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猫守紀行  作者: ミスター
74/141

『リセット』

「うしっ、これで良いか」

治療を終えた俺は、商業区から適当にロープを取ってきて9人を縛り上げた。

全員を寝かせた状態にして、手を後ろに回し手首と足首を縛った。

胴体だけでも良かったんだが、ロープが足りなかったんだ。

ん?矢を返した意味がないって?…気にすんな、俺も縛りながら思ってた事だ。


「ん?ああ、こら白。せっかく縛ったんだから切るんじゃねぇよ」

「み~?」

隊長格の剣兵の足のロープを爪でひっかこうとする白を抱き上げる。


「…んあ?…痛っ痛い!えっ?何この状況、俺生きてんの?痛っ!?つつかないで!?誰だよ俺の尻つついてんの!」

テンは弓兵の尻をつつく事に夢中になっており、チビスラはその周りを転がるだけ…。


「態々起こすんじゃねぇよ…。ほれ、何時までもそんな汚ねぇもんつついてんな。お前等もこっち来い」

「ぴ?…ぴ!」

迷った末、最後に羽でラリアットをかまして、こちらに走ってくるテンだった。

チビスラも後を追いかけ転がってくる。


「うふふっ、イチナさんを狙った報復ですって。好かれてますねイチナさん」

「そうなのか?なら、もうちょい言う事を聞いてくれると助かるんだがねぇ。それと、自分と相手の体格差を考えて欲しいなぁ…。ダメージを与えるなら弓兵だし、目か利き手だろ」

その台詞にアイリンが引いたのが分かった、御免なさい。


大体、なんであいつだけなんだろうか…。

なんかテンの中で基準があるのかね?

つつきやすかったとかか?分からねぇなぁ…。


「ぴ!」

「……!」

「はい、ご苦労さん。まあ、起きちまったもんは仕方ねぇな。聞きたいことがあるんだよねぇ。答えてくれねぇか?」

テンを自分の頭に乗せ、チビスラを肩に乗せる。

動くなチビスラ、こそばゆい。


「分かりません!!」

「………せめて内容位は聞こうぜ、軍人」

まあ、下っ端に聞いたところで分からないだろうがねぇ。

折角だし聞いとこうと思う。


「コロシアム側から来るものは、神に刃を向ける大罪人。これ、言いだしたのは誰だ?」

「それは…「知ってんなら、言ってみ?な?」分かりました!分かりましたから殺気を収めてー!!?」

そんなに怯えなくてもいいじゃねぇか…。

この位、威嚇で出す程度だぞ?


「うう…。此処に着いて、軍を確認した魔族が撤退を始めたから、そのまま帰れると思ったのに…。ファニア将軍が突然、皆を鼓舞し始めたんです。『我等の敵は魔族に非ず!敵は、神に刃を向ける大罪人…、神敵なり!!』って。後は、ここを封鎖して、神敵を足止めするか、排除しろって…。俺の知っているのはこの位です…。下っ端ですから細かい事はちょっと…。や、やっぱり殺されるんですかね、俺」


そのファニアって奴の独断だとしても、斬って終わりって訳にゃいかねぇか。

将軍だしねぇ、斬ったら見事追われる身、斬らなくても追われる身か?

なら、殺っちまってもいいかなぁ。


「あの…」

「ああ、悪い。ありがとよ。んじゃ沈め」

「ゴフッ!?」

礼を言ってから、弓兵を沈めなおす。


「…アイリン、どっかで合流する予定とかあんのか?」

「えと、この先に馬車が止めてありますので、そこで落ち合う事にしてあります。そろそろ皆さん戻って来てる筈です。…アリーナンさんもきっと」

「…おう、そうだな」


俺とアイリンは馬車に向かって歩き出した。




早脚のアイリンに合わせ歩いていると刻波から、渋い声が聞こえた。

《ぬし殿、修復が完了いたした》

「はやっ…いのか?」

「?」

突然声を上げた俺に不思議そうに首を傾げるアイリン。

気にするなと伝え、心の中で会話する。

加護での修復なんて本格的に使った事が無いから分からねぇ。


《神気をもちいましたゆえ、切れ味、強度共に比べ物にならぬかと》

(…早さについての答えではないんだな。大体、神剣ってのは、なんなんだ?仰々しい名前だが要は剣だろう?)

