狩り日和、所により剣術
「うぅ…恥ずかしかったです」
そりゃすまなかったな。
繋いだ手を放したのは、町の外に出る直前だ。
顔を真っ赤にし消え入る声で「あの…そろそろ、放してくだしゃい」と噛みながら言ってきたため解放した。
「すまんな、気づかなかったんだ。もっと早く言ってくれれば良かったのに」
嘘です、ソルファの反応を見て楽しんでました…鬼畜とか言うな。
仕方なかったんだ。
普段の凛々しいソルファからは想像できないような、少女っぷりだったんだから。
現在はモンスターを探して索敵中である。
ソルファは普段のフルプレートアーマーでは無く軽装備に背中にハルバードを背負っている。
「おかしいですね、パーチェックから帰って来るときは群も見かけたんですけど…もう討伐されてしまったんでしょうか?」
「さてねぇ…さっきから見かけるのは、『ハムハミ』ばかりだしなぁ」
一匹持ち上げ観察する。
「プピ~?」
つぶらな瞳に赤色の楕円の体、豚の尻尾に豚の鼻…耳は申し訳程度に付いている。
そして先の割れた鋭い蹄が付いた短い脚。
この蹄、地面に刺さるように下を向いている…意味が分からん。
そんな足で無駄に素早い、そして歩いた後に刺さった後が無い。
そして何より『口』が無い、他のハムハミを見て見ると鼻の下で草を食べているんだが。
そう、どのハムハミにも口が無いのだ。
……何この謎生物。
「イチナさん?どうしたんですか?」
「あぁ、うん…生命の神秘について考えてた…」
コイツ等はどんな進化を遂げてこの姿になったんだろうなぁ…
コレの上位種にガムハミってのが居るらしいが見てみたい気がするな…口は有るんだろうか?
持ち上げていたハムハミを解放してやり索敵に戻る。
……おかしい町の外なのに、ただの散歩と化している。
お弁当でも持ってこれば良かったねぇ…完全にピクニックに成るが。
「あ、イチナさん薬草見つけましたよ!」
うん…よかったねぇ。
笑顔でほらと見せてくるソルファはまるでワンコである。
モンスター狩りに来たんだけどねぇ…俺は。
「…平和だねぇ…」
「そうですね、モンスターが居ないのが気に成りますけど…」
そう言いながら俺達は平原を抜け森に入って行く。
しばらく森の中を歩いていると何か微妙なのが居た。
「コレは…ダンシングウッド?何でこんな所に?」
ダンシングウッド…ああ、確かに踊ってるな…
見た目は普通の木と変わらないが幹の部分がグネグネと動き、葉っぱがガサガサと五月蠅い…隣の木に当たってもお構いなしに踊っていた、ちょっとウザイ。
「…これもモンスターか?」
微妙すぎるんだが…
「いえ、ダンシングウッドは痛覚も無く切っても踊り続けるため、木こりでも倒せるのでモンスターとしては認識されてません…」
何ソレ?コレの存在意義は何なのさ。
「ただ、放って置くと他の木に影響して増えます。魔力を多大に含んだ木なので、魔道士の杖なんかに使われることが多いです。後はエンチャントを掛けて防具の裏地とかですかね…」
結構有用なんだなコレ。
「魔力を意図的に大量に与えたり、魔素の多い土地はダンシングウッドが出来やすいと聞いたことが有ります。ただ増えると魔力が散るらしく最初の一本が肝心らしいです。魔族の国の魔国なんかは全ての木がダンシングウッドらしいですよ…駆除する場合は根っこから掘り返さなきゃいけないんで、早めにギルドやお城に報告した方が良いですね」
何て面倒な…まあ、近くに魔脈が有るから可能性としては自然発生かねぇ…
モンスターが居ないのが、ちと腑に落ちんが。
「もうチョイ奥に行ってみよう、これだけじゃ無いかもしれんしな」
「そうですね」
そう言って俺達は森の奥を目指し歩き始めた。
「………」
ん?何か話声が聞こえるな…ちと、嫌な感じだ。
ソルファに少し離れた所で待つように言って、俺は気配を殺し相手を目視できるギリギリまで接近する。
「おい、ジャン!モンスターを集め終わったぜ!どうするんだ直ぐに攻めるのか?」
