表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫守紀行  作者: ミスター
37/141

クエストへの道

朝、白とテンの2匹に起こされる。


耳たぶに猫パンチする白…楽しいか?

顔に乗り眉毛を啄むテン…エサじゃねぇよ。


「ぴ!?」

テンを鷲掴み、顔の上からどかす。


起き上がるとノックの音が聞こえた。

「イチナさん、起きてますか?そろそろ行きますよ?」


「あいよ、今行く。ハァ…一服も無しか…起こしてくれて有難うな?」

「み!」「ぴ?」テンは何で疑問形なんだよ…


サクッと準備を終えて下の階に行くと皆そろって待っていた…すまん。

色々文句も言われたが(アリーナンにな…)省略する。




そして、俺達はモンスター討伐の為にシェルパを発った。

街道沿いを依頼者の居る町まで、ひた走る。


馬車は行者席にルナが座り、俺とソルファは馬での移動となった。

アリーナンはサウスと馬車の中で、白はリュックの中で寝ている。


パークファ?分かってんだろ?


何で馬に乗れるかって?馬術は神薙流の必須科目です。

たとえ裸馬だろうが駄馬だろうが乗りこなしてみせようじゃないか。


「ぴー♪ぴー♪ぴー♪……ぴ!!」またか!?


俺の頭の上で風を受け、歌うように鳴いていたテンが唐突に羽を開く…これで3回目だぞ?

風を受け後ろに流され、飛んでいくテン…


「ぴぴー♪」楽しそうだねぇ…


後ろを走っているソルファの馬に同乗している黄助が、何事も無かったかのように鞭で巻き取る。

ちなみに2回目から黄助をソルファの馬に乗せた。


最初は荒い道で跳ねて飛ばされたのだが…2回目からは確信犯である。

到着予定より遅れそうだ…もう、テンの足に紐でも付けておこうかな…


「黄助、すまんがそのまま確保しといてくれ。一向に進めん」

「ぴ!?」「がぅ」

うむ、頼んだぞ?…最初からこうしておけばよかったな…


テンはしばらくもがいていたが、黄助からは逃げられんと悟ったのかしょんぼりと大人しくなった。



テンの事以外は何事も無く進み、俺達は街道を少しそれた場所で野営の準備を始めた。


落ち着ける場所の為、黄助がテンを解放した…

テンは解放された喜びからか下ろされた瞬間に駆け出し、リュックから飛び出した白から追いかけられていた…おい、ひよこ自重しろ。


「ふぅ…黄助」

その一声で駆け回る2匹を上回る瞬発力とスピードで動き、確保する。

ギルドで冒険者に心配されるほど不動がデフォの黄助。

…子虎姿でもやるときゃはやるんだぜ?


「助かった、ありがとうな黄助。白、テンこれから野営の準備をするんだから邪魔しちゃいかんぞ?」

「み~…」「ぴ?」

白は分かってくれたみたいだが…テンはなぁ…


「イチナも大変じゃなぁ…どうじゃ?やんちゃな仔を持った感想は?」


「まあ、面倒だが楽しくも有るな…間違いなく戦闘では足を引っ張るだろうがねぇ…」


「でも、可愛いじゃないですか。白もですがテンも見ていて和みます」

ふふっと笑みを浮かべながらそう言うソルファ。

確かにそうなんだがね…ハッチャケなければだが。


今は黄助により強制的に白の上に乗せられ大人しくしているテン…コイツの行動は読めん。


「……コレは試練…めざせ…合格入試…」

何にだ、何に合格するんだよ?…そして入試が有るのは試験だ。

つっこみを入れようとパークファの方を向くと…


「キューン…」

…恐らくサウスは馬車の中で体の左を下にして横になってたんだろうな。

右半身にパークファがへばり付いて、動きにくそうだ…パー子はよく張り付いてられるな。


俺は無言でパー子を引っぺがす。


「……いやん…大胆…ぽっ…」

抑揚0、表情0でのたまうパー子。

……一言で気力を削ぎ落された。


「…そうよ!!白たんの相棒として、その名を白メイツに広げてあげるわ!!」

帰ったら白たん会議よ!と意気込むアリーナン…おい、脱力兵器共自重しろ、俺の気力を全て持っていく気か?


