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猫守紀行  作者: ミスター
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目指すは…

俺が闘技都市から離脱して、数日が過ぎたんだが…。

あ、もちろん黄助達には、謝り、礼も言った。

アイリンの手紙?当然、ガトゥーネに読んでもらったさ!…情けねぇがな。


要約すると、アリーナンはアイリン達で探すから、俺はルナ達の事に集中しろって事だった。

それと、『また皆で楽しく旅がしたいです』ってな。

…ルナ達の事で頭が一杯で、アリーナンの事すっかり忘れてたわぁ。



「……やっぱ、当てもなく彷徨うってのは、駄目だな。ここどこだよ」

現在地、不明。

俺は、カッポカッポとクロハに乗りながら、リュックの中で寝ているチビーズを起こさないように、小声で呟く。

薄暗い森の中であることは確かだ。

多少、道らしきものがあるから人は通るんだろうな。

…これじゃ、使徒探しどころか、人探しから始めねぇと。


ああ、そうそう。

いつか開いたリュックの穴は、俺が塞いだ、すさまじく雑だけどな。

穴を塞いだ時の白のガッカリ感といったら…。


《どこに町があるのか、覚えて無いのか?》

「あー、地図はルナが管理してたしなぁ、勉強に使ったシェルパの地図はあるぞ?一応、パレサートの地名とその特徴くらいは、ルナ先生との勉強で頭に入ってるけどねぇ。位置関係までは地図を直接みねぇと分からん」


《ふむ、特徴が分かれば、この森の名も分かるのではないか?》

「あ、そうか。まあ、この森の名前が分かっても、何処にそれがあるか分からねぇから、どうしようもねぇんだが…」

「ガウッ!」

「あん?どうしたサウス。ん?戦闘音?…人がいるのか?行くぞ!!」

突然の大声とクロハを駆る振動に、リュックの中のチビーズが飛び起き、中でビチビチと暴れている。

正直、悪かった、ちいとテンションが上がったんだ。


クロハを駆り、戦闘音のする方へと向かう。

着いた先には、開けた場所で結界に立てこもる冒険者のパーティーがいた。


戦ってるのは、確か…。

《セロコボルト、大将を倒さない限り永遠と仲間を呼び続ける。コボルト系の上位種だ。見ろ、どんどんセロコボルトが呼ばれて来る。あのままでは持たないぞ?》


「……まあ、いいか。んじゃあ、ちいとお邪魔しようかねぇ」

狭い広場にみっちりといった感じで、セロコボルトが詰めかけていた。

対する冒険者達は、結界を張り中で口論している。


「リーダー!どうすんだよ!!もう結界魔具が持たねえぞ!?」

「魔力を継ぎ足せ!…クソッ!コボルト討伐だから受けたのになんでセロコボルトなんかがいるんだ!?」

「貴方が、考え無しにセロコボルトの大将に突っ込むからこうなったんじゃない!!」

「えー、私のせい?もういいじゃん。結界解こうよ。突っ込めばなんとかなるって」

「「「この、脳筋が!!」」」


……突っ込めばなんとかなるか、耳が痛いな。

取り敢えず、突撃メンバーは俺とサウスだな。

この密集地帯にクロハを突っ込ませる訳にはいかない。

セロコボルトはそれぞれ剣やハンマーなどの武器を持ていて、さらに背が低い。

ミスリルの戦馬具を装備しているが下からの攻撃に対しては、弱い。…と思う。


黄助には悪いがチビーズのストッパーとして頑張って貰おう。


「クロハと黄助は留守番。黄助、白達を頼むな?「がぅ」よし、サウス、お遊戯の時間だいくぞ」

「ガウッ!」

俺とサウスは、セロコボルトのみっちり詰まった広場へと駆けていく。

《ぬし殿、神気はどういたす?》

(いらねぇ、というか刻波は使わねぇから)

《…御意》


セロコボルトはコボルト同様、犬面で人型。

背中にビッシリ毛が生えて、尻尾もある。

コボルトは茶色、セロコボルトは青だ、まあ、明確な差は色の違いと棍棒から鉄製の武器に…、あと階位を上がってるってる事くらいだな。


先制は、サウスの風の刃。幾重にも重ね、刻みながら道を作る。

自分達よりも明らかに強いモンスターの気配に、動きの止まったセロコボルト達。


俺は一匁時貞を抜刀して、セロコボルトに向かって一振り。

《一南!その剣、敵を斬った瞬間に魔力を吸いだしている!幾ら神気を吸ったとはいえ異常だぞ!》

はあ?んな事いったてなぁ…、どうしようもねぇだろうよ?