ハァ、何でまたこんなトコに居るのかねぇ…
ん~確かジューデだったか?それとジャンも居るのか…あと一人知らない奴がいるな。
3人共ローブで体を覆っているため隻腕のジューデ以外見分けがつかない。
ホント面倒なこって。
「ジューデ、お前はバカか?まだ集めただけで魔石も埋めてないだろう?それにシェルパはもう召喚の儀を済ませている。それならば予定通り、別の王都を狙うべきだ」
ふむ、召喚阻止が目的か…
「それにさぁ、攻めるのは俺等の役目じゃないっしょ?俺等はモンスターを集めるのが仕事、失敗してうちの部隊に回されたんだから言う事聞いてくれないと困るんだけどぉ?さっきチョーシにのってダンシングウッド作ったの誰だっけぇ?見つかったら如何すんのさぁ?…うちの隊長厳しいよその辺」
ダンシングウッドの原因はコイツ等か…
しかし、降格されたのはジューデだけか?まあ、ジャンもだろうな、きっと。
それにしてもイラつく喋り方をする魔族だな。
しかし、3人か…
黄助もサウスも居ない現状で、初っ端から刻波で行っても逃げられる可能性の方がデカいか。
何より未知数が1人居るのがなぁ…取り敢えず下がってソルファに報告した方がよさそうだな。
「しかし、遅いなバムのおっさん…まさか見つかったか?」
何?まだいるのか?…まさか。
嫌な予感がして急いでその場を離れようとした時だった。
「おう、すまんな冒険者に見つかった。殺しても良かったんだか、一応ガナム副隊長の指示を仰ごうと思って持って来た」
肩にソルファを被いた魔族がその場に姿を現した…ジャンが隊長じゃないのか?ああ、降格されたんだったな。
バムがソルファを地面に落とし、指さしながら指示を仰ぐ。
「バム…何をしているんだ、殺してしまえばいいだろう?」
「ちょいちょい、ジャンさん俺が副隊長ね?あんたより偉いのお分かり?…ひひっ!良いこと思いついた!モンスターに生きたまま食わせるってどうよ?」
……殺るか。
カチリとスイッチが入る…体が軽い。
重量の加護を切って置いて正解だったな、手加減が要らん相手だ慣らしも出来る。
俺は気配を殺したまま刻波に手を掛け、バムとか言う魔族に狙いを定める。
キィン…
「全く、そんな時間は無いだろう…何の音だ?」
ジャンがそう呟いた瞬間、指示待ちのバムの動きが止まった。
「すまんな、俺の仲間なんだ返してもらうぞ」
先ず一人、バムの体を蹴り倒す…倒れた衝撃で首が転がる。
「貴様はあの時の!?チッ…相変わらず勘が良い。引くぞ!ジューデ!ガナム!任務を忘れるな!」
相変わらず、冷静な判断だこと…仲間1人殺されて迷わず撤退か。
「だからぁ!俺が副隊長なんだよ!指示すんな!ジューデ、ジャン行け!女だ女を人質にしろ!」
おいおい、喋り方が崩れてきてんぞ?…冷静に行こうや。
「兄貴の仇だ!死ねや!冒険者!」
返り討ちだね、悪いけど。
「チッ!…全く、だか今回はこちらが有利か…死んでもらうぞ冒険者」
この中じゃ、お前が一番面倒そうだな…
「ひひっ!ソコの女共々モンスターの餌にしてやるよぉ!」
喋るな、耳が腐る。
…まあ、確かにお前等の方が有利だろうよ。
「でもなぁ…ソルファは俺の嫁さん予定なんでな、エサになんぞさせねぇよ」
モンスターなんかにゃやれません。
「まぁずは俺からー!『アースバインド』!」
詠唱が無い!?無詠唱って奴か!
ガナムの魔法が足元の地面を盛り上げ、俺の足を捕まえる。
動きが止まった隙に、ジューデが仕掛けてきた。
「おっらぁ!死ねぇ!!」
隻腕で黒い剣を振るい力任せに攻撃してくるジューデを斬レンジャーでいなし、反撃に氣を込めた拳をぶち込み吹き飛ばす。
「………シャドウ・ランサー」
吹き飛ばした処にジャンの魔法が迫る…ちっ、ソルファも狙ってやがる!
「うぉらぁ!」
気合でアースバインドを蹴り破り、ソルファを守るように立ち魔力で覆った刻波で魔法を刻む。
…流石に守りながら魔族3人はキツイか?
