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猫守紀行  作者: ミスター
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ピンキールージュ

前回の続きです。

もっと早く書き上げたかったけど、遅くなってすいません。

バルクの後について『ピンキールージュ』入った俺は、目を疑った。

理由は、ロビーにいる客達。

よく肥えた豚のような奴が多いが、その服装は『賞金首』でもなく、『荒くれ者』でも無かった。

派手な色使いで己の財力を誇示するかのような服装。


「貴族、か?なんでこんな所にいるんだ?」

なんというか、悪徳貴族の寄合所みたいになってんな。


「自国の娼館じゃ『違法』な事も、『無名都市』のここじゃ関係無いし、奴隷だって買える。ほらあそこ、あの扉の奥は転移方陣になってるんだよ。『各国』の隠れ家や『無名都市』。貴族様のお忍び用の出入り口とかと繋がってるんだ。うちの大事な『お客様(カネズル)』だからね。移動手段は確保してるのさ」

そう言って指差す先には小さな扉があった。


「他の国にもあるんだよな?『無名都市』ってよ。なんで態々ここに来るんだよ?…俺、貴族と相性悪いんだが」

おもにハンマルクとか。

しかし、いくら移動手段を用意しようが、自国で済ませた方が楽だろうに。


「『無名都市』でも、それぞれ力を入れる処が違うんだよ。それこそ反乱軍じみた事やってる所もあるしね。ここが一番『無名都市』の中で『町』の体裁を保ってるんじゃないかな?シェルパのなんて出来ては潰されを繰り返してるから、町とは言えないしね。まあ、続きは部屋に着いてからにしようか」

…なんで、ここのは潰されないのかねぇ?

他国の貴族が来てる時点でなんとなく分かるがねぇ。


ソワソワと落ち着かない白を撫でながら、バルクの後に付いて行く。



ロビーを抜け、階段を上がる。

3階建てのこの建物の最上階はVIPルームになっているらしい。

地下室まであるとか、どんだけだよ!?

…すまん。どうでもよかったな。


バルクは2階の奥まった部屋の扉の前で止まった。

「ここが僕の仕事部屋だよ。さあ、入って」

「…あいよ」

俺の警戒を汲み取ってか、先にバルクが入り俺を部屋に招き入れた。


中に入ると以外にも質素な執務室だった。

執務机に椅子、接客用の簡素なソファー2脚に、その間に低いテーブル。

本棚にはよく分からん本がぎっしり入っていた。


仕事をするためだけの部屋、というのがよく分かる。

ただ、その部屋に気配を殺し過ぎて開いた空間が一つ。

そっちの方に視線を向けるが、壁があるだけで何もいない。

取り敢えず、壁に向かって軽く一点集中の刺し貫く様な殺気を放ってみた。


…反応なし、ね。気のせいか?


「どうしたんだい?さ、座って」

「あそこから気配を殺した『穴』を感じたんだが、護衛か何かか?見えねぇから違和感しかねぇ」

俺がそう言うとバルクは不思議そうな顔で、気のせいじゃない?と言葉を返しソファーに座るよう促してきた。


(いや、参ったね……忘れてたよ。来客時は常にハイド(姿を消す魔法)で部下を潜ませてあったんだけど、気配を完全に消し過ぎて位置まで捕捉されるとか…、気合入れすぎたのかな?暗殺系の部下だから、気配を消すのは上手い奴なんだけど。…感知能力高いね白守くん)


「フシャー!」

「なんだ、やっぱなんかいるのかよ」

白が、違和感を感じる壁あたりに向かって、威嚇を始める。

…話を聞かれるのもなんだし、殺っとくか?

まあ、聞かれてまずいもんでもねぇんだが。


抱いていた白を頭に乗せ、刻波に手を掛け、先ほどより強めの殺気を放つ。


(うーん…。ここで白守くんの手の内を見ておくのもいいかな?『手』の話じゃ『見えなかった』っていうし。部下の変えは幾らでもいるしね。僕を狙った暗殺者として始末してもらおうかな。本当はここで白守くんを始末出来れば楽だったんだけど…、この殺気を見る限り、控えさせてた部下じゃ無理だし。…仕方ないよね!)


