『猫玉』
新年初めての投稿です。
ソルファside
「クックックッどうした、ほれ。儂を止めてみんかい!!」
チャンターの怒声に近い激が飛ぶ。
魔王に向かって一歩、また一歩と歩を進めるチャンター。
「バーミシア!さっさと次の魔法!」
「うるさいわよ、デイドリー!そっちはちゃんと足止めしなさい!」
絶え間なくチャンターに戦いを挑むコロシアムの男たち。
援護するのは冒険者、あまりない組み合わせではあるが、小規模のレイドパーティーとなっていたのだが…。
冒険者もソルファと同ランクか高いランクの者ばかり。
一人、また一人と潰され、斬られ、吹き飛ばされる。
この場に残っているのは10人足らず。
その10人も他の場所から援護に来る魔族兵を倒すのに手を取られ、実質ソルファ、デイドリーそしてバーミシアの三人しかチャンターに挑む者がいない状態だ。
ソルファも前に出てチャンターに戦いを挑む。
左目から首の辺りまで裂けたミスリルのフルフェイスヘルムをかぶり、両手でハルバート?の『魔量斧槍』を握る。
「ふぅ…やっぱり怖いですね、イチナさんみたいに笑えないな」
チラリと一南の方を一瞥し、チャンターに視線を写す。
「…行きます!!」
軽すぎて頼りないと思っていたミスリルのフルプレートは、ソルファ自身の動きを阻害せずに高い防御を誇る優れものなのだが。
フルフェイスヘルムを見れば分かるように、このチャンターの前では意味を成さない。
「ほっ!真正面から来たか!先ほどの戦騎兵か、やはり騎士はそうで無くてはな!!来い!!」
「はああああっ!!」
魔力を帯びた『魔量斧槍』と戦斧『ディスグロウ』がぶつかる。
一瞬の拮抗、鍔迫り合いでの力比べへと移行するがチャンターの歩みは止まらない。
そのまま、後ろへと押し込まれ体勢を崩さないように踏ん張るソルファ。
「…中々の力だの、鍛えておるようで何よりだ。騎士たる者鍛錬を忘れてはならん」
(人族、しかも女子かの?大したもんじゃ一瞬押されかけたわい)
「くっ…戦騎兵に憧れて、幼少のころから鉄で作った自作のフルプレートを着ていましたから、そのおかげかもしれません」
子供のごっこ遊びにしてはやり過ぎである。
「聞きたいことがあります。どうしてジャスティ、いえ僕のバトルホースを狙わなかったんですか?」
(凄い力だ、踏ん張っているのに歩みを止められない!)
「なに、簡単じゃよ。美しいものや可愛いものが好きでの、どうしても手が緩む。儂はバトルホースは、一種の芸術だと思っておる」
「そうですよね!うちのジャスティは毎日ブラッシングしてあの毛並を保ってるんです!それに餌にだって気を使っていますから!!他にも…」
「…ヌゥッ!?」
(なんなのかの、この手合いは。バトルホースの事を語りだしたら、いきなり力が上がりおった!)
ジャスティを如何に大事にしているかを、鍔迫り合いをしながら力説するソルファ。
ソルファの力説と共に強くなる力に初めて足を止め、本腰を入れるチャンターだった。
足を止めたチャンターにデイドリーが声も出さずに、背後から切りかかる。
「ぬっ!?変われ!『ディスグロウ』!!」
チャンターの言葉を受け『魔量斧槍』を抑える戦斧が消え、
全身鎧へと一瞬で姿を変える。
そのまま踏ん張りソルファの攻撃を両手をクロスして受け止めるチャンター。
次の瞬間、首からは甲高い金属音、背中には強い衝撃を受ける。
「ちぃっ!反則だろ、それは!」
鎧の隙間を切るために鋭く研いだシャムシールで首を狙い、鎧の上から殴るための切れ味を捨て、頑強さを求めたマチェットで背中を強打したのだが…。
『ディスグロウ』によってシャムシールは防がれ、『痺れ』をイメージしたイメージ魔法を付加したマチェットは『ディスグロウ』の魔防の前にひれ伏し、衝撃のみが伝わるという結果に終わった。
「経験則だ、『お遊び』をしておると背後から攻撃される事も多いのでの」
(しかし、この男の相手をするとなると戦騎兵の相手はしとれんの、もうちょっと遊んどりたかったが……そんな暇も無いようだしのう)
チャンターの視線の先には、此処にはいないはずの将の姿があった。
(なぜ此処にガイナスが?それにあのローブは何者かの?)