「ひひひっ!バムを倒したのはまぐれでちゅか~?手も足も出ねえじゃん?」
ジューデはまだ悶絶してるけどな。
顔が見えんが、ジャンは懐から何かを取り出し確認した…
時計か?戦闘中に時間を気にするねぇ?
そう言えば、ジューデがモンスターを集めたって言ってたが…何処に居るんだ?
しかしまあ…状況把握が出来てないと言うか、周りが見えてないと言うか…
「お目出度いねぇ、お前さん」
俺はソルファに背を向けたまま、気つけ代わりに多少の氣を込めて踵でソルファをこずいて起こす。
「う、あ…え?イチナさん?あ!魔族が居た…え?魔族が3人!?」
うし、起きたか。
「状況は…分からんな?説明は後だ。ソルファを襲った奴は仕留めた。後3人だ、隠れてろ…と言いたい処だが、避ける事に専念しろ」
今別れると、追われる可能性があるからな。
そうなると武器を持ってないソルファじゃどうしようも無い。
「分かりました、武器も無いですし…出来るだけ邪魔にならないようにします」
その辺は分かってるみたいだ、なるべくソルファの方に行かないように殺らねぇとな。
「さて…本気で行くぞ?」
改めて刻波に手を掛け、殺気を放つ。
俺の殺気を受けてジューデが吼えながら突撃してくる。
俺を仇と言っていたが、負けるわけにもいかんのでな…
「斬り散れ…甘坂流『魔刀十字』」
まあ、アレだ。自前の魔力を纏わせた居合を十字に交差させただけの技だ…それっぽいだろ?
キィィン…
「ガァアアア!!」
俺の間合いに入った瞬間その体は刻まれる、が仕留めるには至らない…
ジューデの体が十字に斬れて血が噴き出す。
おかしいねぇ、四散する予定だったんだが…
「何とか間に合ったか…俺の目でも霞むほどの剣閃か…化け物め」
失礼な、人間だぞ俺は…しかし、霞んで見えたのか、俺もまだまだだねぇ。
よく見るとジャンの手から細い魔力の糸がジューデの体まで伸びていた…あれで引いた分斬れなかったのか?
しかし、よく間に合ったもんだ。
もしかして最初から仕込んでいたのかねぇ?
落ちたジューデの剣をソルファに向かって投げ渡す。
キャッチしたソルファは「やっぱり剣は頼りないですね…」と言いながらも、中々に堂に入った構えを見せた。
「は?ジューデが瞬殺?ジャン!お前行けよ!俺の逃げる時間を稼げ!!」
さらっと、死んで来い発言だな。
「奴に接近戦を挑む事自体が間違いだ、足止めして引くぞ。我々の任務を忘れるな、奴を倒す事では無い」
仲間2人やられて、そこまで冷静とはねぇ…やっぱこいつは面倒だな。
そんな時、俺達の居る場所の更に奥から、何かの気配が突然現れこちらに向かって来るのを感じた…この奥に何かあるのかね?
まあ、そんな事より…お出ましだ。
「貴様ら…何時まで手間取っている気だ?転移方陣を無駄にする気か…」
コイツ…本当に同じ魔族か?まるで別の生き物だぞ?
姿を隠すローブを着けず、青い肌を露出させて居る魔族。
青い肌に黒い髪と吊り上った赤い目。
引き絞られた肉体はボディースーツが良く似合う…ちなみに男だぞ?
いつぞやの『Gアーマー』では無く、軽装…しかもだ。
手甲、脚甲に胸当てと手甲の長さと色が違うだけでほぼ俺と同じ装備…
何よりその手には見慣れた物が握られていた。
「日本刀だと…?」
しかも大太刀か?…あれは騎馬武者が上から勢いで斬りつける物なんだがねぇ?
ちなみに刀身が5尺(約150cm)程度の物を大太刀で、刀身が3尺(約90cm)以上が野太刀ね?
ここテストに出るからな!
「冒険者風情に手間取りおって…ほう、その刀…なるほど異世界人か」
……どうでも良い事だが、魔族から刀で納得されるとスゲェ違和感があるな。
「私も師以外で刀使いを見るのは初めてだ…貴様らは先に本隊と合流しろ、私は少し遊んでから行く」
しかし…とジャンが渋ったが「命令だ」とバッサリ切り捨てる。
ジャン達がジューデを引きずって森の奥に消えたことを確認してから、こちらに向き合う…
俺もその間にソルファを逃がした。
こりゃあ、楽しい『遊び』に成りそうだねぇ?
