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猫守紀行  作者: ミスター
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子煩悩・悩むもの・友を探して三千里

シェルパ王side


家族そろって食事を楽しむ私達、その場にアイナクリンがいない事に寂しさを覚えながら、食事は進んでいく。


「お食事中、失礼いたします!王都パレサートから、緊急転移で使者が参りました!」

「なに?…謁見の間に通せ、すぐに会おう」

「はっ!分かりました!」

ナプキンで口を拭いながら立ち上がる王様に、続くようにシャーニスとバスハールも立ち上がる。

妻であるニルナッドとバラーグは食事を続けるようだ。


「お前たちは、食事を続けてかまわんのだぞ?」

「いえ、緊急転移で来られたのなら軍事関係かもしれません。私も軍を指揮する者ですし、聞いて置いて損はないかと」

「右に同じで!」

そいいう息子たちを頼もしく思いながら、食事を頬張り、給仕の子にちょっかいを掛けるもう一人の息子に視線を送る。


(バラーグの作る人形は一級品なのだがな、それに特化しすぎたせいか王としても、指揮官としても才が無い。仕方あるまいな)

私は、バラーグの作る人形の数少ない理解者でも有る。

バラーグの作る人形は、艶と色気があり、分かる者には堪らない逸品だ。

魂と魔力を込めて作るその工程は、鬼気迫るものがある。

あの才能が王としてのものだったならば、と何度思った事か。


「では、行くぞ」

いわゆる『王様マント』を着用しその場を後にするのだった。




そして、謁見の間に着き、使者に声を掛ける。

「面を上げよ、緊急の用件との事だが、何用か」

(アイリンと勇者様は今頃パレサートにいる筈だが…)


「ハッ…。我が国で神敵と認定された者が、ファニア・クラシカ・フーレ将軍とガレミー・ホーザ教会対罪者を討ち逃亡、指名手配を受けました。我が王からシェルパの王へと書簡2つと手配書を直接届ける様にとの御命令でして…」

「何故、手配書まで…、そういったものはギルド経由で届くはずだが…」


「失礼ながら、シェルパギルドへの通達は、パレサートギルドのギルドマスターによりすでにされているかと思います。こちらで直接届ける旨を伝えたため、連絡が来ていないのかと…」

手配書がすでに刷られているくらいだ、連絡は行っておろうな。

いや、そうで無くては困る。


指名手配された者は、罪の程度にもよるがほとんどが賞金首となる。

その場合、王家にも情報として回ってくるが、基本的にギルドのバウンティハンターに討たれるか、討伐依頼書と一緒に張り出され、冒険者に討たれるかなので、王家に直接関係の無い事なのだが。

…関係があるから手配書を持って来たのだろうな。


「見せてみよ」

「ハッ、こちらでございます」

手配書と書簡を受け取った近衛兵の動きが一瞬止まった。


「こ、こちらに御座います」

顔を引き攣らせ、渡してきた書簡と手配書…、書簡の一つは個人的なものか。

一体なにが書いてあるのか。

シャーニスとバスハールも気になるのかそわそわとしているな。


「…!」

(アマサカ殿!何をしているんですか!?)

そこには悪い顔でニヒルな笑みを浮かべるアマサカ殿が載っていた。


声を上げなかったのを褒めて欲しい。

無言でシャーニスに手配書を渡す。

そう、まだ書簡が残っているそちらにも目を通さねば。

書簡を広げながらシャーニスの様子を確認すると、手配書を棒状に丸め肩を震わせていた…。

仲が良かったからな、仕方あるまい…。


「兄さん、俺も見たいんだけど?」

「…だ、駄目だ。バスハには衝撃が強すぎる。後でな…ブプッ!」

笑っていたのか!?性格はニルナッド譲りだな…。

しかし、今は使者殿の前だ自重して欲しい。

それが出来ないなら出て行けと視線を強める。

それだけで大人しくなる2人だった。


ジャファンからの書簡か…。

奴とは若いころに全体のバランスか尻かで論争を極めたことがあったな。

さて、なにが書いてある事やら。


------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


ザルナク君へ。全体のバランスか、尻かで揉めたあの頃が懐かしいです。

小ぶりなお尻のアイナクリンちゃんから聞きました。

教会対罪者がファニアの命令で、アイナクリンちゃんとハチカファちゃん、安奈ちゃん以外に禁呪である『メモリー・パペット』を使って彼の記憶を消したのが、討たれた原因のようです。

正直あんな殺気を出せる人間を手配した所で意味があるのか疑問ですが、そちらで選んだ護衛を禁止魔法の『チャーム』で籠絡された重鎮達と、禁呪を使われ良いように操られた教会に押し切られたとはいえ、神敵認定した上。

僕らの初恋であるファルナーク殿にも、被害が及んだのですから、覚悟はできています。


一部の暴走ではありますが、『将軍殺し』は流石に国として見過ごす事が出来ず。

自然と賞金額が大きくなりました。

公式な謝罪文はもう一つに乗っていますが、彼については乗っていませんのでここで謝らせて頂きます。


ご免なさい。


------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


相変わらず、自分で書くと口調とまるで違う文になるのだな…。

これが公式文だと、戦争ものだぞ。

なんだ、小ぶりなお尻のアイナクリンちゃんとは!!

