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猫守紀行  作者: ミスター
62/141

二日酔いでお出かけ

「さて…」

コンコンとソルファの部屋をノックする。

余り間を置かずに、部屋の扉が開く…


「はい…どちら様でしょうか?…」

顔色わっる!?二日酔いか?まあ、結構飲んでたからなソルファは。


「だ、大丈夫か?武器屋に行こうと声を掛けたんだが…無理そうだな」

まさか初っ端から頓挫とはな、先にソルファの状態を確認しておくべきだったな。


「あ…行きます!あいたた…ロビーで待っててください」

「いや、無理すんなよ。黄助も二日酔いだし治ってからにしよう、な?」

流石にコレは連れまわせんぞ。


「いえ、僕のハルバードも早めに新調したいんです。いつ何が有るかも分かりません、その時に…イチナさんに付いて行くためにも」

真剣な顔でそう告げるソルファ。

その瞳に見えるのは『決死』の覚悟と何時も以上に強い意志…顔色は酷いが。


しかし何故ここまで?


確かに危険な旅だ、しかし魔族兵を散らせるまでに腕を上げてきているソルファは十二分に戦力だ、置いて行くなんぞ本人が言いださない限り有りえない。

まあ、俺が強敵に突っ込むからかもしれんがなぁ…


そういや昨日ソルファは何か言いかけて止めてたな…その事か?


「それじゃ、ロビーで待っていてください。準備して行きますから」

そう言って扉を閉めて準備に取り掛かるソルファだった。


「…ん、おう。って、おい!…仕方ねぇ行くか」

今一腑に落ちんが、パー子でもあるまいし心なんぞ読めんからな、考えても仕方ねぇか。


俺はロビーに向かって歩き出すのだった。




俺は今、ロビーでメイドさんに喫煙できる場所を聞いてソルファが来るまで、一服してる処だ。

意外にもどこでも喫煙OKだった、まあ、こんな所に泊まる客で葉巻を吸わない客は居ないか。

ほとんどの客はメイドの手を灰皿代わりにするらしい、メイドさんの手を灰皿とか死ねばいいのに…

そういや、俺の部屋でたむろってたメイドさん達も手袋してたな。

思えばテンを預ける時の緊張はそういう事だったのか?手袋取ろうとしてたし。


何でこんな話をしているかというとだ。

「ッフーー…」

「っ!?」

俺の横にスタンバイしてビクついてるゴブ族のメイドさんが居るんだ、どうしたら良いと思う?


「いや、あのな?灰皿を「ど、どうぞ…」………アホウ共が…」

どうぞの声と共に差し出された両手の平は丸い火傷の跡が幾つも残っていた…胸糞悪ぃ。

というか俺はここの客と同じに見られてるって事だよな?まあ、泊まってる時点で同じなんだが、非常にムカつくねぇ…


「アホウ、これのどこが灰皿だ、人の手に煙草の火を押し付ける趣味は持ってねぇよ。さっさと手当して来い」

「…え?でも「さっさと行け」し、失礼しました!」

そう言いながらお辞儀をして去って行くゴブ族のメイドさん。


入れ替わりで支配人が来た。

「これは、アマサカ様、メイドが何か粗相をいたしましたでしょうか?」


「見てただろお前、粗相をしたのはメイドじゃ無くここの客だな、女の子の手に火傷の跡を残すような屑しか泊まって無い一流ホテルってのも笑えるがねぇ?」

幾ら向こうの世界の一流を真似た処で、常識までは変えられない。

何よりもモラルが違う、日本の常識である事はこちらの世界でほぼ通用しない。

分かっちゃいるが胸糞悪ぃ。


苛立ちを一緒に潰すように煙草を自分で握り潰し、潰した残骸を支配人に渡す。


「…アマサカ様、聖人の勇者様もこの事には大層お悩みでした、一度は部屋に灰皿を常備したのですが…部屋にメイドを呼びつけ灰皿を投げつけ怪我を負わせる事が続出した為、仕方なく回収したのです」

貴族様のアイデンティティーみたいなもんかねぇ?クソ喰らえだが。


「…まあ、俺じゃどうしようもねぇな。せめて手に傷が残らねぇように治療位はしてやれ、ったく勇者なら王命位貰えるだろうに、王命で禁止すりゃ誰もやらんと思うがね?幾ら聖人の勇者様とはいえメイドのために王命を貰えるとは思わなかったかねぇ」

