それぞれの戦い -おねーさんと呼べ!-
ファルナークside
「そ~れ☆」
軽い掛け声と共に振り降ろされる大剣『ディスジェミリナ』の一撃。
「ふんっ!」
(これで魔軍の将かの?ただ振り回しとるだけではないか。本気を出しとる感じは無さそうじゃが…魔軍も人材不足かの?)
それを下からの振り上げで打ち返すファルナーク。
互いに魔力の乗った一撃で轟音と共に軽い衝撃波が生まれる。
「もーおばさん面倒くさい☆」
「それはこっちの台詞じゃの、けったいな喋り方しおってからに。魔族の間で流行っとるんか?そのなんじゃら『ホシ』っちゅうのは」
互いに軽口を叩きながらも剣撃は続いている。
「ホシじゃ無くて☆!このセンスが分からないなんてやっぱりおばさーん☆」
大剣での鍔迫り合いから後ろに跳躍して距離を取り、イメージ魔法で水弾を幾つも作り飛ばしてくるリリス。
「むぅ」
ファルナークは、大剣を横一閃して当たりそうな物だけを叩き潰した。
(おばさんか、イチナはどう思とるんかの?体は若いままじゃが…イカン心配になって来たではないか)
「リリスちゃんは☆早くあのイチナとか言うのを殺しに行かなきゃいけないの☆じゃないとアル様が振り向いてくれないじゃない☆」
殺気を漲らせ先ほど以上に魔力を込めた大剣『ディスジェミリナ』をファルナークに向けるリリス。
「クフックフフフッ!」
「……何が可笑しいんだゴラァ!」
苛立ちを隠せず思わず地が出るリリス。
「我に二刀を使わせる事が出来んような小娘が、イチナを殺すとは可笑しくての?我にてこずっておるようではイチナには到底届かんぞ?…クフッ」
「うるせー!!どうせ将の中で一番弱いのはあたいだよ!!畜生、馬鹿にしやがって…『ディスジェミリナ』!!本気で行くぞゴラァ!!」
その声に応えるように大剣から形を変えて行く『ディスジェミリナ』
形を変えた『ディスジェミリナ』は大剣と同じサイズの真っ黒な無数の突起物が刺さった棒になった。
要は『釘バット』である。
「タコ殴りにしてやんぜ!!」
禍々しい威圧感を醸し出す打撃武装『ディスジェミリナ』と語尾を捨てたリリス。
その場で『ディスジェミリナ』をフルスイングすると釘バットの釘が散弾のように一斉にファルナークに向かい飛んで来た。
「殴っておらんではないか!!」
ツッコミを入れながらも大剣を盾にし、範囲外へと走り抜ける。
「これからだぜ!ダボが!」
ファルナークの走りだしを見て先回りしていたリリスがバットを構えて待っていた。
「ぬ!?」
(引けばまたアレが来るか、つっこんで抑えるしかないの)
大剣を構え、更に速度を上げるファルナークに対し笑みを浮かべるリリス。
「戻れ!『ディスジェミリナ』!!」
「何!?」
リリスの声を受けて飛ばした釘がファルナークの背後から戻って来る。
それに合わせてリリスが釘バットを振るのだった。
ファルナークは、時の加護でバットの速度を落としリリスの横を走り抜ける。
ガクンと落ちたスイングの速度に驚きながら、背後を振り返ると大剣を首に突き付けられたのだった。
「…発想は良いが我とは相性が悪かったの」
「テメエ『時姫』か畜生…だがなぁ殺るならさっさと殺るべきだぜババア!!」
戻って来た釘が『ディスジェミリナ』に戻る反動を利用して、首元の大剣を弾き後ろに大きく飛ぶリリス。
「な、何じゃと!!ババアとは流石に聞き捨てならんぞ小娘!!我の肌はまだぴちぴちじゃ!せめておばさんにせい!!…いや、おねーさんじゃ!おねーさんと呼べ!」
「お断りですババア☆それと足元注意☆…吹き飛べや!」
ファルナークは足元を見る、そこには魔法球が落ちていた。
「アホが言わねば分からぬものを…返すぞい?」
時の加護で発動時間を伸ばしリリスに向かって蹴り飛ばす。
「何でまだ発動しねえ!?くっそが!打ち返す!」
リリスがバットを構えた瞬間、魔法球が発動した。
ボバンッ!とリリスの目の前で爆発する魔法球、明らかに本来の魔法では無かった。
白い煙に包まれるリリスに対し、ファルナークは最後の一手の準備をする。
「くっそ!宴会用のネタ魔法じゃねえか!!あの魔法屋叩き潰してやる!!…あ」
文句を言いながら煙を振り払ったリリスが見たのは、ゆっくりと空中を進むナイフの『壁』
「ほれ、行くぞ?」
その一言でナイフ群が神速を持ってリリスに向かって動き出す。
『ディスジェミリナ』を前にだし盾に変化させながら懐の魔法球に魔力を込める。
ナイフに比べて『ディスジェミリナ』の変化は遅い、頭や心臓を守るので精一杯だった。
(死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!まだアル様と子作りしてねえのに!!)