まあ、俺に魔力を返還してくれている訳ではなさそうだが、かといって相棒を使わないという選択肢もない。


サウスと共にセロコボルト共を一切の容赦なく駆逐していく。

…一匁時貞は、敵を斬るたびに恐ろしい速度で切れ味を増していく。

もう既に、セロコボルトが持つ鉄製のまなくらを、大した力を入れずに両断できる程度の切れ味を持っていた。

正しく魔剣、正しく妖刀だ。

どうしようもねぇ。とは言ったものの…、これはちと怖くなるな。


「アイツは…。それにラピッドウルフか?魔法紋まで付けてるな。なんにしろ助かったか…。結界を解いて俺達もやるぞ。ラピッドウルフに驚いている今がチャンスだ。俺達の受けた依頼だ持っていかれる訳には行かない!」

「このまま結界にこもって、弱った処でって無理か。リーダーだもんなあ…」

「ねえ、アイツって…「今は依頼達成が先だ!速くしろ!」…分かったわ」

「すげえ…。すげえ!アイツすげえ!!ねえ、マジすげえって!!」

「「「うるさい!」」」


お?冒険者達も結界から出て来たか。

ならここはサウスに任せて、俺は大将を狩ろうかねぇ。

延々とセロコボルトを斬り続けるのもいい稽古にはなるが、今の目的はそれじゃねぇからな。


「サウス、ここ任せるぞ」

「ガウッ!!」

…ここで、パー子の脱力台詞が入らない事に違和感を覚える辺り、結構寂しいのかも知れないな。俺も。

寂しさを感じる対象がパー子というのが、全く持って気にいらないが。

せめて、ルナかソルファがよかった。


俺はコボルトの頭を踏みつけながら、跳ぶように移動し。

一際大きなセロコボルトの前に、降り立った。


「フォオオオオン!!」

微妙に気の抜けた遠吠えで威嚇してくるセロコボルト。

背後からセロコボルトがワラワラと出て来た…、あ、ここが『コボルトの森』か。

最初見た時に気づけっつう話だな。


コボルトの森ってのは、巨大なコボルトの巣だと思ってくれればいい。

天敵がいない森で異常に増えたコボルト達は近隣の村や町に被害を出すことも有るらしい。

だから、定期的に国が冒険者に討伐を依頼するらしい。

あの冒険者達もその依頼で来てんだろうねぇ、きっと。


(道理で斬った傍から湧いてくる訳だ。しかし…、上位種しかいねぇとは…。ルナから聞いてねぇんだが。あの冒険者達も驚いていたようだし、異常事態かねぇ?)


「フォオオ「鳴くな、鬱陶しい!」ブオッ!?」

セロコボルトの遠吠えの最中に間合いを詰めて、下からかちあげるように柄頭(ツカガシラ)で下顎を上顎に叩きつける。

そのまま一匁時貞を両手で持ち、刃を体の中心線に中るように押し付け、円を描くように振り切った。


「一刀両断ってか?さて、殲滅戦といこうか」

早速、周りにいるセロコボルトを斬り散らし。

サウスと合流するために、広場に向かい刀を振るうのだった。



その場にいたセロコボルトを殲滅したら、辺りは一面血の海と化した。

サウスに黄助達を呼びにいかせ、現在サウス、黄助、クロハはパワーアップタイムだ。

まあ、この程度でパワーアップできるか分からんがな。

ちなみに白達は、黄助から返してもらったリュックの中で、一塊になって大人しくしている。


「助かった、礼をいおう。俺の名前は、リーダニア・リダー。Cランクパーティーの『ストレンジ』のリーダーだ」

(あの手配書の通りなら、この男が、神敵にして将軍殺しか…)


実に堅実そうで、どこかサラリーマンを思わせる雰囲気が印象的だった。

そしてどこか疲れている。

まあ、疲れているのは戦闘が終わったからだろうが…。

サラリーマン風なのは、髪型が七三分けだからか?それとも、鎧の色がスーツを思わせる配色だからか?

