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猫守紀行  作者: ミスター
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大橋の攻防

現在、山道を大橋に向かって下っている処だ。

ルナによれば横幅30メートルの巨大な橋らしい、常に駐在している兵も居て橋には砦が有るとか。


ちなみに、予知巫女と残念奴隷は旅馬車に詰め込んだ…今頃アイリンと仲良くやってるだろ。


そして今、先頭を走っているのはパー子…付きのサウスだ、階位が上がってから驚くほどに走りに無駄が無くなり、速くなった。

最初は飛ばし過ぎて、行った先で俺達を待っている事もあったくらいだ。

よくパー子はしがみ付いてられるな…もしかしてパー子が居なかったらもっと速いのか?


ああそうだ、ルナに魔法紋とラピッドウルフの事を聞いておかなきゃねぇ。

俺はクロハをルナのバトルホース『マリア』に寄せる。


教えて!ルナ先生!!


「ん?どうしたんじゃ?」


「ちいとルナ先生にラピッドウルフについて教えて欲しくてな、あと魔法紋の事と」

魔法紋ってのは果たして階位が上がったくらいで出る物なのか、むしろ造られた物っぽいんだが。


「ああ、サウスか…色々おかしい処も有るんじゃが、それは置いとこうかの。まずはラピッドウルフについてじゃな」

おかしい処?


ふむ、サウスは前にもウルフリーダーからガードウルフに成ると言う、シャーニスいわく有りえない階位の上がり方をしてるしねぇ…やっぱ無理にでも教会に連れて行くべきだったか?


「ラピッドウルフの特性はその速さじゃ。野生のラピッドウルフは本気で動くとCランクではまず捉えられん、ゆえにBランクモンスターとして認定を受けておる。攻撃能力は噛み付きや爪じゃから大したことは無いんじゃが…」


家のサウスは一味違うからねぇ。

明らかに野生の奴より速いと思うぞ、だって俺が『速い』と思うくらいだからな。

…まあ、野生の奴にあった事は無いんだが、贔屓目かねこれは?


「サウスはイメージ魔法と魔法紋を持っておるからの。魔法紋とは術式魔法を詰め込んだ物じゃ、魔法の種類はイメージと術式、術式そのものが『魔の法を司る神』から与えられた物じゃから変えようがない…魔族は無理やり書き換えたりしとるがの」


神から貰ったものを書き換えるってのは凄いんじゃないか?

魔法技術では一歩先を行ってる訳だな魔族ってのは。


「ゆえに派生や簡略化の技術で名が変わるんじゃよ、想像魔法は別の神の加護じゃから関係無いがの」


という事はサウスは『魔の法を司る神』の加護を持ってるって事か?

世界に干渉出来るって事は数少ない『例外』の1人かねぇ?


「本来喋れなくなった魔道士や、魔力量の多い戦士の回復手段として使われるもんじゃ。魔法名を呼ぶ事もしなくて済むから、完全無詠唱じゃよ。それに魔法紋一つ一つに違う術式が編み込まれておってなそれぞれの形で魔法の種類が違うんじゃよ。どんな魔法かは残念娘に聞けば分かるじゃろう」


……何かチートっぽいな。

サウスは魔法紋6つ持ってる事になるのか?


「恐ろしく反則臭いんだが…デメリットはあるのか?」

無ければ俺も…


「というかデメリットだらけじゃな。何でサウスが魔法紋をもっとるのか分からんが、アレは同じ術式魔法の3倍魔力を喰うし、使うのに詠唱なみの集中をせねばならん。魔法名を言わんから威力も多少落ちるしの。まあ、杖を使わず体を媒体にしての術式魔法の行使じゃし、こんなもんじゃろ」