ソルファ達が全身鎧のチャンターを攻めあぐねいていると、小さく地面を杖で突く音がデイドリーの耳に入って来た。
「カンバス!下がれ!!」
「はい!」
「なに?…しまった!?」
「『フォース・テンペスト』!」
火・風・水・光の四つのストーム系の魔法を同時に発動する特殊術式。
本来は対軍魔法のストーム系を、対人魔法レベルにまで範囲を抑えたのはバーミシアの技量である。
バーミシアがAランクを取れたのは、この特殊術式が使えたからなのが大きい。
赤・緑・青・白の光が弾け、攻撃的な竜巻となってチャンターを飲み込んだ。
「やったと思うか?」
デイドリーがソルファに近づいてきて、そう声を掛けた。
「あの魔武器を纏っていなければ、やれたかもしれませんが…」
「だよな、イメージ魔法もかき消されたくらいだ。バーミシアも次を準備してるだろうし、カンバスも構えとけ」
「はい」
改めて『魔量斧槍』を構え直すソルファだが、少々ジャスティと白ズの事が気になりバーミシアの近くに視線を送る。
「あれ?また増えてる?」
護衛のつもりか、バーミシアの前に鎧白が『5匹』。
今しがた走り込んで来たようで、1匹だけ転んでまだ立ち上がれていなかった。
他の4匹は四足で立ってはいるが多少プルプルと震えていた、どうやら本物の白より筋力は有るようだ。
ジャスティの上では3匹のノーマル白ズが、飛び降りようか、どうしようかとジャスティの背中でウロウロとしている処だった。
困惑するソルファとバーミシア。
「魔法が切れる!準備しろ!」
「え?あ、はい!」
魔法光が消え土煙が晴れる。
「ぐっ、老骨相手にやってくれる!」
全身鎧で程度は分からないが確かにダメージは有るようだ。
「流石に、あれを受けて無傷では済まなかったか。仕掛けるぞ…?どうした?」
「……」
(…アレは幻だ、今は戦いに集中するんだ!)
そう、たとえチャンター将軍の後方に白の大群がいても、その中心が白い塊を背負ったサウスだったとしても。
「おい、カンバス!何を見て……」
チャンターの背後から、白い絨毯が迫ってきているのをようやく認識したデイドリー。
「なんだ、来んのか?む?」
背後から不思議な魔力を感じ思わず振り返るチャンター。
此処で振り返らずに魔王の方を見ていれば多少違っていたかもしれない。
「「「「「「み~?」」」」」」
わらわらと入ってきて、あっという間に場を埋め尽くし、チャンターやソルファ達の周りを駆け回る白ズ。
「む、むう…ほ、ほれちょっとどいてくれんか?儂等は今戦闘中なんじゃ。危ないぞ?」
歩を進めようとするチャンターに対し、おすわりして首を傾げる一匹のノーマル白。
不思議そうに全身鎧のチャンターを見上げていた。
そんなノーマル白に手を伸ばすチャンター。
(この魔力の波動は創造魔法かの?見たことの無い生物のようだし空想を形にしたのか?コレを戦場に出す事に意味があるのか疑問ではあるが……可愛いのう)
恐らく全身鎧の中のチャンターの顔は緩んでいる事だろう。
「……いえす…白ーず…のん、たっち…」
手を伸ばすチャンターの横を、喋るモコモコの白い塊を乗せたサウスがゆっくりと歩きながら過ぎ去る。
1歩進むごとに、何かがポテッっと落ちては慌ててサウスを追っていく…。
サウスの顔には呆れと諦めが浮かんでいた。
『魔量斧槍』の石突にじゃれる白ズをどうしようかと、構えながらも悩むソルファの元に、サウスが歩いてきた。
「ガウゥ…」
「……やほー…あつい…とって…」
どうやら、白い塊はパークファらしい。
何故こんな状態になっているのか、それはパークファの一言が発端である。
『活躍したら、サウスの上で寝る権利を与える』その一言で頑張った白ズが今、サウスの上で蠢いているのだ。
何をどう頑張ったのかは分からないが、このサウスの上の白ズはいうなれば猛者。
白ズ・エリートである。
「今はそんな場合じゃなくてね?」
そう言ってチャンターを見やるソルファだったが…。
(あれ?チャンター将軍。あの苛烈な殺気は何処に?)
