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猫守紀行  作者: ミスター
72/141

神と精霊、一南と神

長い…。

1万字になってしまった。

一南side


「此処は…。コロシアムの外か?鎧男はどこ行った?」

ばらばらに飛ばされたのか?他の奴等もいやしねぇ。


「イチナ!」

「ルナか、他の奴等は?」

「そう遠くへは飛ばされておらんじゃろう。結界に弾かれただけじゃから、転移させられたわけでは無いしの。問題はチャンターが近くにおった事なんじゃが…」

チャンターってのは、あの鎧男の事か。

たしかに面倒だなありゃ、そのまま引いてくれてりゃいいんだがねぇ。


そんな事を考えながら、俺は結界の方へと目を向ける。

天辺から徐々に消えかかってるだと?こんなに早く決着が付いたのか!?


「ルナは他の奴等を探しながら、アイリンと合流して撤退しろ」

「…行くのか?」

結界を睨みつける俺に対し、心配そうな声を掛けるルナ。


「…おう。俺が戻らなかったら、白達を頼むな?」

「無理じゃ。無理じゃから帰って来い。必ずの」


「…あいよ」

そう言って俺はコロシアムに向かって走り出すのだった。


Sideout



「なぜ当らん!身体能力も、神気の多さも神になった俺様の方が上の筈だ!!」

右手に持った剣状の『ディスワイルド』を振るたびに神気が余波として飛んでいく。


「たとえ特性と力を奪おうと、私が培った技術は奪えまい。力だけで戦の神と名乗れる訳がないだろう!」

(とはいっても…。格の落ちたこの体では神としての『技』は使えないな。消滅しなかっただけでも有難いが、長くは持たないか…)

それを避けながら手に持つ神気剣で斬りつけるガトゥーネ。

かすり傷程度ではあるが、確実に一撃を当てていく。


未だ制御が効かず、神気を無駄に放出する元魔王と。

最小限の神気と、己が技量のみで戦うガトゥーネ。

未熟な神と神から堕ちた精霊。

ある意味、奇跡の拮抗状態が生まれていた。

しかし、時間がたつにつれ、元魔王が力について理解を深めていく。


「…なるほど。神気とは、随分と魔力と扱いが違うのだな…。圧縮さえうまく出来ればいくらでも姿を変える!まるで『ディスシリーズ』だ!!」

左手を地面に向け、神気を放つ。ガトゥーネの斬撃を神気の壁が阻んだ。


「くっ!?」

(もう圧縮のコツを掴んだのか、流石は創る者か!…だが)

「練りが甘い!!」

レイピア状の神気剣で、神気の壁を貫く。

壁と元魔王を貫いたはずだったが、もうそこに元魔王はいなかった。

そして壁が消えると、そこに転がる魔法球。


「何!?」

次の瞬間、風を伴う衝撃がガトゥーネを襲った。

その衝撃を受け、後方に飛ばされるガトゥーネ。

『ショック・ウインド』接近をさせない事を前提にした魔道士などが使う、吹き飛ばす事を目的とした風魔法である。


「フハハハハッ!!神気でも魔法球は発動するのだな!新しい発見だ!!ならばここからは魔法球のテストといこうではないか!」

左手に懐から取り出した魔法球が握られていた。

そこに神気を送り込む元魔王。

ガトゥーネの目には、溢れた神気が空気中の魔素と混ざることなく漂うのが見えていた。


(使った神気を回収する方法や、魔力に変換する方法はまだ知らないか。『魔脈』に入る前に回収せねば、モンスターが強力に成り。世界のバランスが崩れるのだがな…。これは神域で感覚を掴むもの、この者が神域に入れるかどうかは創世の神が決める事。…今は私が回収するしかないか)


