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猫守紀行  作者: ミスター
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シェルパ到着

ヒュンヒュンという音で目が覚めた。

起きてみれば、黄助が白に鞭の使い方を教えているようだ。


「み~?」

「がぅ」

黄助の振るう鞭をまねて白は肩の鞭モドキを振る。


黄助は小さいながらも元老虎である。

己の一部である鞭を自在に操りその立ち居振る舞いは実に貫録のあるものだった。

…はたから見ればじゃれているようにしか見えないが。


「み~……」

僕、疲れたよ。と言いたげな視線を黄助に投げる白。

「…がぅ」

仕方ない。といった感じで首を左右に振る黄助。

どうやら、稽古は終わったようだ。


俺も起きがけの一服が終わり。

皆も起きてきた。

白と黄助を見ていたら、自分の稽古が出来なかったな…反省だ。


火の番をしていたサウスを撫でて、皆と挨拶をかわす。


「おはよう、眠れたか?」

「そろそろ、ベッドで寝たいわね。体中痛いわ」

ああ゛~~と言いながら左肩を抑えながら肩をグルグル回すアリーナン。

オヤジかこいつは…


ソルファ達は苦笑しながらもおはようと言ってきた。


飯を食い、離れたところで食後の一服をしていると出発するぞ~!と声が聞こえた。


やっとのことで王都シェルパである。

その城壁は高さ20メートルは有ろうかというほどの立派な物だ。


城門の前で王都に入るための順番待ちをしていると。

御者席でハーネが比較的小さめの皮袋を渡してきた。


「何だ、コレ?」

「それ、白用」

どゆうこと?白用って何?

良く見てみるとその皮袋には縛り口の他に白が顔を出すための穴が4つ開いていた…


だから白用か。

王都の中では、コレに入れて持ち運べという事ですかね?

良いのかコレ?

というか作ったのかコレ。


有難いんだが、白が入るかどうか…

取りあえず呼んでみた。


「白、ちょっとコッチにおいで?」

み~?と寄ってきた白に白用皮袋を見せる。

…何も言わないのに入って行ったぞ、おい。


そのまま持ち上げると白は穴から顔をだしては、引込めてを繰り返している。

しばらく顔を出さないので中を覗くと、袋を持ち上げても大丈夫なように中敷きがしてあり。

白が何時も使っている毛布の切れ端と黒い毛皮で小さなクッションらしき物まで作ってあった。


白はその上で寝ていた。

しかし、凝ってんな。


「協力、サウス」

中の黒い毛皮はサウスの物らしい。

ある意味、納得である。


ハーネは中を覗き寝ている白を見て、ご満悦である。

「作ったかい、あった」

ふふっ、と一瞬だけ笑みを浮かべまたいつもの読みにくい表情へと戻る。

お~、笑ったら可愛いのな、この鬼っ子。


俺達が和んでいるとようやく門番からお声がかかった。

「次の者!前へ!」

俺達は馬車を前へと動かした。

「よし、そこで止まれ!身分証か紹介状、もしくはギルドカードを提示してもらう」

身分書なんてないですよ?ギルドカードはココに作りに来たんですしねぇ?


「すいません、どれも無いんですけでど…」


「何?まあ、そういうのが居ない訳じゃない。どれもない場合詰め所で、四角銅貨10枚で簡易の身分書を作ることが出来るが。その場合は武器や持ち物は一度預からせてもらう。町に入って身分書を作るなりギルドに入って冒険者になるなりしたら返してやる。じゃあ、詰め所に行こうか?おい!コイツを詰め所に!」