…3倍とか無理です。


「その魔法紋ってのはモンスターにも有るものなのか?予知巫女が亜種って事で一応納得してたんだが」

まあ、市井の出らしいし知らなくても当然かもしれんが。


「有るには有る…が、それこそAランク以上の『人型』にしか確認されておらん。サウスの場合は特殊すぎる、イチナが入れた事にせねば国の研究機関に連れて行かれるぞ?」


ソイツは御免だねぇ、国と斬り合いなんぞやりたかねぇな。

実際そうなったら、やっちまうんだろうけども。


パー子を乗せ先頭を楽しそうに走るサウスに視線を向ける。

俺の視線に気づいたサウスが何?と速度を落として来た…


「ああ、気にするな、何か見つけたら知らせろよ?」

「ガウッ!!」

一度吼えてまた速度を上げるサウス…うん、いい仔だねぇ。

もしサウスが…いや家の仔達が捕まりでもしたら、国を潰さんばかりの勢いで暴れるしかないな。


その時は頑張っちゃうよ、俺。


「…何ぞ物騒な事を考えてはおらんか?」

「大丈夫だ、家の仔に手を出したら、物理的にとことん叩き潰そうなんて考えて無いから」

俺、不器用だからそれ位しかできないんだ。


「どこが大丈夫なんじゃ……予知巫女に言い含めておいた方がいいかのう?…イチナ一度休憩を取ろう、マリア達にも水を飲ませねばならんしの?」

確かに結構走ったからなぁ…今日中に下山したかったが休憩して間に合うかね?

まあ、クロハ達も俺等を乗せ、戦闘までやってるのに、ろくに休まず出発だったしねぇ。


「あいよ、サウス!」

俺の声に直ぐに反転して戻ってきたサウスに休憩だと伝えクロハを止める。

ルナがソルファとハチカファに休憩と伝え、旅馬車の結界石を発動させた。


ぞろぞろと馬車から降りてくる面々…ルナは予知巫女と何か話している、何でこっち見るんだよ。

俺もクロハから降りようとした時、先に白を解放した黄助がクロハから飛び降りた。


ぽて、ころり。


「…がぅ…」

……うん、腹が邪魔だったんだな?


明らかに食い過ぎだ、腹が生まれる寸前の妊婦のようだ…仰向けだからよく分かる。

「み~?…み~♪」

コラ白、黄助のお腹はトランポリンじゃありません。

苦しそうにしてんだろうが、止めたげなさい。


白を捕まえ一安心と思いきや。

「ぴぴぴー♪」

テンもか!止めたげて!?

トランポリンじゃねぇっての!黄助が可哀想だろうよ!


空いた手でテンを捕獲。

おい、啄むな、斬レンジャー着けてるから痛くはねぇが…テンの嘴が痛みそうでコエェよ。


「……あの、よろしいでしょうか?」

「ああ、予知巫女か…何かあったか?「ぴぴー!!」コラ、対抗意識を出すな、持ちにくいだろうが…すまん。で、なんだ?」

白が羽を広げ、フンスッ!と勝ち誇った雰囲気を出したため、テンも羽を広げ威嚇したのだ。


「……可愛い…あ、すいません。橋無くなってしまいますがよろしいのですか?」

あ~はいはい、橋ね…ん?……は?何て言った?橋が無くなる?


まさか予知って奴か?

橋が無くなる事を知っていたのなら、コイツが山道を通ってシェルパに来るのは何でだ?

そもそも、何故この山道を通ったんだ?船の方が安全だし確実だ。


「どういう事だ?説明してもらおうか」

情報が足りん、こういうのがハチカファの役目の筈なんだがねぇ…

残念ながら、家に回ってくる暗部はポンコツしか居ないんだよなぁ…狙ってんのかね?


「……橋が無くなるというのは以前予知した物です。そして今、見えなくなっている物…」

見えないって事は俺が係わったって事か?もう既に?

移動してるだけで係わった事になるのか?


それともこれから行く大橋で係わることになるのか…

いや、『これから』ならまだ見える筈だ、まだ係わって無いんだしねぇ?


大橋を目指してって処がポイントか?


「分かんねぇな…何が原因で橋が無くなるんだ?俺は移動してるだけだ、まだ大橋に着いてもいねぇ。係わりが無いのに何で『今』見えなくなってんだよ?」

予知能力なんぞ持ってねぇし基準が分からん、ここは聞くのが一番だろ。


「……原因は魔族です、何故今見えなくなっているのかは甘坂様が向かう事で、事象の帰結が不確定になっているからでしょう…本当に予知を覆す事が出来るのか、この目で確かめさせて貰います」

まさかコイツ、予知の確認のために態々『先』の見えない山道を通って俺を待ってやがったのか?

本当に面倒臭ぇな。


「…さっさと馬車に戻れ、休憩は終わりだ。ちいと急がにゃならんみたいだしなぁ。あ、馬車にテンも連れてってくれな」

予知巫女にテンを渡す、恐る恐る両手で包むようにテンを受け取る予知巫女は微笑ましかった。


パー子もこれ位大人しいと楽なんだがねぇ…


ルナ達に説明し仰向けの黄助と遊び相手が居なくなり手の中でチョイーンと大人しい白と共にクロハに跨る。


「サウスは先行して何かあったら知らせろ、行くぞ」

気合の入ったサウスに声と気合の抜けるパー子の声を聴いて、俺達も出発する。




クロハを走らせながら考える。


予知巫女は大橋が無くなる原因は、魔族だと言っていた。

だが何故だ?

