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猫守紀行  作者: ミスター
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予想外の来客

予想外の休みをもらったので、書き上げました。

俺は黒服に案内された娼館の一室でチビーズ達と一夜を明かす……予定だった。


「…寝られるか!予想はしてたが音漏れがひでぇ!アレか?態とか?気分を盛り上げるための演出かなにかのつもりか!?」

腰掛けていたベッドから立ち上がり、吼える。

こちとら、禁欲生活だぞ!?

いや、ここで普通に寝る奴の方がおかしいのかもしれんが…。


《落ち着かれよ主殿、聞き慣れれば中々の輪唱、楽しめますぞ》

「……お前とガトゥーネを一緒にしといていいのか本気で悩むな」

ガトゥーネに鎧武者と聞いていたから堅物かと思っていたら、とんだエロ親父だな波平。


《波平の事は気にしなくていい。中身が無いからな、文字通り鎧だ。こちらで言うリビング・アーマーに近い、なぜ中身のない鎧の姿をしているのかは分からないがな。……波平の声はどうやって出しているのだろうな。そこが疑問だ》

ふむ、刻波は戦国時代に打たれた刀って訳でもないしなぁ…。

名刀ではあるが、そこまで古い刀って訳でもない。

それに神が宿るってこと自体が謎なんだがねぇ。

というより…。

「俺としては、この状況で平然としているガトゥーネの方が謎だが。手の甲にキスしただけで赤くなってたよな、お前さん」


《思い出すだけで恥ずかしいな…。しかし、この状況というが、ただ女の声が響いているだけではないか。寝られない程でも無いだろう?》

あ、こいつ分かってねぇな。


「み~…」

「ん?わりぃ。起こしたか?」

ベッドから降りて、ぽてぽてと俺の足元に歩いてくる白。…騒ぎ過ぎたな、反省だ。

ちなみにテンはベッドの上で、チビスラをベッドにして仰向けで爆睡している。


「…これは、野営をした方がまだ精神的に楽だな。ここで悶々としてるより、敵襲を警戒してたほうがいい」

俺の足先にへばり付くように寝ようとする白を抱き上げ、優しく撫でる。

小さなあくびと共に腕の中で寝る体制をとる白を見ながら、ため息をついてベッドに腰掛けようとした瞬間……。


俺の背筋に悪寒が奔り「!?み!?」白が跳ね起きた。

「……おいおい、なんだこの気配は…。うちのじいさん、とまではいかねぇが結構なモンだな。なにが来やがった?」

白が起きるって相当だぞ?

俺は窓を開け外を覗き見る。


無名都市ザトゥの入り口から見張り番を斬って堂々と入ってくる老人。

しかも魔族。悠々と通りを歩いていた。


たった1人だが、突然の魔族の襲来に混乱する人々。

逃げる相手に手は出さず、向かって来る賞金首やならず者のみを斬り伏せていた。


「なんか叫んでるが、遠くてよく聞こえねぇな…。サウス達が心配だし行ってみるか」

白を一度ベッドに降ろし、装備を整える。

爆睡するテンをチビスラと共にリュックに詰め、再び白を抱いて部屋を飛び出したのだった。




部屋を出てピンキールージュの入り口に向かうと、あられもない姿の貴族様がひしめいていた。

我先にと入口近くにある転移方陣の扉をめがけ殺到している。


「うっわ、近寄りたくねぇ……しかし、転移方陣ってのは調整がいるんじゃなかったのか?魔力の補充とかどうなってんだ?」

黒服が避難誘導しているが、まるで意味を成してない……餌に群がる豚を連想させる風景だ。

直前まで行為に及んでいたためか、汗と香水とその他が混じって凄まじいスメルを各々が発していた。

これ掻き分けねぇと外に出れねぇのかよ……。

部屋の窓から飛び降りた方が断然よかった気がするなぁ。


「1人相手にここまで混乱するかねぇ、普通。どう思うよ、偉い人?」

後ろからのんびり歩いてくるバルクに声を掛ける。


「相手が普通の魔族なら貴族様も酒を片手に見物と洒落込むんだろうけどね。今来てるのは、『剣将』ワクバラン・ソイル。魔王の元を離れた『古き将』だよ。なんでか僕を狙ってるみたいだね。さっきから叫んでるし『空声』出て来い!ってさ?」