元魔王が神気を使えば使うほどに、神気を吸収し器に入らない分を魔力に変換。

体の強化や防御にまわすガトゥーネだった。

だが、神としての体では無いため、本来は時間を掛けて回収しなければならない。


元魔王が攻撃手段を魔法球に切り替えたのは、ある意味助かったといえよう。

このままの勢いで神気を回収し続ければ、器が広がる前にパンクしかねない。

神気は魔力と違い、器に溜めても階位が上がりにくいのだ。


「まずは、これからだ」

そう言って、身構えるガトゥーネに向かって魔法球を投げた。


発動する魔法球。

距離を取ろうと動くガトゥーネに、追いすがる2本の黒い刃。

『魔改造シリーズ追尾編』の『ホーミング・シャドウザンバー』

本来は斬撃の後に、刃の影に隠れ追撃する補助魔法で、『ストック・ザンバー』という魔法である。


「甘い!!」

魔法を神気剣で斬り裂こうとするガトゥーネだが。

黒い刃の1本に神気剣が触れた瞬間、ガラスのように砕け破片となって向かってきた。

破片の背後からは、追撃するように、もう1本の黒い刃が飛んでくる。


「なにっ!?ハアッ!!」

ガトゥーネは、魔力を放出し破片を吹き飛ばそうと試みる。

魔力を受けた破片は、向かってくる速度は落ちたものの、ガトゥーネの体を切り裂いて消えていった。

ガトゥーネは、破片に切られた傷を無視して、神気剣の刃を薄く広げた神気の膜に作り変え、その膜で黒い刃を包み、潰した。


(これが改造術式か、本来の魔法の形が見えない…。それに神気で発動させているせいで、魔力での防御は効果が薄いか。厄介だな)


「それで精一杯か?一方的な戦いというのは実に楽しい。これが本来、魔王だった俺様の正しい立ち位置なのだろうな。癖になりそうだ。フハハハッ!」


「神に成らねば分からないようでは、根本が戦いにむいていないのではないか?」

(しかし…。このままでは、拙いな。精霊の体というのは直接戦闘に向いていない。傷をつけられただけで、体を構成する魔力が抜けていくのが分かる…。憑代の無い状態では、限界があるか)

破片に切られた傷だらけの体で、なおも剣を向けるガトゥーネ。


この世界での憑代とは、精霊にとっての家であり、銀行である。

休む場と力を預け引き出す場を造る代わりに、家賃、利息として魔力を提供するのだ。


「貴様が言ったのだろう?俺様は創る者だと。さあ、次はこれだ」

不敵な笑みを浮かべる元魔王の手から離れる、発動寸前の魔法球…。

ガチュンッ!と何かが当たる音と共に元魔王の足へとぶつかり、そこで発動した。


「ん?…ぬぼがぁっ!?ごふっ!ちょっ、がふっ!ストップ…ひょっ!?!?!?」


発動したのは『魔改造シリーズ対人魔法編』の『ダーク・ストライク』である。

本来は『サード・ストライク』という魔法で、三本の石柱が地面から生え、敵を襲うのだが、改造され闇属性を付加し、石柱の数も5本に増えている。

この場に二人しかいないため、対象指定をせずに投げた為に魔法球は一番近い対象を『敵』と認識したのだった。


元魔王が魔力では無く、神気を魔法球に込めた為、魔法が効きにくい筈の『神』にも届いたのだった。


「これは…。投げナイフ?」

ガトゥーネの足元に転がるのは、ひしゃげたナイフだった。



一南side


目視できる距離まで来た俺は、取り合えず『投球術』で魔王の頭を狙ったんだが…。


「あん?防がれたか?…うっわ、エグイ。ガトゥーネの魔法か?」

※あなたのせいです。


一発目は綺麗に顎に入ったな、見事なアッパーカットだ。

そして体がくの字になる程のボディー、次いでレバー、4発目は回避して…。

最後の一発は『股間』にクリーンヒットした。

…潰れたか?男としては、同情せにゃいかんだろうねぇ。


ダメージが入っているのか非常に痛そうである。


「…まあ、魔王がもがいてる今のうちに合流しとこうかねぇ」

俺は力の塊となった魔王に向かって走り出した。


Sideout



「っ!?!?!?」

(何が起きた!?何故投げた魔法球が戻って来る!?いや、そんな事よりも、俺様のマイサンは無事なのか!?)

