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猫守紀行  作者: ミスター
53/141

山道と妹と変身と

11/5加筆修正。

だいぶ足しました。

俺達が今何をしているかというと…


「何でもうちょい考えないかねぇ?分かるだろ普通…アホなのかシェルパの連中」

「いやまあ、そう言われるとアホなのじゃとしか答えられんの」


王都から出発した俺達は大した問題もなく目指す町『カナーハ』に行き、そこで一度補給して港町の『マチェッタ』に着いた。

そのマチェッタから船で魔国に一番近い大陸『ウォルガイ』へ向かう予定だったのだが…ウォルガイは王都が魔族によって潰されている。


王都が潰された大陸に船で渡ることが出来るか?答えはNOだ。

港町の船を持つのが大体は漁師か商人だ。

漁師の船は大陸を渡れるほどデカくは無いし、商人は命が大事で金を積んでも行った先が魔族の領地になっているような場所には行きたがらない。

軍艦はあるが魔王が復活した今迂闊に戦力を手放せないと言う八方塞がり。


そうそう、大陸にはそれぞれ王都の名前が付いている、王都が大陸の名を冠したと言ってもいい。


さっきまでマチェッタの商人達をまとめている豪商と話してきたが…

どうやら勇者様は魔族に狙われていると言う噂が広まっていてどの船にも断られたとの事だ、事実だけに否定できない。


「で?結局どうすんだよ?取り合えずこの大陸から出ねぇと始まらんぞ」

このままでは、俺達の冒険はここまでだ!になってしまう。


「えと、それなら陸路はどうでしょう?カルゲン山脈を越えればパレサートに渡る大きな橋が有るはずです…行ったこと無いですけど」

山越えか…アイリンやハチカファ辺りはきつくないか?


「ふむ、一応大橋で繋がってはおるから陸路も無謀では無いんじゃがの…船と比べると時間が掛かり過ぎるのがのう」

まあ、そうだろうよ。

というかこういう時のための黒金隊じゃねぇのか?

そう思いハチカファを見る。


「へ~マキサックさんは~テンちゃんの師匠なんですか~」

「そうっす!テンを立派な夫呂例素羅にしてみせるっす!!」

……期待は出来そうもないなぁ。


「じゃあ~私も~黒金隊仕込みの諜報術を教えてみようかな~」

お前等はテンをどうしたいんだ?

その黒金隊仕込みの諜報術で他にやること有るだろうが。


何だろうな、こんだけ人材が集まってんのにポンコツばっかりって…

俺は思わず眉間を揉む。


ソルファはニコニコと自分のバトルホースにブラシをかけている…嬉しいのは分かるが数少ない常識人なんだから少し自重して欲しい処だ。

パー子は言わずともサウスの上で伏せている。

アリーナンは白に襲い掛かり、黄助達に迎撃されている。

腐敗勇者は馬車の中でお絵描き中だ、どんな絵かは知りたくも無いが。


「……もう、陸路で良いだろ。話し合ってるのが俺とルナとアイリンだけってのもおかしいが、ここで待ってても乗れる船が無いんじゃ話にならんしな」

パーティーのこれからを決める話し合いに参加もせん奴に文句は言わせん。


「そうじゃの、まあ、道は整えられておるから旅馬車でも行けるじゃろ」

船賃が高いからな、陸路で行く方が珍しくないのか?


「ただの、カルゲン山脈は強いモンスターが多いんじゃ。山頂にはワイバーンの巣があるしの。ランクの低い冒険者はパレサートへの護衛クエストは受けられない程度には危険ではあるのう」

…それは相当じゃねぇか?