全体的に青い配色だが、全ては胸当てに集約されている。

胸当ては逆三角形で白い色に、赤いネクタイのような紋様が入っていた。

ああ、武器はオーソドックスに剣と盾だ。


「…ああ、うん。Cランク冒険者『白守』甘坂一南だ。礼はいらない。俺は尋ねたいことがあったから、加勢しただけだからねぇ」

あのままじゃ、リーダニア達の方が終わりそうだったしねぇ?


「はあ!?あれでCランクかよ!?あ、悪い。俺、クラーガ・バイネンな」

(そう言えば『手配書』に書いてあったな。失念してたぜ。しかし…、あんだけ動いて息ひとつ乱してねえとか。それにあのラピッドウルフもバケモンじぇねえか…。これは賞金は諦めた方がよさそうだな…)


多分、明日にはクラーガの顔は、覚えていないだろう。

それほどに特徴が無い、パレサートの暗部が羨みそうな顔をしている。

装備は長めのフード付きマントに短剣2本と投げナイフ。

斥侯タイプだろうか?実に向いていると思う。


「私、ランニ・ブレアね。いい加減ここから離れたいんだけど?臭いが移っちゃうじゃない」

(全然本気じゃ無かったわね、コイツ…。これは私達じゃ、刈り取れないわ。他の奴等にも伝えておかないと…、Cランクじゃ死人が出るだけね)


こっちは、クラーガとは真逆で派手だな。

顔のつくりもそうだが、スタイルも格好も武器も、だ。

金色の髪に青い目、そしてドリルのような巻き髪…。

装備はピンク色の軽装備にピンクの大鎌。

服も全体的に薄いピンクである。

正直、キツイ。


「私、マイナ・夢野。その剣技に惚れた!弟子にしてくれ!!」

「断る。……ん?今、夢野って言ったか?マキサックって知ってるか?」

「おおっ!まさか師匠から弟の名前が出るとは!マキちゃん元気?」

俺、即答で断ったよね?なんで弟子入りを許可した事になってんの?


「ああ、元気なんじゃないか?きっと」

しかし、マキサックが弟でコイツが『姉』かぁ。

少なくとも女子プロレスラーでは、無さそうだ。

オシャレなんて欠片も興味が無いような適当に切った短い髪に、慎ましい胸に、長い足。

背は155cmくらいか?まあ、スレンダーな美人ではある。

赤色の軽装備と、腰に使い込まれたロングソードを帯びている。

プロレスラーとしての装備では無いな、見事に剣士の装備だ。

マキサックの家は全員がプロレスラーを目指す訳じゃないんだな。


「ねえ、挨拶も済んだし、移動しましょう?何時までもこんな血生臭い所にいたくないわ。マイナもバカやってないで行くわよ!」

「えー。でも、すげえんだよ?この人の剣技。私が習えばもっとすごくなる「マイナ、あんたパーティー抜ける気なの?なら、リーダーに伝えておくわね?」…その気は無いです、ハイ。ごめんね師匠、さっきの話は無かったことにして!」

最初に断ったはずだがなぁ。


「…うちのがすまないな」

サラリーマン、ではなくリーダニアが声を掛けて来た。


「気にすんな、慣れてる」

「慣れ?まあ、そう言ってもらえると助かる。それで?尋ねたい事とは何かな?」

(ここでコイツとの戦闘は避けたい…。こうも簡単に冒険者の前に姿を現すという事は、手配の事も知らない可能性がある。単純に俺達は眼中に無いのかもしれないが。命を救われた恩もある…、ここで返しておきたい処だな)


「実は、地図がなくて現在地がつかめてねぇんだわ。近くに村や町があったら教えて欲しいんだ。それと…、使徒って知ってるか?」

「使徒?神の使徒の事か?「それだ、何処に居るか知らねぇか?」…会ってどうする?」

あん?なんだその目は…疑いの眼差しか?

