一南、知る
飯屋を探すも来たばかりで地理も詳しくないこの『パレサート』。
そうすんなりと見つかるはずも無く、結局偶々あった屋台で済ませる事に成ったのだが…
『ディスカイネ』がウザイ、町に出たら蹂躙せよと連呼、人が少なくなったら殺せ、犯せのエンドレスリピート。
此処まで意志が有るのなら氣でも通用するんじゃね?と思いガッツリと天鎚並みに凝縮した氣を、たすきのように張り付いて居る『ディスカイネ』に沿って叩き込んでみた。
しばしの沈黙の後に復活、しかし先ほどまでの勢いはない…大分大人しくなった、痛かったんだな?
もう一発行こうかと考えていると、ソルファから声が掛かる。
「あの、イチナさん、立ち止って何をしてるんですか?」
「あんまりにもコイツが五月蠅いから黙らせようと思ってな…もう2,3発、ぶち込めば上下関係がハッキリすると思うんだがねぇ」
打ち込む?何を?と首を傾げるソルファ。
氣としか言えんな、しいて言えば生体エネルギーだったか?以前一族の誰かが研究してたんだが覚えて無い。
爺さん曰く俺は氣の量が半端じゃないらしい、アリーナンとかも多そうだが極端に少なかったりする。
…魔力量が多いと氣が少ないって事はだ、俺の魔力量の少なさの原因は氣の量によるものかもしれんな。
「まあ、それよりこれからどうする?俺達の目的は果たした訳だが…」
背中に背負った鞘に入った穂先の長い『短槍』二本を見やる。
短槍の石突と鞘×2を繋げると長槍になり、短槍、鞘、短槍を繋げる事で上下に刃が有る騎乗槍となる組み立て式の可変槍だ。
銘は『可変両槍』
…何だろうな、ソルファのもそうだが無理に名前を付けなくてもいいと思うんだ。
「そうですね…戻ります?」
まあ、それでも良いか、お?
「ギルドによろうか、ソルファの報奨金も『ツァイネン騎士隊』に送ってあるって言ってたしな」
丁度ギルドの看板が目に入って来た、一度は寄らなきゃイカンと思ってたし丁度いいか。
「ギルドですか…」
(拙いかもしれない、今パレサートの冒険者の大半は闘技都市に出払ってるはず…Cランクのイチナさんにも依頼が来るはずだ、そうしたら…イチナさんは魔王と戦ってしまうかもしれない…)
「ソルファ?どうした?」
「え、ええと…」
どうもおかしいねぇ…
シェルパのギルドのように臭いかもしれんと迷ってる様子でも無い、何と言うか断る理由を探してる?
昨日言いかけた事といい、今日のあの目といい、何か隠してるのか?
だとしたらその『隠し事』を知るチャンスは何時だ?このパレサートに着いてから宿に着くまでソルファは単独行動をしてない。
俺が聞いていないとしたら…宿の部屋は無いな、黄助を抱いて俺の部屋に直行だったからな。
うーむ…まさか謁見か?だとしたらルナ達も知ってる事になるが。
もしかして王様の面倒事と同じものか?明言はしてないが、あそこで王様が来るのはおかしいからねぇ。
だとしたら情報源は予知巫女の予知か…
大規模なスタンピードか?それなら隠す必要は無いか強制クエストだし…分からん。
「あの、体調が思わしくないので帰りましょうか?」
「…そこまで入りたくないかギルドに、報奨金は要らないのか?丸金貨2枚だぞ?」
まあ、正直キツイ二日酔いの体を押して出て来たソルファだ、このまま帰って休ませてやりたいという気持ちはある。
「ええ!?アイタタ…まるきんかにまい…そんなにあったら鎧も新調出来ます」
お金の魔力にフラフラとギルドに向かって歩き出すソルファ。
途中でハッと気づいておずおずと戻って来るソルファに苦笑する。
「ほれ、行くぞ。金貰って防具屋の場所も聞いてこような」
「え?あの…ちょっと待ってください!?」
何か言ってるソルファの手を引きギルドへと向かい歩き出すのだった。
ギルドに入ると懸念していた臭いは無かった、というか冒険者が少ない。
ここに居る冒険者達もどこか新人臭かったりと、熟練の顔が見えない。
確かに門でババミル大臣を待っている時にかなりの冒険者が出ていっていたが…戻って無いのか?