交通に関してはこの山道はほとんど使われていないし、船の方が船賃は高いが安全だ。

そもそも、アイツ等は転移方陣でこっちに侵入してきている、陸路どころか船すら必要としてない。


退路を断つため?

今はハフロスの様に個人で転移魔具を持っている者も少なくない。

国…王族となれば当然持っているだろうし意味は無い。

それ以前に船をどうにかしなくちゃ退路もくそも無い。


ん?船?ああ、そうか…

魔王が復活したから、ルナが言ってた50年前の船が出せない状況が作れるのか。

その後、国を孤立させて個別にもしくは同時に襲う…むしろ俺ならそうする。


まあ、転移魔法が無ければだが。

だがらこそ狙いが分からん。


「まあ、仮説を立てた所で意味はないか。大橋に居る魔族の口が軽ければいいんだがねぇ…」


「……ォォォン!」

「み!」「がぅ!」

サウスの遠吠えか!


「ルナ、ソルファ!急ぐぞ!何かあったらしい」

「うむ!」

「はい!わかりました!」

クロハ飛ばし橋へと急ぐ俺達だった。




そのちょっと前、先行しているサウスとパークファは…


「……地を蹴り~…走れ~…強いぞ~サウス~…」

調子はずれの歌声を上げ、自作のサウスソングを歌いながら背中にしがみ付くパークファ。

そのパークファを落とさないように、速度に気を着けながら走るサウスは階位が上がってご機嫌である。


「……ららら「ガウッ♪」…らら「ガウッ♪」…うえ~い「ガオン♪」…」

…本当にご機嫌である。


「……2曲目…『まふまふサウス』…いきます…」

パークファが2曲目に突入しようとした時、サウスが立ち止った。


「……まふり始めて~…「ガウッ!!」…駄目?…じゃあ別のいく…」

ここまで一切顔を上げていないパークファ、サウスの背中に顔を埋めっぱなしである。

その状態で何故歌えると聞かれれば、パークファだからとしか言えない。


風に乗って流れてくるのは、血の匂い…そして戦闘音。


「アオォォォォォン!!」

サウスは何かあったら知らせろと一南に言われていた。

その為、何の迷いも無く遠吠えを選択し、自身を戦闘態勢に切り替える。


遠吠えを直で聞いて初めて顔を上げるパークファ。


「……何か発見?…早い者勝ち…ごー…」

サウスは一南を待つかを一瞬迷い、大橋に向かって走りだす。

パークファが落ちかけて、一度止まることになるが。



20人足らずの兵が駐在している大橋の小さな砦は現在混乱の極みである。


魔族の兵士30人相手に小競り合いを繰り返している。


すでに小競り合いで橋の兵士は半数が死んでいるようだ、砦と大橋をつなぐ門を閉め、バリケードを築き駐在兵の隊長であるカナンド・カインの奮闘で何とか持ちこたえている状態だ。


それを遠目で見るに50人規模の部隊と20体の魔物を連れた魔族の部隊があった。

「全く…大橋の警備は強固だと言ったのは誰ですか…真に受けて部隊を引き連れて来た私がバカみたいじゃないですか。ジャン、ジューデ、拾ってやったんですから恩を返しなさい」