…まあ、神敵が使徒を探してりゃ疑いもするか。


「ちいとばかし、助けて貰いたくてね。探してんだよ」

「…パレサートの王都清掃科に、『トイレの神』の使徒がいると聞いたことがある。それ以外は知らないな」

俺は、思わず目頭を揉んだ。

(ガトゥーネ、使徒見つけたぞ)

《うむ、トイレに関する知識は授かっているだろうな。ある意味、究極に特化した神だ。トイレの神の神気は特化しすぎて他の事に力を回せない、聞かなかった事にしよう》


「情報収集出来そうな村か町は、近くにねぇか?」

「使徒はもういいのか?「ああ」そうか。……現状、アマサカが入れる『普通』の町や村は無い」

やっぱ、あれか。神敵にされたのと、将軍を殺っちまったからか?


「今、アマサカには、多額の賞金が掛かっている「ちょっとリーダー!」ランニ、命を救ってもらった恩をここで返す。アマサカは、それで俺達の事は忘れてくれ。情報収集なら『無名都市』に行け。各大陸に必ず2つ以上は有る、地図には乗らないあらゆる賞金首や、あぶれ者の造った『町』の一つだ。王都の冒険者でも『無名都市』には手を出さない。…俺の地図をやろう。『無名都市』は、ここだ」

そう言って、地面にたまったセロコボルトの血を指に付け、取り出した地図に小さな円を描いた。


(しかし、忘れてくれ、ね。巻き込むなって事か?自業自得とはいえ、寂しいねぇ全く…)

《すまない、私が魔王相手に油断しなければ…》


(アホウ、どっちにしろガトゥーネには挑むんだ。神敵にされるのは早いか遅いかの違いでしかねぇよ。自業自得は、将軍を斬った事だ。まあ、俺の決めた事だ後悔はしてねぇけどな?)

《そうか…》


しかし、無名都市か…、それは教えて貰ってないな。

まあ、ソルファも以前、賞金首に成ったらまともな町に入れなくなる、みたいな事言ってたしなぁ。

こんな事でもない限り無縁な場所なんだろうねぇ。


「…ではな、俺達は『報告』に戻る。もう会わない事を願うよ」

そう言って地図を手渡し、去っていくリーダニア率いるストレンジ。


《いいのか?恐らく『報告』には、一南の事も含まれているぞ?》

「…ま、しゃあねぇだろうよ。指名手配されてる俺に駄賃までくれたんだ。…それにマキサックの姉は斬りたくねぇ。サウス!黄助!クロハ!行くぞ!」

サウス達に声を掛け、俺もこの場所を離れる。

白達がリュックの中でモゾモゾ動いているが、後回しだ。


「…まずは、川を探さなきゃねぇ」

後ろからついて来ている、血濡れのサウス達をぶち込む川を探して歩き出す。



しばらく歩いて川を見つけた俺は、サウス、黄助、クロハをぶち込み、白達をリュックから出す。

3匹そろって楽しそうに駆けていく(一匹は転がってだが)姿を見て「あまり離れるなよ」と声を掛ける。


丁度いい大きさの岩を見つけ、そこに腰掛け、リーダニアから貰った地図を開く。

セロコボルトの血でかかれた円があるのは、パレサートからシーバンガ大陸に渡る大橋から少し行ったところにある『アクラ森林』ね。

…確かここは、ルナに「近づくでないぞ!」と言われた場所だ。

理由を聞いても教えてくれなかったが、なるほど『無名都市』があるからか。


「み~!?」

ん?

「なんだ、白。どした?」

まるで、なにかから逃げているかのように走ってくる白。

サウスが反応してないし、敵意を持った気配も無い…。なにがいたんだ?


俺の足元にたどり着き登ろうとモチャモチャしている。

それを持ち上げ、膝の上に乗せて背中を撫でてやる。

なんか、まだ警戒してんな。なにがあった?


次いで現れたのはチビスラに乗り勝ち誇ったテン。

チビスラの体が1.5倍ほどに大きくなっていた、…中身は水か?