全身鎧のまま、膝を曲げコッチにおいでと白ズに手招きする姿を見て、少し悲しくなるソルファだった。
「?……強敵?…今こそ白ーずの…力を示す時…ふぉーめーしょん・えんできゅー…」
その言葉を受けてサウスの上から、ばらける白ズ・エリート。
分かっているのか、いないのか。
取り敢えずそこいらを走り回っている白ズを連れて、チャンターに向かい突撃していく。
「!そんなに一辺にこんでもええじゃろ!?」
避けようにも、可愛いものが好きなチャンター将軍。
足元の白ズを蹴飛ばす訳にもいかず、そのまま突撃を喰らい白ズに埋もれていく。
こうして巨大な白い塊が出来上がっていった。
白い塊を見て、無表情ながらも満足気に頷くパークファ。
体から白ズが居なくなりスッキリとした様子だ。
次の瞬間、白い塊となったチャンターの足元から魔法陣が展開し、その塊ごと消えたのだった。
「えっと、イチナさんの援護に行きましょう!」
「……やー…」
ジャスティの上の3匹を降ろしてから、急いでジャスティに跨り、走り出すソルファであった。
Sideout
一南side
「……チャンター?」
(え?なんだコレは?なにかの群体?俺様、込める魔法を間違えたか?召喚…いや、あれは勇者召喚の魔法から解明して、更に改造、改良を加えて出来るかどうかといった処だ。偶然できるものでもない。しかし…それならば、これは一体なんだ!?それ以前に何故『斬滅陣』が発動しない!敵ではないという事か?)
通常、攻撃魔法には少なからず『敵意』が込められるものである。
しかしこの『白たんズ・アーミー』には『愛』しか込められていない。
そもそも魔法の分類としてよく分からないものである。
魔法名に軍隊と入ってはいるものの、そこまで不確かなものを敵として認識できる訳がなかった。
…なんだこれ、魔王が声を掛けるのもよく分かる。
いや、分かってはいるんだ。
はみ出した尻とか、こっち向いてみーみー鳴いてる頭とか。
まさに猫玉、間違いなくアリーナンの魔法だろうなぁ…。
「…白、だよな?」
分かってはいても、声を上げたくなる。
そんな謎の物体だった。
その一言で塊になっていた白達がばらけ、一斉に俺の方を向いた。
思わず頬が引き攣るのが分かる。
「おい、まさか…」
一匹、また一匹とご機嫌に駆け寄ってくる白モドキ。
一匹ならいいんだが数が数だ。
まさか白を脅威と感じる日が来るとは思わなかったよ。
俺が一歩下がると、しょんぼりする先頭の白モドキ…。
アリーナンの魔法は無駄に細かく創りこんでるから、罪悪感が半端ねぇ。
かといって今は敵の手前、こいつ等と遊んでやる余裕は無い。
腐敗勇者や社長達を置いて引く訳にもいかんし、
仮にも白の姿をしてるコイツ等を斬り散らすような事もしたくないしなぁ…。
そんな事を考えている内に、俺の周りは白モドキに囲まれていた。
先程、しょんぼりとしていた一匹がおずおずとつま先に到着し、それを皮切りに囲んでいた白モドキ達が殺到したのだった。
「うおっと!」
慌ててその場から後ろに飛んで猫玉になるのは回避したが、背中に結構な数の白モドキが張り付いたようだった。
背中で動いているのが、こそばゆい。
そして、着地した先でまた囲まれる、この状況どうしろと?
白モドキ達は遊んでもらっていると思っているのか、目がキラキラしているのが辛い。
「……腐敗勇者、社長。さっさと逃げろ。ちいと無理だわ」
殺到するなら魔王にして欲しかった。
そう思いながら俺は白モドキに埋まっていくのだった。