一度みんなを振り返ったが皆さん笑顔で手を振ってらっしゃいました…


ドナドナと詰め所に連れて行かれる俺。

まあ、特に何事もなく手続きは終わったんだが。

少々腰がさびしいな…

サッサと冒険者になって返してもらわないとな、俺の愛刀達。


「へぇ…」

詰め所から出て町に出た、中世ヨーロッパのような建築物に石畳。

道はかなり広く作られている。


良いねぇ、こういうのは好きだよ俺。


「あっ!いたいた!ソルファ!イチナ居たわよ!」

「アリー!そんな大声で呼ばなくても聞こえています、まったく」

大声でソルファを呼ぶアリーナン。

大声を出すもんだから後ろの詰め所から人が何事かと兵士がコチラを見ているじゃないか。


「ん?アリーナンとソルファだけか?ハーネにリンマードは?それにサウス達も…」

ハイどうぞとソルファが渡してきたのは『白用皮袋』であった。

受け取ると白が穴から顔を出し、辺りを警戒したと思うと俺を見て「み~!」と鳴いた。

思わず頬が緩む。


「くっ!その袋に入っていれば抱っこできると思ったのに!」

そうか…アリーナンを警戒してたのか白は。


「サウス達は町に入れるのは危険だという事で馬車の中ですが…」

ソルファは門の方をチラリと見た。

パルプウルフクラスのものを従え入ってくる冒険者や他にも細々としたテイムモンスターを大量に連れている男などがあっさりと門を通ってくる。


「鎧熊の素材も馬車に置いていくように言われました。流石に怪しかったのでハーネとリンマードは馬車に残って見張りをしてくれています」


なるほどね、これが王宮騎士の言う後悔する事って奴かね?

やることが小っちゃいというか何と言うか…


「とりあえず俺は冒険者にならないと話にならん。刀を抑えられてるからな。さっさと取り戻したい。それにお前さんたちに報酬を払わなくちゃイカンしな」


「そうですね。ではギルドに案内します。アリー!行きますよ!」

そう言って歩き出すソルファ。


「私が馬車に残れば黄助くんを…あっ!ちょっと!待ちなさいよ!」

黄助をどうしたいのかは怖くて聞けんな…


「み?」

顔を出した白を指先で1撫でしてソルファを追うのだった。



しばらく歩いていると。

「やあやあ、そこの麗しの君!少しこの僕とお話ししないかい?」


…ギルドは、まだかねぇ。


「きゃ~!!ギャレット様~!」

「薔薇の君よ!綺麗…」

黄色い声と共に現れた『銀の鎧』。

腰ほどある金髪を緩くウェーブさせ、青い目に細い眉、泣きボクロが色っぽい。

まごうこと無き、美女である。


「おや?聞こえてないのかな?アリーナン・バルト・ツァイネン女史のナイト様?」


「おい、ソルファ。呼んでるぞ?」

「えぇ!私ですか!?…僕はアリーの護衛ですがナイトではないですよ」

イチナの事だろう?さっさと行けと睨まれた…

全く、もう少しでギルドだってのに。


「そうそう。黒髪の目つきの悪い君だよ。カロックから聞いたよ?これ以上手を出したら、斬り散らす?だっけ?」

プフー!と口に手をあて噴き出した…美女ではあるが性格は最悪だな、コイツ。

それにしても、カロックはちゃんと伝えたんだな意外だ。


「あ、名乗り遅れたね。僕はギャレット・ローズ。王宮騎士をやってるよ。ちなみに性別は男だよ♥」

なんだと?これで男だと?

信じられん…。


「そ、そうか。俺の名前は…」

「あ、いいよ。知ってるから。イチナ・アマサカでしょ?さっき詰め所で聞いてきたんだ。ふふっ」

意味ありげに笑いをもらすギャレット、何をしてきたコイツ?


「お前、何しに詰め所まで行った?王宮騎士が態々行くトコじゃないだろう?」


ギャレットはニンマリと笑みを浮かべこう答えた。

「え~、コホン。カロックの報告により2本の魔剣を確認。持ち主は、王都シェルパへの反逆の意思あり。存在を確認後、王宮騎士隊の権限によりこれを剥奪。または破壊する事を任務とする。と言う訳で君の剣は僕たち王宮騎士隊が使ってあげるから、喜べって事だね!」


