自由なアホ毛とクエスト依頼
次回投稿は明日の予定です。
詳しくは活動報告にて。
練兵場に着いた俺は、まず最初にパークファをサウスから引っぺがす作業に取り掛かる。
放って置くと一体化してしまうんじゃないだろうか?
「…ふんっ!」
ベリッと音が聞こえてきそうな引っ付きっぷりだ。
解放されたサウスは、水を飛ばすようにブルブルと体を震わせた…我慢してたのか?
「……ひどい…言われた通り…伏せてたのに…よよよ…」
まあ、そうなんだが…
あとな、嘘泣きをするならせめて抑揚を付けろ。
「あの…あなたは?」
「……あいむ…パー子・サウス…」
ちげぇよ!?自己紹介ぐらいちゃんとしろ!
「コイツはパークファ・パニョック…元勇者の護衛でクビになって今はサウスバカだ」
「……パー子…で…いいぜ…」
アイリンに向かってサムズアップをかますパー子。
「えと、パーコさん?「……のんのん…パー子…わんもあ…」わん?パ、パー子さん?」
うんうんと頷くパー子…細かいなお前。
「あの私は アイナクリン・リン・ドメイク・ハンカーテスです。…ア、アイリンでいいぜ…」
顔を真っ赤にしてパー子の真似をするアイリン…うん、よく頑張った。
でもな?そこは頑張る処じゃないぞ?
サムズアップを付けようかと、迷って止めるアイリンだった。
「おい、貴様。そいつ「……パー子…」…そい「…パー子…」そ「…パー子…」あぁ!分かった!パー子!これで良いか!?」
無表情で頷くパークファ、イラつくマーミナ…おい、アイリンが見てんぞ?
「くそ!話が進まん!そ「……じー…」…くっ!パー子!が勇者の護衛だというのは本当か?奴らの仲間ならこいつも暗殺者ではないのか?」
その質問をするために中々苦戦したなマーミナ君。
ご褒美にコイツがここに居る経緯を説明してあげよう。
俺はマーミナにガナとの最終確認について話してやった。
「……それは、大丈夫なのかこの子は?」
聞いている内にクールダウンして、逆に心配そうな声を出すマーミナ。
色んな意味が含まれていそうな『大丈夫』だな…
そんな事を言いながらも実に心配そうである、根は良い人なんだよな…怒ると般若なだけで。
コイツは脱力兵器としては実に優秀だぞ?
常に俺の気力を削って行くからな。
パークファとアイリンの方を見ると家の子たちがアイリンに動物タワーを披露していた。
サウス、黄助、白どの子もピシッ!っとしている一番上でテンが羽を広げて決めていた。
「凄いです皆さん!!」
アイリンは手を叩いて大喜びだ。
前も有ったなこういう事…
一番上でテンが羽を広げているためトーテムポールに見えない事も無い。
あ、テンが風で煽られて落ちた……羽広げてるから余計に風を受けたんだろうなぁ。
黄助が動じることも無く鞭で助け白の上に戻す。
白の上に戻されたテンは先ほどの事は無かったかのように、また羽を広げるのだった…学習しようぜ?
アイリンと遊び終わる頃には黄助はサウスの上で伏せており。
白はその上で両手足を放りだし大あくび。
テンは白の頭に嘴を乗せぐでぇとしている。
サウスだけが元気に尻尾を振っていた。
俺?俺はマーミナが持って来たお茶をアイリン達を眺めながら、何故かパークファとマーミナ、そして先に練兵場を使っていた兵士達と一緒に啜っていた。
「そろそろ、帰るぞ?…お茶ご馳走さん」
誘ったのはアイリンだが、一緒に飲んだのはマーミナと兵士…
どちらに礼を言ったものか悩む処ではではあるが…
まあ、誘ってくれたアイリンに礼を言うのが筋だろうねぇ。
「……アイぽん…ちゃお…」
アイぽん?アイリンの事か?