そんなんで何で山道が整えられてんだよ。


「まあ、カルゲン山脈の山道沿いに行けばそれほど危険もあるまいよ」

そうであることを期待しましょうかねぇ…フラグじゃない事を願うばかりだよ。




その日の内にマチェッタを発って、野営しながらカルゲン山脈の(ふもと)に到着。

現在、山道を登っている最中だ。


山脈と言っても高いカルゲン山に高低差のある山々が連なってできた物だ、この山道は連なった山々の中で一番低い山を越えるルートで馬車でも通れるほどに山道は整備されていた。


「疑問なんだが、ここを通る奴は居るのか?態々危ない橋を渡る奴等のために山道整備なんぞせんだろう?」

俺はクロハに乗ったままルナに問いかける。


強いモンスターが出るらしいし、ワイバーンの巣まである。

パレサートへ向かう商人も船の方が安全だ。


「この山道はの50年前の魔王討伐戦で各国が連携を取るために使われたんじゃ、その頃は船を出すと魔物に沈められたからの陸路での連絡が必須じゃったんじゃよ。転移系は最近開発された魔法じゃし、次元の神にあのような魔具を創る力が有るとは誰も思わなんだんじゃ」

ふむ、こっちの人にゃ次元てのはなじみが無いのかね?

俺もよく分かってないが、神なんだから取り合えず頼みゃ良かったのに。


「シェルパとパレサートを結ぶ大橋も最初は巨大な吊り橋だったんじゃよ…吊り橋を作るために、各国で飛行魔法の使い手が文字通り命を賭して作り上げたのじゃ。大陸間の飛行なんぞお婆様くらいしか出来んというに、皆ブースターを持って飛んで行くんじゃ…その橋も今はほとんど使われておらん。バカじゃろ?」

お国の為、守る物の為にって奴かね…俺はそいつらじゃ無いから何とも言えんなぁ。



何気ない質問が重い話題に変わって、どう答えて良いか悩んでいると…


「……ルナ」

「うむ、コレは血の匂いじゃな」

風上…俺達の進行方向から流れてくる微かな血の臭い。

だが、戦闘音はしない、か。


何か面倒臭そうだねぇ…


「ま、進行方向である限り行くしか無いんだがねぇ」

俺達は馬を進めるのだった。



目視できるギリギリのラインまでクロハを進め現状を確認する。

そこは10メートルくらいの広場だった、端の方には恐らく山小屋であったであろう残骸も見て取れる…かなり前にやられてるなアレは。

ふむ、休憩所か何かだったのかねぇ?


グチャグチャと何かを貪る音が聞こえる…色々と遅すぎたようだ。

死体に群がるモンスターは様々で熊や狼、トカゲやローパーなど…おお、スライム何て初めて見たぞ。


喰われているのは冒険者のようだ。横には体の一部が無い馬も見える…合計5人か?

恐らく護衛クエストを受けて襲われたんだろう、堅牢な馬車がひっくり返っている。


「遅かったようじゃの…全滅か、どうするのじゃ?」

どうするって言ってもねぇ?

斬り散らして進んでもいいが、戦闘音や血の臭いがモンスターの呼び水になりかねんしなぁ…


ここは一度下がって散るのを……ん?


ひっくり返った馬車に人影が見えた。

目の錯覚か?そう思いながらも馬車を注視する。


あ~居るな、ひっくり返って分かりにくいが足が見える2人分位かねぇ?

ハア、面倒な。


「…ルナ、馬車に2人ほど生き残りが居る。どうするよ?ここで戦うと恐らくモンスターを呼んじまうんだよねぇ、山頂に近いし下手したらワイバーンも来る」

そうワイバーンだ、空からの敵はそれだけで脅威なんだよねぇ…

まあ、来ない事もあるだろうがコイツ等全員斬ったら結構な血の匂いだろうし確率は高い。


「イチナが決めよ、我等のリーダーじゃろ?」

「え?リーダー俺なのか?」

その発言に全員から今更何言ってんのコイツという顔で見られた…俺の自覚が無かっただけか?


「…まあ、いいか。気づいちまったしなぁ、見捨てても後味が悪い…斬り散らすぞ」

相手の数は20ほど、そんなに時間も食わんだろ。

しかし、クロハの上での馬上戦闘か…野太刀とは言わんが槍くらい欲しい処だ。


さ、ちゃっちゃと終わらせようかねぇ。


俺はクロハと共に突撃する。

それに続くようにルナ、ソルファそしてサウスが。

アリーナンとアイリンの後衛組の護衛にマキサックとハチカファ、腐敗勇者。

パー子はサウスに跨り吹き矢で戦闘していた。



……何とか間合いの長い得物を手に入れなきゃならんな。


額の片刃剣でウルフを斬り裂き、トカゲを踏みつぶすクロハを見てそう思った。

クロハの白い剣は血で染まるが、土が水を吸うように斬った相手の血を吸いまた綺麗な白色へと戻る…いいなぁ血糊で斬れなくなる事が無い剣かぁ。


一応『一匁時貞』は抜刀してるんだぜ?