一瞬が永遠にも感じられる時間を過ごすリリス、手足の肉を削ぎ落し、脇腹を貫通していくナイフ群、頼みの綱の『ディスジェミリナ』からは絶え間なく激しくぶつかり合う金属音が響いていた。
「ほう、耐えきったか。だがその様ではもう戦えまいて、終わりにしようかの」
大剣を担いでゆっくりと近づいて来るファルナークに、リリスは血だらけの右手を挙げて中指を立てた。
「…バーカ☆」
現在のリリスの精一杯の一言だった。
次の瞬間、懐の魔法球が発動しリリスはその場から消え失せるのだった。
「転移魔法の込められた魔法球か…逃がしてもうたのう。しかしあの傷じゃ早々は出て来れんじゃろうて、良しとしようかの」
(ナイフ、また買わねばならんのう…しかし我の腕もまだまだ捨てたもんじゃ無いの)
そんな事を考えながらマリアを探し、一南の元に向かうのだった。
Sideout
ソルファside
「囲め!!相手はチャンター将軍だ!魔族兵とは次元が違うと思えよ!!」
コロシアムの現チャンピオン、デイドリー・マーキンが指揮を執るコロシアムの猛者達。
「魔王の方にも人を割いてくださいな!こちらは足止めで結構ですわ!」
そう言いながらギルドの冒険者を魔王のいる方へと送り出すギルドマスターのバーミシア・ファクト・マンタス。
「その足止めが全滅したら意味無いだろうが!!前魔王の代からいる魔軍最古参の将だぞ!?本来なら幾ら詰まれようが相手にしたく無いんだ!!」
そう言いながらも油断なく髭を撫でつけるチャンターを睨みつけるデイドリーだった。
デイドリーもAランク冒険者並みの力を持っているのだが、チャンター相手では分が悪いらしい。
「くっくっくっ…儂も有名になったもんだの。魔王様の所におる勇者共が気になるのでな、すまんが『お遊び』は無いぞ?この老骨、止めれる物なら止めてみい!!!」
途轍も無い威圧感と殺気が辺りを覆うように広がった。
動き出すチャンター、衰えを知らぬ肉体は黒い騎士鎧に包まれ、対峙している者はまるで要塞を相手にしているかのような錯覚に陥った。
そんなプレッシャーの中、動いた…いや、『動けた』のはデイドリーとバーミシアだった。
詠唱を始めたバーミシア。
右手にシャムシール、左手で逆手にハンドガードの付いた頑強そうなマチェットを持って、チャンターに向かい走るデイドリー。
そして、未だ硬直が解けない人垣を飛び越えて、プレッシャーの中に突っ込んで来たフルフェイスヘルムの『戦騎兵』
「冒険者です!このまま行きます!!」
デイドリーは一瞬止まり掛けた足を動かし『戦騎兵』の攻撃の後の隙を狙う。
「ほう、戦騎兵か!懐かしい、名乗るに相応しいか見てやろう…来い!!」
「はああああ!!!!」
渾身の一撃。
馬上の有利、高低差、加速、大よその敵なら反撃も許されない完璧な一撃。
しかし、チャンターは最古参の将、まともな相手ではないのだ。
「中々良い一撃だ!お返ししようか!」
紙一重で一撃を躱されゾクリと背筋に冷たい物が奔った、戦騎兵は咄嗟に体ごとチャンターから離れようとした瞬間だった。
ギャガッ!!