あの王様ならノリでくれそうな物だがなぁ。

何と言うか半端に馴染んでる感じだな、聖人の勇者様は。


「まあ、良いか。これから出かけるんだ、顰めっ面てのも良かないだろ。そろそろ来るころだしな…」

「そうですか、お気をつけて」

支配人の綺麗なお辞儀を横目に俺はこちらに手を振るソルファに手を上げ返すのだった。



合流し、二人でガイアホテルを出る。


「しかし、遅かったなソルファ」

特に化粧をしている訳でも無いんだが…

いや、すっぴんでここまで綺麗ってのも凄いんだがね?顔はまだ青いが。


「ファルナークさんに詳しい場所の確認をしていましたから」

「…よく付いてこなかったな」

(イチナさんと行くとは言ってませんから…とは言えませんよね)


「ハ、ハハ、そうですね…さあ!行きましょうか!あいたた、頭に響きます…」

自分の声が頭に響くってのも間抜けな話だが、これから行くのは街中だぞ?大丈夫か?


「おい、やっぱり無理しない方が「行きましょう…」あ、こら」

引きずるな!力強ぇな!?流石にハルバードとロングソードの二刀流をするだけは有るか?

そのまま、俺とソルファは目的地の武器屋に向かうのだった。



「こっちで良いのか?」

「…はい、すいません」

順調?に俺を引きずっていたソルファだったが、途中で路上演奏の一団にかち当ったのが拙かった。

その場で蹲るソルファ、離脱するために横抱きに抱える俺、勘違いして祝福の演奏を贈る一団、冷やかす観客。

ソルファは顔を赤くしながら青くすると言う器用な技を披露してくれた。


今は俺が背負ってソルファはナビゲートをしている…鎧が痛い。



「あ、その角を曲がった所です。『ポンポン製作所』と言うらしいです」

……チアリーダー達が持ってるアレか?いや、武器屋だし流石に無いか。

せめて武器製作所とかにしよう、何を作ってるのか全く分からないから。


取り敢えず、言われた通りに角を曲がると其処には…

「高い!上手い!長持ち!開店セール実施中!!ポンポン製作所ですよー!!」

セールしてるのに高いのかと言いたくなるがそこは置いておこう。


其処にはホテルに泊まった時に食事を運んできて散々掻きまわして黒服に連れて行かれた、マイペースメイドのポレーナの姿が有った…何で居るんだ?しかもメイド服で。

お前ホテルで働いてただろ?あのノリでそのままクビになったのか?


道行く人はポレーナから顔を逸らし過ぎ去って行く。


「おかしいですね…逆星の北条様が開店セールと閉店セールは無敵と言っていたのに…」

確かにそれで何年とやってる店は有るんだがな…今はどうか知らないが、流石にもうやって無い筈だ。

しかし、北条の情報かぁ、口説こうとして適当な事言ったんだろうな、きっと。


「おバカ、家は此処で200年やってんのに、今更開店してどうすんだい、さっさと店番に戻りな」

ポレーナと同じようなユニコーンのような角と4つの耳をもった中年の気の強そうな女性が出てきて、有無を言わさずポレーナを店内に引きずり込んで行った。


恐らく母親か?鍛冶をしているのか露出は多くかなりの筋肉を有していた。

しかし、200年か老舗じゃないか…ポレーナの存在で一気に入る気が失せたが。


「なあ、ソルファ…他にしないか?」

「ここしか聞いてませんよ?それにかなり腕は良いみたいですし、行きましょう」

腕がいいのはルナの大剣を見れば分かる、だが、アイツは何か疲れるんだよ。


「仕方ねぇ、行くか…」

背負われたまま頷くソルファと共に武器屋『ポンポン製作所』へと入って行くのだった。




「邪魔すんぞ」

店内は意外にも綺麗でガルレンズの防具屋とはまるで違う。

細かいところまで綺麗に掃除されているようだ。

置いてある武器も分類別に分けられ非常に見やすい。

ファンタジーの世界の武器屋ってのはもうちょい大雑把かと思ってたんだがねぇ。


何となしに店内を見渡しているとカウンターのポレーナと目が合った。


「お客様?流石に背中の得物はこちらでは直せませんよ?他を当たりやがれです」

…何言ってんのコイツ?背中の得物ってソルファの事か?

確かにソルファの体調は悪いが、何処をどう見たらソルファが武器に見えるんだよ…


それにお前、さっきまで呼び込みしてたのに客を追い返すってどうなんだ?