《然り、剣に変わりは有りませぬ。ただ、神気をもちいる剣ゆえ。吸った神気の量と、使い手次第で大地を斬り、雲を割り、海を裂く。ただ、我は神気を精製できぬゆえ、今ある神気が無くなれば、形だけの神剣となる事を忘れぬよう》


「…ヤベェ、思った以上じゃねぇか。封印したくなるレベルだ。こればっかりは試してみねぇと分からんな」

on、offきかねぇかな、なるべく人のいない場所でやりたいなぁ…。


「あ、あの…。イチナさん?大丈夫ですか?あっ!さっきの頭の傷が!?み、見せてください!」

そうだよなぁ、他の人には一人でブツブツ言ってるヤバい奴に見えるのかー。

まだ慣れてねぇから、仕方ねぇが気を付けよう…。


「さっきちゃんと治してくれたろ?大丈夫だよ。ほれ、馬車が見えたぞ」

「あ、はい」

視線の先には、見慣れたメンツと話しをする鎧を纏った、男?女?性別が分からねぇが髪の短い美人が一人。

あれだ、宝塚の男役みたいな感じがするから男装の麗人って奴かもしれん。

そして、神々しい程に輝いたアホっぽい金色の全身鎧を見に纏ったフルフェイスヘルムの男が一人…。

純金だとアホみたいに重いんだが…、金メッキだよな。きっと。

態々鎧を金色にするセンスは真似できねぇ、ある意味尊敬すら覚えるぜ。


「イチナさん…。ファニア将軍です!」

「どっちが?金色の方か?」

どうしても金色の方に目がいってしまう。


《一南、あの鎧、神具だぞ。詠唱、魔法名なしに魔法を使える寄生型の『杖』だ。名は『黄金城』鍛冶の神がお遊びで作った神具だ。使っている人間を見るのは初めてだが》

「へぇ…」

神具ってのは、初めて見たな。

そんなもん使う奴を連れて将軍様はなんの御用でしょうかねぇ。


「やあ、初めまして大罪人。私はパレサートの将軍でファニア・クラシカ・フーレという者だよ」

まるで、劇でもしているかのように大げさにお辞儀をする将軍様。

男装の麗人が第一印象、第二印象は舞台役者。

薄い茶色の髪と、暗い金色の目が印象的だ。

背は、175cmくらいだ。


「こっちは私の相棒で、神に逆らう神敵を裁く任についている。教会対罪者のガレミー」

ガレミーは、両手をピシっと揃え、深々と90度のお辞儀をした。

背丈は165cmくらい、あと金色。


「将軍の相棒が、神敵を罰する者か?何者だテメェ。魔王を止めに来た俺が、なんで大罪人と呼ばれなきゃならんのだ」

俺は軽い殺気をぶつけながら問う。


「怖い怖い。そうだね、教えてあげるよ。この地に『魔王』はいなかった。いたのは『神』。で、その力を狙って魔族が攻めてきたのさ。そういうシナリオでね、王様は、僕を含め、神罰の怖い重鎮達やパレサートの教会に押し切られて承認したよ。まあ、情報は私が流したんだけど。それに、重鎮達を『唆したり』ね?君は神様の怒りを買わないための供物にされたんだよ」

「要は生贄か…、下らねぇ」

しかし、こんな話しをしててもルナ達は静かだな。

なんか反応があってもいいようなもんだが。


「神になったって言っても元魔王だろうに…、怒りを買う買わない以前の問題だろうが」

「そうだね、でも神様だからね」

《無駄だ、一南。この世界の神は隣人でもあるが、崇拝すべき対象でもある。魔王から神になった処で、大半の人間は神として扱うだろう。冒険者や王は別だろうがな。冒険者は、神の加護を生き残るための仕事道具として見ているふしがある。加護を与えない神など無価値だろう》

