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猫守紀行  作者: ミスター
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長い一日 -わんと吠えれば-

「っと、着いたか…」

俺達が戻った時、最終境界はすでに前線基地に変わっていた。


…軍も出てきてるか、流石に規模がデカいからな。

さて、ルナ達は何処に居るかねぇ?

もうオークの群に突っ込んで行ったのか?


「イチナくん、私は勇者様を連れて指揮官の居る天幕に行くがどうする?」

俺も同行しようと言おうとした時、遠くで遠吠えが聞こえた…サウスか!


「すまんね、行くとこが出来た…黄助、分かるか?」

子虎に戻っている黄助は「がぅ」と頷きを返した。


「俺は先に群にカチコミ掛けてくる。そっちはまあ、好きにやってくれ…行くぞ黄助、案内頼む」

俺はバックルに魔石を入れ、白をリュックのポケットから黄助の入っていた場所へと移し、黄助と共に走り出した。




うぜぇ…何がってオークがだ。

オーク自体は大したことは無いが、如何せん数が多い。

目的の場所まで行きつくのに何体斬れば良いんだか…邪魔くせぇ。


ん?魔法陣か?

空中に巨大な魔法陣が浮かび上がったと思ったら、次の瞬間巨大な白がボディプレスを群に向かってかましていた…ああ、アリーナンか。


流石、無駄にクオリティが高い。


「ガルッ!?」初めて聞いた黄助の驚きの声だった。


……取り敢えず行ってみようか。



「はあああっ!!」

目に入って来たのは、群がるオーク相手にハルバードと『黒い刀身の剣』を使い無双をするソルファの姿だった。


ハルバードとロングソードの二刀流って初めて見たよ俺。

直し終えてピカピカだったフルプレートはオークの返り血で汚れている…

横にはギルド見た魔道士がソルファの援護をしていた。

他にも奮戦している兵士やギルドメンバーもちらほら…


アリーナン?さっきの巨大白でやり切ったのか、後ろで旗を振っている…援護しろよ。


「……黄助、片づけるぞ」

アリーナンに気力を奪われながらのお仕事であった。




「よう、無事で何より…現状は?」

「白たん!?白たんは何処に居るの!!まさか置いて来たんじゃないでしょうね…私の傑作『ビッグ白たん・ダイビング』を見せてあげたかったのに!!」


……フゥ。


「少し黙ってような?で、状況はどうなんだ?」

白はリュックに居るが、興奮したお前には見せん。


「あ、はい。転移方陣を使っているのは明らかなので先にそれを壊そうという事に成りまして…テイムモンスターを持つ冒険者や遠見の加護を持つ者が率先して探してます。サウスもパークファと一緒に先行して探しに行ってますよ、先ほど遠吠えが聞こえたので見つけたんだとは思いますが…」


パー子かぁ…サウスの足手まといに成ってんじゃねぇだろうな?


「そういや、テンはどうしたよ?…マキサックとルナも居ないな」

「えーと…テンはマキサックが「見取り稽古っす!」って言って連れて行っちゃいましたね。ファルナークさんは一度戦況を確認してくると戻られました…会いませんでしたか?」

