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猫守紀行  作者: ミスター
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出発

面倒な一日を終えた俺達は、宿に戻り疲れを癒した。

今日はもう動きたくない。

昨日の報酬もたっぷり貰ったしオークキングの退治報酬とオークの換金はまだだが、転移方陣破壊と魔族を引かせた事にその場で報酬が出たのだ。

丸金貨1枚だぞ?正直どこで使っていいか分からない、まずお釣りが無いだろ。


白とテンと一緒にベッドでゴロゴロしていると、ノックが聞こえた。


「イッチー…お客さんだよ、食堂で待ってるよ」

元気のないルニの声、そのまま足音は遠ざかって行く。

お客ねぇ…誰だよ一体。

そんな事を考えながら準備しテンを頭に乗せ、白を抱く。


まあ、行ってみりゃ分かるだろ。



「お、来おったか、遅いぞイチナよ」

ああ、おはようルナ。


「遅いわ!!何時まで白たんを監禁して置くつもりなの!!」

黙っとけ残念娘。


「もう、待ったと言っても5分くらいじゃないですか。お早うごさいますイチナさん」

おはようねぇソルファ。


「……ぐんも…にん…さー…」

はい、おはよう。


「チナさんは寝坊助っすね!!」

満面の笑顔で言うんじゃねえ、殴りたくなるだろうが。


「俺様王子×筋肉……行ける!!」

何処にだ…ぶち殺すぞテメェ


「あの、これからよろしくお願いします!」

ああ、うん。よろしくねぇ…


ん?


「何で腐敗勇者とアイリンが此処に?…あ~そうか、もう合流なのか…アイリンだけなら良かったのに」

それだとただの旅行だが、全く問題無いな。

なるほど、ルニに元気が無かったのはこのせいか。


「イチナそれじゃと意味は無いんじゃよ?まあ、分からんでもないがの…」

まさかルナに肯定されるとは思わなかった…


「まさか、すぐ出発か?」

ガルレンズのおっさんにもまだ挨拶してねぇんだが…


「えと、この後勇者様と私はパレードに出てその後町の外で合流という形になるそうです。私の護衛のイチナさんにも出席してもらいたいんですけど…駄目ですか?」

流石に駄目とは言えんだろうよ…本当は言いたいがな。

結局直ぐ出発と変わらねぇなぁ…まあ、仕方ねぇか。


「あいよ、了解だ…ソルファすまんがガルレンズのおっさんに世話になったと伝えてくれるか?」

ソルファに伝言役を頼むのは心苦しいんだか…


「大丈夫ですよ、ガルさんならお城に居る筈ですから。バトルホースの戦馬具(いくさばぐ)を作れるのは王都じゃガルさんくらいですし、駆り出されているはずですよ…バトルホース、楽しみですね!!」

嬉しそうだな、ソルファは。

しかし何だ戦馬具って、(あぶみ)くらいしか思い浮かべれないんだが?

まあ、城に居るならそれでいいか。


「それなら、行ってみますかねぇ…」


「なら、さっさと行くぞ。姫様…城に着くまでは私が護衛です、任務を全うさせて下さい」

居たのかマーミナ。

「もちろんよ!マーミナ…お城までお願いしますね」

マーミナの目は充血し隈も出来て、泣き腫らした後もある…

コイツの後に護衛の任を引き継ぐのは重いねぇ…


俺、アイリン、マーミナ、腐敗勇者と甘坂アニマルズは城に向かい歩き出したのだった。

パー子?置いて来たに決まってんだろうが。




城に着いた俺達はまず、メイド部隊によって着替えさせられた…白達も動物用のベストを着せられている。

白達はパレードまでアイリンと一緒に居るようだ。


俺にいたっては礼服に何時もの防具を付けているため微妙な出来だ。

パレードまでまだ時間が有るらしく俺は変態達(王様達)に挨拶してからガルレンズのおっさんを探す。



「へぇ、これがバトルホースか…良い馬だな」

中庭でバトルホースに鎧を着せているおっさんを発見したが、思わず馬に目が行った。

普通の馬の1.5倍ほどの体で、体つきはどちらかというとサラブレッドに近い。

毛色は黒、栗毛、白、灰色と様々だが、どの馬も額から白い『剣』が生えていた。

短剣サイズの者もいれば、三つ又に分かれたものも居る…ファンタジーだねぇ。


おっさんは黒いバトルホースに鎧を着せようとしているが、気性が荒いのか暴れて近づけないでいる。


「手伝うか?おっさん。大人しくさせればいいんだろ?」

と言ってもこの黒いバトルホース、本当にテイムされてるのかが怪しいくらい闘争心の塊だ。


……殺気でも叩きつけてみるか?