すげぇな冒険者。


「実に下らねぇ理由だって事は、よく分かった。もう一つ質問だ。テメェ、なんで神と戦って生き残ると分かった?予知巫女でも分からねぇ筈だが?」


「もう少し綺麗な言葉は使えないのかい?簡単さ、教えて貰ったのさ。とある神様にね?それに、力もくれたよ。異物(キミ)を倒すためにね!!」

いきなり剣を抜き、横に振り払うファニア。

剣速自体は大したことはないが…、なんかヤバい。

咄嗟にアイリンを抱え倒れ込む。


「み゛!?」

あ、いけね白が軽く潰れた。

倒れ込んだ後、なにかが上を通り抜けていった。

「みー!みー!」

「悪かったよ、咄嗟だったんだ許してくれよ。アイリンも悪いな」

「あう、あうぅ…」

うん、オットセイのような鳴き声だな、見た目はゆでだこのように赤いが。


「おっと、いけない。王女様がいるんだったね」

起き上がりながら、アイリンにチビーズを預けて、横目で先ほどの『なにか』を確認する。

…白はまだ、不満げにみーみー鳴いていた。だがら許してくれって。


「…なんだぁ?」

多分、斬撃を飛ばしたんだろうが…、家屋の当った部分が砂状に成って流れ出ていた。

《『砂塵神剣』だと?あれは『砂の神』のお気に入りだぞ。あのケチは、人に見せる事も嫌がるのに…。レプリカか?》

(『砂の神』かぁ…。白の加護の中で、一番お世話になってる加護だな。白が自分でどこにでもトイレが作れるから、重宝してんだよなぁ。いけね、思考が反れたな)


ルナ達も各々構えだした、手出すなよ相手が厄介すぎる。

「フフッ…、言い忘れていたよ」

「あん?何をだ?」

「君の仲間の事だけど…。ガレミーの禁呪『メモリー・パペット』で記憶を弄らせてもらってね?君の事は、覚えてないんだ。ほら、君の仲間は優秀だろ?勇者様の旅路には必要かなって思ってさ。君は仲間に刃を向けられるのかな?」

…なんだと?


「いやぁ、苦労したよ?なにせ、あの『時姫』がいたからね。まずは、ガレミーに射程ギリギリから動きを止めて貰おうと思って、私が直々に挨拶に行ったりね。警戒してくれるなり、歓迎してくれるなり、どちらにしても注意は私に向くからね。…まあ、歓迎はされなかったけど。まあ、嘘くさいというだけで将軍を斬りつけるようなバカじゃなかったって事だね。でも、時姫とそこの筋肉が拘束魔法を力ずくで破りかけたのは驚いたよ」


聞いてもいねぇ事をペラペラと…。

「…ざっけんなよ、テメェ!」

あいつ等が俺の事を覚えて無いだと?

ルナやソルファもか…、ああ、クソッ!目に敵意しかねぇじゃねぇか!


「イ、イチナさん…。どうしましょう!」

動揺を隠せないアイリンをチビーズがモチャモチャとなだめる。

服を啄むテン、肩から肩へと移動を繰り返すチビスラ。

指を舐めようと顔を近づけるが、抱きしめられていて届かない白。

……よし、癒しは得た。戦闘に頭を切りかえよう。


どうする…、全員を無手で沈める?ルナがいるから、ちいと無茶か…。

あん?パー子がサウスに乗ってねぇだと?

サウスは戦闘態勢を取っているが俺に敵意を向けてねぇ…。

黄助とクロハは?…掛かってねぇのか、掛けられてねぇのか、何時も通りで結構だ!