大太刀を抜き放ち八相に構える魔族…違和感しかねぇな…
「冒険者、一応名を聞いておこうか…珍しい刀使いだ覚えておいてやろう」
「そりゃこっちの台詞だな、珍しいのはお互い様だろうに…てめぇから名乗れ」
フハハハ、くははっ、とお互いに間合いを測りながら牽制する。
ジリジリと間合いを詰めながら、違和感に気づく…
あ、これ八相じゃねぇ『蜻蛉の構え』だ……コイツ示現流か!
『二の太刀要らず』で有名な示現流…
初太刀から勝負の全てを掛けて斬り込む『先手必勝』の鋭い斬撃が特徴だ。
確か…初太刀からの連続技も有るらしいし、初太刀を外したからと言って油断のできる相手じゃねぇな
そんな事を考えている内に…
「キィエァアアー!!」
示現流独特の『猿叫』が響き、魔族が大太刀を振り下ろす。
チッ!大太刀の速度じゃねぇな。
一拍遅れて俺も刻波を抜刀する。
あっちの方が間合いが長い…踏込を深くして首を狙い魔力を込めただけの居合抜刀を打ち込む…名付けるなら甘坂流『魔刀斬閃』かね?
「シッ!!」
俺の一閃と魔族の示現流『一の太刀』がぶつかった…
互いに魔力を込めた刀がぶつかり合い、一瞬の拮抗。
刀に乗せた魔力がぶつかり合い衝撃波を生む、それに乗じてお互い距離を取る。
「……まさか、あそこから合わせてくるとはな。正面から防がれるとは思わなかったぞ冒険者」
「テメェの刀ごと首を頂こうと思ったんだがねぇ…随分な名刀じゃねぇか魔族」
コレはあくまで『お遊び』こいつも本気じゃなねぇし。
しかし、お互いに一撃必殺が成り立つ剣技か…本気でやるときゃ勝負は一瞬だな。
「今代の勇者共は戦う価値も無いと思ったが…中々面白い奴が居るじゃないか、次は聖なる魔力を使ってくれ。私を倒せれば魔王様と一騎打ちさせてやろうじゃないか」
さっきとは比べ物に成らないほどの闘気を体から発する魔族。
コイツ俺が勇者だと思ってんのか?…アイツ等と一緒にされるのはちょっと勘弁。
それに一騎打ちさせてやるって事は結構『上』の役職かねぇ?
「やる気になるのは結構だが、俺は勇者じゃねぇよ。大体、使い分け出来るのか魔力って」
…あ、俺使い分けてるな魔力…慣れって怖い。
まあ、俺が勇者として召喚されてたら、すぐにでも魔王を斬りに行くだろうしな。
ifですらない話を考えたところで意味は無いが。
互いに構えながら隙を窺っている時だった。
「…将軍、移送完了しました、帰還するようにとの御命令です。後は我々が」
森の奥から魔族…将軍の部下ぞろぞろ出てきて任務完了を伝えてきた。
将軍は大太刀を収め「…そうか…」と言って帰ろうとする。
おい、終わりか?もうちょっと遊ぼうぜ?
将軍は歩みを止め振り返り。
「…おい、冒険者。俺は魔国軍の将をしているアルケイド・ガンマだ。貴様の名は何だ」
名乗られたからには、返すのが礼儀だよなぁ?
「Cランク冒険者『白守』の甘坂一南だ。覚えておけよ『アルケイド』……お前は俺が斬り散らす」
顔に好戦的な笑みを浮かべ、殺気と闘気を解放しアルケイドにぶつける。
「Cランクだと?…フ、フハハハッ!!それはこちらの台詞だな『一南』、こいつ等程度で死んでくれるなよ?」
そう言って10人ほどの兵を置いて森の奥に消えるアルケイド。
…その発言は、コイツ等に死ねと言ってるようなもんだぞ?
10人の兵士はどいつも屈強な強面ばかりだ、それぞれ武器を構えるがアルケイドとやった後だと、どうも物足りない。
俺は煙草を取り出し…銜えるだけだ、火が無いんだよ…
その動作を隙と見たか「ハア!」と襲い掛かって来た兵士の首を『一匁時貞』を抜刀しながら斬り飛ばす。
「すまんが、不完全燃焼なんでね、ちいとばかし付き合ってもらおうか?」
その言葉を皮切りに兵士が連携を取りながら向かって来た…
アルケイドの後じゃなきゃ、ちいとは苦戦したかもしれんがね?