「ならいけよ。あんな殺気を放てる奴と戦えるなんて中々ないぞ?ご指名なんて羨ましいねぇ」

貴族様が大分はけてきたため、入り口付近の窓に近寄り外を窺う。


「ん?……おいバルク。あそこで戦ってんのは『誰』だ?俺には『お前』に見えるんだが?」

窓の外には、異様な雰囲気を放つ長剣を手にした魔族の老人とすでに片腕を切り落とされた男が対峙していた。


「いやー、僕を狙ってるなら、斬られれば帰ってくれるかなって思ってさ?アミィを逃がす時間も稼ぎたかったし。影武者放り込んでみた!……なんで掴んでるのかな?「行って来い」っちょ!?」

笑顔でサムズアップするバルクに、イラッとして襟首掴んで外に投げた俺は悪くないと思う。


ガラス戸を突き破り外へと飛び出していくバルク。

こういうとなんだか勇ましく聞こえるな。


「……さて、サウス達の様子でも見に行こうかねぇ」

後悔はしていない、だが。片腕で投げたため飛距離が出なかったのが残念ではある。

俺はベルトに差し込んでいた木の枝を咥え、入り口の扉を開けて外に出た。




「よっと……あの状態から投げられるとか、予想外にも程があるよ」

バルクは無事着地したみたいだ。

「テメェの笑顔にイラッとした。それ以上の理由は無い」

「み!」

何故か、白の同意も得られた。

知略、策略大いに結構だが、守りたいものがあるなら体を張れってんだ。

手伝う気も起きやしねぇ。


「うわー、そんな理由で僕は窮地に立たされてるのかい?理不尽じゃない?転移方陣使わせないよ?」

(夜のうちに白守くんか連れているモンスターに探査魔法を仕込もうと画策してたところに、これだよ。ついてないなあ…、ヤベッどうしよう捨て駒達に撤退命令出してないし、…どうにかして押し付けられないかな?そのまま白守くんが死んでくれるとマジ助かるんだけど)


「なら、勝手に使う。どうもあんだけ転移させて、まだ動いてるみたいだしな。ここで一夜を過ごす必要もなさそうだしねぇ。んな事より……お客様がお待ちだぞ?」

俺の視線の先には、老魔族。

岩のようなゴツゴツとした顔に、禿げ上がった頭に哀愁を漂わせる程度に残った髪の毛。

左目が潰れているのか、小さな魔法陣の入った眼帯をしている。

雨よけの外套を羽織り、今まで見た魔族のどの鎧よりも立派な漆黒の鎧を纏っていた。

身長は185cmくらいか?剣の雰囲気と老魔族の殺気でそれ以上に見える。


影武者はすでに斬り伏せられていた、縦一閃で真っ二つ……斬られたところから血が出てねぇ、あの剣のせいか?


「…いいねぇ。爺さんを思い出す。楽しそうな相手じゃねぇか」

「なら変わってくれるかい?」

手伝う気は無かったんだが……相手は極上の使い手、ヤベェ戦いてぇ。

多分今俺はイイ顔で笑っていると思う。

返事をしようとしたら、ワクバランが声をあげた。


「…ようやく出て来たか。せっかく武者修行の相手を魔国のモンスターではなく人族の有名所から選んでいるのだ、この位は余興として見逃そう。さあ、剣を抜け『空声』」

俺は眼中に無しか、この世界に来て結構暴れたと思ってたんだがなぁ。

…暴れ足りなかったか?もっと気合い入れねぇと、あのレベルのお眼鏡にはかなわんのか。


あれ?…白がいねぇ。

さっきまで抱いてたのに!ワクバランに気を取られ過ぎた!?