なるほど、白が嫌がる訳だ。


「ぴぴ!ぴー!」

右羽を軍配のように使い、チビスラに合図を送る。…うん、多分合図だと思う。


「……!」

チビスラは、溜めていた全ての水を水鉄砲のように噴射した。

「ったく、地図が濡れるだろうが…」

白と地図を抱え、座っていた岩から身を離す。


「ぴぴー!」

白を抱えて避けたからか、チビスラの上で飛び跳ね、不満そうに鳴くテンだった。


「テン、チビスラ、確かに弱点を突くのは定石だ。「み!?」…だが、身内にやるんじゃねぇ。分かったか?」

「…ぴ」

「……。」

説教というより、ただの注意だ。

こいつ等もお遊びのつもりだっただろうし、この程度で良いだろう。


「ほれ、仲直りしな」

まあ、喧嘩してる訳じゃないんだろうが。

言葉が分からんから、なんとも言えんし、一応だ。


俺が白を地面に降ろすとテンもチビスラから降りて2匹は、歩みよる。

「ぴ!」

まるで握手を求めるかのように右羽を前に出すテンに対し、白は右手を差し出す…?

白よ、何故そこまで高く上げる必要が有るのかね?


「み!」

ぺたん、とテンを踏む前足。

白はそのまま、フンスッと鼻息荒くそっぽを向いた…。

これで許してやるって感じか?

テンがほとんどダメージを喰らってない辺り、手加減したんだろうねぇ。

…実に白らしい一撃だ。


「……ぴぴー!!!」

「み!?」

テンチョップが初めて白に命中、なんかこのまま鳥獣大決戦に入りそうだな…。

チビスラは、2匹の周りをコロコロと転がっているだけである。


ここに留まっていても良い事なさそうだし、そろそろ移動したいんだがねぇ…。

こいつ等を叱るのに拳骨を使う訳にもいかんし。


どうしたもんかと考えていると、黄助達が水浴びから戻ってきた。

…お説教は、お爺ちゃんに任せよう。


「お帰り。早速で悪いが、黄助、チビ共を頼んだ。クロハはこっち来い、拭いてやるから。「キューン…」…サウスもな?」

「ガウッ!」

「…がぅ」

やれやれ、といった様子でチビーズの元に向かう黄助と、素直に従うクロハ。

もうほとんど、体の水気を自力で飛ばしていたサウスも喜んで近くに寄ってきた。


「終わったら出発するぞ?」

サウスの様子に苦笑を浮かべながらそう告げて、クロハとサウスを次元袋から取り出したタオルで拭き始める。


ん?サウスの肩の部分に小さな突起物がある…。


「なんだコレ?」

「ガウ?」

《…魔力剣の精製部位だな。ブレードウルフが持つものだが、セロコボルトを喰らって階位が上がったんじゃないのか?変化がこれだけというのは、恐らく神達がなにか手を加えているのだろう。…それに、特性の引き継ぎか、ウルフ系に魔法紋まで入れてアイツ等は何を考えているんだ?》