でもな、クロハは普通の馬よりデカいバトルホース。

俺の剣の間合いに入るのが熊っぽいモンスター位なんだよ。

刻波?俺にクロハの首を斬り飛ばせと?


その熊の最後の一頭は今ルナの大剣二刀流の前にひれ伏した処だ。


アレか、俺が斬り散らすって言ったらなにも斬れないジンクスでも有るのか?

その位、何もしないで戦闘が終わった…俺のやる気は何処へ持ってけば良いんだ…


次の町に着いたら馬上戦闘用に武器を買う。

そう決めた。


「……泣いても…良いよ?…」

サウスと共にクロハの横に来たパー子…

アホウ、この程度じゃ泣きません、カートスじゃあるまいし。


何気に戦闘では吹き矢が活躍していた、サウスとの相性はいいみたいだ。

サウスもパー子を着けたままの動き方を覚えてきてしまっているようだし…


「……残念…イチナの…目にも…が見たかった…」

それ、鬼の目にも涙の事か?

ひっくり返った馬車を見捨てて無い分、鬼じゃないだろ?俺。


そういや、馬車の中の人はどうなってんのかね?

俺は「お疲れ」とクロハの首を軽く叩いてからクロハから降りて、ひっくり返った馬車へと向かう。


「無事か?返事なり合図なりしてくれんかねぇ?」

俺はひっくり返った馬車の扉をノックしながらそう尋ねてみた。

コレで中の奴が死んでたら骨折り損だな、俺働いてねぇけど。


「みーちゃん!!今度は人語を話すモンスターだよ!?どうしよう!!??」

「……落ち着きなさい、カテボニ。明らかに人です」

…中の人は両方女みたいだな。

しかし、落ち着いてる方の声が何か聞いたことあるんだが?


「……申し訳ないのですが、扉が壊れて中から開けられません。そちらにお願いしても宜しいですか?」

「あいよ、ちいと下がってな」

こちら側も取っ手が無いため、貫き手で扉をブチ抜き引きはがした。


「みーちゃんコイツ乱暴だ!さっさと馬車奪ってトンズラしよう!?」

騒がしく出て来たのは身長190cm以上ある大女。

言葉遣いは子供っぽいが、出るとこは出て、引っ込む処は引っ込んでいるナイスバディって奴だな。

軽装に大剣そして『首輪』か…聞いてはいたがこれが奴隷って奴かね?

此処まで騒がしいのは要らないが。


「……カテボニ、落ち着きなさい。勝てる相手では有りませんよ、今の技だって相当な物です」

いや、ただの貫き手なんだがねぇ…


次いで降りて来たのは……は?


「……あ…やほー…まい・しすたー…」

ああ、だろうな…髪型と表情が有る事を除けば声すら同じだ…双子か?


「……あら、お姉さま。諜報部からの報告では置いて来たとの事でしたが大丈夫でしたか?お姉さまの事ですから、全く心配してませんでしたけど」

……パー子の顔で行儀良く喋られると違和感が…いやこっちの都合なんだけども。

ちなみに髪型はサラサラロングヘヤーに服は何故か『巫女服』だ。


「……失礼、申し遅れました。(わたくし)、パレサートの予知巫女をしております。フミーニャ・パニャックと申すものです。よろしくお願いしますね、『甘坂一南』様」

うっわぁ…面倒臭い。

いったい何のためにとか、色々あるが取り合えず気になることは…


「というか何で予知巫女がこんな処に居るんだよ…そして何でパー子の妹なんだ、ガナはすんなり置いて行ったぞ?ソイツの事」

もしかしてパー子、割と重要なポジションなんじゃねぇの?


「……何故いるかは貴方に会いに来たからですよ、私の予知を狂わせる貴方に…スタンピードの時も、オークの時も以前見た予知と貴方が関わり見えなくなった後では結果がまるで違うのです。その為興味が沸いたのですよ貴方にこうしてあって見ると、予知がまるで効かないのが驚きです…直接会えば多少は見えるかと思ったんですが。まあ、私が出て来たことを知って居る者は居ませんが…」


おい、予知巫女そこは知らせて来ようぜ?…確実に面倒臭くなる事間違いなしだぞ?

