それぞれの戦い -カオス・オブ・アリーナン-
マキサックside
「ジャイアント…スゥーイーングっす!!」
がっしりと魔族兵の足をロックして回る回る回る…
そして、遠心力を利用し、ほぼ水平に投げた。
巻き込まれ粉砕する魔族兵達、たまに冒険者の悲鳴も混ざっていた。
「でっかいリングでの大乱闘…燃えるっす!っしゃあ、次来るっす!!」
向かって来る魔族兵を蹴り倒しながら吼えるマキサック。
「オラァ!」
横合いからの剣撃をまともに喰らうマキサックだが。
「痛いっす…魔力で防御しなきゃやられてたっす」
「いや、間に合ってねえだろ!?まともに喰らって置いて痛いで済ますのかよ!!」
切り掛かって来たのは赤い肌の魔族ジューデだった。
「ま、間に合ったっすよ!全身魔力まみれだったっす!ほら!血だって止まったっす!」
マキサックの加護は『再生の加護』レベル8である。
生まれつきこのレベルで持っていた加護で、教会にも行かないこの男は自分が加護を持っている事を知らないのだ。
ちなみにレベル8は指が斬り落とされても生えてくる程の再生力を持つ。
レベル10はギャグ補正だと思ってくれれば良い。
「何だよ魔力まみれって、それに魔力でガードしても血は止まらねえよ。くそっ調子狂うぜ」
「……赤いっすね。燃えてるんすか?」
マキサックは構えながらも己の疑問を率直にぶつけてみた。
「よーし、死にたいんだな?好きでこの色な訳じゃねえんだよ!!」
ジューデの瞳に確かな殺意が宿った瞬間だった。
「やれるもんならやってみるっす!叩き潰してやるっすよ!!」
踏み込み切り掛かるジューデに対し迎撃の体勢を取るマキサック。
切られてはチョップを返し、機械義手で殴られては蹴り返す。
互いに体力の削り合いだが、再生の加護を持つマキサックに持久戦を挑むのは無謀である。
「ハア、ハア…何なんだよ!テメエは!何で倒れねえ!?」
「夫呂例素羅はこの程度じゃ倒れないっす。体が資本!ばっちこいっす!」
再生の加護が無ければ死んでいるのだが、知らないのだから仕方ない。
「ははっ…意味わかんねえ」
「終わりにするっすよ。シャーイニング…ウィザーードっす!!!」
充分に溜めを作ってから放たれた『魅せる技』をジューデは避けることが出来なかった。
体力が残っていなかったのも有るが、何故か避けてはいけない気がしたのだ。
(もう二度とコイツは相手にしたくねえ…)
そんな事を考えながら意識を手放したジューデだった。
「ウイィィイイイイーーー!!」
倒れてはいるが、確かに息のあるジューデに片足を乗せ右手を力強く天へと掲げるマキサックであった。
Sideout
黄助&黒刃side
クロハと共に常に動きながら、冒険者の援護に回っていた。
「グルガァァア!!!」
顎や喉などの露出した部分を鞭で的確に叩き怯んだ処を爪で刻んでみ。
「ヒヒィーン!!」
クロハはその巨体とミスリル製の戦馬具の硬さを生かし突進や額の剣での振り下ろし。
背後の敵には後ろ足での蹴りをと大暴れであった。
「ガァオ!」
黄助が鞭でからめ捕った魔族兵をクロハの眼前に投げつける。
次の瞬間クロハが額の剣で胴体を真っ二つにした。
その光景を目にした魔族兵達は攻め手が緩む、その隙を警備兵のテイムモンスターや冒険者が逃さず攻め込んだ。
それを確認した後、黄助とクロハは別の冒険者の援護に行くために駆けて行くのだった。
「…ウィップティガーがあそこまでやるとは」
「ああ、それにあのバトルホース。乗り手が居ないのにあそこまで動けるのは、よほど調練をしたのだろう…どんな奴が主人なのか会ってみたいものだな」
高ランクのモンスターを従える闘技都市の警備兵に高評化を貰った2匹だが、そんな事は関係無かった。
主の命は共闘して魔族を潰せ、それと黄助の魔力が危なくなったら2匹で下がる事だ。
魔力切れを起こす前に出来るだけ魔族を潰す、そのために最も効率がいいのがこの方法だったと言うだけである。
「グルガァァア!!」
「ヒヒィーン!!」
どうやら黄助とクロハは次の標的を見つけたようだ。
Sideout
アリーナンside
「あんた達のせいで、白たんとの触れ愛が無くなったじゃないのよ!!死になさい!死んで詫びなさい!」
右手に魔杖となったディスカイネ、左手にオリジナル魔法の『ワンド』杖二刀流によるアリーナン無双である。
本来ディスカイネはアリーナンにとって重い武装なのだが、そんなこと関係ないと言わんばかりに振り回している。
しかし、そんな快進撃もピタリと止まる。
「随分と好きに暴れてくれたものだな」
(まあ、女の細腕だ殺すには至って無いか)
ジャンだった。
周りで倒れている兵士を見てまだ息が有る事を確認、アリーナンに視線を戻す。
「…おい、女。聞いているのか?」
(何だ、この女…詠唱では無い?何をブツブツ言っている?敵である魔族が正面に居るのにこの反応、気でも触れたか?)