3匹に目配せして一言。

「やれ」

その瞬間、サウスが全力でファニアとの間合いを詰め『剣』を持つ右手に噛み付いた。

「ぐあっ!?」

剣を落としたファニアを放し、鞘をつないであるベルトを爪で断ち切る。

そして、すぐにイメージ魔法でガレミーの方へと吹き飛ばし、鞘を咥え空中へと投げ、次いで剣の柄を咥えこちらに走ってくる。


吹き飛ばされたファニアをガレミーがキャッチしたのを見計らい、クロハが剣撃を伴い突撃、2人は轢き飛ばされる事になる。

空中で背中に乗った黄助が鞘をキャッチ、そのままこちらへ駆けて来た。


「…ビックリするくらいの連携だな、おい」

アリーナンに感謝だな。

柄が涎に濡れた剣を自分の体の横でファニアと同じくらいの速度で振って見る。

…なにもでねぇな。

黄助から鞘を貰い、鞘に入れそのまま次元袋に突っ込んだ。


「ぐう、う…。返せ…!それは、神様から授かった神剣だ!!キミのような者が触って良い物じゃない!!」

「仲間の記憶を戻したら返してやるよ…、すぐにでもなぁ?」

《一南…、残念だが。禁呪とは一度使った相手には使えないのだ。自力で戻すか、神気を解呪に使える者を探すしか方法は無い。私も先客の御仁も方法を知らない…。現状、治癒の神を当たるというのは難しいだろう、それ以外となると…》

マジか!?もうちょっと早く言ってくれ、ただの悪役じゃねぇか俺。


「って事は。ルナ達の記憶は…」

「罪人風情が、我をルナと呼ぶでないわ!!ルナと呼んでいいのは…む?誰だったか…」

「落ち着いてください、ファルナークさん!アイリンや白達が人質に取られているんですから!速く倒してアリーの捜索に戻らないと、僕が着いていくために前に出たばっかりにアリーは…?あれ?誰に着いて行こうとしてたんでしょう?」


ああ、コレは、キツイな…。正直泣きそうだ…。


「イチナさん!!」

その声に振り返るとアイリンと暴れる白達をハチカファが抱きかかえていた。

ああクソッ!優秀だなハチカファ!


「み~!?」

「ぴぴー!!」

「……!!!」

「も~、白ちゃん達~?暴れちゃ駄目ですよ~。イチ…、怖い人から離れましょうね~」

ん?今、なんかおかしくなかったか?


「イチナさん!!前!」

「ラリアーットっす!!」

アイリンの声に視線を戻すと魔力を帯びた腕が迫っていた。

マキサックか…。


「ふんっ!」

ラリアットを避けながら、カウンター気味で胴体に拳を叩き込む。

「ぶふっす!!?」

マキサックが吹き飛ぶ前に更に踏み込み、拳を開き顎に掌打を叩き込む。

「ごばっす!!」

放物線を描き5メートルほど縦回転をしながら、宙を舞うマキサックだった。

あんだけやっても、語尾を付ける余裕があるのか…。


「え?…仲間、ですよね?一切の躊躇もなく止めまで…」

「本気じゃねぇよ。マキサックは頑丈だからなぁ。このくらいしねぇと沈まねぇんだよ。…加減しすぎて沈んでねぇが」

相変わらず、タイヤに鉄芯が入ったみたいに硬い体だ。

斬レンジャーをして、重量の加護を外してるから加減が難しいなぁ。

もうちょい強めでも良かったな。


「マキサック!しっかりせんか!!アイリン!治癒を!!…許さんぞ!」

「マキサックさん…。仇は取ります!」

「……ああ、サウスどうしてあなたは…サウスなの。よよよ…」

「し、死んでないっす…」

ルナとソルファはその場から駆け出し、俺に向かって突撃してくる。


…パー子は変わって無い気がするが、まあいい。こっからが問題だ。

俺が容赦なくやれるのはマキサックとアリーナンくらいだからな。

せめて、あの金色だけは潰したい。

神剣になった刻波をこいつ等で試す訳にもいかねぇしなぁ…、参った。


《ぬし殿、我の方で神気を調整するゆえ。存分に振るわれよ》

(出来るのかよ!?なら、出す神気はゼロでいい。ただでさえ切れ味が上がってるんだ、後は腕でカバーする)