「あの、僕たちは武器を買いに来たんです」

「そう言うこった、店内を「あ、お湯沸かしてるんでした」……」

取り敢えず俺の事は欠片も覚えて無いという事は分かった。

そのまま店の奥に消えドタドタと何かしている気配だけが感じられる。


「フフ、マイペースな子ですね?」

「そうだねぇ…受付が客を放置して行くのはどうかと思うが」

ソルファは武器扱いされたけどねぇ。

ソルファを下ろし、そんな事を話していたら店の奥から中年の女性が出て来た。


「おや?お客さんか…ポレーナはどうしたんだい?来たら鍛冶場まで呼びに来るように言っといたんだけどね」

先程ポレーナを引きずって店内に連れ込んだ女性だ。

短い紫の髪にオレンジに近い黄色の瞳、褐色の肌はポレーナと同じだが、まるで女性ボディービルダーのようなガチガチな筋肉が体を覆っている。

着ている物はサラシと厚手の作業ズボン、それに厚手の皮手袋だ。


「まあ、あの子は言った事の半分きいてりゃ良いほうか…で?何をお求めだい?」

それに答えたのはソルファだった。


「ハルバードを…イチナさんに付いて行くには今のコレでは駄目なんです」

聞いてた俺は、中々に恥ずかしいんだが…よく真顔で言えたなソルファ。

そう言ってソルファは自分の付加袋からハルバードを取り出しカウンターに置いた。


「へえ、男の為か…なら選んでやろうか。で?イチナさんってのはアンタかい?まさか買い物に付き合っただけじゃないんだろう?」

「まあ、そうだな。俺は馬上戦闘用の長柄物を探してる。乗ってるのがバトルホースでね、コイツじゃ間合いが足りないんだよ」

俺は刀の柄を叩きながらそう言った。

…何かポレーナ母の目が光ったような気がするんだが?


「その剣、見せてみな」

「あの、ハルバードを…「ソコの棚に有るよ、自分で選びな。家に外れは無いからね」…はい…」

おい、さっきと言ってる事が違うぞ?


「早く出しな、私の勘が言ってんだソレは良い物だってね」

お前は何処の盗賊だ。

「ハァ、分かった、分かったから詰め寄って来るな。見せるだけだ、俺の相棒達なんでな」

鞘ごと腰から抜いた瞬間引っ手繰られた…おい。


「ああ、うん見るだけだよ…綺麗な剣だね、観賞用の剣かい?それにしちゃ鋭すぎる、それに使い込まれてるね。こっちは魔剣かい?よく使ってるねアンタ」

「魔剣の元はもう殺したしな、大体魔剣って何かよく分かって無いしな俺」

魔剣になったと言っても大して変わりは無いし、イメージ魔法が留まる位の感覚しかない。


「呆れたね、いいかい?魔剣ってのは魔石を壊す事で『器』が出来た武器の事を言うのさ。魔族の魔力然り、切ることで多少なり魔力を吸収するのが魔剣、器が有るって事は当然階位もある、切れ味や強靭さが増すのさ。大元の魔族が死んでるなら器は空になってる筈なんだけどね…あんた、これまでどんだけ斬って来たのさ?」


え?そんな呆れるほど魔力溜まってんの一匁時貞に。

まあ、確かに結構な数を斬って来たような…オークとか、モンスターとか魔族兵とか。

でもまあ、普通じゃないか?これ位問題ないだろうきっと。


「んな事より長柄物だな…えっと「ポンファミ・ポンカーラナだよ」あぁ、だからポンポンか…200歳なのか?」

「文句あるかい?」

無いです、長寿種ってやつかねぇ。


「あの、コレをお願いします」

お?ソルファは選んできたのか。

持って来たのは普通のハルバードよりも刃の部分が1.5倍は大きな物だった。

柄の部分にギミックでも仕込まれているのか、少々おかしなことになっている。


「もう、お母さん!ご飯だって呼びに行ったのに!あれ?お客様?」

客放置して飯の準備してたのかコイツ…そして既に俺達の事は覚えていない。

あー俺も飯食いてぇなぁ…


「あんたは厨房を使うなとあれほど…まあいいさ、どれを選んだんだい?見せてみな」

「あ、はい」

ソルファは持って来たハルバード?を片手でカウンターに置いた。


「コイツを片手で持てるのかい…銘はカラクリ5号『魔量斧槍(マリフソ)』だよ、魔力で刃を形成するカラクリを付けてある。戦闘での間合いってのは大切だからね、込める魔力の量によって形成できる魔力刃の大きさも変わってくる。間合いをひっくり返す切り札として使ってくれると嬉しいね」