「…止めねぇんだな」

「なんで?僕を狙った暗殺者かもしれないだろ?ほら、やっちゃいなよ」

バルクは、俺が刻波を握っても剣に手を置くどころか無警戒…。

むしろ、見えない何かから伝わる微かな緊張。


バルクは、気のせいと言っていた割には、まるでそこに居るのを知っていたかのような落ち着きっぷりだ。


「…止めた。テメェが斬れ、俺の話は聞かれても問題ねぇしな。狙われてんのがテメェなら、ケツはテメェで拭け」

気配の『穴』は俺が来た時にはもう既にそこに有った。

バルクがどれほどのものか今一読み切れてないが、少なくとも『強者』の部類だ。

ましてや、『無名都市』の『偉い人』。この程度の気配を読めないようじゃ、この世にいないだろう。

そんな奴の部屋にある気配の『穴』…ちいとばかし怪しすぎんだろうよ。


「僕が?…狙われてるのは、君かもしれないよ?」

「なら、なんで『今』なんだ?そもそも俺が標的ならテメェが来た時点でなんで逃げねぇ。それを許容してたテメェは共犯か?それとも…おっと」

突然、気配の『穴』が『人の気配』になりバルクに向かって突撃した。


「えいや」

軽い掛け声と共に剣を鞘ごと引き抜き、見えない相手に叩きつけるバルク。

ガゴッ!と音がして、倒れた黒装束が現れる。

魔法で姿を消していたのかねぇ?面倒臭い魔法も有るもんだ。


「僕が狙われてたみたいだね。それにこの程度、教えなくても対処できるでしょ?これはこっちで処理するよ、依頼主も聞きださなきゃいけないし」

(こっちの手札を晒さずに済んだけど、ちょっと失敗だったな。いらない警戒を与えちゃったみたいだし。しかし、危うく主犯にされちゃうところだったよ。思ったより頭が切れるね、聞いた話じゃ戦闘狂だって話だったけど。あの白いのを攫うならこの町じゃなく、僕に関係の無い場所がベストかな?)


「…そうかい」

……怪しさ爆発だな、おい。

バルクは、すぐに黒服を呼んで黒装束を地下に繋いでおくように命じていた。

ここの『一番偉い人』の時点で信用もくそもねぇが。


「取り敢えず座りなよ。聞きたいことに出来るだけ答えてあげるからさ。今回は無料でいいよ」

そう言うとバルクは来客用のソファーに腰掛け、対面に座るように促してきた。

えらく友好的だが、それが逆に怪しい。

というかこんな所で生きてる奴が、無料でいいなんぞ虫が良すぎるが、今は使徒についての情報が欲しい。

嘘か誠かなんぞ、こっちで確かめればいいだけだしな。


取り敢えずソファーに座るためにテンとチビスラの入ったリュックを降ろし。

…白を詰める。


「み!?」

「ちいと中でチビ共と休んでろ。気を張ったままじゃ疲れるしな」

そういうのは俺の仕事だ、癒し担当の白には全く持って似合わない。


「み、みー!?」

小さな手をリュックの縁に引っかけながら、何かを訴えかけてくる白。

「残念ながら分からねぇんだ、すまん」

「みー……」

へこみながらズルズルとリュックの中に入っていく白。

白が入って来たことでテンが暴れ出しリュックから飛び出そうとするのを防ぎ、席に着いた。





「…もういいかな?」

「ああ、わりぃな。正直、無料ってのがひっかかるが…。貰えるもんは貰っとこうか。俺が知りたいのは『治癒の神』の使徒と…。お前の年齢だ」

使徒の事は当然だが、コイツの年齢が気になってしょうがない。


「…うん。僕、若く見られるからね、使徒より先に僕の歳を教えておこうか。53歳だよ。あ、『時の加護』は持ってないからね」

………ん?


「なん、だと…!そのなりで53歳か!?…人として大丈夫か?お前」

「ひ、酷いね。そこまで言われたの初めてだよ。なんでも遠い祖先にエルフがいたらしくてね、僕はエルフの『特性』長寿と不変を持って生まれてきたみたいでさ。28歳から成長が止まってるんだよ」

いや、18歳だろうどう見ても。

俺の2倍以上生きてるとか、信じられねぇ。


「むしろ28歳と言われても驚愕ものだぞ?」

「……さ、使徒についてだったね」

流しやがった、まあ、このままじゃ話しが進まんから問題ないが。


「現在、治癒の使徒は生死不明。……という事になってるね」

「どういう事だ?」

「有名な使徒さ。50年前の決戦で『最強の勇者』に付き従った治癒使い。勇者が帰った後、教会が手厚く保護した。軟禁という保護をね?生きていた事は確かだけど、軟禁されていた場所が、教会都市『カナターマ』。魔軍に攻め落とされ、全滅したらしいけど使徒の『死体』が出てない。シーバンガの王は捜索を打ち切って、今は対魔軍戦力に神具を用いるために目録を製作中だったかな?」