それに、神達に教えると余計な加護が付きそうで困る。


テンの世話より1号と2号の相手の方が疲れるんだが…


「…さっさと準備を済ませて飯にしよう」

「うむ」「そうですね」「……ヤー…」

そう言って動き出す面々。


「おい、パー子。お前はサウスに近づいて何を準備するんだ…」


「……サウスミンC…補充…全ての源…」

サウスからはそんな栄養素は出ていない。


「…パー子はルナの手伝いな?行って来い」

イイ笑顔で送り出す。


「……いえす…まむ…」

俺は女じゃねぇ…サーだアホウ。


「…会議のお題は『白たんとテンの関係性について』で決まりね!!」

今度はお前か…


「そんな事は心底どうでもいいから、お前も手伝え…教会職員に迷惑かけんじゃねぇよ」

ほれ、働けとアリーナンに動くように言う。


「何ですって……そんな事!?どうでもいい!?いいかしら、イチナ。この世界は『白たん会議』で動いてるの…白たんはその中心。いわば『世界の中心』なのよ!!それをどうでもいい…あなた分かって無いわね」


どうしようコイツ…神気に当てられ過ぎて、頭のネジがさらに飛んだのか?


まあ、白メイツがほぼ神共だから気分次第でどうにでもなるのは分かるが…

少なくともアリーナンのやってる事はただのファンクラブだ。


そして、そんな世界分かりたくはない。


「イチナさん、準備終わりましたよ…有難うございますアリーの相手をしてくれて。2人で野営した時は全く準備がはかどらなくて火を起こすだけでしたから、助かりました」


簡易のテントを張り終えたソルファが戻ってきてそう言った。


「すまん…手伝えなかったな…」

なんだかんだ言っといて俺も遊んでいただけである…本当にごめんなさい。


「いいえ…仕方ありませんよ。イチナさんは良くやってます」

何か同情の視線を受けてるんだが?


「……代わるか?」

分かり切った事を聞いてみた。


「この役目はイチナさん、貴方にしかできないんです…頑張って!」

真剣な表情でやんわり断られた。


「……ごはん…大事…体の源…」

それはサウスミンCじゃなかったのか?


「……のん…サウスミンは…全て…」

もうコイツはナチュラルに心を読んで来るな…


「さて、じゃあ飯にしようか?」

皆からの返事を聞いて飯の準備を始めるのだった…今度は俺も参加したぞ?



飯を食い終わり、眼前では鳥獣大決戦が行われていた。

と言ってもひよこと子猫の食後のじゃれ合いである。


テンはわざわざソルファに駆け上り肩からダイブ…

ソルファは上りやすいように手を橋代わりに地面に置いて補助していた…ソルファも楽しそうで何よりだ。


テンは羽をバタつかせ、実に微妙な速度で白に迫る。

代わって白は地上で迎え討つ姿勢を取っている…が。

背後に天敵が息を荒くして潜んでいることに、まだ気づいていない。


「ハァハァ…我慢!我慢よアリーナン!白たんの邪魔をしちゃいけないわ!…ああ、凛々しい白たんも良い!!」

もうコイツは沈めておいた方が良いんじゃないか?


アリーナンの声に反応して白が思わず後ろを向いた…その時!

テンはチャンスとばかりに羽をたたみ自重での自由落下に切り替える。

フシャー!!とアリーナンを威嚇している白…もともと戦いには向いてないからな…

べしゃっと音が聞こえ白が振り返る…俺達もその音の方を見た。


「ぴ、ぴぴー…」

おい、テン…まさか目測を誤ったのか?…お前マーチ君の分裂体だよね?

俺は慌ててテンを拾い上げ、羽や首など折れている箇所かないか探す…無いな、よかった


…ああ、そういやコイツ最初に俺のみぞおちにかなりの勢いでぶつかって来たっけ?

あれで無傷ならこの程度、問題ないか。


「み!?み~…」白が心配そうに足元で鳴いている。

心配そうに家の仔達も集まって来た…パークファはサウスミンを補充中か。


「折れてる箇所は無さそうだ…まあ、大丈夫だろう」

診断のためにテンにやんわりと氣を流す…うん、健康そのものだ。


テンが羽を広げる…心配ないってことを伝えているのか?


……違った、白を確認し俺の手から羽を広げたまま飛び降りた。

「ぴぴー!」まだ終わって無いぜ!って感じかね?