それに、謝る相手が違うのではないか?


覚悟は出来ているか…。

どんな制裁も受けるという事か、戦争の覚悟か判断に困るところだな。


しかし、選んだといってもアマサカ殿はCランクの冒険者でしかない。

ファルナーク殿も王族ではあるが、冒険者だ。

冒険者はなにがあっても自己責任、それはファルナーク殿も分かっていよう。

アマサカ殿もスタンピードやオーク襲撃のさいに、活躍した英雄ではあるが、この国の人間ではない。

それに冒険者は流れ者だ。


…それに、あまり大事にすると、パレサートにいるアイリンが人質に取られかねんか。

ジャファンはともかく、この件を推し進めた奴らがどう動くか…。

籠絡された重鎮達はともかく、教会側が危ういな。


あの国での教会は勇者召喚の巫女と神官を管理しているため影響力が強い。

代々王族が巫女を司るシェルパと違い、パレサートは教会に王家や、その分家の子供を預けて育てた者を巫女として使う慣例がある。


うちはアイリンが巫女だったから教会の規模も小さくて済んだが…、あちらはシェルパより大きいからな。


もう一つの書簡に目を通す、こちらは正確な経緯とアイナクリンとファルナーク殿、それに勇者様に対しての正式な謝罪が乗っていた。


「返事はこちらから使者を出す」

「…失礼ながら、返事は直ぐに貰って来るようにとの命令です」

「ほう…、それは、『(ジャファン)』からか?『(重鎮)』からか?…それとも、『教会』か?」

嘘は、許さんと威圧を込めて使者に問う。


「……き、教会です」

やはりというか…、アマサカ殿とファルナーク殿達には悪いが、抗議で済ますのが妥当だろうな…。

まさか、アマサカ殿を神敵にするためだけに操った訳でも有るまい。

せめてアイリン達が出立するまでは、なにも無ければいいのだが…。


「…分かった、返事を書こう。これは『王』に直接手渡すように。」

「ハッ、必ず!」

ふん、どうだか分からんな。

…魔法と蝋で二重に封でもしておくか。


Sideout



シェルパギルドマスターside


「……これは、貼らないほうがいいのでしょうか。悩みますね」

ギルドの掲示板の前で、パレサートから物質転移で送られてきた、全国緊急指名手配のビラを見ながらそう呟いた。


(城で魔族の隊長と戦った時の顔と比べると、随分と大人しく描かれていますね)

これを書いた人はイチナくんが戦っている処を見た事が無いんだなと、しみじみ思う。

手配書というのは悪である事を強調するために多少、誇張して書くものだが…。


(誇張になってない分、特徴を良くとらえた人相書きになってますね。イチナくんは苦労しそうだ)

「しかし…、神敵に将軍殺しですか。それで生きて指名手配を受けている方が、不思議ですね」


「お、新しい賞金首か?見せてくれよ。……おいマスター、コイツは俺達がランクアップテストした疫病神じゃないのか?」

声を掛けて来たのは、Bランク冒険者の『速剣』ガッコル・マイマー。

イチナくんのランクアップテストに駆り出され、仲間の武器を破壊され大赤字を喰らった男である。


「1度会っただけなのに良く覚えていましたね?それと彼には『白守』という二つ名が有りますから、名前かそちらで呼んであげてください」


「あんな奴、1度会っただけで、充分だろう?…それ、貼るのか?外からきた冒険者しか行かねえぞ?ここの連中は、アイツの戦ってる処をスタンピードやオーク討伐戦やらで見てるからな。助けられた奴だっている、アイツはただ敵を斬ってただけかもしれないがな。…どんなに賞金が高かろうが、命が惜しい奴は行かないだろう?」