ある意味、当たりである。
「…そうよ、触れ愛えないなら、触れ合えば良いのよ!!」
流石、色々振り切っているアリーナン意味不明である。
「……」
(この女、俺の事が見えて無いのか?まあ、いい。殺す事に変わりは無い)
腰から短剣を引き抜きアリーナンに近づくジャンだが、見た目美少女のアリーナン。
乱戦中とはいえ味方は多い。
「「「「ボーっとしてると危ないぜお嬢ちゃん!!」」」」
多少は違うが大体こんな事を言いながらジャンの邪魔に入ってくる冒険者達。
パーティー単位で突っ込んで来るからジャンと周りの魔族兵は対応に追われる事になる。
「チッ邪魔だ!」
(面倒な…あの女をどうしても殺したい訳でも無い、ジューデの援護にでも行くか?しかしこれ程のパーティーに守られる『お嬢ちゃん』か…それにあの魔力、此処で仕留めた方が得策か)
勘違いである。
「愛それは…」
アリーナンがワンドを消し、ディスカイネを両手で持ち歌うように呟き始める。
(何だ?…言葉に魔力が乗っている?創造魔法の詠唱か!)
「チッ!」
ジャンは即座に風の刃を飛ばし詠唱妨害を試みるも盾持ちの冒険者によって防がれる。
(あの魔力で創造魔法を使われるとなると何が起きるか分からん…この女と距離を取るべきか?それとも負傷覚悟で突っ込むか?)
ジャンは迷った、その迷った時間が拙かった。
詠唱が止んだのだ。
「『白たんズ・アーミー』!!」
魔法名を唱えると同時に魔杖ディスカイネで地面を突く。
するとそこを中心に巨大な魔法陣が展開した。
(何だこの馬鹿でかい魔法陣は!?)
そこからポコポコと出て来るアリーナンの魔力で作られた1/1サイズの白。
ノーマル白、鎧白、鞭白、着ぐるみ白、羽白…100体ずつ計500体『出撃』した。
「「「「「み~」」」」」
綺麗に隊列を組んで進撃する白ズ、四十匹程か黒い子猫が混じっているのはディスカイネの影響だろうか、凶暴性も増して眼つきも多少鋭くなっているが一応白である。
「くっ!まだこの程度しか出せないのね…これじゃあ『愛の結晶白たんズ・キングダム』の完成までほど遠いわ…」
守りに入った冒険者や魔族にもじゃれ付いている魔力で作った白をみてそう呟くアリーナン。
「………」
ジャンは唖然とするしかなかった、かく言うジャンの着ているローブにも2匹ほどよじ登ってきていた。
そしてアリーナンには1匹も近寄らない事まで再現していた。
相変わらず無駄な再現力である。
ビリイ!ジャンの背中から嫌な音がした。
「み?」
「み~?」
ローブに付いていた2匹が肩まで上り爪を立てて下まで滑り落ちたのだ。
「何!?」
(バカな!これは魔防の効果の高い魔鉱石を編み込んだ特殊なローブだぞ!?何故、魔法で破れる!?)
創造魔法白たんシリーズ№154『白たんズ・アーミー』それは、アリーナンの『愛』と…この魔法に関わった『神』の『愛』が詰まった理不尽な魔法である。
「フフンッ!この白たんズは軍隊よ?敵の戦力を削る位するに決まってるじゃない。あんた馬鹿なの?」
ジャンは他の場所で戦っている魔族兵を見る。
被害は敵味方の区別なく、見境なしであった。
「「「「「み~!?」」」」」
血だまりで濡れる事を嫌いを隊列を乱しながら避けて進む白ズ、ばらばらに避けて行くためすでに隊列を組んだ意味が無くなっていた。
羽白に空から急襲され詠唱を妨害される魔道士。
鎧白の群に群がられ幸せそうな顔で埋もれている魔族兵。
何匹かの鞭白にペチペチ叩かれながら、どうしていいか分からず動きが止まる魔族兵。
着ぐるみ白をお持ち帰りしようと手を伸ばし、逃げられてヘコむ冒険者。
ノーマル白達に装備を壊されたが、どうしても頬が緩む魔族兵や冒険者。
ディスカイネタイプの黒い白は、魔族兵に人気だった。
シリアスな戦場が、カオスな猫ランドと化した瞬間だった。
「……やってられん」
ジャンの一言が全てを物語っていた。
Sideout
待機組side
馬車からマキサックとアリーナンを降ろした後、アイリンとチビーズを乗せて冒険者用の出入り口付近まで戻って来たハチカファだった。
敵影はコロシアムの中央に集中していて、この場所には少ないが居ない訳では無い。
報奨金で買った真新しい連射式のボウガンとお手製の毒矢を使い、近づいて来る敵をノータイムで射殺していた。
「戦場は~あっちですよ~?こっちに~来たら~死んじゃいますよ~?」
馬車の御者席の上に立って、敵が居ない時でも警戒を続ける。
一南達の中では誰よりも護衛らしい諜報部であった。
「あら~?何かしら~?」
戦場の一角が光り輝く、その後小さな何かが沢山空を舞った。
「「「「「…み~…」」」」」
遠くから聞こえる大量の白の鳴き声。
「白ちゃん?え~と~…何で~?」
思わず首を捻るハチカファだった。
その頃、馬車の中では…
「もう、テンちゃん。いい加減に機嫌を直して?イチナさんだって皆の事が心配で置いて行ったんですから…」
「……ぴ」
連れて行ってもらえず、ふてくされチビスライムの上でそっぽを向くテンに優しく声を掛けるアイリン。
「白ちゃんも少し落ち着きましょうね?イチナさんは大丈夫ですから」
(大丈夫ですよね?)