「うう…入っちゃった。仕方ないです、イチナさんは此処で待っていてください。僕が行って手続きしてきますから」
元々ソルファの金だしねぇ俺が行っても仕方ねぇし…しかし、何をそんなに隠したがってるのやら。
「あいよ、行って来い」
俺はカウンターに向かうソルファを苦笑しながら見送った。
このままぼけっと立ち続けるのも何だと思い、煙草に火を着け。
灰皿のある併設された酒場へと向かおうと一歩踏み出した処で二階から声がかかった。
「ギルドは禁煙よ、新顔さん?」
声の主を探して顔を上げると其処にはバスケットボールくらいの水球が、俺に向かって飛んできた。
俺は横に飛び回避する、避けられた水球は地面に落ちてバシャン!と弾けた。
「…なんで、あの距離で避けられるのかしら?」
まあ、声掛けから発見、回避までほぼ一瞬だったし、下手したら当ってただろうなぁ。
「当てたきゃ声を掛けるなアホウ、というか何のつもりだ?ギルドが禁煙だと?バカじゃないのか?」
攻撃されたとかはどうでもいい、そんな事よりもギルド禁煙発言の方が大切だ。
俺は紫煙を吐き出しながら言葉を続ける。
「ッフーー…パレサートの冒険者は葉巻を吸わんのか?酒場の机の上にあるあの灰皿は何なんだ?納得のいく説明を求める」
「うるさいわねぇ…このギルドの法はこの私なのよ、ルールは私が決めるわ。説明何てこれで充分でしょう?」
要はコイツがここのギルドマスターって事か…正直どうでもいいな。
印象は我儘で傲慢な貴族のケバイお姉さんって感じだ、おばさんと言わないのは俺の良心だと思ってくれ。
カツカツとヒールを鳴らし階段を優雅に降りてくるギルドマスター(仮)だが、俺的に煙草が吸えないなら外で待っていた方が良いとギルドから出ようとする…ソルファには悪いが。
「ボーヤ達その男を止めなさい」
その一声で新人臭い冒険者達が俺に群がって来た…何なんだこの統率力は。
叩き潰しても良かったんだが偶に聞こえる「ご褒美を…」だとか「躾て貰う…」とか、やるきの失せるアホウ共ばかりだった。
そうして呆れている内に両手両足にしがみ付かれてしまうのだが、まあ、問題ない。
いざとなったら重量の加護を切って振り回せば済む事だ。
「全く、この私が降りて来るというのに何処へ行こうというのかしら?ボーヤ達良くやったわ」
俺と同い年くらいの奴も混ざっているが、皆ギルドマスター(仮)に褒められて恍惚とした表情を浮かべ俺をドン引きさせた。
「改めて、私はこの王都パレサートのギルドの法でありギルドマスターのバーミシア・ファクト・マンタス…二つ名は『調教飼』よ」
そう言って俺を舐めるように見て自分の唇を舐めるおばさん。
年齢は40代後半で化粧が濃い。
ウェーブの掛かった長い髪の色は黒ずんだオレンジで瞳は茶色、左目の下に泣きボクロが有る。
胸元の大きく開いたイブニングドレスを着ていて、スタイルはそこそこ。
腰に杖を持っているから魔道士だろう。
貴族でギルドマスターってのも居るんだな、もう少し落ち着いた格好をしてくれれば良いんだが。
……正直キツイ、どこぞのスナックのママの方が合ってるだろ。
「甘坂一南、Cランクで二つ名は『白守』昨日このパレサートに着いたばかりだ」
ああ、ソルファはまだかねぇ。
「昨日?道理でまだCランクがこの町に居るわけね、この国のボーヤ達は王命による強制クエストで『闘技都市』に行ってしまったから、ここに居るのは低ランクの子ばかりなのよ」
……何だと?闘技都市と言ったか?