ルナとは入れ違いか。

しかし、相変わらず、どこに向かっているのか分からないな…あのプロレスラーは。


「心配だなぁ…」

「心配ですね…」

ソルファ達は此処に中間拠点を築くために居たそうだ。

まだ、オークが残っているのに離れられないらしい…まあ、しゃーないか。

ソルファにルナが戻ってきたらテンの確保を頼むと伝言を伝え、別れる。


サウスが気になるし、ちょっと急いで行ってみようか。

俺は黄助と共に再び走り出すのだった。




少し前に遡りサウスとパークファを見てみよう。


「……はいよー…サウス…ごーごー…」

パークファはサウスにしがみ付きながら、走るサウスをサワサワと触っていた。


「…ガウゥ……!…ガウッ!!」

転移方陣を探し森を駆けるサウスの前にオークが立ち塞がる、が一体だけでは相手に成らず風の刃で刻まれ息絶えるのだった。


「……立ち塞がるなら…相手になるぜ…あいるびーばっく…」

もう息絶えたオークに向かい呟くパークファ、その間もサウスを撫でる手は止まることは無かった。


そんな事をしている間にもオークは次々に集まって来る。


「……オークが…多く…山田、ざぶとん持ってけ…」

ざっと50は居るオークに向かって、のたまうパークファ。

危機感ゼロである。


「グルルル…ガオンッ!!!」

サウスが一際大きな風のイメージ魔法を使う。

風読みの糸で作られた『サウスマフラー1号』が威力を底上げし、オーク共に叩きつけられた。

巨大な風の刃が横一線に飛びオーク共を斬り刻んでいく。


「……では…私も…風遁『かまいたち』…」

上体を起こして印を組むパークファ、たまに首を傾げているのが流石である。


パークファが使うのは、術式簡略の意味を持つ印を組むことで繰り出される遁術式。

決まった印を組む事で初めて本来の威力を出せるのだ。


皆さんお忘れだろうが、パークファは忍者スタイルで一応暗殺者である。

しかし、このパークファ、吹き矢以外戦闘に関してポンコツなのだ。


風遁『かまいたち』は、本来ならば不可視の風で斬り裂く魔法の一種であるが。

パークファのソレは、まさにそよ風であった。

パークファがしている『サウスマフラー2号』で威力が上がっても春一番くらいになった程度である。

モンスター相手に全く意味が無い。


「……うん…満足…サウス…ごー…」

どうやら満足したらしい。

改めてサウスにしがみ付き、出発の意を告げる。


パークファの魔力は平均よりも上だ、イメージ魔法ならすんなり発動するであろうが。

パークファが間違えて印を組んだため、この程度の威力しかない。


まだオークは残っているがパークファを背負ったまま高速戦闘は無理と判断したサウスは、転移方陣捜索に戻るべくその場から離脱した。



しばらく走りながら、捜索していると何人かテイムモンスターを連れた冒険者とも合流した。

「お前等確か『白守』さんの所の…ちょうどいい、怪しい場所を見つけたんだが如何せんオークが多くてな、確認してからじゃないと知らせにも行けないしな」


「……オークが…多くて…二度ネタは…禁止…」

それをネタと捉えるのはパークファと一南くらいである。


「何の事だ?まあ、いい。今、『覗き魔(遠見の加護持ち)』共と鳥系テイムの部隊が確認作業をしている処だ、俺達はソレの邪魔をさせないように護衛をする。お前等にも頼みたいんだがどうだ?」