まあ、白を守る為にだろうが。

…今更ながらに、やり過ぎだとおもうぞ?神共。


そんな事もありながら、2匹を拭き終わり、クロハに跨る。

白達は胸ポケットと足の間で消沈中だ。


「…『無名都市』、ね。どんな所なのやら」

口が寂しく、近くの枝を斬って口に銜えながらそう呟くのだった。





アイナクリンside


闘技都市の一件から数日…。

パレサートに戻って来た私たちは、今、イチナさんとアリーナンさんを抜いた皆でホテルの一室に集まっています。

ハチカファの最後の情報収集の結果を待って、これからどうするか決めるためです…。


魔王が神になった今、『討伐の旅』に意味は無いのですが…。

ハチカファの結果によっては、『討伐の旅』に戻る事になりそうです。

皆さん、あの『禁呪』によって、魔王は健在であると刷り込まれているようです。


ファニア将軍と教会対罰者のガレミーは、ファルナークさん達以外にも禁呪を施していたようで、教会の方も弄られた形跡があるようです。

自国の王は流石に無理だったようですが、あと、予知巫女様も無事です。

調べたのはハンマルク家のルァックさん、あのイチナさんと揉めた研究者の方です。

パレサートの重鎮さん達にも、魔法を使われた形跡が有るようなのですが、禁呪程強力な反応は出ていないそうです。

どんな魔法かハチカファに聞いたら私が知るには早い魔法だそうです…。

とっても、気になります。


ファニア将軍は、この件が終わったら使者という形で、シェルパにも向かう予定だったとハチカファが言っていました。

相手がイチナさんでなければ、私もお父様たちも記憶を弄られていたかも知れません…。


そんな事を考えているとハチカファが戻って来たようです。


「ハチカファさん!どうでした!?なにか情報は有りましたか!?」

ソルファさんが、ハチカファの肩を掴んで揺さぶります。

頭が前後にガクガク揺れて、ハチカファは喋れそうにもありません。


「これ、落ち着かんか。それでは喋ろうにも喋れんじゃろ」

「あ…。す、すいません、ハチカファさん。とり乱してしまって…」

「気にしないで下さい~。結界に弾かれた後のアリーナンさんを見たっていう冒険者に話を聞いてきましたよ~」


「あれ?結界に弾かれた後?」

どういう事でしょう?闘技都市にいた時に散々聞いて回った筈ですけど…。


「おお!凄いっす!これで足取りが掴めるっすよ!」

体全体を使って喜ぶマキサックさん。


「……ぐっじょぶ。…」

無表情で親指を立て、喜びを表現するパー子さん。


「ハチカちゃんやるぅ~!」

机に向かって絵を描いていた顔を上げ、ハチカファを賞賛する勇者様。

勇者様は、咄嗟に聖なる魔力でガードしたようで、イチナさんの事を覚えていてくれました。

でも、勇者様は他の皆さんを守れなかった事を凄く悔いていらっしゃるようで、槍の特訓も今まで以上に頑張っていらっしゃいます。

あの絵も創造魔法のイメージを固めるために必要だとか。

わたしには、見せてくれませんけど…。


「これこれ、話を聞いとらんのか。結界に弾かれた後なら、ハチカファ含め我等も聞いて回った筈じゃが?どういう事じゃ?」

「…ハチカファさん。報告お願いできますか?」


「はい~、その辺も含めて報告しますね~。…コホン」

そう言ってハチカファは、仕事用の顔に切り替えました。


「冒険者の話によると。アリーナン・バルト・ツァイネンは結界に弾かれた後、地面に手を突きかなり落ち込んでいた模様。特徴を確認し、白たんズが…。と呟いていようで間違いないかと。パレサート軍の到着と共に魔族達が魔法球で帰還を始めた頃。破れたローブを着た魔族がアリーナン・バルト・ツァイネンに近づき、魔法球で共に消えたとの事です。この話を聞けた冒険者も深手を負っており。その場で意識を失い、回復した今日、初めてギルドに報告が上がったため情報が遅れました」


「御苦労さま、ハチカファ」

はい~、と何時もの間延びした声で返してくれた。


「まさか、魔族に拉致されているとはのう。…これは、拙いかもしれんの」

「っ!ですが!なにか目的があって攫ったのなら、無事なはずです!」

「楽観的では有るがのう。どうせ魔王討伐に魔国に行くんじゃ。目的にアリーナンの救出を追加した処で問題なかろう、の?」

ファルナークさんは、ソルファさんにそう語りかけ私達にも確認を取ります。


「問題ないっす!攫った相手はコテンパンすよ!!」

「……だいじょう、…ぶい。…」

「あのアリーちゃんだよ?白ちゃんが存在する限り死ぬわけないじゃん」

「むう…、白達も心配じゃの」

「そうですね…。アリーも白が連れ去られたと分かったら心配するでしょうし…」

…イチナさんの事がいないものとして扱われているのが気持ち悪いです。

この数日、勇者様とハチカファも一緒になって大分イチナさんの事を話しましたけど、その事すら記憶にないみたいです…。

皆さんにとってイチナさんは、『神敵』で『将軍殺し』の賞金首でしかないみたいです。


日に日に禁呪の効果が強まっているんじゃないかと、たまに出る言動から感じてしまいます。

あの時戻りかけたのは、無詠唱魔法で多少威力が落ちていたのと、まだ掛けられたばかりで、イチナさんもいたし抵抗していたんじゃないかとハチカファは言います。


「…こんなの嫌です」

「そだね、早く俺様王子に会いたいよ」

勇者様が皆さんとの話しからはずれて、隣に来て手を握ってくれました。

「イチナさんなら~、大丈夫ですよ~。皆さんを戻す方法を見つけて~、帰って来てくれますから~」

ハチカファのその言葉に私は気合を入れ直します。


「そうです!イチナさんですものね。私達も頑張らなきゃ!」

「おー!」

「はい~!」

イチナさん、次に会う時に賞金額が増えてなければいいのですけど…。


Sideout

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