頭に強い衝撃と硬い金属同士がぶつかった音。
戦騎兵は自分のバトルホースから投げ出され5メートルほど先の地面に落ちる。
「犠牲は無駄にしない…シッ!」
そう呟きチャンターの背後から切り掛かるデイドリー。
チャンターが馬では無く戦騎兵のみを攻撃するために戦斧『ディスグロウ』を振り払った隙を狙ったのだ。
「ぬ!?甘いわ!!」
振り払ったディスグロウをそのまま片手で背中に回し背後のデイドリーからの攻撃を防ぐチャンター。
「チッ!」
その時地面を杖で突く音が聞こえデイドリーは引き下がる。
「『ファミリア・ダンス』!!」
対象の周りに魔法で作られた光の球が20、30と次々に浮かび上がり、高速で回転を始め一つの繭となる。光の球が無くなるまで中で光の球が跳ね回り、閉じ込めた者を攻撃し続ける。
派手さは無いが、威力の高い上級魔法である。
術者の技量で光の球の数が増えるのだがコレは100を超えていた。
「ふう、これで…嘘、動いてる?デイドリー!今のうちにその戦騎兵に応急処置!長く持たないわよ!!」
それだけ言って次の詠唱に取り掛かるバーミシア。
「はあ!?これでもか!?」
そう言いながらデイドリーが戦騎兵に駆け寄ると、いつの間にか白い何かが3匹程で戦騎兵の頬を舐めていた。
「「「み~…」」」
「う、ん…あれ?白?馬車に…え?何で増えて?あ!?ジャスティ!ジャスティは!?」
戦騎兵もとい我らが騎士っ子ソルファは無事であった。
体を起こし自分の愛馬を慌てて探す。
「ブルルッ…」
「良かった、無事だったんだねジャスティ…でもどうして?一番の謎は白ですけど」
チラリと戯れる3匹の白に目をやる。
「み~?」
「み!」
「み、み!?」
訳が分からなかった。
でも、白なので無碍に扱う事もできず、取り敢えずジャスティの上に乗せる事にしたのだった。
「おい、戦騎兵」
「え、ぼ、僕の事ですか!?」
戦騎兵と呼ばれてちょっぴり、いや大分嬉しいソルファだった。
「お、イイ女…じゃなかった、チャンターのプレッシャーの中で動ける奴がいないんだ。名前とランク、後加護を教えてくれ」
「あ、はい。名前はソルファ・カンバス、二つ名は『守護騎士』Cランクです。加護は『鉄の加護』レベル5の『頑強』を宿しています」
鍛冶師以外の職業が『鉄の加護』を宿すのは珍しい、ましてや鍛冶職でもないのにレベルが5まで上がるなんて鉄の神に好かれているとしか思えないのだが、ソルファもどこかしら異常性を持っているのかもしれない。
「だから、この程度で済んだのか…このミスリルヘルムのお蔭かと思ったが、常人ならコレごと首が捥げてるな。ああ、俺はデイドリー・マーキンだ。時間も無い、カンバスはバーミシアの守りに付いてくれ。他の奴等がこのプレッシャーに慣れるまででいい…お前なんで動けるんだ?」
「ハハ、慣れ…ですかね?行きましょう」
(イチナさん、イチナさんのせいで嫌な慣れが付いちゃいました)
白ズを乗せたまま付いて来るジャスティを一瞥して、バーミシアの元へと向かうソルファ。
此処がシェルパなら通じたであろうソルファの一言に、首を傾げながらまだ動けないコロシアムの人間を引っ叩いて回るデイドリーであった。
Sideout
一南side
未だ白ズの影響がない魔王付近。
斬りにきたとは言ったものの…どうしたもんかねぇ。
「どうした?俺様を斬るんじゃ無かったのか?」
「喧しい、なんなんだ服すら斬れないってのは?でもまあ…大収穫だ」
これで体質じゃ無いって事は分かったからな、もし体質なら本人の体のみ。
白衣は斬れてる筈だしな、その白衣にすら傷が無いって事はだ、より面倒くせぇって事だ。
それに斬った時多少だが魔王の体が揺らぐんだよねぇ、衝撃を殺しきれてないって事だ。
まだ、一閃目、剣閃を遅くして放った様子見の居合、防ぐことも避ける事もしなかったが確かに揺らいだ…もっとも込めた力に見合わない揺らぎ方ではあったが。
それにだ、コイツは反応したんだよねぇ…剣閃にじゃ無く『構え』に。
もしかして俺以外の『神薙流』が来てたのか?