声も出せない程の痛みに、その場で股間を押えもだえる元魔王。

痛すぎて、無駄に神気を放出している。


「チャンスなのだが、こちらも限界か…」

破片によって付いた傷から体を構成する魔力が抜けていき、膝を着くガトゥーネ。

既に左足の膝から下と神気剣を握っていた右手が薄く消えようとしていた。


(神気を回収して魔力に変換しても、構成魔力として圧縮するのには時間がかかる…。憑代が無ければ現状維持が関の山か…。ん?)

そんな時ガトゥーネは、視界の端に猛スピードで元魔王へと走り込む一南の姿を捉えた。


「シッ!」

一南は、空転(からころび)で間合いを詰め、首をメインに狙って、六銭を放つ。


もだえながらも、神気を固めて小盾を作り、首周辺の防御にまわす元魔王。

刻波が盾に当った瞬間、ビキリと嫌な音が鳴った。


(!やべぇ。一太刀も浴びせられずに、刻波が限界か!?鍛冶の加護の修復でイケると思ったんだが。いや、使った俺が馬鹿だったか。クソッ!)

焦りながらも、元魔王が反撃に移る前に更に接近して、氣を纏わせた足で鳩尾を蹴り抜きにいった一南だが、元魔王の盾のガードに阻まれ、狙いとは違う『股間』に当る。

刻波を収め、拳を振るうが。


「っ!!!?!?!?!?」

思わぬ『追撃』に悶絶し、言葉にならない声と神気を大量に放出する元魔王。

一南は、その神気に当てられ吹き飛ばされる。


「チッ…。あんなんじゃなく、まともなのを浴びせたかったねぇ。ガトゥーネ、無事…って、おい!?消えかかってんじゃねぇか!!」

取り敢えず、もだえる元魔王には、近づけないため放置して。一南は、ガトゥーネに走り寄る。


「油断して見ての通りの有様だ。すまないが一南、憑代を持ってないか?」

「憑代の意味は何となく分かるが…。どんなもんがいいんだ?」

ガトゥーネは、既に左足の膝から下と右手首から指先にかけては消えていて、座りこんでいる状態だ。


「この場には、神気が溢れているからな。今憑代に入れれば、憑代に力を溜めこんで、回復と同時に力を溜める事が出来る。そうだな、その剣がいいな。魔剣は精霊の体が受け付けないからな」

そう言って左手で刻波を指さすガトゥーネだった。


「ちいと、折れかけてるが…。大丈夫かね?」

(物には神が宿るとは言うが…。まさか本当に宿す事になるとはなぁ。魔王に奪われたから神では無いんだが…。アレを神とは認めんぞ俺は)


「ああ、問題ない」

そう言うとガトゥーネの体は形を無くし、光の球へと変わり…。

刻波に吸い込まれるように消えていく。


「おいっ!?ガトゥーネ!!」

消えるガトゥーネに、あせる一南だがそんな時元魔王が痛みから復帰したのだった。


「貴様!!よくも俺様のマイサンを蹴り上げて「喧しい!!それどころじゃねぇんだよ!!」あ、はい。……いや、神に向かって喧しいとはなんだ!!」

殺気を込めて怒鳴りつける一南に対し、一拍置いて神気を込めて威圧する元魔王。


《落ち着け、一南。私は剣の中に入っただけだ。どうも先客がいたようでな、事情を話して仮の憑代とさせてもらう事にした。その先客から伝言だ。『驕るなかれ、ぬし殿は万全に非ず。我もまた然り』だそうだ…。先客がいなければ此処に定着していたかもしれないな。実に居心地が良い》


「は?剣の中?先客?」

(刻波になんか宿ってたのか?まあ、折れかけで万全って訳にもいかないのは分かるが…)

《どうやらそのようだな…。この世界の来た時に意志を持ったのではないか?もっとも神としての力は、全くと言っていいほど持ち合わせていないようだ。ゆえに誰も、加護を付けた神ですらも気づかなかったのだろうな》