「み~…」
最初はいじけて丸くなっていたが、一南が心配なのか次第にソワソワと落ち着きなく馬車の中を動き周り。
今は、出してと言わんばかりに扉で爪を研いでいた。
「「「「「…み~…」」」」」
「え?」
「み?」
「ぴ?」
「……?」
外から小さく聞こえる鳴き声に思わず白を見るアイリン達。
その時削り節が散乱している扉が開いてハチカファが出て来た。
「白ちゃん居ます~?あ、居ますね~ならあれは~アリーナンさんの魔法でしょうか~?」
どうやら確認に来たようだ、だが、扉を開けたのは拙かった。
テンの目がキュピーンと光る。
「ぴ!」
「……!」
テンの号令を受けてチビスライムがテンを頭に三角に伸びパチンコの要領で白に向かって飛ばした。
テン、白にRIDE-ON。
「み!?」
軽い衝撃を受けた白は前のめりに床に突っ込む。
その後転がって来たチビスライムに巻き込まれ、もみくちゃに成りながら外へと転がり落ちた。
「あら~」
「あわわ…だ、大丈夫!?皆!」
慌てて様子を見に外に出るアイリンとのんびりと転がる白達を見ているハチカファ。
しばらく転がり止まったと思ったら、白が羽を広げた。
白ライダーテン再び推参である。
白は目を回しているのかフラフラとしているが、テンが首輪を手綱代わりに上手く上昇して居る。
「ぴぴー!!」
「み!」
「……!??」
チビーズ達の声にアイリンが反応する。
「…!いけない、止めてくださいハチカファ!あの仔達イチナさんの所に行くつもりみたいなんです!!」
「無理ですよ~矢で射る訳にもいきませんし~あそこまで高く飛ばれたらどうしようもありません~」
そうこうしている内にどんどん離れて行くチビーズ。
「…追いましょう、あの仔達が傷つくのは耐えられません。お願いします」
「も~しかたないですね~。御者席に乗ってください、飛ばしますよ~」
そうしてアリーナンの魔法によってカオスになった戦場へと向かう待機組であった。
Sideout
パークファ「……のん…パー子…」…パー子side
魔族兵を奇襲しヒット&アウェイを続けるサウスにしがみ付き、たまに思い出したように吹き矢を使う。
強化パーツ『吹き矢砲台』ことパー子。
「……君たちの…冒険は…これからだ…」
「は?何が…っておい!」
偶々隣にいた冒険者を混乱させては去って行き。
「……?…間違えた…離脱…ごー…」
「おごぉおお!?ヤバい、ヤバい、ヤバい!?出る!?クソ!こんな所で漏らして堪るかー!!……あっ…」
吹き矢を使えば、矢の種類を間違え喰らった魔族兵は酷い腹痛に襲われる。
「……サウス…サウスミンC…が足りない…もっと出さなきゃ…」
「ガ、ガウゥ?グ、グオン!」
戦闘中にも関わらずサウスに無茶振り、サウスはサウスで敵の攻撃を避けながらパー子に応えようと頑張るのだった。
「「「「み~」」」」
何処からか群で押し寄せて来る白ズ、それを見て流石にサウスも混乱した。
「ガウゥ!?」
サウスに群がり我先にとサウスの上に登ろうとする白ズ、サウスは振り払う事も出来ず思わずパー子を振り返る。
「……整列…待て…」
パー子の言葉でサウスから離れピシっと整列する白ズ、一応軍隊として作られているのだこの位は問題なく出来た。
「……私の…事は…さーと呼べ…」
お前は何処でこの白ズが軍隊だと知ったんだ、いやパー子だから仕方がない。
「「「「み~!」」」」
「……いえすの…後にさーをつけろ…活躍した者には…サウスの上で…寝る権利を与える…」
ちなみにパー子に動物の言葉は聞こえない、フィーリングである。
「「「「み~!」」」」
「……出撃…」
無表情で満足そうに頷くパー子と納得の行って居ないサウスは、白ズを連れてカオスを広めに戦場へと向かう。
何が起ころうともパー子はパー子、それだけの事だった。