互いに遊びだったとはいえ、神経が。体が。五感が。
たった一太刀の打ち会いで、あのレベルで慣れてしまっている。
俺は此処まで順応性が高くなかったと思うんだがねぇ…
あれか、異世界特典か!…拉致された俺にも有るか甚だ疑問ではあるな。
そんな事を考えながらも連携してくる兵士をいなし、斬り崩し、拳で氣を叩き込み肺を潰す。
蹴リ・デ・キールの爪先の刃を米神に叩き込み、抜く勢い其のままに背後の兵士の金的にに踵を叩きつけ氣を乗せた裏拳で留めを刺す。
平突きで喉を突き、そのまま隣の兵士の首を飛ばした。
あっという間に4人になった兵士。
1人は魔道士、後の3人は剣士だ。
剣士3人は魔道士を守るように固まっている。
警戒して仕掛けて来ない、魔道士は詠唱中である…火の魔法とかだったら良いなと思います。
「ま、使わせないに越したことはないんだがねぇ?」
一匁時貞を肩に担ぐ…
「武技・『走秋』」
魔道士を守る兵士の間をすり抜け、すれ違いざまに1人斬り倒す。
そのまま奥に居る詠唱中の魔道士を斬りつけ、勢いを殺さぬまま背後の2人に横一閃。
「ふむ…まだまだだな」
3人ほど殺し切れてない、というか魔道士と最後の2人だが。
カチリとスイッチが切り替わる…おぅふ、体が重い…
「イチナさん!「イチナ!無事かえ!!……うむ、大丈夫のようじゃの」…うぅ」
ソルファがルナを連れて戻ってきた…よっぽど急いでいたのか額には玉にような汗が見える。
そして、台詞を奪われ落ち込むソルファ…うむ、最近こういうのが多いなお前さん。
「お前等だけか?俺はてっきりハフロスにでも伝えてるもんだと思ってたんだがな」
「あ、そっちはマーミナさんとアイナクリン様にお任せしてあります。どちらにしても斥侯を出してからでしょうし間に合わないと思ったので」
流石ソルファだ、そこでパー子やマキサックを使わないとこが偉いな。
「なら後はお偉いさんに任せようかねぇ…偶然生き残りも出来たしな」
情報源としては問題ないだろう、治療が間に合えばだが。
……止血位しとこうか。
「あらん?もう終わってたのねん…ていうか何なの、この惨状は…事情を聴かせてくれるかしらん?」
城からの斥侯はオカマの部隊か…
「お前…よく復活したな、首を捥ぐつもりで殴ったのに…軽く引くわ」
「生死の境を彷徨ったわよ!!…あんな衝撃初めてだったわ…」
まあ、そんな事はどうでもいい。
「事情、事情ねぇ…」
取り敢えずモンスター狩りのためにソルファと町の外に出た事。
モンスターが居なくて散歩になった事。
森に入ったらダンシングウッドが踊ってた事。
まだあるかもと森の奥目指していたら魔族に遭遇し、ソルファが捕まり交戦したこと。
目的が勇者召喚阻止であること。
そして、他の王都を狙う事を伝える。
「後は、モンスターを集めてたのが魔族で森の奥に転移方陣が敷いてあるらしい。アルケイドが方陣の効果が切れるとか言ってたしもう無いかもな」
全員がアルケイドの名を聞いて首を傾げる。
「ソルファを逃がす前に出て来た奴だ、魔国軍の将らしいぞ?アレで将なら魔王はさぞ強いんだろうねぇ…ああ、アルケイドは俺の獲物だから」
ルナは呆れ、ソルファは肌で感じたアルケイドの強さに一度だけ身を震わせ、強い意志を感じさせる瞳で「強くならないと…」と呟いた。
「まさか、魔軍の将に侵入されてたなんて…というかイチナちゃん、戦ったの?魔軍の将と?…何で生きてるのよ」
「剣術のみの勝負だったし…お互い本気じゃ無かったからじぇねぇか?」
あれで魔法付きだったら『お遊び』じゃすまんしな。
しかし、こっちでまともな剣術とやる合う事になるとはねぇ…
レームが「魔軍の将相手に本気じゃないって…」と呟いていたが気にしない。
「まあ、事情はそんなとこだ。ソコの3人はまだ息が有るから、情報を取るならそっちの方が良いだろうよ…一応止血はしておいた、火無いか?」