「心を読むなよ…。という事は一匁時貞にもか?確かめようがねぇな。二本ともさほど古い刀でも無いんだがねぇ…」

一匁時貞の柄をさすりながら呟くと、我慢の限界が来たのか元魔王が口を開く。


「ごちゃごちゃと何を言っておるのだ貴様は…。まずは、神である俺様に無礼を働いた事を詫びろ。そうすれば力の応用に付き合せてやろう」

「くはっ!意味が分からねぇ!まあ、どっちにしろ、テメェをどうにかしねぇといけねぇからなぁ…。メンゴ。ほれ、謝ったぞ?」

一南の謝る気0の謝罪を聞いて、頬を引くつかせる元魔王。


「さあ、始めようか」

一南は、その様子を見て、口の端を上げながら一匁時貞を抜刀した。


「俺様をバカにしたことを後悔させてやろう!」

『ディスワイルド』を剣に変え、その場で振るう。

剣閃が神気の斬撃となって一南に向かって放たれた。


一南は、斬撃の下を潜るように走り抜ける。

「ふん、魔角なしで貴様との接近戦はごめんだ」

そう言うと左手で『ピストル』を形作り、親指を下ろす。

そこから発射されたのは神気の『散弾』、一南は横に飛んで躱した。


「おいおい、なんでも有りかよ…。接近戦楽しいぞ?一太刀で首を刎ねてやるから、な?」

「オウマ以上の剣閃を持つ貴様と、同じ土俵で戦う必要もあるまい。それにこれは、力の応用…。この力でどんなことが出来るか貴様で試させてもらうぞ」

そう言うと空へと浮いていく元魔王。


「…杖なしで飛べるのかよ」

「おい貴様、ダンスは得意か?」

拳2つ分ほどの神気で作られた楕円の球体が4つ。

元魔王の周りに、ふよふよと浮かんだ。


「あぁ?なん、っだ!?」

ゾクリと首筋に冷たいものが奔り、咄嗟に首を捻る。

神気を細く絞ったレーザーの様なものが一南の頬を掠めた。


「避けたか、そうで無くてはな。さあ!踊れ!!」

その一言を合図に、動き出す球体。

その軌道は、UFOのようにカクカクとして思わず『漏斗(英語にして読んでね!)』!と叫びたくなるものであった。


「ちぃっ!」

(足を止めてんのは拙いか!面倒くせぇものを作るなぁ、おい!)

《む、これでは創造の神のようだな。私の力で作るなら、中・近距離の武器か弓系統にせねば真価を発揮せん。強き者と同じ土俵で戦う事を怖がっているようでは、まだまだだ。楽しまねば》

それでも一南の体を貫くには十二分の威力を持っていた。


「ぬ、む…。こうか!」

(奴より速い物をと作っては見たものの…。思いのほか難しいなこれは、把握しきれんぞ…。走るな!当たらんではないか!)


元魔王はインドア派である。


空間把握能力が高い訳でもなければ、先読み出来るほどの実戦経験も無い。

王真に倒される前と魔王になる前は、チャンター監修の元に訓練もしたが、ここ50年で大分なまっている。

魔法の実力、知識、共にかなりのものだが。

魔王になってからの最初の相手は勇者の王真である、不幸としかいえない。


もう一度言おう、元魔王はインドア派である。


(おい、ガトゥーネ。神気ってのは、普通の武器で斬れるもんなのかね?)

緩急をつけて走る一南は、ガトゥーネに疑問をぶつける。

《ある程度の威力があれば問題ないだろう。剣や盾など明確な意味を持った物に形作った物は斬れないかも知れないがな》


「そいつぁ上等!」

走りながら氣を回し、左手の甲に集める。

その左手で、次元袋から4本の投げナイフを指に挟んだ状態で取り出した。

足を止め、投球術の姿勢に入る。


(足を止めた?まだ試したいことが有るのだがな…。まあ、いいだろう。終わりだ)

楕円の球体は一南の正面で狙いを定める。

元魔王にとって、動かしながら確実に当てるのは難易度が高かった。


「終わりだ「「「「パンッ!」」」」…は?」

軽い破裂音と共に、4つの球体が同時に弾ける。

「あっぶな、読みで投げる処だったぞ。まさか止めるとは思わなかった、狙いやすくて助かったがねぇ」

氣の爆発で加速させた腕を振り切った一南が、次元袋から新たに投げナイフを取り出しながらそう呟いた。


(まさか、あのナイフで全て同時に打ち抜いたのか!?そして、次は俺様か!ならば…)