「おお!イチナじゃねえか!!良かったぜ出てく前に会えてよ、オメエに餞別があるんだよ。まあ、これが終わったらだな……数そろえるために未調教のバトルホースまで持ち出してきやがって。おら、イチナ!さっさとやれ!!あとコイツだけなんだよ」


本当に未調教かよ…そんなんパレードにゃ出せんだろうが、もしかして俺等に渡すための物か?


「ヒヒィーン!!」

(いなな)き後ろ足で地面を蹴る黒いバトルホース。

俺に額の片刃剣を向け戦闘態勢を取り始める…コイツの剣は片刃だが刀よりも2倍ほどの太さが有る直剣だ。


ふむ、俺とやろうと?


「喧嘩腰は良くないねぇ…冷静に行こうや」

そう言って黒いバトルホースに殺気を叩きつけながら、ゆっくりと向かって行く。

俺も喧嘩腰だって?気にしたら負けだ。


俺の殺気に当てられ一瞬動きが止まった黒いバトルホースだったが、次の瞬間には走りだし俺を剣で貫こうと突進して来た。


ふむ、中々ガッツのある奴じゃないか。


剣を避け、首を掴んでそのまま跳躍。

手綱も無い、鐙も無いそんな状態でロデオする事になった。


俺を振り落とそうと暴れる黒いバトルホース。


「よっ、ほっ、ほれどうしたその程度じゃ落ちねぇぞ?」

手綱の代わりに(たてがみ)を握り、足でバランスを取りながら暴れ馬に乗り続ける。

しばらくして諦めたのか、大人しくなった黒いバトルホース。

もう大丈夫か、と思いその背から降り正面に回り顔を撫でてやる。


すると俺をジッと見て(こうべ)を垂れ、白い片刃剣を地面につける。

…何か黄助の時と被るんだが?


「おい、イチナよぉ…何で未調教のバトルホースを屈服させてんだよ。もうオメエしか乗れねえぞ。コイツ、オメエを主と認めちまってやがる」


「は?別に魔力を持ってかれて無いんだが?」

契約した訳じゃ無いだろうに、なんでそうなる。


「……何でだよ!?あ~、オメエ確か契約モンスター持ってたな。だからコイツと契約する魔力が残ってねえのか…ならコレは契約じゃねえ、コイツが認めたってだけだ」


うるせぇよ、自前の魔力が少ねぇんだから仕方ないだろうが。


「本来バトルホースはテイムしねえと契約した相手以外乗せねえんだ。テイムはしてあるって聞いてたから問題ねえと思ったんだがな…まさか捕まえただけとは思わなかったぜ」


ふむ、面倒臭いな…要は俺の馬になったって事だろ?


「まあ、問題無いだろ。俺等の旅にバトルホースも付けてくれるらしいし、コイツは俺が貰うさ…しっかり装備を整えてもらいな、俺等の旅は少々キツイかも知れんからな」


取り敢えず、名前考えとくか。


「ブルルルッ」

俺の言葉を聞いて自分からガルレンズの方へと歩き出す…一気に聞き訳が良くなったな。



おっさんの作業が終わるのを待ちながら、煙草を一服。

紫煙が空に上がるのを見ながら「パレード出たくねぇなぁ」と呟いた。


「アホか、テメエで了承したもんをグチグチぬかすな……ほらよ、餞別だ」

おっさんが何かが入った包みを投げて寄越す。


「ん?作業は終わったのか?」

おう。とおっさんの返事を聞きながら投げて寄こされた雑な包みを掴んだ。


さて、あのバトルホースはどうなったのかねぇ…そう思い視線をバトルホースに向ける。


首の下、体前面に足の動きを阻害しないように削られた盾を着け、体の横は矢から守れる様にチェインクロスが下がっている顔は額から鼻にかけ剣を避けるように防具が付けられていた。

全てが光沢の無い銀色…恐らくミスリルだろうねぇ、金かかってんなぁ。


「おっさんもアイリンに上目遣いで駄目ですかとか言われてみ?断れんぞ、アレは」

しかし軽いな何が入ってんだ?


雑に梱包された包みを破き中身を取り出す。

ソレは新品の胸当てだった、何かコレ今付けてる奴より軽いんですけど?