白は避けるかどうか迷っている…


どうやら避けずに受け止める事にしたらしい鞭白になって鞭をクロスさせ構えている。

対するテンはドロップキック…と言うより足から白めがけて落ちていく。


そして衝突…結果、白がテンの渾身の一撃を鞭をクッションにして弾くことに成功した。

第1次鳥獣大決戦は白の勝利で幕を下ろすのだった。


おい、テン悔しいからって蹴リデ・キールをつつくな嘴が折れるぞ…


その時ルナの仕掛けた鳴子が鳴った…


「イチナ、お客さんのようじゃ」


みたいだねぇ…


「それじゃぁ、俺達も食後の運動といきますかねぇ」



侵入者を確認するため俺とルナあとサウス(パークファ付き)が向かった先で見た物は…


顎に蹄の形が入り伸びている豚顔の人型モンスターと巨大な2足歩行の猪がファイティングポーズを取る光景だった。


鳴子が鳴ったのは、豚顔が倒れた時に引っかけたようだ。


「何だコレ…」

俺は思わず呟く。


「人型は『オーク』じゃのぅ…他種族を襲って種を増やすタイプのモンスターじゃ、撃滅指定がされとるゆえ素材では無くカードの討伐証明を見せた方が金に成る。オークハンターなんて専門職もおるくらいじゃ。あっちは『ファイティングピッガー』じゃの。強い相手に喧嘩を売って回るというはた迷惑なモンスターじゃ、素材としては今一割に合わん価格設定じゃから誰も狙わんがのぅ」


要は、面倒臭い相手って事だろ?

まあ、話してる間に猪に捕捉されたんだがねぇ。


『ファイティングピッガー』はコッチに向かってシャドーを繰り返している。

シュッでは無くボッ!と言う音が連続して聞こえる…おおぅ、こりゃあ楽しめそうだねぇ。


「うし!じゃあ俺が…ん?」

横から何か飛んでいった?


…『ファイティングピッガー』を見ると眉間に針が刺さっている…

さっきまで元気にシャドーしていたのに動きを止めて…どうした?


泡を吹きながら膝から崩れ落ちた…えぇ~


「……吹き矢は…得意…ぶい…」

ああ、そう…一応、暗殺っぽい技能持ってたんだねぇ…


「おい、パー子…何だその吹き矢、葉っぱを丸めたのか?針はどうした?」

パー子の持っている吹き矢の筒は大きめの葉を丸めて急造したものだった…


「……女に…秘密は…憑き物…知ったら憑かれる…」

付き物であって憑き物では無いぞ?


まあ、サウスはすでに憑かれているがな、お前に…知ったのか秘密を?


サウスがゴワゴワのパルプウルフに成っていたらこの状況は無かったんだろうか?

まあ、それは俺が許さんが。


「仕方ない…素材部位だけ教えてくれるか?ルナ先生」

そう言うと「せ、先生…う、うむ!まかせよ!!」と気合の入った返事が返って来た。


「コホンッ…この『ファイティングピッガー』の素材部位はのぅ…牙、毛皮、肉じゃが、コヤツは年がら年中強敵を求め挑み続けとるからの、牙は…ほれ折れとるじゃろ?毛皮も同じじゃ。Dランクモンスターの中で素材が、Eランク採取クエストとほぼ同じと言う安さなんじゃよ」


酷いなそれは…なら肉は?

「肉はどうなんだ?」


「…肉に関してはギルドでなく肉屋に直接卸した方が高く売れるが、やはり二束三文じゃのぅ…コヤツの肉は筋肉質で筋張っていての、そのまま食える物じゃないんじゃよ…非常用の干し肉を作るなら重宝するがの?」


うわぁ…吃驚する位にうま味がねぇな。

それにパー子の吹き矢は毒を使ってんだろうしな…


一撃で泡吹いて死ぬ毒の入った干し肉とか、食いたくない。


「分かった、だが今回は放置だな」


「そうじゃのぅ…パークファがどんな毒を使ったか分からんし、触るのは止めといた方がいいの」

俺達はパークファをの方に視線をやる…


「……つんつん…つんつん…あ…」

サウス上で、体育座りしながらがら長めの木の枝で『オーク』を突っついていた…自由だなお前。


あってなんだよ?


オークをつついていた木の枝がオークの豚っ鼻を直撃。

まさにザックリと、それはもう刺し貫かん勢いで。


「ブギャアアア!!」と飛び起きるオーク…そうだな、流石に起きるよな?

だって鼻血がダクダク流れてるんだから。


取り囲む俺達を見回してパークファで視線を止める。


「ブ…ブギャア…ブギャブギャアアア!!」

分からん…分からんが、怒りの感情では無い。

それは何故か?