《御意に》


ハチカファに連れられ、マキサックの元へ向かうアイリンを横目に、

「ハァ、しかし…。まさかルナ達に刻波を抜く日が来るとはねぇ…」

俺は、大剣と魔量斧槍を振りかぶった2人が同時に仕掛けてくるのを見ながらそう呟いた。


「シッ!」

構えと同時に抜刀、放つは『十六夜』。

全て武器を狙った斬撃、最後の一閃にイメージ魔法で雷を帯びさせ、感電を狙いながら、弾き飛ばす。


「ぐっ!雷撃か!?それに我でも見えぬ斬撃…、ぐっ、なんじゃ頭が痛い」

「うっ!痺れる…。あの剣技、見えないのに見たことが有るような…、ううっ頭が!」

お?意外と直ぐに思い出しそうな感じか?


「いけませんね。ガレミー」

その声に、金色が頷くと俺の足元から魔力で出来た蔦が生え、足に絡み付き動きを封じられた。

《一南!上だ!》

ガトゥーネの声で上を向くと無数の赤い魔力で出来た槍が宙に浮いていた。

降り注ぐ槍の雨、しかし、緑の障壁によって防がれた。


「おう、助かったわ。サウス、ありがとな」

「ガウッ!」

サウスの体にある魔法紋の1つが淡く輝いていた。


「がぅ」

「ブルルッ」

クロハから降りて俺のとこにやって来た黄助、その後を追うようにクロハも横にくる。

その視線はガレミーとファニアを睨みつけていた。


「くははっ!そうだよなぁ…、お前等も怒ってんだよなぁ。俺もあの2人は、ちいとばかし許せんのだわ」

殺気を全開にして、ファニアとガレミーに殺す意志を叩き込む。


「あ、この殺気凄く覚えがあるっす…。それにあの笑い…。うう、頭が痛いっす!でも、絶対に敵に回しちゃいけない人な気がするっす!!」


そんな、マキサックの言葉を聞きながら、バックルに魔石を入れる。

「さあ、潰そうか!」

「グルガァア!!」

「ガウッ!!」

「ブルルッ!!」

足に氣を溜め爆発、蔦を引き千切りながら走る。狙うは金色と男装のみ!




その時、マキサックの治療を終えたアイリンはというと…。


「あら~、どうしましょう。アイナクリン様、イチナさん本腰入れちゃいましたよ~。

速く逃げて貰わないと~、もうすぐ軍隊が此処にきちゃうと思うんです~。白ちゃん達は危ないから連れてきましたけど~、イチナさんと一緒の方がいいですよね~。逃がしちゃいましょう~!」

「ハチカファ、貴方、魔法が効いてないのですか?」

「…内緒ですよ~?この護衛を受ける際に魔具を~、一つちょろまかしたんです~。これ、『魔吸のタリスマン』っていって~、魔法を吸い取ってくれるんです~。あの魔法一発で上限一杯になったみたいで~、もう使えませんけどね~?」

「ふふっ、良かった…。白ちゃん、テンちゃん、スラちゃん。準備して置いてね?私はイチナさん宛にお手紙を書くから持って行って」

そう言ってハチカファから紙とペンを受け取り、サラサラと書いていく。


「み!」

「ぴ!」

「…!」

「うん、また会いましょうね?」

『三位一体、白ライダーテン!』(昔のロボットアニメ風に)は、テンが手紙を咥え、空に舞い上がり、その時を待つ。



一方、一南は…。


「逃げんなや!コラァ!」

俺は殺気を振り撒き、飛んでくる魔法を斬り裂きながら、逃げようとするファニアとガレミーに迫っていた。


「くっ、ミーの魔法が!?」

うおっ!?金色が喋った!?