まあ、良いか、今はそれよりも『どうやって』コイツを斬るかだ。
「ほう、今のしょぼい一撃で大収穫か?『奴』に連なる者かと思ったが見せ掛けだけか…残念だ」
左手を下から上へと軽く振ろうとする。
キィィィィン…
「っ!何!?」
手首に衝撃を受け、上げようとした左手を強制的に元の位置に戻された魔王。
「む、『六銭』じゃイカンか…」
軽く手を振るやつで冒険者を切り刻んでいたからな、防ぐついでに斬り飛ばして見ようかと手首の同じ所を狙って『六銭』使ったんだがな…傷ひとつ付いてねぇとか本気でへこむわぁ。
「…今のは貴様がやったのか?」
「あん?だったらどうしたよ?」
何で聞いてくんの?まさか剣閃が見えてねぇのか?魔王様だろお前。
まあ、流石にそれは無いか反応してたもんなコイツ、見えてはいるが体が付いてこないのかね?
「フフ、フハハハハハハハハ!!!やはり貴様『奴』に連なる者か!勇者としてでは無くただの異世界人として来ているとは思わなかったぞ?して、『奴』は…高平王真はその…達者か?」
……は?
「おい魔王、何で従弟の名前がテメェの口から出て来んだよ。確かに行方不明になってたらしいが…何時知り合ったんだよ」
懐かしいなぁ、最後に合ったのは俺が15歳の正月だったかねぇ…
確か『お年玉争奪戦』で泣かしたのが最後だった気がする。
家は親族が多いから、ガキ共がまずグループごとにトーナメントで戦い、勝ち残った者が好きな親族への挑戦権を得られ、勝てばお年玉と言う簡単なお遊びだ。
まあ、どこの家でもやってる事だから説明は要らないか。
※この一族だけです。
3歳違いだから素手で相手してやったらアイツ、真剣持ち出して来たんだよな…思わず叩き折っちまったら泣いたんだったか。
それから来なくなったよなぁアイツ…何でかね?
ちなみにガキどもに人気が有ったのは『金持ち高平』『やさしい紙坂』『美人な鷹森』の三家だ。
甘坂が入って無いって?当たり前だ、家の爺さんは大人気なく本気で来るからな、ガキ共からの人気は無い。
まあ、俺は勝てないと分かっていても爺さんに挑み続けて、お年玉なんぞ貰った事は無いがな。
「従弟だと?バカをいうな。『50年前』の決戦時にはすでに20前後だったぞ?」
50年前かよ…それは流石に、別人じゃねぇか?
「面倒くせぇなぁ、未来の人間を召喚したんじゃねぇの?ぐだぐだ駄弁ってねぇで戦おうや。そのために来てんだからよ」
いい時間稼ぎではあるが、正直意味は無い。
つうか勇者共何してんの?隙だらけだよこの魔王。
「…ふん、だたの異世界人にこの俺様をどうにかできるとでも?」
「お前さ、かなり軽減はするけど衝撃は通すんだよな…『重量の加護』off」
あー体軽いねぇ、さあ、楽しい、楽しい『打撃戦』の始まりですよ?
「貴様!?まさか先ほどの攻撃は、それを付けたままだったと言うのか!?」
驚きの表情をする魔王に対し俺は一気に間合いを詰めて…
「そうだよ…神薙流居合抜刀、繋ぎ打ち『限無』」
さて、タコ殴りの過程で俺の体力が切れるか、魔王が斬れるか、ま、これは確率が低いが。
…魔王を伸すより先に刻波が折れるかも知れんなぁ。
これで駄目なら一匁時貞で、それで駄目なら直接『氣』をぶち込む。
俺の出し物はそれくらいだ、取り敢えず…
「楽しんで行ってくれや!!」
「ぬおおおお!??」
絶え間ない鍔鳴りの音が辺りに響き渡るのだった。