ガッコルと共に手配書の賞金欄を見る。

《生死問わず、丸金貨10枚》

飛び付きたくなるような、金額と条件である。


ゴクリとガッコルが生唾を飲む音が聞こえた。

分からないでもない、それほどに魅力的な条件だ。

相手がイチナくんでなければの話しだが。


…正直、イチナくんが怖い。

あれほど楽しそうに剣を振るって、全く狂った様子がない。

なによりCランク冒険者なのにギルドマスターを顎で使う理不尽さ。

そして、あの剣技…、もし敵対して彼の間合いに入ったら結界を張る間はないだろう。


「個人的には敵に回したくないですね…」

「…そうだな。命あっての、だな」

男二人で並んで手配書を見ている時だった。


ギルドのドアが勢いよく開いた。


「僕様の編み物教室で使う『毛糸』が足りない!すぐに集めて欲しい!」

彼はカートス・マリガーラ。

Aランクの冒険者で、二つ名を『武神』という。

本来この国で燻っているような人間では無いのですけどね。

彼が定期的に開く『編み物教室』と『お料理教室』は、この王都のマダム達の間でカートスブームを引き起こすほどの人気ぶりだ。


「…カートスくん、そういう事は専門店に行って貰えると助かるのですが」

「あ、ハフロスさん。もちろん行ったよ。でも、最近『毛糸』が手に入らないんだ…」

彼の言う毛糸とはエンチャントの掛かった実用性の高い物だ。


「普通の毛糸を使っては?それなら売っているでしょう?」

「ハハッ、なに言ってるんですかハフロスさん。普通にエンチャントが掛かっただけの毛糸じゃないですか。あれ、その手に持っているのは手配書ですか?見せてください。…シェルパに来たら僕様が斬るから」

この王都に来て初めて見せる『武神』の顔に、思わず手配書を渡してしまった。


「……。行かなきゃ。ハフロスさん、この手配書頂きます」

そう言って、カートスくんはギルドを飛び出していった。


「…手配書、持って行っちまったな」

「まあ、写しもありますし。貼るかどうか迷っていましたからね。丁度いいでしょう。もし、なにか言ってくるようでしたら『武神』が持っていったといえば済みますしね」

しばらくカートスくんが出て行ったドアを眺めてから、私はギルドマスターとしての仕事へ戻り。

ガッコルは掲示板から依頼書をひったくりカウンターに向かうのだった。


Sideout



カートスside


僕様は、毛糸の依頼をしにギルドに来たんだけど。

そこで、とんでもない手配書と遭遇した。

そう、イチナくんの手配書だ、しかも賞金が初頭手配にしてはかなりの大金。

頭を『武神』としての僕様に切り替えていなかったら、盛大にとり乱していたかも知れない。


「……。行かなきゃ。ハフロスさん、この手配書頂きます」

そうハフロスさんに告げて、ギルドを飛び出す。

(この金額、この条件…、昼夜問わずに狙われるには十分すぎる。たとえ神敵だろうと将軍殺しだろうと、僕様の2人目の友達だ!行くしかないじゃないか!)


そう決めて、初めての友達であるマルニさんに会いに行く。



「いらっしゃいませ!あっ、カートスおじちゃん。どうしたの?」

「おや、今日は随分早いね?どうかしたのかい?」

『ホテルロイヤルジャッジ』に着くと、マルニさんと女将さんが出迎えてくれた。


「マルニさん…、女将さん…。僕様、この王都を出ようと思うんだ。友達を助けるために」

そう言って手配書を見せる。

「これイチナかい?良く書けてるね。全く…、なにやってんだいあの子は」

「まるきんか10枚?これ悪い人が書かれる紙だよね?だからイッチーを助けにいくの?……ちょっと待ってて!!」

そう言うと、バタバタと二階にある自分の部屋へと駆けていってしまった。


「あんたも、態々断りを入れなくても行きゃいいんだよ!どうせマルニの事を気にしてだろう?ここは宿だよ、巣じゃないただの止まり木さ。あの子だって分かってる。それでも気になるってんなら、…またおいで」

「女将さん…。ばい、必ずまだ来まず…グスッ」

女将さんの言葉に泣きそうになりながら、ハンカチを取り出し目元を拭い鼻をかむ…。

僕様、泣いてないからな!


「お待たせ!…なんでカートスおじちゃん泣いてるの?お母さん駄目だよ、おじちゃん泣き虫なんだから!」

「ハッハッハッ!そうだね!確かに泣き虫だ」

「?…あ、カートスおじちゃん。これサウスちゃん達に渡して欲しいの」

そう言って渡されたのは、マルニさんの『作品』だった。

僕様が編み物から裁縫、エンチャントされた糸や毛糸の効果的な使い方や、加工の仕方。

様々な技法を教えた結果、生まれた作品たち。


「これがサウスちゃんので、悩んだけどミサンガにしたの!で、こっちが白ちゃんの!水が嫌いだから雨合羽(黄色)、ちゃんとフードに耳が入るように大きめの耳を付けたの!テンちゃんのは、早く飛べればいいなと思って残ってた風読みの糸でマフラー!黄助ちゃんは、しっぽに着けるリボン!カートスおじちゃんとイッチーとシショーの分はは無いの。…ごめんね?」

「うん、いい出来だね。僕様の事は気にしないで!僕様必ず戻って来るからその時一緒に作ろう!これ、必ず届けるよ。…それじゃあ、行ってきます」


別れを告げて歩き出す。

背後から元気にマルニさんの行ってらっしゃ~い!という声が聞こえてきた。


イチナくん、何処にいるか分からないけど、必ず行くからね!

それまで、どうか無事で…、『僕』の友達。


Sideout

この更新後、時間を置くかも…。

詳しくは活動報告にて。


byミスター

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