アイリン自体が愛称なんだが…まあ、いいか。
「…アイぽん…あ、もうこんな時間なんですね、長らくお引き止めしてすいませんでした…また、遊んでくださいね?」
最後の一言は俺にではなく家の子達に向かってだ。
「ガウッ!」「がぅ」「み!」「…ぴ」
おい、テンよ、もうちょっと元気よく答えてやろうな?
「ふふっ有難う御座います」
「姫様…そろそろ…」
マーミナの言葉に頷くアイリン。
「あ、そうですね…それでは、これで失礼します…ゆっくりして行ってくださいね?」
そう言ってアイリンとマーミナは去って行った…
兵士達の視線が痛い…分かってるよ、これ以上邪魔はしないさ。
「うし、帰るぞお前等」
そう言ってさっさと宿に向かうのだった。
宿の前に人影が有る…ルナだなアレは。
入口の前を行ったり来たりして何してるんだ?
「遅い…まさか、あ奴と一緒に?いや、イチナに限ってそんな…」
ソワソワと落ち着きなく行ったり来たりを繰り返すルナ。
「ルナ、何してんのお前?」
「おお!イチナ!?無事じゃったか!」
テンを受け取るときにみぞおちにダメージは喰らったがね…
あと、頭皮…テンめ、ハゲたらどうするんだ。
「あの女に何かされなんだか?」
本当に心配してたようで、俺の体に異常がないかペタペタ触って確かめてくる。
ルナの顔か徐々に赤くなっていく…男に耐性が無いってのにそんな事するから…
「だ、大丈夫のようじゃの…しかし、何故こんなに遅かったのじゃ?」
「そりゃお前、アイリン…アイナクリン王女に捕まってな?あの子動物好きだから」
まあ、俺は茶を飲んでただけだが。
「ああ…そういえば以前の謁見の後もそうじゃったのぅ」
あれ?知ってたんだ?
「まあねぇ、それよりあのエセ芸者…サリューナ・サリスはルナの親族か?」
結構気になってたんだよな。
「うむ…我のお婆様じゃ。我のサリスの姓はそちらから頂いておる。お婆様は男遊びが原因で王族から除名されての…その時は他国や市井の男たち30人以上に手をだしたそうじゃ。我も冒険者をやらなければサリスの姓なんぞ名乗ったりはせんよ…ハンカーテスなぞ目立って仕方なかろう?」
……まさかのお婆様。
「そのお婆様は旦那探ししてたが…」
「我には今現在、叔父叔母が合計50人以上おるんじゃ…確認したのがその数でもっとおるじゃろうがのぅ」
遠い目をしてそう語るルナであった。
「……考えなし…ネズミ算…世界はいずれサリスになる…」
世界中がサリス姓になるか、恐ろしいな。
サリューナは『時の魔女』の二つ名を持っていた…
という事はルナと同じく時の加護を持っているのだろう…お婆様って感じじゃなかったし。
どちらかと言うと捕食者とか肉食獣などの目だったなアレは。
だからこそ、余計に怖い。
まあ、そんなアホ事は置いておこう。
「まあ、サリューナは放って置いて良いだろ…それより飯だ。ルナも食うだろ?」
うむ、戴こう。そう返事するルナを伴い宿の中の食堂へと足を運ぶのだった。
マスターにテンの分の飯も注文して席に着く。
白は机の上に待機している…まあ、飯待ちだ。
「その頭にのっとるのが『ストレンジャー』の雛か?」
ルナがテンの事を聞いて来た。
周りの客が『ストレンジャー』と聞いてざわついた。
「ああ、名前はテンだ…今思えば何で冒険者に預けるのか不思議ではあるな」
冒険者は多かれ少なかれ危険が伴う。
少なくともマーチ君と一緒に居た方が安全な気がするんだがねぇ?