しかし、こっそり出て来たから、護衛が冒険者だけだったのか…あと、あの喧しい奴隷もかねぇ?


「いる理由は分かりたくないが、分かった…俺は未来云々はどうでもいいんだよ。そっちよりパー子が何で置いて行かれたのかの方が知りたいんだが?」


未来なんぞ知って何が面白いのか、俺1人の行動程度で変わる予知なんぞ占いと変わらんだろうに。


「……変わった人ですね、お姉さまがここに置いて行かれた理由ですか…私は予知巫女と言っても市井の出で偶々この力が有っただけですし、ほとんど表には出ませんので、知っているのは王族と勇者様…あと家族くらいですか?」

一般人から宮仕えとはねぇ…俺だったら御免だな。


「……ですから諜報部がお姉さまを置いて来たと聞いた時は驚いて飛び上がりましたよ。まあ、お姉さまは昔からどこまで見ても老衰以外に死ぬ未来が無い人でしたから…きっとこっちでも、まい・ぺーすにやっていると思っていましたから心配はしていませんでしたが」


ああ、俺もパー子が死ぬ処を想像できん。


「……私最強?…あいむ…うぃなー…」

そうか、昔からコレなのか…大変だったなぁ妹さんも。


俺がパー子に微妙な視線を送っていると空に『影』が差した。


「イチナさん!!上です!!」

ソルファの声に従い空を見上げる。


「……喜び…爆発…かむひあ…」

は?何言ってん…

「キシャァアアアァアァァ!!!」


おおぅ!?うるせぇな!…ってワイバーンかよ!?

ワイバーンが目の前に降り立とうとしていた。


「あ、みーちゃんおっきなトカゲだね?飛んでるよ」

「……ええ、そうね。私鱗が駄目なの」

この状況で何の話だ!?…イカンな、冷静に行こう。


血の匂いに引かれたか、俺達自体を餌と認識したのかは分からんが確実に俺と後ろの二人を狙っている。


他のメンツはどうだ?…駄目か。

さっきのワイバーンの雄叫びが呼び水になって足の速いモンスター達が集まって来ていた。

ソレの迎撃をしながらコッチにも注意を払うのはルナくらいか。


クロハは俺の元に来ようとしているが、モンスターが次々に乗り手の居ないクロハに襲い掛かり邪魔をする。


俺の後ろには予知巫女と大女か…早々にケリを着けようかねぇ。


「黄助、出ろ。お前はクロハと共闘してくれ」

「がぅ」

鞭を使いリュックから飛び出す黄助。

魔石をバックルにはめ込み、黄助は直地と同時に変身してクロハの方へと駆け出した。


「キシャアアアァアァァァアア!!!」


俺は殺気を放ちながら刻波に手を掛け、鞘の内側と刀身を魔力で覆う。


「うるせぇ、吼えるな…俺のやる気のぶつけ所だ、丁重に屠ってやるよ」

更に氣で刀身を覆い、抜刀の届く間合いまで踏み込む。


空居合を応用して、刻波での武技を使わない最速の一刀。


氣の爆発と共に一閃、一太刀で右の翼を切り落とす。

飛ばれると面倒だからねぇ…


そのまま、魔力を足に氣と共にため。

『剛脚』を放つ、インパクトの瞬間に氣の爆発を叩き込み吹き飛ばした。

取り敢えずコレで距離は置けたか。


「うっわー…みーちゃん、あの乱暴者滅茶苦茶ですよ…トカゲ虐待だ」

「……そうね、もっとやれば良いと思うわ。私鱗が駄目なの」


予知巫女の口調が違う…近しい人と他人を分けるタイプかねぇ?

ただテンパってるだけかもしれんが…あと鱗が駄目なのはさっきも聞いた。


まあ、顔がパー子だから違和感しかないんだが。


「キュルルルルル…」

鳴きながら顔を上に向けるワイバーン…これ見たこと有る、ブレスだろ?