色は光沢の無い銀、(ふち)を何かの木で補強してあり、裏は黒地に幾何学模様の魔法陣と中央に平たい大きめの赤い宝石が埋め込まれていた…何これ高そう。


「知り合いの魔道士とドワーフの装具屋に手伝ってもらった傑作だぜ?『鉄の加護』レベル5の頑強付きのミスリルに、縁は魔防エンチャントを付けた魔国から密輸した樹齢300年のダンシングウッド、裏にはブースターと魔法補助の魔法陣付きだ!!どうよ!!こんな装備俺しか作れねえんじゃねえか?」

ガハハハハハ!と豪快に笑うおっさん。


そんな装備を俺に渡すなよ…餞別のレベルを超えてんぞ?

あと密輸って何?というか魔国は樹齢300年の大木が踊ってるのか?…嫌すぎるな。


「おい、アホウ。何てもん餞別にしてんだよ、詰め込みすぎだろコレ…ブースターは有難いが胸当てにして効果が有るものなのか?」

まあ、くれるなら貰うし返さないがな。


「おう、その辺はお墨付きを貰ってあるから大丈夫だ。かなりデカい器のブースターだから旅の助けになるんじゃねえか?」

そっぽを向いて頬を掻くおっさん…照れるなよ、引いちゃうぞ?


「あとな、それの名前は『守補銀(しゅほぎん)の胸当て』だ…くそっジャンケンで負けなけりゃ俺が付けられたのによ…」

なるほど今回はまともだと思ったらおっさんが付けたんじゃないのか。


まあ、あのワンコロとの戦闘で『浮き牛の皮の胸当て』もガタが来てたしちょうどいい。

おっさんに会ったら餞別に胸当て寄越せって言うつもりだったし。


……まあ、ここまでの物は望んでいなかったが。


「じゃあ、有難く戴くぞ?」

そう言って今付けている胸当てを外し『守補銀の胸当て』を着ける。

おっさんがサイズの調整をしてくれてしっくり来た処でオカマが来た。


「ガルちゃん手伝いに来たわよん…あら、イチナちゃんこんな所に居たの?アイナクリン様と勇者様はそろそろパレード用の馬車に向かわれる頃よ?」


マジか。


「もうちょっと早く来い。使えん奴め」

取り敢えず罵倒しておく。

酷いわっ!と言うオカマは放って置いて、アイリン達に合流する前にバトルホースに名前を付けんとな。


俺は黒いバトルホースの前に行き顔を撫でながら名を告げる。


「お前はクロハ、黒に刃で黒刃だ。これからよろしくな」

名前は色と額の剣からです、安直だがそれでいい。


「ちょっとガルちゃん…あの仔ダメもとで連れて来た仔じゃ無かったかしら?何であんなに大人しいの?」

「ああ?そりゃオメエ、イチナが屈服させちまったからに決まってんだろうが。じゃなきゃこの場で名前なんて与えねえだろうが」


「…流石イチナちゃん、やることが理不尽ね」

「聞こえてんぞ、何が理不尽だ。テイム以外はコレしか無いんじゃねぇのかよ?」

何か問題でもあるのか?


「今時そんなことしてまでバトルホースに乗ろうとする奴なんていないわよ。テイマーや奴隷商に言えばバトルホースだって買えるわ、もの凄く高いけどね。50年前の魔王討伐戦で活躍した戦騎兵も今じゃおじいちゃんだし…でも憧れはあるのよね勇敢なバトルホースと共に戦場を駆る…今の戦騎兵や騎兵の間じゃ50年前の戦騎兵の話は語り草よ」


だからソルファのあの反応か…親父から聞かされたって言ってたしなぁ。


「っと、んな事してる場合じゃ無かったな。クロハまた後でな」

最後に一撫でしてパレード用の馬車に向かう。

何処にあるか知らないのでオカマに案内させながら走るのだった。



俺がパレード用の馬車に着く頃にはすっかりパレードの準備が整っていた…周りの視線が痛い…


「おそーい!ギリギリじゃん、およ?…なるほどお楽しみだったのね、なら仕方ないわ」

俺がオカマと?お前脳みそ腐ってんじゃねぇか?…ああ、腐敗してたなすまん。


「すまんなアイリン。ガルレンズのおっさんと話し込んじまった」

腐敗勇者は無視してアイリンに謝る。


「お楽しみ?…え?あ、間に合いましたし問題ないですよ」

うむ、是非とも毒されずに、このまま大きくなって欲しい。


「あの~、そろそろ出発したいんですけど~」

「誰だお前?」

ん~、御者役の兵か?それにしてはヒョロイ。


歳は15前後、髪は青で瞳はキツネ目で分からん。

見た目はお嬢様みたいだが兵士の格好をしている。

ロングの髪を緩くカールさせ、兵士とは思えん細腕だ。

ウエストが異常に細い…飯食ってんのかコイツ?