「堕ちろ」

一南の手から投げナイフが放たれようとしたその時。


「ハアッ!!」

「うおっ!?」

元魔王は閃光に包まれ、一南はあまりの眩しさに投げナイフを持った手を、目に影が出来るように光にかざす。


「…輝いてんなぁ、これも神気か?ちいとばかし眩しすぎんだろ」

眉間に皺を寄せ、目を細めるが、一向に元魔王の姿は確認できない。


閃光が収まると、ガシャンと何かが地面に降り立つ音が聞こえた。

腕を組み、純白の全身鎧とその鎧の形が分かるほどパツパツになった白衣を纏った元魔王であった。


そしてその周りには、デッサン人形かといいたくなるような人型が3体。

それぞれが剣を持って佇んでいた。


「フハハハッ!どうだ!これでそのナイフは届かんだろう!」

「ああ、うん。そうだねぇ…」

(降りて来てくれたから使う必要もなくなったからねぇ)

《?一南、あの元魔王だが何か違和感がある、気を付けろ。それにあの人形、かなりの神気が込められている。雑魚だとは思うなよ》


「違和感?…白衣がパツパツだな。でもまあ、ようやく、それらしくなってきたかねぇ?…そういや名乗りもまだだったな」

改めて一匁時貞を構え直し、笑みを浮かべ名乗りを上げる。


「神薙流拳刀術。『白守』甘坂一南…」

「フン、今更だな。まあいい。元魔王、現『戦の神』アルス・ラグナーク・シュヴァイサーjrだ。さあ…」

一南が足は力を入れる。元魔王のアルスは腕を組んだまま微動だにしない。


「参る!!」

「行け!!」

一南が動くと同時に、人型も動き出す。


「へぇ、速いな」

3体の人型はあっという間に間合いを詰め、一南の正面で横一列に並び、剣を構えていた。

3体そろっての振り下ろし。

一匁時貞で流そうとする一南だが、嫌な予感を感じその場から横に滑るように避ける。


振り下ろされた剣は、地面に当った瞬間に神気を伴い爆発した。

「がはっ!?」

咄嗟に後ろに飛ぶが、爆風に巻き込まれ地面に叩きつけられる一南。


「フハハハッ!対オウマ用の改造術式『ウェポン・ボマー』と神気で創った『キラードール』だ。ただの剣士である貴様に勝ち目はない!!」

(問題は『ウェポン・ボマー』が、かなりの力で叩きつけないと発動しない事と、自分を巻き込む事なのだったのだが。『キラードール』があれば万事解決、流石俺様!)


「ぐっ!クソいてぇ…。爆発するとか、予想外だわ」

(流さなくて正解だった…。あの状態で爆発してたら、死んでただろうしねぇ。さて、どう攻めたもんか…。刻波が使えない今、斬撃を飛ばす事も出来ないしねぇ。投球術で打ち抜くにしても、構えてる間に間合いを詰められる)

立ち上がりながらそんな事を考えている一南だが、その顔には笑みが浮かんでいる。


「……何故、笑っている。何が可笑しい?」

「あん?笑ってるか?まあ、認めたくねぇが命題に挑戦中だ。笑いもするだろうよ」

体に氣を流し怪我の度合いを確かめる。

(頭を切って血が止まらねぇが問題ねぇな。骨も折れてねぇし、皹もねぇ。我ながら頑丈なもんだ。難しく考える必要は無かったな、要はあの人形が剣を振り下ろす前に、斬り伏せればいいだけの事じゃねぇか)


体に回していた氣を増やし圧縮、手足へと動かす。

《なんだこの違和感は…。力の制御が完全では無いからか?完全に制御される前に仕留めたい処だが、やれるか?》

(さて、ね。取り敢えずあの3体を斬り散らしてからだろうよ)