「番の雌が死んでおるのだろう?ストレンジャーの雄は戦闘に特化しておる。逆に雌は戦う事は苦手じゃが、器用で育児に特化しておるんじゃ。頬にエサを溜める袋が付いておったり、あの巨大な嘴で雛用の皿やストローを作れたりの?ああ、母鳥の大きさは父鳥より大きいからの?じゃから、ストレンジャーに限っては母鳥がおらねばその小さな雛を育てることが出来んのじゃ」
母鳥の器用さが半端じゃねぇ…
あのマーチ君よりデカいのに、ひよこサイズの皿って…ストローって…
俺では自分のサイズも作れんぞ?自慢じゃないが手先は不器用だからな。
「なあルナこいつも首輪みたいなの必要かね?」
流石にひよこサイズの硬貨は無い。
一番軽い一円玉は白につけたし、テンにはデカすぎる。
何より俺が作れない。
「む?要らんじゃろう。いくらストレンジャーじゃといってもこの先20年は無害な雛じゃからのぅ」
は?成長するのに20年かかるのか?
……あ、そういえば。
「そういや、モンスターってのは妊娠しないんじゃ無かったか?」
黄助が転生する前に腹がデカくなっていて思わず敵に聞いたんだったか?
「そうじゃの基本的に転生か自己増殖じゃな。あとは他の種族を襲って…とかの。ストレンジャーのこれは妊娠では無く自己増殖の亜種みたいなもんじゃ…自己増殖はそのままの姿で増えるがコレは雛にまで戻っておる。本来は最初から番の筈なんじゃがのぅ…恐らく母鳥は増殖が終わる前に死んだんじゃろうな…」
テンはマーチ君みたいに貫録が無いんだが…むしろ、アホの子だ。
転生と違って、そのままって訳じゃないんだなきっと。
しかし、自己増殖ねぇ。
妊娠できるかできないかがこの世界の一つのボーダーラインみたいだな。
非常にモンスターっぽい、バ・ゴブ達は自分達で繁殖できて会話もできるから、ゴブ族として認められているしねぇ?
…何か面倒臭いな。
話を終えると何時も通り、気づかない内に料理が並んでいた…マスター声位かけようぜ?
頭からテンを下ろし白の横に置いてやる。
さて、頂きます。
両手を合わせて食事と作り手に感謝する。
「み!」「ぴ!?」
「……白、テンの飯を邪魔するな」
テンが飯を食べている処を猫パンチで邪魔する白。
「ぴー!!」
産毛の羽を広げて白を威嚇するテン。
アホ毛もピンと真っ直ぐに立っていた…それ羽毛だよね?
素知らぬ顔で女将特製スープをチロチロ舐める白。
ええ~、アイリンと遊んでた時は仲良さげだったじゃねぇかお前等…
「白どうしたんだ?仲良くしてやってくれ」
声をかけると顔を上げた白の頭をコショコショと指で撫でてやる。
嬉しそうに撫でられる白。
「ぴ!」
横からテンの嘴が俺の指に突き刺さる…いてぇ…
撫でられるのを妨害されフシャー!!とテンを威嚇する白。
テンも羽を広げて対抗し始める…
「ハァ…喧嘩すんなよ、お前ら…飯の途中だろうが」
そう言いながら白を持ち上げスープごと俺の正面に持って来る。
テンはそのまま俺の横だ。
「ほれ、ちゃっちゃっと食う」
テンのアホ毛は立ったままだが自分の飯を啄み始めた。
白はテンと俺を交互に見てムフーと満足げにスープを食べ始める。
何だったんだ一体…こんな時はアイリンの動物と話せる力が欲しいと思うね。
飯が終わり白が構って欲しそうに俺を見上げている…
全く食後の一服も出来ないのか……今日はどの猫じゃらしにしようかねぇ?
そんな事を考えていると、食器が下げられ空いた机の上をテンが「ぴぴー!」と鳴きながら駆けまわる…落ち着けひよこ。
止まっては机を啄み、また走り出すを繰り返している…何がしたいんだ?