何この情報収集能力、怖いんですけど?…というか。


(ガトゥーネ。治癒の使徒、有名人じゃねぇか)

《…むう。流石に他神の使徒の活躍までは分からないぞ。私は作らなかったしな》

…さいですか。

まあ、重要なのは生きてるかどうかだ。


「で?生きてんのか?」

「生きてるね。シーバンガ大陸を出て、ファグス大陸に入ったらしいよ。きっとウォルガイに戻ろうとしてんじゃないかな?もう(つい)えた王都だけど『彼女』にとっては故郷だからね。68歳の高齢でたどり着けるとも思わないけど。ああ、そう言えばファグスには彼女の仲間が一人いたっけ、そっちに会いに行ったのかな?」

王真くんと旅してた時は18歳か…。

まあ、どうでもいいな、それは。


「その使徒の名前は?」

「ディニア・クライスカラー。現役時代は、壊して治す拷問の名手だったんだよ?」

え?なんか治癒のイメージと全然違う。

もっとこう聖女っぽいと思ってたんだが、拷問ってなんだよ!?


「まあ、今じゃ『癒しの聖母』なんて付けられて丸くなってるみたいだけど。昔は敵から『拷問聖女』って呼ばれてたんだよ?絶世の美貌に勇者が引くほどの拷問を携え、決戦に挑んだ勇者パーティーの一人。軟禁されて当然の危険人物だよねー」

王真くん、大変だっただろうなぁ。


「…取り敢えず、今はファグス大陸にいるんだな?どうやって渡るかな…」

「うちの転移方陣を使えばいいじゃないか。すぐ行けるよ?」

(そうしてくれれば、こっちでも動向が掴めるしね。変にウロウロされるより、よっぽどやりやすいし)


「……なんでそこまでするんだ?自分で言うのも何だが、俺は恩に着る人間じゃねぇぞ」

バルクのように怪しい奴に限るがな。


「なに、先行投資とでも思ってよ。白守くんは、何かやらかしそうだしね?」

俺はそんなに危険人物に見えるのだろうか…。


「他に聞きたいことは無いかな?たとえば勇者の事とか。……新魔王の動向とか?」

「新魔王?なんだそりゃ、アルスの事じゃないのか?」

俺の中で魔王といったら、白衣にピンクヘヤーの高笑いの事だ。

アイツは必ず斬り散らすと決めている。

じゃねぇと俺がガトゥーネとやりあえない。


ちなみに、腐敗勇者達の事はあまり心配していない。

ルナもいるし、俺がいなけりゃ、ぶっ飛んだ面倒事に態々首を突っ込むような事も無いだろうしな。

…多分だが。


「魔角の1本を付けて現れ、口八丁で民を丸め込んで、『魔王』になった『将』さ。逆らう者は自慢の『奴隷』で滅多切り。前魔王の将で残っているのはアルケイドとリリス。あと『暗将』の息子のフルクスだけらしいよ?他は文官含め、殆ど入れ替え。完全に魔城を手中に収めてるね。でもまあ、過去最弱の状態かな、今の魔城は。老将達が何故か軒並み居なくなってるしね」


本当にどっから情報を仕入れてるんだコイツ……?

しかし、自慢の奴隷ね…。

もしかして王真くんの事か?もしそうなら不幸だな王真くんも…。


「なあ、奴隷からの解放の方法ってのは無いのか?」

「ハハッ、僕にそれを聞くのかい?…白守くんが探してる人なら出来るかもね」

解呪の神気か…。隷属の首輪ってのは呪いと一緒って事か?