頬を赤らめているからだ…オークが。


「……サウス以外の…モンスターは…ちょっと…」

片手を頬に添え「あら困ったわ」的なポーズを取るパー子…


「お前、言葉が分かるのか?」

「……近所の少年が…おねいさんに…告白…しかし…すでに意中の人が…的な…」

絶対に違う。


いや…頬を赤らめているから微妙ではあるが。

まず、オークが近所に住んで無い、そしてサウスも人じゃ無い。


「無い乳はオークにモテるのかのう?」

ルナはルナでずれた事考えてるな…


「なあ?…やっていいか?そろそろ戻りたいんだが…」


このオークを生かしておくと付いてきそうで嫌だ。

そして何より、この状況が面倒臭い。


「む?…そうじゃの生かして置いて良い事は無いじゃろ」

ルナから肯定の言葉を頂いた。


「……そやつを…倒せれば…お主は…天下無双じゃ…」

今度は何のキャラだ…どこぞのインチキ師匠か?

俺では無くオークに言っている辺りに悪意が見える。


「ブギャアア!!!」

パー子の言葉で俺に突進してくるオーク…何かやるせねぇな。


せめて一撃で屠ってやろう。


刻波に手を掛けイメージする…爺さんは駄目だ魔力を使いすぎる。

爺さんが雷を斬った後を思い出す刀に雷光が纏わりついていたのに「少し痺れるのう…剣速が落ちたかの…」で済ます爺さん…あれ?結局爺さんじゃね?


アンドレイから魔力が送られてくる…タンマ!ストップ!キャンセル!

だが遅い。爺さんの雷切を再現しようと過剰な魔力が送られる…くそ、やるしかないか。


「甘坂流居合・雷刀一閃」

神薙流には無い魔力、それを組み込んだ術理だから適当に俺の名前を入れてみた。


キィン…


雷光を纏い振るわれた刻波はオークの首を落とし。

さらに、自身に纏わりつく雷撃を『飛ぶ斬撃』として放ったのだった。


居合だとあんまし意味がねぇな、そう思った事も有りました…しかし、何だ今のは?何か飛んだぞ?


鞘に収まった刻波を抜いて、まじまじと見る。


「上位属性とイチナの剣技の合わせ技か…お主の神速の剣技だからできる事よな」


うん?剣速の問題なのか?何かこう刻波の上を滑ったというか…感触としてはそんな感じだった。


「……げったうぇい…すぱーきん…」

ああ、ニュアンスとしては多分間違ってない。


一匁時貞は効果の切れるまで数回は振れるが、刻波は一回のみ。

まるで、さっさと出てけと『刻波』が追い出したみたいだった…


魔力での強化は出来るのに…謎だ。


「まあ、いいか…戻ろう」

俺は考えるのを放棄した。



野営場所に戻って来るとテンは黄助の上で仰向けで爆睡…

ひよこに鼻提灯か、初めて見たな。

白はソルファに撫でられながらうつらうつらと舟をこいでいた。

そんなソルファを見て悔しそうにハンカチを噛むアリーナン。


「あ、お帰りなさい。遅かったですね…何か問題が?」

問題は無いが面倒ではあった。

その辺をソルファに説明する。


「そうですか、オークが…この辺りのオークはハンターが狩りつくしたと思っていたんですが、まだいたんですね」


まあ、変わり者ではあったろうなアレは。


「まあなぁ、もう居ないがねぇ…さて、寝ちまいな、火の番は俺がするから」

いい加減、煙草が吸いたい。


「じゃあ、後で我と交代じゃ。何かあったら起こすんじゃぞ?」

「お休みなさいイチナさん」「ソルファ!白たんを連れて来なさい!お休みタイムよ!!」


ソルファとルナはそう言ってテントの中に入って行く。

アリーナンは、もう寝ろ沈めるぞ?

パークファはサウスの上で寝るつもりのようだ…何時ものようにしがみ付いて放さない。


「み~…」

白はソルファの膝から降りて、俺の横にてこてこ歩いて来て丸くなった…

待っててくれたのか?…有難うな。


俺はたき火を見ながら、煙草に火を付ける。

パチパチと火花が弾ける音が聞こえる…


紫煙を吸いながら、白を撫で小さく声をかける。

「お休み白…」


夜空を見上げ吐き出した紫煙は、溶けるように消えていった…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