「……是非…も無し…byのぶりん…」

分かりにくいOKをだすパークファ。


「…大丈夫って事だよな?じゃあ、頼む」

冒険者に付いて行き、護衛に就くサウスとパークファ。

しばらくして、結果が出た。


「間違いない転移方陣だ、ただ…魔族とオークキングが居る」

覗き魔の報告に冒険者達がざわついた。


「取り敢えず報告を…おい!何してる!?」


サウスが空に向かって遠吠えを上げた、白がこの戦場に来たことに気づいたため確実に『居る』と思ったからだ。


「……わんと…吼えれば…『(イチナ)』…がくる…後は待つだけ…」

サウスを代弁して答えるパークファ。

何でわかったのか、相変わらず謎である。


「お前…バカか!?この距離で遠吠えなんて…くっそ!こっちは捜索隊で戦闘が専門じゃないんだぞ!?」

そう言いながらもテイムモンスターを傍らに戦闘準備を進める冒険者達。


「鳥系持ってる奴は(ふみ)飛ばせ!!転移陣発見、援護求むってな!!」

「覗き魔達は敵の把握お願い!ああ、逃げたいわね…オークに捕まるのだけは御免よ」

「トラップもありったけ仕掛けとけ!退路の確保は忘れるな!!」

慌ただしく動く冒険者たち。


それは直ぐにやって来た。

転移方陣の方角からドドドドドドと地鳴りのような足音が聞こえてくる。


「来やがった…覗き魔、接敵のタイミングを教えろ!!一斉に仕掛けて数減らすぞ!くそっ!こんな事なら誘うんじゃなかったよ!」

パークファを誘った事を後悔し始める冒険者。

オークはもうそこまで来ている、やるしかなかった。


「……がんば…ふぁい…とー…」

相変わらずサウスにしがみ付き、緊張感を削ぎ落しにかかるパークファだった。



激戦、まさにその言葉が相応しい。

初手で数を減らし多少の余裕を持てた冒険者たちだったが、あくまで捜索隊。

戦闘に特化しているわけでは無いのだ、倒しても倒しても減らないオークに疲労の色が見えてきた。


「……わん…つー…わん…つー…そこであっぱーだ…」

サウスに跨り吹き矢を吹くだけのパークファに一切の疲労は無い。

サウスにいたっては危なそうな冒険者の援護もこなしながらオークを刻んでいた。


その時オークの動きを見ていた覗き魔(遠見の加護持ち)から報告が入る。


「まずいぞ!このままじゃ囲まれ……あれ?なにコレ?」

「どうした、何か拙いのか!?現状もかなりのもんだが…」

「いや、援軍?が…1人と1匹なんだが、来た」


そう言って見た方向は丁度オークが囲いを展開している場所だった。


ソレはオーク共の囲いを斬り散らし、震えがくるほどの殺気と血風を伴い現れ雄叫びを上げる。


「ウゼェんだよ!この豚共が!!進めねぇだろうが!!」

(イチナ)である。


コホンッ、では一南に視点を戻そう。



あまりの多さ(ウザ)に叫んでしまった…反省だ。

お?サウスが居るな…やっと合流できたか。


「あれ?何でそんな怯えられてるんだよ俺」

俺がサウスの元に向かうため、歩いて行くと。

奮戦していた冒険者達から怯えを含んだ目で見られた。

おかしい、面識はないし、無茶な事(素手で仕留るなど)をしている訳でも無い。


歩きながら襲い掛かってくるオークを斬り倒し、散歩のような足取りでなるべく警戒させないように近づく。


「……存在…が…おかしい…その殺気は…異常…」

なるほど、そこか…いや何で存在そのものを疑われなきゃならんのだ。


しかし存在か…確かにここに来る間に、色々おかしい事はあった。


例えば、ここに来る間中走りっぱなしで息切れしてたのに慣れて(・・・)、今はもう息ひとつ乱してないとか。

重量の加護を入れっぱなしの状態で体が重いのに、それに慣れて(・・・)いつも通り動けるとか…まあ、体はどんどん重くなるんだが。


もう、『慣れ』で済ませるには、ちと難しくなってきた。


原因として考えられるのは異世界に来た事だけだ。

正直、拉致られて来たからあまり関係ないと思ってたんだがな…

本当に異世界特典とかあるのか?正直この『慣れ』は不気味すぎるから知りたい処だ。


「…まあ、いいか。転移方陣を見つけたんだよな?このオークが沸いてくる先か?」

オーク共を斬り散らしながら、ごく普通に問いかける。


「ああ!そこでオークキングと魔族を確認した!…うおっ危な!?」

答えてくれた冒険者はオークの攻撃を紙一重で避けて反撃し倒す。


「もうすぐ援軍が来るぞ!!それまで気張れ!!」

覗き魔から声がかかる。


「流石にコイツ等放置して行く訳にもいかんか…黄助は、冒険者の援護。援軍が来たら転移方陣に向かうぞ」

「ガァオン!」

魔力切れの近い黄助にジョニー改で魔力を補充し、本格的に参戦する。


「み!」

リュックをよじ登って中から鞭白が顔を出した…お前は駄目だからな。

鞭をブンブンと振り回し俺の後頭部ペチペチに当っている。

気合が有るのは結構だが、この乱戦の中お前を放つ気にはなれん。


「すまん、流石に無理だ」

そう言うと「み~…」と鳴いて、気合いっぱいだった鞭はへちょりと垂れてズルズルとリュックの中に戻って行った。


……さて、やろうか。



うむ、ウザったい。


斬っても斬っても沸いてくる。

対してこちらは10人強、テイムモンスターを合わせると30に行くか行かないかといった処だ。サウスと黄助が援護しては居るものの限界が近い。

というかよくここまで持った物だ、素直に凄いと思う。


「来たぞ!!援軍だ!!」

その叫びに、安堵の溜息を漏らすものも居る。


やっとか…


「ぴぴー!!!」

何か聞きなれた鳴き声が…

「アックス…ボンバー!!!」

ポーズを取り溜めた魔力を腕に集めオークの首めがけ突撃。

受けたオークは『崩れ落ちた』…首が斬り落とされてな。


「うっす!『半裸の受け師』マキサック・夢野ただいま参上っす!!」

「ぴぴ、ぴっぴぴー!!」

オークに囲まれながら俺達に向かってサムズアップをかますマキサックと、その頭に乗って片羽を上げるテン…援軍、か?


「これ!マキサック!先行するでない!!」

マキサックを囲っていたオークを蹴散らしルナが登場。

それに続いて冒険者が50人ほど突撃してきた…ああ、これが援軍ね。


「ルナ!あっちはどうなってる?」


「おお、イチナ無事じゃったか。今冒険者の指揮はカートスが出張って来て指揮を執っておるから大丈夫じゃろ、伊達にレイドのリーダーはしとらんよ」

…何か想像できんな。


「そうか、ならここはコイツ等に任せてもいいか?俺は転移方陣の方に行きたいんだが…そういや、どうやって止めればいいんだ?」

うむ、一番大事な事を知らないな俺。


「何簡単じゃよ、陣を崩すなり魔力を流している者を止めるなりすればよい。強力な陣ほど繊細じゃからの、これだけの数を転移させるとなると一部欠けるだけで動かなくなるじゃろ。…早めに頼むぞ?」

そりゃ、簡単だ。


「あいよ…黄助!!サウス!!転移方陣を潰しに行くぞ!!」


「グルガァア!!」

「ガウッ!」「……うぃっす…」

何かパー子がついて来たが…まあ、仕方ない。


さあ、行こうか。


俺達はオークを斬り伏せながら、転移方陣を目指し駆け抜けるのだった。

次回の投稿は活動報告にて予告しますので、よろしくお願いします。


byミスター

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