「さて…。行こうか!!」

3体の人型が動き出す前に、横一列に並んでいる正面に空転(からころび)で自ら攻め入る。

一南の踏込にも動じず一斉に剣を振り上げる人型達。

その腕を空居合で斬り飛ばされ、人型達は剣を失った。

剣は地面に落ちても爆発しなかった。


(あん?爆発しねぇな…、なんか条件があんのかねぇ?まあ、取り敢えず)


「斬り散れ」

武技・『王路(オウロ)

刀を両手でしっかりと握り、力いっぱいの横薙ぎで相手を両断する。

これを神薙の一族、特に甘坂家が使うと少々おかしな威力となる。


「流石に3体同時って訳にゃイカンか…」

文字通り『粉砕』した2体を一瞥してそう呟く一南。

見事なまでの力技である。


脇腹を抉られるだけだった残りの1体は、剣を取りに走る。

しかし、両腕を切り飛ばされているため持つことが出来ない。


「背中を見せんじゃねぇよ、アホウが」

刺突武技・『錠揚羽(ジョウアゲハ)

刃を下にして刺し貫き、そのまま抉りながら刃を上に向け、刀を上へと振り切る。

完全に沈黙する人型。


「……?」

(明らかに切れ味が増してる。もしかして魔剣の癖に神気を吸ったのか、コイツ)


「バカな!?キラードールが粉砕!?本当に人間か貴様!?」

「生物学上は人間だよ。家の爺さんだって人間なんだ、俺だって人間に決まってんだろうが。大体、振り下ろし一辺倒のアホウに、二度目を喰らう訳ないだろうが」

一南はキラードールが落とした剣を拾いながら思う。

(投球術にゃ、ちとデカいが…。俺も喰らったんだ、アイツにも喰らって貰わないとねぇ?)


「…おい、それで何をする積りだ?その構えはさっきも見たぞ、待て、っちょ「オラァッ!!」…!!!!!」

問答無用で指にはさんだ3本の剣を投げつける一南。

投球術の応用で投げられたそれは、雷のような速さで元魔王・アルスを爆撃する。

半径3メートルほどの爆炎がアルスを包む。


「…なんだ。衝突の強さで威力が変わる訳じゃないのか、本気で投げて損した気分だ」

(投擲武器や矢尻に付けるとしたら優秀な部類かもしれんが、剣に付けるもんじゃねぇな。あの魔法。しかしあんだけ焦ってたのに、避けるそぶりすらすら見せねぇとは…防御によほど自信があるのか?)

《一南、様子がおかしい…。闘技都市の外からも『力』を感じる。この場に神気が充満していて精霊の体では、大雑把な感知しかできない。すぐにでも鎧に中を確認してくれ!》


「お、おう」

一南は、土煙の上がる爆発地点へと、氣と魔力を回し圧縮しながら近づいていく。

(まずは、あの鎧を剥がさなくちゃいけねぇしな。…そのために、天鎚をぶち込むのは間違ってねぇと思うんだ)

誰に向かっての言い訳なのか、更に氣の量を増やし、魔力を混ぜ込む。

鎧ごと仕留める気満々である。


土煙が晴れた爆発地点には、爆発で白衣が吹き飛んだ鎧姿のアルスが腕を組んで佇んでいた。

「フ、フハ、フハハハッ!流石に今のはちょっと怖かったではないか!」

「怖いなら、避けろや神様」

右手には一匁時貞、左手にはスタンバイ済みの『天鎚』。

一気に間合いを詰めるが反撃が無い。


「そちらには元『戦の神』がいるのだ。もう気づいて「砕け散っとけ…『天鎚』」まだ、喋って…何!!グハッ」

鎧は、天鎚に耐えられず四散。

中から出て来たのは、人型をした光。

明らかにアルスでは無い。


「バカな!何だ今のは!!ラインを通ってこちらにダメージが来るなど、意味が分からんぞ!?」

(ガトゥーネよう。これはなんだ?)