ブレスを吐かせる訳にはいかないんだよ、後ろに2人居るからな。

足に多少の魔力と氣を纏わせて、踏込と同時に氣を爆発させ一瞬でワイバーンの懐に入る。


甘坂流移動術『空転(からころび)』とでも名付けようかねぇ。

まあ、もうちょい調整しなきゃならんが。


ワイバーンがブレスを吐くため頭を下げた瞬間を狙い。

口を開く前に氣を込めた拳で顎を跳ね上げる。


強制的に上を向かせられ、ワイバーンは空に向かってブレスを放つ。

放たれたブレスは風を収束したもので、まるで小規模の竜巻のようだった…あぶねぇ、風は流石に防げんぞ。


最初に翼を斬って置いて良かった、空中からアレを撃たれると回避するしか無いからねぇ…


ま、折角の至近距離だ、止めと行こうか。


刻波に氣と魔力を纏わせる、ただし刀身にはアンドレイの魔力で水飛沫(みずしぶき)と弾丸をイメージしたイメージ魔法を乗せる。


「甘坂流『散水隼刀(さんすいしゅんとう)』…逝っとけ」

ワイバーンは俺に噛み付こうと口を開くが、遅い。

氣の爆発での最速の一刀の上をイメージ魔法が滑り放たれる。


刻波の斬撃と共にイメージした水飛沫と弾丸が重なり水の散弾となってワイバーンに叩き込まれた。


「キシャアァァァ……」

最後に鳴いて地に伏せるワイバーン。

斬撃の周りにまるで散弾銃で撃たれたような跡がある…無残。


まあ、こんなもんかね?

ルナ達も終わったようだし…予知巫女どうすっかなぁ。


俺が悩んでいると、黄助、サウス、クロハの3匹がワイバーンの前で立ち止まる…食いたいのか?というかクロハは喰えるのか?


俺が許可を出すとサウスと黄助は齧り付き、クロハは(おもむろ)にワイバーンに額の剣を突きたてる。

ああ、なるほど、斬った血が消えたのは吸収してたのか…


ついでに白もいっとくか。

リュックから白をだし地面に置く、まあ強制するもんでも無いし行きたきゃ行くだろ。


「み~…」

フラフラと千鳥足でワイバーンに向かう白…俺が無茶しすぎて酔ったか?すまん。

取り敢えず白から視線を外し、振り返って予知巫女に話しかける。


「俺等はこれからパレサートにもよる予定だがどうする?シェルパに行くなら送ってやらんことも無いが、護衛として金取るぞ」

まあ、お忍びで出て来てしかも、顔を知られてない人間だ。

外交って事は無いからな、恐らくこのまま帰るだろうがねぇ。


「みーちゃん、結局何で出て来たの?取り敢えずついて来たけど目的って何?」

俺達、散々話してたよな、聞いて無かったのか?

コイツも中々に残念な奴だなぁ。


「……カテボニ……まあ、いいでしょう。もし、御迷惑でなければパレサートまで送って貰いたいのですが、お願いできますか?」

ま、そうなるわな。


「あいよ、了解だ」

俺はそう告げて煙草を取り出し火を着ける。

さて、白を回収しに行きますか。


「……フミー…出戻り?…流石だね…」

白を回収しようと振り返った先に、いつの間にかサウスに跨ったパー子が居た。

サウスの足音が聞こえなかったんだが?


お?サウス久しぶりに階位が上がったか。


「ガウッ!」

サウスの色は白くなっており、前足の先と後ろ足の太もも部分、それに、頬から首にかけてタトゥーを思わせるような緑色の不思議な紋様が入っていた…男前度が上がったな、より精悍になった。


「……出戻りじゃありません、意味が違います」

予知巫女はサウスをじっと見ている…こいつもサウラー化するのか?


「……まさか『ラピッドウルフ』?でも、体の紋様は魔法紋…ラピッドウルフの亜種かしら?」

まず『ラピッドウルフ』を知らねぇ。

後、魔法紋って何ですかねぇ?