「申し遅れました~私はハチカファ・ジャマイックです~。姫の身の回りの世話や御者をすることになりました~よろしくお願いしますね~?」


え?タダでさえ男女比率おかしいのにまだ増えるのか?

それならマーミナが来ればいいんじゃねぇのか?


「近衛黒金隊からの出向という形になりますから~裏方仕事は任せてください~」

ああ、オカマの部隊の……居たか?こんなの?

まあ、いい…何かバーマックのおっさんから殺気が飛んでるし、取り敢えず出発しようか。


「ああ、よろしく。出してくれ」

「はい~」と返事しながら馬車を出す。

周りには各近衛騎士隊の隊長が付き、前を白い礼服を着て槍を掲げ兵士たちが整列して歩いている。

後ろには盾を掲げた兵士と旗を持った兵士が付いて来ていた。




沿道に手を振るアイリン、パレードを見に来た人たちで掛け算してる腐敗勇者。


そして頻繁に聞こえる「白たんこっち向いて~!」や「不動の黄助やべえ!持ち帰りたい」「キョトンとしたサウス様も素敵…」「テンたま俺の頭にも!!」など一緒に乗った家の仔への声援…なのかねぇあれ?異常なほど多かったが。


俺への声援?呪詛なら聞こえたがな。


これも全てアリーナンのなんちゃって宗教のせいだろう。

まあ、このシェルパを出れば関係ない…と良いなぁ。



何で俺が一緒に乗る必要が有ったのか今一分からんパレードが終わり、俺達はそのまま町の外へ…旅立ちの時である。



町の外に出ると近くに見慣れない大きめの馬車と見慣れた仲間が居た…クロハも居るな。

アイリンと腐敗勇者はハチカファを連れさっさと馬車に乗り込んでしまった。


「イチナよ、パレードは楽しかったかの?」

「見る方が楽しいなアレは、面倒な事この上ねぇよ」

ルナは額から短剣が生えた茶色いバトルホースに跨りクフフッと笑っている。


「……へい…サウス…かもーん…」

そう言いながらサウスににじり寄るパー子…お前何被ってんの?


「……弟子…ぷれぜんつ…まい頭巾…まだまだ甘い…」

厳しいなお前。


しかし、どう見てもカラフルな『防災頭巾』にしか見えない。

前を閉じているためパー子が戦災孤児に見える。


そうか…マルニは頭巾を完成させたのか、色的に三大封じっぽいが。

色は赤、黄、緑でまだらに編んである…編んであると言うより急いで形にした感があるな。

端の方は綺麗に編んであって(ほつ)れる心配はなさそうだ、恐らくカートスも手伝ったんだろう。

もちろん色は、あの場にあった毛玉と同じである。

小さく『シショー』と刺繍してある…流石弟子、名前くらい入れような。


パー子がサウスに抱き着くのを見てから視線を外す。


「フフフッ僕のバトルホースかぁ…あ!名前どうしようか?君は何が良い?」

嬉しさのあまりテンションが振り切れ、額から偃月刀(えんげつとう)の様な剣が生えた白いバトルホースに名前を聞く始末…それじゃ永遠に決まらんぞ?


近寄ってきたクロハを撫でながらザックリと見渡す。

マキサックは暇だったのか腹筋をしている。


…?

アリーナンは何処だ?

あ、居た…馬車の横に付いた扉の窓にべったりと張り付いて居た…こえぇな、放置しよう。


「そろそろ出発しないと~町に着けませんよ~?」

ハチカファから催促が来たし行こうかねぇ…


「マキサック!行くぞ!ソルファも名前は乗りながら決めろ。クロハ、コイツ等も同乗するが勘弁な?」

クロハの頷きと共に白と黄助の入ったリュックを背負い、その背へと乗る…鐙が付き手綱もある、むしろ俺よりクロハの方が重装備だ。


「んじゃ、出発と行こうか」

さて、旅の始まりだ。

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