「フ、フフフッ…キ、キミは、大した剣士だ!賞賛に値するよ!」

(なんだこの化け物は!?こんな奴だなんて聞いていないぞ!?私だって神様から神剣とは別に、身体能力の向上を受けているのに!!その私が近づく事すらできずに、予備の剣を折られて、逃げるしかないだって!?)


「ようやく足を止めたかよ…。テメェ等は此処で死んどけ」

「フフッ、私を殺してもいいのかい?将軍だよ?後ろからはパレサート軍も来ている。もし、私を斬ったら、キミは世界から狙われ…キィィィン…え?」

響く鍔鳴音。


「口上がなげぇ、俺はテメェに死ねと言ったんだ。世界から狙われる?上等じゃねぇか。いい鍛錬に成りそうだ」

ボトリ、ボトリと腕が落ち、すぐに体が倒れ7分割された無残な屍とかしたファニア。


「ミ、ミーの鎧はそんな剣じゃ斬れないですよ!?」

「ああ、だだの剣ならな」

(神剣だし、いけるんだろ?)

《然り。しかし、初めての神気を使った攻撃ゆえ、一閃のみに抑えて頂きたい》

問題ねぇな。


「斬り散れ…」


抜刀。


何の抵抗も無く振り抜かれた刻波には、血の一滴すら付いていなかった。

刻波を包む白い光、これが神気らしい。

ガレミーは間を置いてズルリと斜めにずれながら崩れ落ちた。

斬撃が飛んだ訳でもないのに、ガレミーの背後の家屋も10件ほど同じように崩れるのを見て、是が非でも聞きたくなった。


「…なあ、これでどの位の神気を込めたんだ?」

《今ある神気の1/1000程ですかな》

「…正直、使いにくい」

《……》

慣れる慣れない以前の問題だ。

これじゃ刀として使えねぇ、ただの虐殺兵器だ。


《次に使うまでに、神気の使い方を御仁に教えておこう。一南が使えればいいのだがな、出来ないものは仕方ない。御仁に徹底して仕込んでおこう》

(…なんか、よく分からんが。頼んだ)

《フフッ、任せろ!》

うん、なんかノリノリだねぇ…。


しかし、結局一人で殺っちまった…。

後で黄助達に謝んねぇとなぁ、後は足止めしてくれた礼もだな。

決して、逃避ではない。

さて、これからどうするかねぇ…。


確か、軍がくるとか言ってたな、一人相手に大層なこった。

その前に逃げたい処だが…、いやまあ今の刻波があれば軍隊だろうが斬り散らせるかもしれんが。

俺にはそれをする意義が見つけられない。


しかし、ルナ達を置いて行く、か。

黄助とクロハは、連れていくとして、サウスは…、白のテイムモンスターだしねぇ。

チビーズはアイリンと一緒なら心配はねぇと思うが。


…まずは、戻るか。




「ええい!黄助!退かんか!なぜ奴を庇う?奴は、奴は…?何故、あ奴は黄助を大きくできた?ぬぐっ!なんなのだこの痛みは!?」

戻ってくると、黄助がルナを。


「……サウス…駄目?「グルルル!」…がーん…」

「速いっす!そして技を避けないで受けて欲しいっす!」

サウスがパー子とマキサックを、パー子へこんでんなぁ…。

後マキサック、態と受けるのはテメェくらいだ。


「僕にクロハは、バトルホースは斬れません…。あれ?クロハって誰の…痛っ!なんでしょうこの頭痛…」

…黄助達、置いていった方が記憶戻るんじぇねぇの?


その時、頭上から白の声が聞こえ、俺は上を向く。

勢いよく腕の中に飛び込んできた白…、テンがなにか咥えてる手紙か?