《これは言像だな、言室などに置いておく神気の塊だ…。神気を送受信する事で言葉を聞き、伝えることが出来る通信用の神術なのだが…。何故元魔王が使える?私と戦っていた時は、まだ神気の扱いも出来ていなかったはずだぞ?》


「おい!アマサカ・イチナ!!貴様、何をした!」

「しらねぇよ。王真くんの相手をしたんだ、『氣』くらい知ってんだろうが。テメェこそなんで『言像』を使える?あの時の閃光は、入れ替わるための目くらましか?何のためだアホウが」

無意味に罵倒する一南。


「アレが『氣』だと?ふざけるな!確かにオウマの氣は鎧を透過するが、貴様のように神気で創った物を四散させ、神である俺様にラインを通してダメージを与える程の理不尽なモノでは断じて無い!!」

(あれ?王真くんは『圧縮』の修行やって無いのか?イカンな今度会ったらやってあげよう。簡単だし)


圧縮の修行は、10人がかりでゆっくりと大量に攻撃用の氣を流し入れ、それを圧縮して拳に乗せて吐き出すという死に一番近い修行法である。

失敗すれば内側から破裂し、素敵な死に様を晒す事になる。

ちなみに一南は、7歳の時に問答無用で祖父である甘坂五一1人にやられ成功しているため、危険という認識が無い。


「理不尽で結構。それ以外に答えは無い。俺も答えたテメェも答えろ」

「貴様…、まあいい。研究者である俺様が、神の力を奪うにあたって何もしない訳がなかろう?攻め落とした『教会都市』でありったけの文献と関連物を城に運ばせて、術式改造の傍ら漁り続けていたのだよ。神術に関してはさわりだけだが残っていたのでな、使ってみたかったのだ!!神の術と書いて神術だぞ?使わずにいられると思うのか!!しかし、机上と実践は違うというが…。ここまで魔力と扱いが違うと思わなかったぞ?だいぶ慣れてはきたが、実に研究のしがいがある!…喋り過ぎたな」

そう言うと徐々に気配が薄れていく。

人型だった光も、球体へと変化していき空へ上昇を始めるのだが…。


「おせぇ」

思わず一匁時貞をぶっ刺してしまう程、一南には遅く感じた。

《…一南。まあいいか、次いでだ。こちらの剣も刺してくれ》


「ん?おう、分かった」

一匁時貞を左手に持ち直し、右手で刻波を抜く。

折れかけの状態で刺さるのかと心配したが、球体に強度が無いのかすんなりと入っていった。

《うん、やはりこの方が安定して回収できるな…。先客の御仁がいなければ残った神気で器を造れたのだが。…?御仁なにを…!》


「おい、どうした?なんか球体がどんどん縮んでんだが…」

《御仁が自らを器として神気を吸っているのだ。一南同様、無茶苦茶だな。この剣は『神剣』扱いになるぞ》

刀が刺さらなくなるほど小さくなって、空へと逃げていく球体。


「神剣ねぇ…。ピンとこねぇな。神様が剣の中にいる時点でそうなんじゃねぇの?一匁も多少なり神気を吸ってるし両方かね?俺に取っちゃ愛刀に変わりはねぇが」

そう言って煙草を取り出す。


銜えて火を着けようとすると、血止めをしていない頭から髪の毛を伝い煙草に血が一滴落ちる。


「……やめだ」

火の着いていない煙草を握り潰し捨てる。

《一南?》

「あんな下らない人形相手に怪我を負ってるようじゃ話にならねぇ。戦いたいのは『戦の神』だ、人じゃねぇ。体力切れで負けましたなんぞアホすぎる」

(実際神を相手にしてようやく分かった。魔王は人の身で越えられる、だが神は違う。『神と戦う』だけならいい。しかし、『神を倒す』のは別だ。もっとも人以外になる方法なんぞ知らんから、今以上に鍛え上げるしかねぇだろうなぁ。取り敢えずの目標は重量の加護有りでの今の動きの再現だな)


《……》

(まだ、上を目指すのか…。一南ならば神技の一つや二つ使えてもおかしくない技量を持っているのだが…。本人が神気を使えないのが口惜しいな)



「嫁に貰うにゃ勝たなきゃイカンしな…」

そう呟き、刻波と一匁時貞を鞘に納め、コロシアムの外へと向かうのだった。

神相手なのに、終始ギャグ臭い戦闘に…。

決着を期待されていた方ごめんなさい。


byミスター

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