「了解です…このまま放って置くと手柄を奪われるな」

一南に関わったがために部隊を転々とする男ジャン。


「了解です、バクア隊長!…あの敵の隊長、中々やるぜ?俺の義手のテストに持って来いだな」

キチキチと鳴る機械の義手は、ジューデの魔石を埋め込まれ意のままに動く。


一南に兄を殺され、腕を斬り落とされ、さらには瀕死の重傷を負わされた男ジューデ。

現在、機械の義手と一南に斬られた傷の治療費により多額の借金をしている不幸な奴である。


「…デカい魔法で砦ごと吹き飛ばす。ジューデはあの男の相手を、こっちに来させるな、行くぞ」

「おうよ!」

2人はそれぞれ動き出す。



「魔道士!援護しろ!死にさらせー!!」

双剣の剣士カナンド・カインは剣の腕だけは立つ。

近衛騎士隊に所属したことも有るエリートだ、ただ他国の貴族の御嬢さんに手を出してここに飛ばされた。

そう、剣の腕だけ惜しまれて生かされたのだ。


「フーッフーッ…くそまだ居るのかよ…」

他の兵士も何とか戦ってはいるが、魔族相手では分が悪い。

1人また1人と倒れて行く。


その時、フードをかぶった2人の魔族が現れる。

「ここで増援か…くそ!大橋は渡さない!!」


「…ジューデ、やれ、俺は詠唱に入る」

「おう…悪いな隊長さんここ『ぷすっ』あん?…」

「ジューデ?どうした?」

返事の無いままジューデは崩れ落ち、肌の色が青から赤へ変わり、白目を剥いて痙攣し泡を吹きだした。


「……痺れ針…?……間違えた…何かの毒…」

そこには右手に吹き矢を持ち、左手でサウスの毛並を堪能するパークファが居た。


「何時に間に…チッ、ジューデ、コレを飲め。解毒薬だ」

ジューデに無理やり解毒薬を飲ませ、何とか痙攣は収まったがそれだけだった。

肌の色は赤く染まったまま、白目をむいて動かない…また、借金がかさみそうである。


「おい…お嬢ちゃんは何者だ?ソイツはラピッドウルフだよな?味方か?できれば助けてくれるなら有難い」


「……もうすぐ…(イチナ)…がくる…がんば…」

パークファはそう言ってサウスにしがみ付く。

そうしている間にも魔族の兵士は襲い掛かってくる。

「くそ、鬼って何だよ!?せめて手伝え!!」


「ダーク・バーン…終わりだ」

カナンドとパークファのやり取りの間に詠唱を完了させたジャン。

カナンドを襲っている魔族兵ごと砦を潰すつもりで魔法を放つ。

魔法はバリケードとパークファ達に向かい、バリケードと砦が黒い爆炎に包まれる。


「…あっけないな、ジューデが倒れてどうなるかと思ったが…何?」

爆炎が収まり、バリケードを確認するジャン。

そこには『緑の魔法障壁』によって無傷のバリケードと砦がそこにあった。


「風の障壁だと?一体誰が……貴様かラピッドウルフ」


「グルルルル…」

唸るサウスの左太ももの魔法紋が淡く輝いていた。

サウスマフラーで風魔法の底上げがされ、障壁の防御が上がったため砦を潰す魔法を無傷で防いだのだ。


「チッ…ウルフ系モンスターに上位の魔法紋か、貴様の主は狂人のようだな」


本来ウルフ系のモンスターは魔力が少ない、マギウルフを経由し魔力量が増えたと言っても一般の魔道士には及ばない。

膨大な魔力を持つ白と契約して、常に魔力が満たされ『白の護衛』であるサウスだからこそ使える、ある種のチートなのだ。


腰から短剣を引き抜き構えるジャン。

サウスも体勢を低くしいつでも攻撃に移れるように構える。


「全く…まだ終わらないのですか?ソコの木偶を連れて、下がって居なさいジャン。後はこちらでやります…全く、最初からこうしていれば良かったですよ、無駄に時間を使わずに済んでいましたね」