それに王命での強制クエストか、これがソルファの隠し事で王様の用事で間違いなさそうだな。
しかし、この大陸に有ったのか闘技都市…そういや調べて無かったな。
「その話詳しく聞かせろ」
「あら、聞きたいならそれ相応の「聞かせろ…な?」ひっ!?わ、分かったわよ…あなた本当にCランクなの?何なのその殺気…人が出せる物じゃないわよ?」
殺気の余波でしがみ付いて居た冒険者達が逃げ出したが気にする事でも無い。
おかしいな、Sランクを怯えさせるほどの殺気なんぞ放てない…はず。
それに殺気を放った瞬間に『ディスカイネ』がえらく活発に…もしかしてコイツのせいか?
殺気を増幅させる能力でも有るのかねぇ?是非そうあって欲しいもんだ。
そうでなきゃ、俺はめでたく人外認定されちまう。
「取り敢えずその事は置いとけ、で?クエストの内容ってのは何なんだ?」
俺は此処で初めて闘技都市が危ない事を知る事になる。
その頃別室では…
「はい手続きは完了です、こちらが報奨金になります…」
「ど、どうも…」
(まるきんかにまい…どうしよう、Cランクで今まで溜めて来たお金より多い…)
「Cランクパーティーという事ですがこの大陸の冒険者ですか?現在、王命による強制クエストが発令されています。他大陸の冒険者の場合は任意ですので失礼ですが、もう一度カードを確認させて戴けますか?」
「あ、はい。どうぞ」
素直にギルドカードを差し出すソルファ。
「……シェルパの方でしたか、他のメンバーも?」
「そうですね、出身が分からない人も居ますが」
(パークファちゃんは冒険者じゃないし、マキサックさんは何処の出か分からないから仕方ないですよね?)
「有難う御座いました、お返しします。それで…どうなさいます?参加しますか?報酬は後払いになりますが基本報酬の四角金貨1枚に貢献度で+されて行きます。最大四角金貨50枚まで上がるのですが…あまり意味は無いかもしれませんね」
チラリとソルファの手の中の丸金貨を見てそう言うギルド職員だった。
「多分参加する事になると思います…メンバーにも確認を取らないといけないので確約はできませんが」
(というよりイチナさんが知ったら確実に参加は決定なんですけど、今回は流石に相手が悪いです)
「そうですか、参加される場合は此処でなり現地でなり参加登録をしてくださいね?じゃないと報酬が払えませんので」
「分かりました、では失礼します」
そう言って席を立ち一南の待つギルドロビーへ通じる扉を開けるのだった。
一方、ギルドロビーでは…
「まあ、こんな所かしら?…本当はこんなクエスト出したくないのだけれど、王命ですし逆らえないのよ」
(この子にも私のボーヤ達にも魔王の事は言えないし…私も覚悟を決めないといけませんわね)
「魔軍の侵攻ねぇ…闘技都市ってのは拠点として優秀なのか?それとも魔族が欲しがる何かが有るとか?」
「無いですわね、そもそも闘技都市は巨大なコロシアムの周りに居住区があるだけの町です。文字通り闘い技を競う都市で、ランクが高い冒険者や腕自慢の荒くれ者、優秀な兵士などがコロシアムで競い合う場です。それを見に来る者やそれを相手に商売する者で溢れ返っていますので、拠点にも向きませんわ」
尚更なんで闘技都市を狙うのか分からんな…
「攻めるにしても、コロシアムの猛者達を相手にしないといけませんし。あそこの警備隊は町に防壁が無い分、全員が強力なテイムモンスターを持っていた筈ですわ」
それなら王命を出してまで王都の冒険者を駆り出す必要が有るのか?民間人を避難させれば迎撃できそうな物だが…いや、防壁が無いなら流石に持たんか。
もし情報源が予知巫女なら、迎撃不可と判断したんだろうな王様が。
しかし、闘技都市にそこまで人手を割く理由は何だ?可能性としては魔軍の将だが…
「それで、どうしますの?あなたも参加しますか?」
まあ、俺がガトゥーネに挑む前に落とされても困るが…
「そうさなぁ「まだ、決めてません!ですよね?イチナさん」……お帰り、遅かったな」
ソルファが横から口を挟んで来るとは…
仮に王様から依頼内容を聞いていたとして、そこまで必死に成らなくても…もしかして何かあんのか?