後でルナ先生にでも聞いてみようかねぇ。


「……サウスは…しゅばっと動く…乗ってるのが大変…」

なら、降りろ。

「……のん…しがみ付けば…もーまんたい…」

そう言ってサウスにガバチョと抱き着き動かなくなるパー子だった。


…まあ、取りあえず白を回収に行くか。

パー子にしがみ付かれているサウスを一撫でして、ワイバーンの死骸のある場所へと向かう。

後ろから予知巫女と残念奴隷が付いて来た。



「満足したか?クロハ」

ブルルルルと剣を引き抜き満足げだ。

ふむ、全体的に体が絞られたか?細くなったわけじゃ無い、筋肉が圧縮された感じだ。

体の大きさは変わらないが、より力強さを増した気がするな。


黄助は…あれ?お腹、オッキクナッテルンデスケド…


「え?転生?いや、まだ早いだろ?お前子虎だぞ?「ケフッ」…ああ、食い過ぎただけか、吃驚しただろうが。美味かったか?」


「がぅ」

多少苦しそうにだが、何時もの短い落ち着いた声で答える黄助…黄助がそこまで夢中になって食べるとは、よほど口に合ったみたいだねぇ。


「さて、白は…「み!」ん?」

探すまでも無く足元に居た。

肩甲骨のあたりから白い毛に覆われた10cmほどの蝙蝠の羽のようなものを生やして…


お?羽を動かしてないのに白の体が浮いてる?

白の体は地面から30cmほど浮いていた、どうやら羽を起点に浮力が生じているようだ。


凄いけどなぁ……まるで自分の羽に猫持ちされてるみたいだぞ?

白の体は重力に逆らえず、ぷらーんと羽にぶら下げられていた。


白は一度羽ばたくとそれだけで俺の腰あたりまで上がって来た。

2、3回繰り返し俺の左肩に乗る…まさか白が空を飛ぶ?ことになるとは。

テン辺りが悔しがりそうだ。


フンスッ!と鼻を鳴らす白、苦笑しながら右手でコショコショと撫でてやった。



皆も集まって来たので「うはっ!巫女服じゃん!!まさかコスプレイヤーなのあなた、く~!魔人幼女伝あかりの衣装とか…」

「黙れ、腐敗勇者。脳味噌潰すぞ」

思わず殺気付きで言ってしまった…しまったアイリンに怖がられてる、反省せねば。


「あ~…取り敢えずこの二人がパレサートまで同行することになった、予知巫女と残念奴隷だ」

簡潔に説明してみる。


「……予知巫女のフミーニャ・パニャックです。お姉さまが何時もお世話になっております。こっちは私の奴隷で世話役兼、護衛のカテボニです。短い間ですがよろしくお願いいたします」

フミーニャは巫女服の裾を持って軽くお辞儀をした…これがドレスなら決まったんだろうがなぁ。


「ねえ、みーちゃん。私達こいつ等と行くの?戻らないの?パパさんとママさん心配してるよ?」

「パレサートまで行くって言ってんだろうが、話聞けよ。あと、お前が話しかけてんのはパークファだ」

俺は思わずつっこむ…何で不思議そうな顔してんだよ、お前は。

予知巫女はお前の隣に居るのに、何で態々サウスに顔埋めたパー子に話しかけた?


「……駄目ですよ、甘坂様。カテボニ相手にいちいち反応していたら身が持ちませんから」

みたいだねぇ、こんなんで世話役なんてできるのか心配だよ。

体はデカいが頭は幼児並みで天然か…どうやって生きて来たのか気になるな。


それぞれ自己紹介を終えさっさとパレサートへと向かう事にする。

この血生臭い広場でのんびりしてたら、またモンスターに襲われかねん。


俺はお腹の丸い黄助と、羽に猫持ちされて飛びまわる白を捕まえリュックに入れ……

黄助食い過ぎだ、腹が邪魔で入らねぇだろうが。

白は羽仕舞え、何となく気にいってんのは分かるけど。


申し訳無さそうに鳴く黄助と頑なに羽を広げて、仕舞う気配のない白。


仕方なく白と黄助をそのままクロハに乗せる。

俺の足の間に黄助、黄助の前に白だ。

白が勝手に飛ばないように黄助が白の胴体に鞭を巻きつけている。


ちなみにテンはマキサックと馬車の中だ、馬車に入るまで白を見て悔しそうにマキサックの頭皮を突きまくっていた…禿げるなよマキサック…


予知巫女と残念奴隷が馬車に乗るのを確認する。


「さて、行こうか」

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