50人規模の部隊と魔物20体、それを抑える戦力は今の駐在兵達には無い。

短剣を収め、ジューデを担ぎ無言で下がるジャン。


「さて、終わらせ「ぎゃ~~~!!」何だ!!」

それは部隊の最後尾からの叫び声だった。


「……来た…可哀想な…魔族さん…なむ~…」

「ガウッ」




最後尾にはクロハの剣に貫かれ、今や魔素を吸収されるのを待つばかりの魔族が一体。


「クロハ!!そんな汚いのペッしなさい!腹壊すぞ!」

主に言われ貫いた獲物を地面に打ち捨てるクロハ。


「よし、いい仔だ…しかし、間に合ったのか、間に合ってないのか、分からんな。ま、やることは変わらんから良いんだがねぇ…よっと」

黄助を抱えクロハから降りて、バックルに魔石を入れる。

後ろからルナ達も来た。


黄助が変身したのを確認し、クロハとの共闘を命じる。


「……黄助は少し消化した方がいいと思うんだ、行って来い」

若虎になってもお腹がプックリしてる黄助に告げる。


煙草を銜え火を灯し、紫煙を吸い込む。


「さて、始めようか?…存分に散ってくれ」

イイ笑顔でそう告げ、サウスの元へ向かうべく屍の山を築き始めるのだった。




「……おい、お嬢ちゃん…鬼ってのはアレの事か?」

視線の先には血風と空を舞う首らしき物と「くはははは!!どうした!その程度で止めらると思ってんのか!!」と言う笑い声…


「……いえす…あい…どぅー…テンションの振り切れた…イチナほど怖い者は無い…」


そして、その連れも凄い。


白いバトルホースに跨りハルバード振るい、縦横無尽に駆け回る騎士。

両手に大剣を持ち、馬上から兵士を一刀両断する女大剣士。

攻撃を受けながら、素手で魔物を確実に屠る体術使い。

馬車の近くから体術使いの傷を癒しながらも、攻撃魔法を使い援護する小さな魔道士。

その護衛か、白銀の槍を持った女は特に何をするでもなく呆然としている。

馬車や魔道士に近づく者は行者の女が弓で射殺しているようだ。


後、一人態々馬車の上に載って旗を振っている女が居るが…見なかった事にしよう。



「な、何なんですか、アレは…仕方ありません、私達だけでも橋へ向かいますよ。ガイナス様に言われた通り『コレ』を付けて撤退します」

バクアが手に持つのは黒い球体、大きさは野球ボール位だろうか?

その球体全体に術式が浮かびあがり魔法の産物だと見て取れる。


「さて、その前に邪魔者を片付けてしまわないといけません。やれ」

バクアの近くに居た兵が一斉にカナンド達に殺到してくる。


カナンドは思う「あ、終わった」と。


「……必殺…合体…『痺れ針ういんど』…」

パークファがサウスに跨ったまま、大量の痺れ針(吹き矢用)をばらまいた直後。

「ガウッ!!」

サウスがイメージ魔法で風を起こし殺到する魔族兵に針をぶつける。

バタバタと倒れる魔族兵、何人かは痙攣し泡を吹いている。


「……用法…用量を守って…使いました…」

もしそうなら泡は吹かないとカナンドは思った。


「チッ、使えない…そんなに、この私に殺されたいと「邪魔なんだよ、てめぇ。さっさと退け」グハァ!?」

バクアが振り返るといきなり顔面を蹴り飛ばされる…一南(オニ)だ。



「サウス、お疲れ。あんたも、自己紹介は後でな」

俺を睨んでくる魔族は放置して、戦闘が始まってから5本目となる煙草に火を着ける。

手に持ってんのは…ボール?…ふむ。


「おい、魔族。『ソレ』爆弾か何かか?おかしいとは思ってたんだよ、この規模の部隊で魔道士の数が少なすぎるしねぇ…将のような異質な存在も居ない。大陸を繋げる橋を潰すのには、ちいとばかし『弱い』。で、隊長っぽいお前が怪しい球体を持ってる…」


間違いなくそれが鍵だろうねぇ…


「だったらどうした、人間風情が…この魔法球は貴様ごときに如何にか出来る物では無いのだよ。…すでに起動済みだ、私の命を掛けてこの任務は遂行する」

橋ごと盛大に自爆するつもりか、コイツ。

ったく、死ぬなら1人で死んでくれ。


チラリと球体を見ると魔法陣が発光し徐々に光が強くなっている…時間がねぇのかもなぁ、こりゃ。


ジリジリと魔族は橋に向かって移動している。

なるべく近くでって事かね?…行かせやしないがな。


「どんな花火か知らないが…」

手に持つ『魔法球』を大事そうに庇いながら持っている剣で防御姿勢を取る魔族。

残念だったな、その程度で防げるほど神薙流は甘くねぇんだ。

俺は刻波に手を掛け『六銭』を放ち名も知らぬ魔族の隊長を斬り散らす。


「…花火は上がってこその『花』だろうよ」

一匁時貞を抜き放ち…球体を斬り落とした腕ごと、かち上げ、空に向かい峰で『空居合』を放ち球体を打ち上げる。


数瞬のち、上空で全てを飲み込むような30メートルはある黒い球状の魔法が広がり、消えた。


「あ~…玉屋~か?もうちょい爆発じみた派手な奴を想像してたんだが…」

「……かぎやー…黒い…ふらわーふぁいやー…びみょー…」

ああ、花火な?何で直訳したんだ…確かに微妙だったがなぁ。


「取り敢えず、残りを片しちまおうかね。サウス、行くぞ!」

「ガウッ!!」

「……ひゃはー…ぎゃくさつ…だぜー…」

人聞きの悪い…殲滅戦と言ってくれ。


俺は駐在兵の隊長を置いて、残りの魔族兵を散らしにかかるのだった。


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