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猫守紀行  作者: ミスター
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そのころの・・・

アリーナンとアルス君中心です。

ここは、魔国のどこかにある。

『魔神愚連隊(設立中)』の地下秘密基地である。

その秘密基地の中の研究錬でなにか言い争う声が聞こえる。



「何度言えば分かるのだ!!このサイズで『1匹』で良いといっておるだろうが!」

近寄る事も出来ないような、膨大な神気を発しながら怒声を上げる元魔王で現在神のアルス。


「分かってない…、分かってないわ!それでも白メイツと同じ神なの!?…1/1サイズで1匹を出すという事は、その全ての能力が白たんと同じじゃないといけないのよ!白たんとの触れ愛が無い今、私の思い出には限界があるの、愛に限りはないけどね!これだけは譲れないわ!」

神気?ナニソレ?とでも言わんばかりに、どうでもいい持論を展開するアリーナン。


「ええい、テスト用だと言っているだろうが!いちいち、大群を出すな、バカ者!!魔法球の容量を超えてきおって…。ああ!?やめて!?その計器は高いのだ!爪を研ぐな!!」

(やはり、加護を魔法球に込めるのは無理なのか?…いや、まだだ。魔法陣が展開されるのだ、出来ないという事はない筈だ!)


辺りには、内部から破砕された魔法球の山と魔法球に入らず、そのまま発動した魔法陣からモリモリ出てくる量産型白ズ。

元魔王・アルスが神気で流れるように魔法陣を消した。


「ああー!!?白たんズが…」

「これで何回目だ!?魔法球に込めるどころか、計器が無駄に傷つくばかりだ…。奴等、俺様の研究設備に恨みでもあるのか?ああ、これも新しくしないと駄目だ…。くそう白い悪魔共め…」

白ズが消えて嘆くアリーナンと計器がいかれて嘆くアルス。

互いにダメージの大きい実験のようである。


「…頼むから、もう少し抑えろ。せめて大群は止めてくれ。実戦用の魔法球を作るための設備を『ヘルグランデ』からここに移して有ったからよかったものの…。もっと容量の大きいものを作らねばならんか…。くそう、これも量産には向かないのか?」

「抑えろですって?十二分に抑えているわよ!あんたこそ白たんへの愛が足りないんじゃないの?いいわ、もう一度しっかり教えてあげる…、愛とはなにか、白たんとはなにかをね!」

「ええい、止めんか!!「そう、白たんは…」語り出すな、バカ者!!」

ぎゃーぎゃーと何度目か分からない言い争いを始める二人。


なぜこんな事になったのか、少し時を遡ってみよう。





「……あれ?ここ何処?…そう言えば、あの魔族に拉致られて…」

(私の魔法が必要っていうから、白たんへの愛を聞かせてる時に催眠魔法を掛けられたんだっけ…。なんか将っぽいのもいたし、ここもしかして魔城の牢屋?それにしては安っぽいわね)


「しかし、白たんへの愛を途中で止めるなんて…。全く魔族は足りてないわね、愛が。これは伝えるしかないわ、盟主として!!」

嫌な方向で決意を固めるアリーナン、それ以前に身の危険を考えるべきである。


手始めに牢屋番から、と思い立ち近づくアリーナン。

「おい、こっちにくるぞ!」

(なんか、いやな予感がする…)


「ん?起きたのか?それなら俺は捕虜が起きたことを報告してくる」

(何をそんなに慌てているんだ?相手は杖を持たない魔道士じゃないか)


「バカ!俺が行くから!お前が残れよ!「じゃ、頼んだな」おいぃ!置いてくなよ!……くそ、それ以上近づくな!鉄格子には電流が流れているからな(嘘)!死にたくなければ下がれ!」

かよわい人族のアリーナンに対し、この牢屋番必死である。


「電流ですって?こんな安っぽいのに…。分かったわ、触らない。…いいえ、触る必要が無いもの。そう、あなたには聞いてもらうわ。甘坂アニマルズファンクラブの信念と、どんなものにも屈さない深い愛を!!」


「え、遠慮します…」

(助けて、この捕虜ヤバい…)

そんな、牢屋番Aの言葉もむなしく、アリーナンは語り出す。


白の可愛さから、テンとのコラボレーションで生まれる奇跡。

黄助の凛々しさと愛の鞭、サウスのお邪魔虫具合。

その全てを越えても『越えられない壁』である一南がいる事。

一通り話して、最終的に白へと戻るエンドレス。


自信満々に全ての中心は白であると語るアリーナンに、牢屋番Aは徐々にせんの…いや、『改宗』され始めていた。




「さあ、お早く!」

「何をそんなに慌てているのだ?捕虜が目覚めただけじゃろう?…確かに少しおかしな娘ではあったが」

「まあ、いいではないかチャンター。俺様も早く神の加護である創造魔法を魔法球に入れられるか試してみたい」

本来なら牢屋番である彼が、チャンターや元とはいえ魔王のアルスを『急かす』などあってはならないのだが…。


牢屋番Bは、報告の為に牢屋から離れる程に、もう二度と相棒とは会えなくなるのではないか。という、まるで戦場で感じるような、あり得ないはずの焦りを感じていたのだった。