そいつはかなり使えるなぁ…魔力量の無い俺には関係ない事だが。


ソルファが代金を払っている間に俺は俺で選ぶことにする。

俺が武器の棚に歩いて行くと何故かポレーナまでついて来た…来んな、何か面倒な予感しかしないから。


態々関係のない棚から商品を出してきては俺に紹介を始めるポレーナ、取り敢えず無視で行こうと思う。

「どうっすか、旦那、この短剣なんか装飾がみごとでっしゃろ?」

ふむ、流石に長柄の剣ってのは無いか…仕方ない槍で行くか。


「あ、ならこれは?ポレーナさん特製木剣『フランヴェルグ』!」

長槍ってのも結構色々あんだな、しかも所々何かしらのギミックが見て取れる。

ん?別の棚に1本だけ短槍が?それにコイツ…


「……えい」

特製木剣を俺に目掛けて振ってくるポレーナ。

「…危ねぇだろうが、何してんのお前?お客だよ俺」

剣速もくそも無い緩い剣撃、取り敢えず振ったといった感じだ。

避ける気も起きず、手で弾いて止めた。


「おお~達人だ、もう一回行こうもう一回」

聞いちゃいねぇな。

「あのなぁ「じゃあ、最初からやります?」…あれ?何かデジャビュ」


「いや、やら「じゃあ、行きますね!」…話を聞け」

そう言って『店の奥』へと消えていくポレーナ…まさか出で来るところからか?


「……取り敢えず『コイツ』が気になるし持っていってみようか」

目の前にある『黒い短槍』を握りしめソルファと談笑するポンファミの元へと向かう。


「おや、決まったかい?」

「『コイツ』は何だポンファミ、他のと違って多少なり威圧感を覚えるなんぞ普通じゃないだろ、それに何か頭の中で喧しいんだが」

そう、短槍の癖にこの俺を威圧してきやがった。


「……多少かい?ソイツは前魔王が自分の魔石を砕き作り上げた『ディス』シリーズの一つさ、銘は『ディスカイネ』。使う者によって形を変える最上級の魔武器で魔族以外の者は前魔王の怨念で発狂する、んだがねぇ…何で無事なのさ?そのせいで城に納めようにも運び手が居なかったのに」

発狂か、確かにするかもしれんなぁ…さっきから頭の中で知らないオッサンが殺せだの犯せだの蹂躙せよだのうるせぇからな。

あんまり影響がないのは俺が異世界人だからか?それとも神薙流の精神修行の賜物か?

後者が良いなぁ、実戦修行よりしんどいんだよねぇアレは。


「じゃあ、要らねぇか。俺の使うのはコイツ等(カタナ)だしサブ武器が欲しいだけだしな。棚に戻しとくわ」

そう言って踵を返すとその瞬間。

「あ」

「え」

「そう来たか…」

短槍が形を変え、たすきのように体に巻き付いた…お前武器だよね?


「良かったじゃないか、ディスシリーズに選ばれたんだ。頑張って殺戮してきな、私としちゃ厄介払いが出来て有難いよ。いつの間にかあの棚に置いてあってね、銘は刃に刻まれてたから分かってけど、触れないから仕方なくあの棚空けて放置したんだ。それはただでやるよ」

わーいポンファミさん、太っ腹ー…ハァ、面倒な。


取り敢えず適当に槍を見繕ってもらい店を出る。

あ、投げナイフも30本ほどかったぞ?


「ソルファ、飯食いに行こう。朝も食ってないんだよ俺」

「はい、軽い物なら食べられると思います。行きましょうか」

そう言って俺と顔色が大分戻って来たソルファは飯を求めて町を彷徨うのだった。



その頃の『ポンポン製作所』

「お母さん!ご飯……あれ?あのお客さんは?」

「もう帰ったよ」

「そんな!?待ち構えてくれて無いと……あれ?何かデジャビュ」

「そんな事言ってないで働きな。ホテル、首になったんだから」

「はーい、んんー?何か引っかかるんだけどなあのお客さん…ま、いっか」

結局、思いださないまま店の掃除に取りかかるポレーナだった。

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