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猫守紀行  作者: ミスター
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シェルパの『勇者』

「このまま王城まで行ってちょうだい」

レームが行者にそう言っているのを聞きながら、王都の門を抜け王城へと向かう。


空はもう明るい…何か心配になって来た…白達が。


「しかし、本当に急いでたんだな…ノンストップじゃねぇか…」

馬車を引いている馬が悲鳴を上げている…もう少しだから、頑張れな。


「だから急いでるって言ったじゃないの、着いたら召喚の間まで走るわよん」

あいよと軽く返事を返す。


その時、馬車が止まった。

「ほら降りて!走るわよ!」

先に馬車を降りて走り出すレーム…行者と馬に礼を言って、煙草を銜えてから後を追う。


「おい、暗部。走るの遅いぞ?あと火ないか?煙草が吸いてぇ」

先行していたレームに軽く追いつき火を要求してみた。


「ゆっくり走って待ってたのよ!!それ葉巻よね?城は禁煙よ我慢なさい」

ヘイヘイと煙草を銜えたままペースを上げて、召喚の間にたどり着く。



「ここからは王族と『異世界人』しか出入りできない『契約』なのよ、言わなかったのは機密に当るからなのよ…ごめんなさいねぇ…姫様達をよろしくね?」

異世界人ねぇ…まあ、勇者も異世界人だわな。


しかし、契約って事は神様がらみだろうが…

『ウォルガイ』って王都もこの契約なら、術式を奪われたって事は無いんじゃないか?

魔族の中にも異世界人の仲間がいるのかね?


「まあ、考えても仕方ないか…さて、行こうか」



中に入ると見えない何かが体を探り、すぐに引いて行った…契約の確認か何かかねぇ?


中の造りは、ほとんど『神託の間』だ何もない、一点だけ違うのは天井とその真下に『魔法陣』が敷かれている事くらいだ。

幾何学模様では無く何か意味があるであろうしっかりとした『文字』…読めないがねぇ。


「あれは神託文字ですよ、神様が使う文字と言われています」

シャーニスか…王妃様は見えないが、王様とバスハール、バラーグも居る…ここを襲撃されたら国が終わるな。


「言われているね…じゃあ、勇者召喚の術式は神様が作ったって事か?」

普通に考えればそうだが…


「その辺は分かってないんですよね…召喚を司るのがどの神様なのか分からないですし、『契約と執行』の神はお忙しくて祭壇や言室、信託の間にも姿を見せませんしね」


ふーん…まあ、大して興味も無いし別に良いんだが。


「そろそろ、始まりますね…」


アイリンが巫女装束で、魔法陣の前で膝をついて祈りを捧げると共に小声で詠唱し始めた。

床に刻まれた魔法陣が光輝き、部屋全体に魔力が渦巻く…天井に刻まれた神託文字に一文字ずつ魔力が宿り光を放つ。


全ての神託文字に光が灯った頃、床の魔法陣の中央に力が集まる…来るか。

魔法陣がより一層の光を放ちそれが収まった頃中央に人影が見えた。


「あれ?何ココ?コミケは?まだ買ってない薄い本有るんですけど?」


姿を見せた勇者は20代の女性で黒髪をお下げにして、丸いビン底眼鏡をしている…

上下ジャージで痛々しい袋を両手に下げていた…嫌な予感しかしねぇ。


まあ、スタイルは良いんじゃないか?

鼻も高いし輪郭も綺麗だ、眼鏡を取れば美女かもしれない。


「うぅ…ハァ…ハァ…ようこそ勇者様」

アイリンは大分消耗しているようだな…


「ゆうしゃ?え…まさか…い、異世界?」

理解が早いな…頷くアイリン達を見てプルプルと震えだす。

「えと…勇者様?」


「……異世界召喚キターーー!!後ろの人たちはもしかして王子様!?逆ハー!?やっば、涎出て来た…でも私的には王子様同士の絡みの方がご褒美「チェンジで」ええっ!?」

思わず口を挟んでしまった…


あと俺は王子じゃねぇ、こんな特殊な奴らと一緒にするな。


嫌な予感はしてたんだよなぁ…両手の袋とか薄い本とかさぁ。

本当に勇者は碌な奴がいねぇな…


後この面子で一番可能性があるのはバラーグだからな?

