろ」

あれは本気で言っていた、それに鬼いさんの名前を知ってるって事は一度やり合ってる?

この人と鬼いさんが出合ったら間違いなく戦いになるのは目に見えてる。

でも…


「はい、分かりました」

…何となくだけど、この人には死んで欲しくない。

そう思った。


Sideout

ファグスでの話は何々sideが多くなります。

読みにくかったらごめんなさい。


byミスター

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