咥えた煙草を上下に揺らす…するとルナが「しかたないのぅ」とイメージ魔法で火を付けてくれた。
「有難う、ルナ、ッフー…さて、帰るか。良いよな?」
「後で王城によって頂戴、王様にも事情を話して欲しいのよ」
ギルドも動いてるだろうし、二度手間は御免だな…
「ハフロスも呼んどけ、1回で済ませたい」
分かったわと返事を聞き俺はルナとソルファを連れてシェルパに戻るのだった…
シェルパに戻った後はソルファと共に、王城に登城し王様とハフロスに説明。
王様とハフロスが頭を抱えるのを見てから宿に戻った。
「……今日は…お盛ん…でしたね…」
食堂に入るや否やパー子の先制攻撃…珍しくサウスから降りてトコトコ歩いて来たと思ったらコレか。
「…マスター飯頼むな~」
当然スルーだ、だがソルファはそうもいかないようで…
「お、お盛んって…違いますよ!!確かに襲われて大変でしたけど、でもイチナさんは…あ、口止めされてるんでしたね、ごめんなさい」
……何でそこまで言って止めるんだよ、あと、俺に謝るな。
俺が襲って口止めしたみたいじゃねぇか。
常連共の視線が痛い。
城で無用な混乱を避けるために口止めされたんだが…裏目どころじゃねぇな、面倒臭ぇ…
「……みすた…きっちーく?…おーう、わんだほー…」
俺が鬼畜だと何で素晴らしいんだよ…
「ハァ…取り敢えず飯食おう、話は部屋に戻ってからだ」
「そうじゃの、詳しく聞きたい処じゃ」
ルナが白のテン乗せを抱いて隣に座る…何か圧力が有るんですけど?
「ほれ、さっさと食わんか、我が行く前に何が有ったのか…きっちり聞かせてもらうぞ?」
殺気にも似た圧力を放つルナに従うソルファ…抱かれているテンが震えていた。
お前さんは、あの惨状を見てたよね?
それに説明も簡略だがしたはずだが…何を勘違いしてんだか…
「あ~、はいはい。分かったから飯ぐらいゆっくり食わせてくれよ…テンが震えてんぞ?ほれ、こっち来い。ただいま白、テン」
そう言うと「み!」とルナの腕から飛び出して机に着地し駆け寄ってきた。
手を伸ばして白を撫でてやると嬉しそうに、うりうりと頭を擦り付けて来た…可愛いねぇ。
テンはというと…まだ小刻みにプルプル震えていた。
何で?と思いそっとテンに氣を流す…筋肉痛が悪化していた。
「なあ、ルナよ。テンに何かあったのか?何か筋肉痛が悪化してるんだけど…」
「いや、我は知らんが…」
そうだった、ルナは家で家人達とパーティーだったな。
「……夢の…ぷろれす…入門編…らんなうぇい…テン…」
マキサックがテンを連れて走り込み…か?
コイツの情報は微妙だからなぁ。
でも、恐らくそうなんだろうなぁ…マキサック自重しろ。
飯を食い終わり白とテンを連れて部屋に戻る…何時もならこのまま寝て終わりなんだがねぇ?
俺の後ろにはルナとソルファ、パー子装備のサウスとその上に黄助。
アリーナン?今日は増やした白信者と夜通し語り合うらしい。
マキサックはそもそも宿が違う。
ハァ、結局二度手間かよ。
部屋に入り…流石に狭いな。
落ち着いた頃、王様にした説明をもう一度しているとルナから待ったがかかった。
「その話はもうよい、我の聞きたいのは町を出てから森に入るまでじゃ」
散歩だが?
アレを散歩以外どう伝えろと?
「どこでソルファを襲い、致したのじゃ?怒らぬから言ってみよ、の?」
ソルファの言った事を聞いて誤解してんだな?
あと何も言ってねぇのに頭に米が浮いてんぞ?
「……これが…嫉妬…ぷぁうわー…」
黙っとけ、というか何で来たんだお前は。
「……さうらー…だから…」
…そうか。
ソルファと一緒に説明し、なんとか誤解を解いてその場はお開きとなった。
部屋の中には白とテンの他にサウスと黄助が居る…パー子もだが。
まあ、コイツはサウスに着けときゃ問題ないから置いとこう。
多少狭いが、今日は良く寝れそうだ。
「お休み、皆」
それぞれの『お休み』を聞いて眠りにつく…そして長い一日は終わるのだった
勇者合流まで後『4日』