使徒を見つけ出したら、ついでに話して見るのもいいかもしれんな。

仲間だったんだろうし。


「さて、話す事はこの位かな?せっかく『ここ』にいるんだから抱いてくかい?性癖なりを教えて貰えばその道のナンバー1を紹介するけど?」

「コイツ等もいるからな、遠慮するわ。適当に探す」

ガトゥーネもいるのに女を抱けるか!というのが本音だ。

しかし、こっちに来てから禁欲生活だな。修行だと思って諦めるか…。


「この町でまともな宿がある訳ないじゃないか。置き引き、ぼったくり、強盗、殺し。安宿なんて何でもアリだよ?ここが一番安全だと思うけどね。抱かないなら料金はいいよ?」

(それで白いのを奪うのもアリなんだけど、失敗するとまずいし。あのウルフの鼻が届かない処じゃないと意味無いんだよね。ラピッドウルフっぽいけど、今一種族が分からないから警戒しとかなきゃね)


「なら、部屋だけ貸せ。明日の朝一で出る」

「ふふっ分かったよ。じゃあ案内させるね。転移方陣の方も朝一で動かせるように、こっちでやっとくよ。僕はまだ仕事があるからね、おやすみー」


こうして俺は追い出される形でバルクの仕事部屋から放りだされ。

黒服に案内されて、娼館でチビーズと一夜を明かす事になったのだった。





バルクside


「行ったかな?……で、どう思う?白守くんの事。君たち『派遣組』で出来そう?」

仕事部屋でそう呟いた瞬間、僕の影が起き上がり、人の形を作った。

流石の白守くんも、会った時から影に潜んでいた彼には気づかなかったようだね。


「…奴は魔法の知識があまりないようだな。だが、あの気配察知は厄介だ。それと報告に有った『剣技』に、アクラ森林での殺気……正直、人とは思えん。バルクに使った『シャドウ・ラーク』のような干渉型も利きづらいようだしな。あの白いのを奪うのには相応の被害がでるかも知れないな」

『手』の被害なんて、どうでもいいのにね?


アミィが出かける時は付いて行ってもらってるけど…、殺気かーどうでもいいね!

攻撃の筋を読みやすくしてくれてるだけでしょ?やり易いじゃないか。


報告書も結構オーバーに書かれてたし。

例えば一番あり得ない物では、一人で魔王を物理攻撃で足止めしたとか、魔軍の老将と奴隷をあしらったとか?…前者は軽く伝説になりそうだよね。

でもまあ、可能性として頭の中に入れとかなきゃダメかな?


「干渉型が利きづらいって、試したのかい?まあ、『シャドウ・ラーク』は影に干渉するからバレないけど、影ですらそれって事はバカみたいに魔法防御が高いのかな?」

干渉型に関する抵抗が高いだけかも知れないけど、どっちにしろ厄介だね。


「分からんが、今は観察に留めるべきかも知れないな。今回の件、どうせ思い付きだろう?それで被害を出すのは不毛だ。やるならキッチリと熟したい」

真面目だね、クロナンはさ。

クロナンも含め、どうせ使い捨てなのに。


「酷いな!…その通りだけどさ。うーん、そうだね。でも、行けそうなら動いて貰うよ?」

「ああ、分かっている」

ああ、そうそう。

彼の名前はクロナン・オムニ。


常に白い仮面とフード付きの黒いローブを着た『派遣組』の統率者。

派遣組はこの『ザトゥ』に来る、貴族様の依頼……『暗殺』や『拉致』などを請け負う集団だ。

まあ、僕が作ったんだけどね?彼らが僕の『手』の一部。

そして、依頼を出した貴族様の弱みを握って『手』を増やす。

他には、情報収集のために各王都に潜ませてるのもいるけど……コッチは当てにしてない。

以前、統率者だった男をシェルパに向かわせたら帰ってこなかったから。


その男の最後の連絡が「結婚します」だったしね?凄く、物凄く優秀な男だったのに…。

当然のように暗殺要員を向かわせたけど、全員返り討ち。

1人だけ死なずに帰って来た暗殺要員は、体中に『拳の跡』が付いていた。

顔も変形して見れたもんじゃ無かったよね。


今じゃ仮面をして分からないけどさ?


「?どうした。もういいなら、戻るが」

あの男の戦闘スタイルじゃないから誰にやられたか散々聞いたんだけど、教えてくれないんだよね。

拳の大きさからいって女なのは分かったけど。


宿屋で食堂をやってて(弱味)もいる。

それだけ分かってても潰せないなんて、優秀すぎるよね?

ま、だからこそ今は『優秀すぎる』奴は手元に置かない事にしてるんだけどね。


「うん。…ああ、ちょっと待った。VIPルームでお呼びみたいだよ。お仕事頑張ってねー」

貴族の相手をする娼婦に持たせている簡易通信用の魔具から連絡が入る。

「…行ってくる」

僕は笑顔で手を振り、クロナンを送り出すのだった。


Sideout

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