ブチリと何かが切れる音がした。


「イチナ!落ち着いて!ここで手を上げるとギルドにも入れないし、賞金首になっちゃう!」

あっはははは!必死に俺を止めるアリーナンを見て笑うギャレット。

俺はアリーナンの頭に手を置いて「ああわかった」そう言った。

アリーナンはホッとしたようだ…俺の怒りは収まっていないが。


さて、どうしてくれようか。


「ぷっ!いや~ごめんね?コッチもしごtヘブゥ!」

「ん?どうした王宮騎士殿?何もしてないのに吹き飛んだりして?」


俺はただジャブを予備動作なしに放っただけ。

まあ、この場にいる誰にも認識できてないだろうが。


「き、貴様!よくも僕の顔を!」

そう言って剣を抜き放つギャレット。


「おや?俺は何もしてないぞ。それなのに斬ろうというのか?なら反撃で死んでも文句は無いな…?」

笑みを浮かべながら、指の関節を鳴らし。

ギャレットに特上の殺気を叩きつける。

その時だった。


「やめんか!バカもんが!」

とんでもない大声で叱咤する『銀色の鎧』の大男。

俺の殺気が足に来ていたギャレットはその一声で腰を抜かした。


「へぇ…」

「む…」

今まであった王宮騎士の2人が碌でもなかったのか。

このおっさんは中々の使い手と見た。

おっさんの方も同くそう思ったようだが。


50代で丸太のように太い腕、体格はごつく鍛え抜かれている。

ふむ、190近くあるな。

頭は光を反射するスキンヘッドで熊のような顎髭が生えている。

太い眉に鋭い目つき、額に横一文字に切り傷があり、それがいかつさを増していた。


「すまんな、若いの。うちの者が迷惑を掛けた。俺は王宮騎士隊の隊長をしているガナン・ファルマーだ」

そう言って頭を下げるおっさん。


「た、隊長!何でここに!?」

「俺が居たら問題でもあるのかギャレット?貴様こそ持ち場を離れて何をしている!」


「いや、僕はですね?任務を受けてここに居るのですよ。ほらカロックの報告にあったでしょう?あの魔剣の回収をですね、命じられまして…」


隊長であるガナンに、恐らく任務内容の書かれているであろう書簡を渡す。

おっさんは書簡を受け取り一通り目を通し、苦い顔をした。


「バカ者が、我々は王宮騎士であり王族の命を預かる身だ。貴様が来る必要は無い」


ギャレットはニヤニヤと笑いながら。

「いやいや、僕に直接渡されたんですよ?僕が任務を全うするのが筋じゃないですか。それに王族からの直接任務なんて名誉なことですよね?」


王族ねぇ。

恐らくアリーナンが結婚をおじゃんにした腹いせか?

何とも器の小さいことだ。


「剥奪行為の何が名誉か、まったく。アリーナン・バルト・ツァイネン。王がお呼びだ。メンバー一同準備を整え明日登城するように。それとそっちの若いのもだ。馬車の中の奴らにはすでに伝えてある。あの『ガードウルフ』とウィップティガーも連れてきて構わんそうだ。それとお前の剣の事だが正式な任務として通ってしまった以上、魔剣として調査が終わり次第返す、という訳にもいかなくなった。一応かけあっては見るが、もしかしたら相応の値段での買い取りになるかもしれん。剣は俺の方で保管しておく」

最後に、すまんな。と言いながらガナンはギャレットを連れて去って行った。


買い取りだと?元々自分の刀を金出して買えと?

今カロックに会ったら多分問答無用で殺しにかかると思う。


ガナンはまともだったが融通は利かなそうだ。

カロックとギャレットを見た後だと王様に期待できないのは俺だけだろうか?


「なあ、アリーナン。お前が断った王子ってどんな奴なんだ?」

今更だが気になってきた。


「何?今更聞くの?まあいいわ。端的に言えば虎の威を借る豚ね。第三王子なんだけどアレが王様になったら国は滅ぶわ。間違いなく」

何時ものテンションではなく淡々とそう語るアリーナンがより一層王子の酷さを物語っていた。


モヤモヤとした行き場の無い怒りを胸に。

本来の目的である『ギルド』へと向かうのだった。

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