「…よし、白。今回はテンの確保だ、無傷でここに連れて来ること。遊んでこい、見てるから」
駆け回るひよこにウズウズしていたのかそう言うと白はテンを追って駆け出した。
この机は8人がけの長机、まだ何人か人が座っている。
駆け回るテンとそれを追う白に驚き目を白黒させているようだ。
「白たんが黄色いのを追ってる!ソルファ!見て白たんが捕食者になってるわ!!」
「まさか、ストレンジャーの雛?白という事はイチナさんか…」
今来たのか?捕食されても困るんだが…
アリーナンの声にテンが後ろを振り向いた。
「ぴ!??」
机を啄むのを止め急いで走り出すテン。
それを追う白は実にイキイキしていた。
人も集まり賭けまで始める、テンが白に捕まらずに俺の所に来れるかどうかで。
まあ、結局白がテンを咥えて持って来たんだが。
あれだけ慌ててたのに立ち止って、机を啄み始めた時は俺も目を疑った。
鶏は3歩歩くと忘れると言うが…進行形で危険が迫ってるのにそれはどうなんだろうな?
「ぴー…」
咥えられたテンはしょんぼりとしてアホ毛もしなしなに萎れていた。
コイツだけはリードを付けなきゃいかんのじゃないか?…サイズが無いが。
テンを捕まえた白は誇らしげだった。
「よくやったな白、それとテンはお前の弟みたいなもんだ仲良くしろよ?」
元がマーチ君なら雄だろう、きっと。
「…み!!」
ちょっと間があいたが元気のいい返事だ。
「イチナさんちょっといいですか?」
ソルファが話しかけてきた…何だ?
「明日、討伐クエストに出るんですが…ハーネとリンマードが抜けてちょっと厳しいんです。もちろん報酬は払いますから一緒に行きませんか?」
願ったりも無い事だが…
「ルナはどうする?Cランクの助っ人だが…」
「む?行くに決まっとるじゃろう?我はイチナのパ、パートナーぞ…」
恥ずかしいなら言うなよ。
「えぇ!?ファルナークさんがパートナー…すいません、Aランクに払える程の報酬は用意できないんです…」
「構わんよ、金に困っている訳でもなし…道中イチナにいろいろ教えねばならんしのう?」
そりゃ助かるねぇ。
「という事だ、ソルファ。白達も連れて行くが良いよな?」
自動的にパークファも付いてくるが…そういや、アイツの戦ってる処を見たこと無いな。
何か大人数に成りそうだな…
そうそう、白とテンは和解したのか白の上にテンが座っているという凶悪な組み合わせを見せてくれた。
その組み合わせを見たアリーナンの迷台詞を抜粋してみた。
「ハァハァ…今なら素手で魔王に勝てるわ!!」
ああ、お前ならやれそうだな。
「涎が止まらない…お腹一杯なのに!!」
まだ飯食ってないだろうが…
「ダメよ…私には白たんが…ああっ!!」
何処の不倫妻だお前は。
などなど、素晴らしい台詞のオンパレードだった…
ふぅ…久々に脱力兵器1号の威力をこの身で感じたな…
「……まだまだ…甘い…羞恥を捨てな…」
アレのどこに恥ずかしいという感情が見えるんだお前は。
「……内なる…愛を…解き放て…ろっくん・ろーる…」
言うだけ言ってサウスの元に戻るパー子…
流石、2号…俺にやる気の欠片も残してはくれなかったか…
何だろう、このメンバーで討伐クエストとか…もの凄く不安なんだが?
ソルファとルナが納得した処でお開きとして、明日に備え部屋に戻る。
そう言えば初めてのクエストのような気がする…
まあ、だからと言って緊張する訳ではないんだがねぇ。
どんなモンスターなのか、今から楽しみではあるな。
年甲斐も無くワクワクしながらベッドに入る。
枕の横には白とテンがお休み中だ…うむ、仲良くなったようで何よりだ。
…テンのアホ毛がZの形になっているが、もう気にしない事にした。