「まあ、俺は一応アイリンの護衛だしなぁ、話くらいしとかにゃイカンだろうよ」
「え?直ぐにでも出発するんじゃないんですか?」
もしかして俺がこの依頼を聞いたら即出発だと思って隠してたのか?そこまで猪じゃねぇよ。
……いや、確かに直ぐにでも行きたいがな、なんせガトゥーネとの決戦場だ落とさせる訳にはイカン。
だが、仲間を放置して一人で行く訳にもイカンだろうよ。
「そこまで考え無しじゃねぇよ、さっきも言ったがアイリン次第だ…アイリンが行かない場合は、俺は一度護衛を外れる事になるがな」
後任はハチカファ辺りで、アイツが一番護衛役を務めてる気がするし。
というか護衛を頼まれたのは俺だけだし、結局全員に意思確認しなきゃイカンな。
「やっぱり行くんじゃないですか…」
「勿論行くさ、その前にあいつ等に意思確認はしとかなきゃねぇ?」
そんな呆れた顔するなよ、速攻で突撃しないだけでも偉いだろ?
「それで結局どうするのかしら?行くと言うのなら此処で参加登録だけでも済ませて置けばどうかしら、もちろん現地登録もできるわよ」
あなた他大陸の冒険者でしょ?と参加を進めてくるギルドマスター。
「登録は現地でします。イチナさん…今から戻ってファルナークさんに、あの時居なかったマキサックさんとパークファちゃんと一緒に『詳細』を聞いてください。僕は報奨金で装備を整えてきますから」
詳細?予知巫女が居たから細かい事まで分かったって事か?
「まあ、敵を知れるのは有難いが、ソルファは二日酔い大丈夫なのか?買い物くらい付き合うぞ?」
「…駄目です、謁見の間で予知巫女が言ってました、イチナさんが行くと決めた地点でもう『見えない』んでしたよね?でしたらもうファルナークさんに情報が入って来ません。動くなら早くしたほうが良いです。ですから先に行ってください……僕は何が有っても付いて行きますから」
俺の耳に口を寄せて小声で話すソルファ、予知巫女や『見えない』ってのは流石に聞かれちゃ拙いか。
最後の一言は素直に嬉しかった。
「…あいよ。そう言う事で、おば…ギルドマスターにゃ悪いがちいと急ぎの用が出来たんでな。登録は現地でするわ」
勧めて貰って悪いんだがなぁ。
「他大陸の冒険者に王命の強制義務は有りませんから、参加しなくても問題ないですわよ?そちらの子は知っているようですし…早く行って聞いてきなさい、私からは話せませんので」
何の事だ?……まあ、いいか、ルナに聞けば済む事だ。
疑問を浮かべながらも俺はソルファと共にギルドを出るのだった。
ソルファと別れ、ガイアホテルに戻って来た俺は部屋のカギを貰おうとカウンターに立ち寄った処、支配人に見つかりアイリンの部屋に案内されている処だ。
どうやらルナの頼みで他の連中もアイリンの部屋に集められて居るそうな。
支配人がアイリンの部屋の扉をノックする。
「失礼いたします、アマサカ様をお連れ致しました」
「はい~ご苦労様です~」
「ぴぴー!」
ハチカファがテンを両手で包んで現れた、どうやって扉を開けたんだお前は。
「えと、イチナさん入ってください。支配人さん有難う御座いました」
「…何でアイリンがドアマンやってんだよ、逆だろ普通」
俺は呆れながらも部屋の中に入るのだった。
部屋に入るとソルファ以外の全員が集まっていた。
ハチカファとアイリンが開いたソファーに座る…俺の座る所無いんですけど?
マキサックはソファーを女性陣に占拠され床に座り、チビスライムをその大きな手で握り込んでいた。
「そうっす!もっと頑張って指を押し返すっすよ!!」
どうやら特訓中のようだ、そっとして置こう。
アリーナンは自分の杖を取り出してシャンデリアに向かい振っている…ああ、白が上に居るのか。
「ただいま、白」
「み!…み~」
「ハァハァ白たん降りておいでぇ~?怖くない、怖くないからね?」
どうしよう、あんまり放置しとくのも白が可哀想なんだが…近寄りたくない。
「うむ、ようやく来たか…ソルファとのお出かけは楽しかったかの?ん?」
「武器屋の場所を教えたのルナじゃねぇか、何で怒ってんだよ?」
訳が分からんぞ?