良い仲間になれるんじゃねぇの?バラーグの顔が袋を見た瞬間輝いたぞ?


「イッチーナ…流石にチェンジとかは無理だよ?僕もたまにパーチェックでやるけどさ…勇者様だよ?」

真面目に返すんじゃねぇよ、バスハール。

そんな事は分かってんだよ…だが、言いたくもなるだろうが。


しかしなぁ…

俺は王様とアイリンから説明を受ける『勇者様(笑)』見ながら思う。


コレは無理じゃないかねぇ?


アレだ創造の加護を付けると強いかもしれんが剣や接近戦には向いてない。

魔王討伐を命題とするはずの勇者が、ちと弱いんじゃないかねぇ?

まあ、素人だし仕方ないのか?…今から鍛えて間に合うのかが問題である。


説明も終わったのか勇者がアイリンにお近づきの印にと『薄い本』を一冊手渡そうと…

「止めんかアホウが!子供に何を見せる気だお前は!?」


速攻で近づき取り上げる。


「何って…腐教活動?あ、もしかして見たかった?いいよ、観賞用、保存用、腐教用に常に3冊は買ってあるから!!」


心底、要らねぇ…

アイリンも取り上げられて悲しそうにするな、なんか悪い事したみたいじゃねぇか。


「アマサカ殿それはどんな本なのだ?」

興味を持つな、王様。


「ど~ぞ!ど~ぞ!読んでみて!」

笑顔で王様に新しい本を渡す勇者。


「な、なんだコレは…ニルナッドとスルときに取り入れてみるか…解しておかねばな…」

何を解す気だお前は…

王様…あんたはマトモだと思ってた俺がバカだったよ…取り敢えず喋るな。


「おい、勇者…この本を燃やされるのと、封印するのどっちが良いか…今選べ」

ええっ!!と大げさにリアクションする勇者。


「これが無かったら私は生きていけないわよ!?……そっか、君嫉妬してるのね!私が本を大事にしてる事が分かったから…ああ、なんて罪な女なの…」


やべぇ…今すぐにでも斬り散らしてやりたい…


「イッチーナ落ち着いて?まずはその剣から手を放そう、ね?」

「そうですよイチナさん、ここは神聖な場です…血で汚すのはいけません」

バスハールとシャーニスに止められて、深呼吸を一つ。


そうだ、俺はアイリンの護衛で来ているんだ。

これの相手は他の連中に任せればいい。


…冷静に行こう。


「王子たちの三つ巴…じゅる…おっといけね。俺様王子を巡って二人のキラキラ王子の恋の鞘当…滾るわ~」

ココで斬った方が世の中のためになると思うんだよ…駄目?そうですか…


そう言えばこの勇者まだ名乗ってないな…なら…


俺はそっと勇者の頭を掴み…


「なに、撫でポ?いいわバッチコ~イ!!……あの、なんか痛いんですけど?ちょ、本気で痛い!?まさか!痛ポ!?新しいわね…」

アイアンクローをかます。


フム、まだ余裕がありそうだな。

バカな事を口走る勇者を笑顔と共に締め上げる…


「円滑な人間関係は自己紹介からだって言うだろ?自己紹介しよう、俺は甘坂一南、日本人だ。ほれ、お前の名前は?言ってみろ?」

これっぽっちも円滑な関係は望んでいないがな。


入れる力を一定に保ちながら勇者に問いかける。


「この状況で自己紹介!?ああっ痛い!?しますから力入れないで!高松安奈、永遠の18…(ミシッ)ハイ、スイマセン23歳です。アッチではモデルやってました!!あ、何か新しい扉が開きそう…」


そんな扉は開きたくないので手を放す…崩れ落ちる勇者・高松安奈。

頭を押さえながら「もう少しで扉の先に…」とか言っているのは無視する。


しかし、モデルの高松安奈ねぇ…こんな奴だったか?