手紙が受けた風圧と手紙の重さで完全に反り返ったテンから、手紙を受け取る。

…ぐったりしてんな。テン、ご苦労さん。


その場で手紙を開くが…。

「読めえねぇ…、後回しだ」

一応、勉強はしてるんだがなぁ、英語でいうならABCとハッキリ書いてあるものならなんとか読めるが、この手紙みたいに走り書きの筆記体は無理だ!


アイリンの方へと視線をやると、笑顔で手を振るハチカファと焦った表情でなにかを訴えているアイリン。

…魔法に掛かってないのか、ハチカファは!?


なんだ?…ニゲテ、逃げて、ね。

ルナ達の記憶、もう少し粘ればいけそうな気がするんだが…。

後ろから、かなりの数の気配が感じられるしねぇ。

「……しゃあねぇ、か」


ルナ達の記憶があったとしても、将軍まで殺しちまったしねぇ…。

アホかと言われればそれまでだが、アイツ等は生かしちゃおけなかったからなぁ。

ルナ達には未練たらたらだが、ファニアを斬った事に後悔は無い。

ルナ達の事も、ガトゥーネの事も、逃げながらだろうが何とかするしかねぇだろう。


俺は走りだし、同時に愛馬の名を呼んだ。

「クロハ!!」


その声に反応したクロハは、ソルファに一度体当たりをかましてから俺の横につける。

クロハに走りながら飛び乗り、抱いていたチビーズ達を所定の位置へ。

チビスラは肩、テンは胸ポケット、白は足の間だ。


「サウス!黄助!行くぞ!」

「ガウッ!」

「グルガァア!!」

黄助が続き、殿(しんがり)はサウスだ。


「待たんか!!」

「待てっ!」

「…またな。嫁さん」

背後で吼えるルナとソルファの声にその呟きだけを返して、走り去る。

走っている最中に黄助の魔力が切れるというアクシデント…。

というか必然もあったが、サウスに咥えられ事なきを得た。


何処に行くかは決まって無いが、探すものは決まっている。

「神気使いで解呪が使える奴…、神以外にいるかねぇ?」

(あとは元魔王からガトゥーネの力を取り戻す事だが…。コイツは転移で移動してる分、居場所に見当もつかん。まあ、どっちも分からないんだがな)


《可能性は、ある。神気は万能だ、しかし解呪の方法が知られていない。まずは神の使徒探しだな。もし解呪の方法が分かったとしても、私や御仁の今の神気で足りるか分からない。一番いいのは治癒の神の使徒を見つける事だ。それと私の事は気にするな、どうせなら今以上に腕を上げた一南と戦いたい。それに、先に仲間を治す事が先決だろう》

(おう、ありがとな。それで、使徒ってのは?)


《神の使い、あのファニアとかいうのがそうだな。どの神かは神気の質で分かるのだが…、奴は神気は持っていなかった。急造の捨て駒だろう。一南についての情報は与えられていたようだがな。それに、サウスも使徒ではないか、他の神から聞いていなかったのか?》

ん?サウスが使徒?


《サウスは本来、白の守り手として神々に選ばれ、階位の上限が外され、能力が強化されたモンスターだ。神気の類は持ってはいないが、階位の上限が無い分、神に匹敵する力を持つことも有りえる存在だ。一南というイレギュラーのせいで白をサウスのそばに出せなかったらしいがな》

(俺のせいかよ…)

思わず先行している、サウスを見る。

視線を感じたのか戻ってきてクロハの上にいる俺を並走しながら見上げるサウス…。


うん、サウスだな、使徒だとかどうでもいい。

走行中じゃ無けりゃ撫でくりまわしている処だ。


「OK、治癒の神の使徒だな…。目標は決まった。後は情報だ。…邪魔する奴は斬り散らす!」

俺は、クロハを走らせる、思えば初めての一人旅…。

アニマルズのお蔭で寂しいと思う事は無さそうだ。

これから、始まる一人と5匹の旅。

ある意味、ここまでがプロローグ?…すいません、冗談です。


次回はシェルパの反応をお送りします!


byミスター

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