「むう…まあよい。先ほど王城から連絡が有った。予知が見えなくなったとな」
謁見してから連絡を取り合ってたのか、何で一冒険者にそこまでするんだ?
まあ、ルナは王族だしおかしくは無いのか?
それとも俺が関わって予知が見えなくなる事を恐れたのか…理由としてはこっちの方が納得は出来るか…
「ああ、その事でルナから詳細を聞けってソルファに言われて戻って来たんだが、どういう事だ?ギルドでは闘技都市に魔族が侵攻してくるって事だったが、聞いた限りじゃ守りに適してない場所だ。兵を幾ら集めても防壁すら無い場所じゃ意味がねぇ」
俺的には闘技都市の防衛は非常に有難いんだが、短期決戦以外にやりようがないってのも厳しい。
「うむ、しかし敵の数は分かっとる。将が2人に魔族兵が500人と同数の魔物、それと…魔王じゃ」
…何だと?ああ、それであれだけ真剣だったのかソルファは。
「そして魔王の目的じゃが…じ『殺せ!!犯せ!!蹂躙せよ!!!殺せ!!犯せ!!蹂躙せよ!!!殺せ!!犯せ!!蹂躙せよ!!!』」
「ぐぅっ!?」
アホか!?何で今騒ぎ出すんだ!!
氣を叩き込んでから大人しかった『ディスカイネ』が周りの音も聞こえない程の『声』で頭の中を掻きまわす。
魔剣のように物理的に操るのでは無く、これは怨念で精神を壊す。
気を強く持たんと持ってかれそうになるが…いい加減うるさい。
「……喧しいんだよ!!武器風情が!!!」
たすきのように俺の体に張り付いたディスカイネを掴んで膨大な量の氣を流す。
以前のように凝縮する余裕は無かったが、送った量はけた違いだ。
ディスカイネは俺の手から逃げるように短槍へと戻り床に落ちた。
「イ、イチナ?大丈夫かえ?それにその短槍は一体…」
「ああ、コイツは…」
俺の様子を見て引いてる奴等に説明する、アリーナンは聞いちゃいないが。
説明を終えると可哀想な目で見られた…ディスカイネが、そこはもっと俺を心配するところじゃねぇかな?
「という事だコレには触んな「イチナ、コレ借りるわよ!白たんへの架け橋にして上げるわ!!」おいバカ触んな!!?」
そう叫んだ時にはすでに遅かった…そう、ディスカイネはアリーナンの手の中に。
「え?何これ…あ、ああ、ああああああ!!」
ああ、くそ!さっさと引っ手繰ってしまおう。そう思った時だった。
「こ、殺す、ころ、ころ……無理に決まってんでしょうが!!何!?あんた何様!?白たんを殺せとか、この甘坂アニマルズファンクラブの盟主たる私に何言ってんの!!?」
ハイライトが消えた目で恐らくディスカイネに白への愛を語り出すアリーナン。
「いい事?白たんは…え?そんな事どうでもいいから殺せ?バカ?バカなの?イチナ風に言うとアホウなのね?いいわこれから私が白たんの全てを…いえ、白たんへの愛を教えてあげるわ!!!!」
ディスカイネはすでにアリーナンの手から逃れようとビチビチともがいている…
部屋の中心で白への愛を叫び続けるアリーナン、流石に喧しい。
放っといてもディスカイネが可哀想になるだけだが、ここは涙を飲んで放置の方向で。
取り敢えずアリーナンを部屋の隅に持って行くことにした。
「流石、アリーナン…魔武器くらいじゃ、どうにもならんか」
「俺様王子も相当だけど、アリーもかなりキテルよね?」
お前にだけは言われたくない一言だな、腐敗勇者よ。
「さて、さっきの続きと確認だ、魔王の目的とやらも、ディスカイネのせいで聞いてないしな。その前にお前等はどうするんだ?」
相手は魔王、流石に予想外だからなぁ。
俺はアリーナン以外に意思確認をするため改めて仲間と向き合うのだった。