もっとこうシュッとした美人だったと思うが…眼鏡のせいか?いや、それ以前か…

まあ、TVはあんま見なかったしな。


「よし、召喚も終わった、名前も聞けた。アイリンに危険は無いし俺は帰るぞ」

スッキリしたので笑顔で振り返り帰っていいか聞いてみた。


「シャーニスがアマサカ殿を敵に回したくないと言うのがよくわかりました…」

俺は此処の王族だけは敵に回したくないねぇ…嫌すぎる、何が嫌かは察してくれ。


「では、アイリンも連れて行ってください。後日勇者様を向かわせますので」


……は?


「何でだ?護衛はこの部屋に限ってだろうがよ?」

レームはそう…言ってねぇな…

錯乱して殺されることも有るとは、言ったが此処でとは言って無かったしねぇ…まさか…


「聞いてなかったのですかな?護衛とは魔王討伐の旅の護衛の事です。巫女としてアイリンも勇者様に付いて行きますのでな。かなりのレベルで治癒魔法が使えますし攻撃系も扱えますから足手まといには成らんでしょう」


マジか…。

レームが言ってた王女様達ってのは、勇者の事かよ…


「アレと旅をしろと?斬り殺す自信があるぞ俺は」

只でさえ脱力兵器が多いのに…その上、腐敗勇者なんぞいらんのだが…


「そこは我慢して戴くしかないですな」

畜生め…断る事は出来そうもないな…


くそっレームめ…次会ったらキツイ一撃入れてやる…


「ハァ…分かったよ、仲間に説明せにゃならんし、俺もやりたいことあるしねぇ…そっちも準備とか有るだろ?それに合わせるさ」


この上なく面倒だが仕方ない…脱力兵器共と科学反応起こさなきゃいいが。


「そうですな…では1週間後に城まで迎えに来てくださるか?勇者様には、それまでに仕込めるだけの加護と知識、後は魔法と武術の基礎を叩き込んでおきます。本来ならもっと時間を掛けたい処ですがな…早々にシェルパから勇者様を出立させねば安心出来ない者もいるのも事実…後は頼みます」


1週間か…加護と知識はまあ、なんとかなるだろうが武術の方は無理だろうな…

魔法はコイツの順応性次第だな。


「加護を付けるなら創造の加護は絶対に付けてくれ、アレは創造魔法が武器になると思うからな…じゃあなアイリン、ソイツに本を渡されても読んじゃダメだぞ?またな」


「えと…分かりました、イチナさん護衛よろしくお願いします!」

とペコリと頭を下げるアイリン…どうか腐敗勇者に毒されないよう切に願う。


「あれ?まさかの炉理魂さん?でも彼と居れば新しい扉への道がまた見えるはず…」

ロリコンじゃない、それはバスハールだ。

腐敗勇者よ、何故に新しい扉を開きたがる…Mに成りたいのか?


「……じゃあ、1週間後にな」


そう言って召喚の間を出る。


「あら?イチナちゃんどうした…ぶべぼっ!?」


召喚の間の警護の兵と一緒にレームが居たので、首を引きちぎらん勢いで殴っておいた。

2メートルの巨体が空中で2回転して背中から地面に落ちる…よし。


警護の兵は俺の突然の凶行に目を白黒させている…


「お仕事ご苦労さん、もうすぐ王様達も出てくるから間抜けな面晒すなよ?」

あ、はい。と返事する警護兵。



城を出て煙草に魔法で火を灯す。


さあ、宿に戻ろう…白達は着いてるかねぇ?

紫煙を吐きながら宿に戻るのだった。


1週間後か…逃げたら駄目かねぇ?


腐ってやがる…遅すぎたんだ…

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