「抜かぬか、ならば抜かせる「み~」…ぬ?」

白はワクバランの足元でワクバランを見上げていた。

おい!?なんでそこに居るんだよ!?


「……」

(なんだこの生き物は?ティガー系の亜種か?…いや奴等はこれ程までの愛嬌は持っていない。それに何だこの感覚は、これが癒しだというのか…。殺伐とした人生を歩んできたオレへのご褒美なのか?…首輪をしているか。ふむ、飼い主に交渉してせめて一撫でさせてもらえんだろうか)

「……み?」

見つめ合う一人と一匹。

先に動いたのは白、そろそろとワクバランの爪先に近づき猫タッチ。

それだけでワクバランから発せられていた殺気は、霧散した……白を褒めるべきなのだろうか、それとも俺の愉しみを奪われた事を嘆くべきなのだろうか?


「あれ?今チャンスかな?」

(白いのを奪うつもりだったけど……今なら犠牲にすればワクバランを殺せるかな?うーん…、無詠唱じゃ火力が足りないか。白守くんの怒りを買うのも得策じゃないかな?)


となりのバルクからそんな呟きが聞こえた瞬間、白の警戒心がMAXまで高まった。

魔族、しかも老将より警戒されるコイツって……取り敢えず。


「戻って来い。白」

「み!」

バルクを警戒しながら、てふてふと歩いて戻って来る白、そこは走ろうぜ。

というか何がしたかったんだよ白。


「貴様がソレの飼い主か。どうだろう……撫でさせてはくれまいか?」

既に剣を鞘に納めて真剣な表情で、頬を赤らめながら聞いてくるジジイ。

コイツは、アリーナン感染症の予備軍だ!俺はそう確信した。

だからこそ、一言。


「帰れ」

「くっ…、やはり人族でなければだめか……分かった、諦めよう。無理強いしてソレに嫌われるのもな。しかし『空声』!貴様はオレの修行に付き合ってもらうぞ!!」

まあ、人族だからとか、そういう事じゃないんだがね。

しかし、思った反応と違う、もっとこう剣に訴えてくるかと思ってたんだが…。


「えっ?それって八つ当たりじゃないの?嫌だよそんなの。白守くんがやってよ。原因はその白いのじゃないか」

「ああ、ただの八つ当たりだな。…断る」

例え原因が白に有っても、こんな極上の使い手とそんな理由でやりたくない。


「飼い主!ソレを抱いて引け!オレの目の届かぬ場所へ……未練が残る」

「あー、おう分かった。バルク、俺はサウス達のとこに行ってくるから。転移方陣を破壊されるようなへまはするんじゃねぇぞ?」

「み~?」

バルクがなんか言ってたが、俺は足元まで来た白を抱き上げ、そのまま移動を開始する。


ワクバランのじいさんと戦いたいが、ありゃ俺の事を白の飼い主としか見てねぇからなぁ。

一度サウス達の処に行って、サウス達を連れて来よう。

チビーズのお守りをしながらだと戦えそうもねぇしな。

八つ当たりの相手は嫌だが、正面からの決闘ならあのワクバランのじいさんも

受けてくれるだろ。


「そうと決まりゃ、さっさと行くか。白、ちいと走るからな、揺れるぞ」

「み!?」

抱きかかえていた腕から、肩にかけてもちゃもちゃと移動している白に声を掛ける。

慌てて元の位置に収まる白。

「いい子だ、行くぞ」

「み!」

背中のリュックがビチビチ暴れ始めたのを合図にサウス達のいる小屋をめざし走り出した。



少し離れた処に見えたのは、大きな馬小屋のような造りの建物だった。

「あれだよな。ん?人の気配がする……3人か、馬番か何かか?」

「み~?」

「ぴ?」

「……?」

小屋に到着すると同時に、チビスラがテンを乗せて俺の肩に這い上がって来た。

取り敢えずテンが暴走すると面倒臭いため、鷲掴み胸ポケットに押し込む。


「ぴ!?ぴぴ、ぴー!!」

「抗議は受け付けん、大人しくしてろ。「ぴー…」よし」

さて、馬番がいるのはいいとして、6人も要るかね?