その感覚に従い、直属の上司ではなく、近くに居たアルスとチャンターに声を掛け、急かしているのだ。




アルスとチャンターが牢屋に着くと、そこは一種異様な世界となっていた。

「なんじゃこれは…。貴様ら!!何をしておるか!!!」

チャンターの魔力を伴った怒号が飛ぶ。

そこには…。


アリーナンの身振り手振りを交えた演説を、正座して多少前のめりなりながら静かに聞く『10人』の魔族兵がいた。


牢屋番Aをのぞいた9人は、休憩中に興味本位で捕虜の顔を覗きに来た奴等である。

怒号を聞いて飛び上がり、整列して敬礼をする魔族兵達。

牢屋番Aだけは、足がしびれて動けず、その場で身を捻りチャンターの方をむいてから敬礼をしていた。


チャンターは、顔を顰めたまま牢屋の中のアリーナンに視線を移す。

唖然とした。

先程の怒号もどこ吹く風で、演説を続けるアリーナンに唖然とした。


「ブフッ!?チャンターのそんな顔初めて見たぞ!…凄いなあの女、チャンターをボケ老人にするとは、俺様では真似できん」

「…ぼっちゃん、神たる者武も磨かねばなりますまい。みっちりとしごいて差し上げましょう」

ボケ老人は流石に看過できなかったのか、イイ笑顔でそう言うチャンターだった。


「ハ、ハハ…。い、今はそんな事よりも、どうしてこうなったのか調べるのが先だろう?…まあ、原因はあの女だろうがな。…おい、そこの。説明しろ」


「ハッ!白たんは世界の中心であり…「もういい、疲れたんだろう?休め。な?」は?はぁ…」

「相棒…、なんでこんな事に…」

牢屋番B の呟きは、誰にも聞かれず消えていく。


(杖を取り上げてある魔道士が魔法も使わず、洗脳まがいをするとはな…。まるで教会の

布教官のようではないか。悪質な布教官は、魔法で洗脳して各神への信仰を集める者もいると聞くが…、コイツは何をした?)


そう思い、アルスは、未だ演説を続けるアリーナンの声に耳を傾け…、聞かなかった事にした。

「ジャンが使えなかったら始末するか洗脳しろというのも頷けるな…。フハハッ!面白いではないか!おい、女!!」


「…だからこそ白たんは宇宙の真理にして…「聞け!サイドテールの残念魔道士!」え?私の事?ってピンクに髪に白衣…、今代の魔王!?じゃないか、魔角がないもんね。魔王をリスペクトしてる魔族の人?止めときなさいよ、魔王と間違われてイチナに理不尽に斬り殺されるわよ」

ついでにあんたも聞いてきなさい、ためになるから。とまた演説に戻ろうとするのをアルスは止める。


「止めろ!!…イチナとは、アマサカ・イチナの事か?貴様、奴の仲間か?」

「もう、なに?そうよ、なんでイチナの事を知ってるのよ。…あれ?その力、魔力じゃない?これって白メイツと同じ…あんた、まさか!?」


(白メイツ?何だそれは?しかし、あの剣士の仲間か同族の血が流れているから殺すつもりは無かったが…。思わぬ拾い物だったかもしれんな、奴は必ず俺様の前に立ちふさがる。その時の『カード』として飼っておくのもいいか。……創造魔法の実験も出来るし)


「まさか神様が制約もなしに降りて来てるなんて…。そんなに白たんの情報が欲しかったの?ごめんなさい、教会から出禁喰らって、イチナからも禁止令が…」


「なんの話だ!?…俺様は『元』魔王だ、戦の神の力を奪った、な。貴様も魔道士の端くれならば『名も無き術式』くらいは知っておろう?」

アリーナンの顔に驚愕が浮かび、次いで同情の視線がアルスに送られた。


「確かそれって術者を殺せば返還されるやつだったわよね?よりにもよって、戦の神…。あんた、なんで戦の神を選んだの?イチナ、戦の神と戦う事を楽しみにしてたから、本気で殺しにくるわよ。ご愁傷様」

相手は神であるはずなのに、同情の念が抑えられないアリーナンだった。


「フハハハッ!たかが剣士。…うん、たかが剣士だ。問題ない!」

神気で創ったキリングドールを砕き、言像を通してダメージを与えてきた理不尽な存在を思い出し、思わず言い直す。


「ま、まあいい。そんな事より、そこから出たくないか?俺様の実験に付き合ってくれれば出してやってもいいが?」

「はぁ?ふざけてるの?誰があんたなんかに…「貴様の創造魔法、魔法球にしてみないか?」なん、ですって?」

一南のことや、その他もろもろを置いといて、趣味に突っ走り始めるアルス。

実に唐突である。


「いや、ぼっちゃん現状を見て流石にそれは…」

(この娘、限りなく面倒臭いと、儂の勘がいっておる…)


「いいか、チャンター。ジャンも言っていただろう?『使えなかったら』と。それに同族の血が流れているのだ。使えないと実証されていないものを『処分』するのはどうかと思うぞ?」

アルスは処分を強調して言葉にする。

アルスに殺す気は無いのだが、態とそう思わせているのだ。


「どう、ぞく?」

(え?なに言ってんのコイツ。私純正の人族よ?むしろ貴族様よ?)