貴族様は転移方陣で来るし、アクラ森林の中でも蹄の跡は見ていない。

この無名都市の場所を特定させないようにしてるんだろうねぇ……俺も迷ったし。

となると、テイムモンスター用の小屋って言ってたし、馬番じゃなく冒険者くずれかね?


「まあ、いいか。さっさとサウス達を連れて行こうかね。ん?」

血の匂い?誰かうちの奴等に手を出したのか?

その疑問が解消する前に、馬小屋の中から叫び声がして、気配が1つ消えた。


「進行形で手出されてる訳か、やってくれるねぇ…」

キッチリお礼はしねぇとな?

すぐに馬小屋に向かって走り出す。

小屋に近づくにつれ、叫ぶような必死な声が俺の耳に届く。


「だからやめようっていっただろ!?普通じゃねえよこいつ等!!」

「うるせえ!お前だってガキ仕込んだ娼婦の身請け金タダにして貰って喜んでただろ!」

「おいバカ!よそ見するな!他の奴等が抑えてくれてるんだ、今のうちに仕込むぞ!「へぇ、なにを仕込むんだ?俺の家族にさぁ?教えてくれねぇかな」……あ、あああ、し『白守』…」

「おいおい、この程度の殺気で戦意を失うんじゃねぇよ、これからオハナシタイムだぜ?」

そう言いながらベルトに魔石を仕込む。


サウスとクロハが頑張ったみたいだな、14人ほど物言わぬ骸になっている。

狭くてやりにくかっただろうに、本当によくやったよ。

フルーレとマッフィーの姿は無い、アミリアと一緒に避難してんのかね?


「グルガァァァア!!」

「バカな!?変身しただと!?くそっ…終わりか」

「白守まで出てきたらもう無理だろ…」

いやー、サウス相手によくやったと思うよ?

たとえ重装備だったとしても盾としての役割はきっちりこなしてたんじゃねぇの?


「サウス、クロハ、黄助、よくやったな」

「ガウッ!」

「グルル」

「ブルルルッ!」

襲撃者の絶望感が半端ない事になってるが気にしない。


「さて、誰がお前等に依頼した?そうさな、選択肢をやろうか。(氣で)内臓をかき回されて喋らされるか、四肢を斬り落とされて喋らされるか、1人1人死んで最後の1人が喋るか。…選べ」

イイ笑顔に軽い殺気を付けて優しく問いかける。

あれぇ?顔が真っ青になってんぞ?なんでかなー、分かんないなー。

(((((選ばせる気が無い!?)))))


「はあ…。まあ、俺も鬼じゃない。今ここで全部ぶち撒ければ……」

「「「「「依頼者はバルク様です!!白守さんのテイムモンスターに探査術式を仕込んで来いと依頼されました!!何が目的かは知らされてません!!勘弁してください!!!」」」」」

バルクか……あのアホウ、何のために?

まあ、いい。直接聞きだせばいい事だしなぁ。

奴とやるのも悪くねぇ。


「なるほどねぇ……内臓だけで勘弁してやる」

《ふむ、優しいな一南は》

そうだろう?素直に吐いてくれたからな、氣は使わずレバーブローで済まそうと思う。

(((((鬼だ!?)))))




「さて、行くぞ」

「ガウ?」

「ちいと戦いたい奴がいてな、チビーズと一緒じゃ戦えんのだわ。それに話も聞かにゃならんだろ、あの若作りのアホウによ」

泡を吹きながら、白目をむいて気絶する襲撃者達を放置して、俺は来た道を戻るのだった。

やさしいなーイチナは(棒読み)


byミスター

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