「そうだ、貴様には、同族の血が流れている。見た目は完全に人族だが、体の一部に青い所は無いか?それは魔族の証だ」

(まあ、あろうがなかろうが、ディスカイネを使える時点で決まっているのだがな)


アリーナンはハッと気づいたように『尻』を押える。

「あんた…私が寝ている間に、見たのね?家族とソルファしか知らない秘密を!」

(失態だわ!まさかこんな奴に私の『蒙古斑(ハジ)』を見られるなんて!!)


「フハハハッ!どうだチャンター!同族の血が混じっていたぞ!」

「むう、そのようですな。ですが敵対勢力である事に変わりは有りません。処分するか、洗脳魔法での処理をお勧めしますな」

「ただの魔道士ならばそれでもいいのだがな…」


(処分…。実験に付き合わなかったら殺されるってことね。まだ白たんの全てを見ていないのに死ねない!…でも、コイツ等に協力するのも嫌だわ。私はどうすればいいの…、教えて白たん!!)

目を瞑れば思い出す、小さくフッワフワの子猫ボディ。

記憶の中の白が「み~」と鳴いた瞬間、目をカッ!と開き、答えを出す。


「…いいわ、やっても。イチナじゃあるまいし、ここを一人で切り抜けられるほど強くもないからね」

(素直に実験に付き合うつもりは無いわよ…。散々ひっかきまわして、甘坂アニマルズファンクラブの一員にしてあげるわ!!)


「本当か!?よし!出してやれ。これから検証、実験繰り返しだが…楽しみだな!!」

「ぼっちゃん!!」

(創造魔法の使い手を洗脳した場合、本来の力の1/10も引き出せないし、形も不定形になる。それでは実験の妨げにしかならん…却下だ。俺様がやりたいのは十全の創造魔法を魔法球に入れる事。それに、面白い玩具を操り人形にするのは趣味じゃない)


それぞれの考えの元、白たんズ魔法球計画が発動したのだった。

このやり取りが始まりで、一番上につながっているのだった。


では、時を戻そう。





ぎゃーぎゃーと言い争っている処にチャンターがやって来る。


「随分と楽しそうですな?しかし神気は抑えて戴けませんかな…、ここにおる者で神気を気にしないのはその娘だけなのですから」


「た、楽しくなぞないわ!!こ、これはアレだ…『アリーナン』が悪いのであってだな…「返事がきましたぞ」…何?そうか、で?なんときた?」

アルスは、アリーナンを一瞥してからチャンターの報告を促す。

チャンターはそんなアルスの反応を疑問に思いながらも報告を開始する。


「皆、根っ子は武人だったという事ですかな…。文を送った4人全てから了承を得ました。その内の1人は、すでにジャンを探し当て、こちらに向かっているとの事です。こちらに向かっているのは『智将』バルマスト・ハイオルですな。一時期ぼっちゃんの家庭教師をしていたクソババアです、覚えてますかな?」


「…ああ、覚えている。笑顔で人を観察してくる先生か。あの人が来るのか?」

(クソババアか、確かチャンターとバルマスト先生は幼馴染だったはずだが?)


「そうですな。他の古き将からは、『暗将』フロークが魔城の内情や世界情勢などを息子たちを使って調べてくれるそうです。『剣将』ワクバランと『双将』ジャマカダも腕が落ちているため、鍛え直すとの理由で合流は遅れるそうで」

(腕が落ちたといっても、本気のアルケイドと相打ちくらいは出来ようが…。まあ、儂も昔はアルケイド程度なら一振りで潰せたんじゃが、…歳は取りたくないの)


「ジャンにはフロークと協力するように伝えろ。情報の伝達はフロークの方が心得ているだろう。しかし、先生が来るのか…。おちおち研究も出来んではないか。それに他の二人はどうするか…。まあ、いい。先生が来たら『魔神愚連隊』の本格始動と行こうではないか!」


「……」

(あれ?これって結構ヤバい情報じゃない?…でもどうしようもないのが歯がゆいわね)


アリーナンは、仲間の事を思い出し、一南がいるから大丈夫。と高をくくり。

目の前で高笑いする神様を、どうやって甘坂アニマルズファンクラブに引きずり込むか考えるのだった。

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