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猫守紀行  作者: ミスター
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新しい家族

パレードが終ったその日に俺たちはギルドから呼び出しをくらった…



「で、だ。パレードも終わった、紛れ込んだ魔族も逃がした…一応シャーニス捕まえて報告は終わったんだがね。何でまた俺達は城なんかに集められているのかねぇ?」

俺達、冒険者はギルドでは無く王城に集められていた。


「さあのう?今から説明が有るじゃろ…」

ザワザワとざわつく冒険者達。

お、アリーナンとソルファも離れた所に居るな。


動物タワーの頂点に君臨するドラゴン白を見てアリーナンは鼻血を出しながらも、こちらに向かい走り出そうとしていた……

ソルファはその抑えで精一杯の様子だ。


俺はアリーナンから目を逸らす。

すまん、ソルファ…頑張ってくれ。


「ほれ、そろそろ始まるぞい」

視線を前に戻す。


「……王様…ヒッゲ…メーン…」

ああ、髭面だな…だからどうした。


というかお前は冒険者じゃないだろ、何故いる?


「……まだ今日は…任務…してない…」

「心を読むな、そしてサウスに抱き着くのは任務じゃない」


無表情でorzのポーズを取るパー子。

その時黄助が白を乗せたままサウスから降り、鞭で優しくパー子の肩を叩いた…

黄助お前って奴は…


「仕方ない…パー子、ハウス…待て」

その言葉と同時…いや、パー子のパの時点でサウスに跨っていた…


「よし、伏せ」

勢いよくサウスにしがみ付きグリグリとマーキングし始めるパー子。

サウスには悪いが、これでしばらくは大人しいだろう。


「お主は何をしとるんじゃ…もう始まっとるぞ」

呆れ顔で見てくるルナ…すまん、遊び過ぎた。


「……なのだ。一部の者は聞いていなかったようだがな…降りる事も自由だ。これはクエストでは無い報酬も無い、有るのは達成感そして必要なのは愛だ。受けない者は立ち去ってくれ受ける者だけ残って欲しい」


すんません内容を全く聞いてなかったんですが…愛が必要って何だよ?


王の言葉を聞いて波が引くように去って行く冒険者達…え?そんなにヤバいのか?

ルナですら帰ろうとしている…待て、せめて内容だけでも教えて行け。


「アマサカ殿は、もちろん参加ですな?……一番可能性が高そうですから残って戴く」

うわぁい!強制参加だ~…くそっ!遊んでないでちゃんと聞いとけばよかった。


「む、イチナは参加か…すまん我は、あ奴と相性が悪いんじゃ、気を付けよアレは性悪じゃからの」


そう言って去って行くルナ…内容教えてけ…

アリーナンは、ソルファに引きずられていくし…知り合い居ねぇじゃねぇか。

パークファ?聞いてると思うか?


周りを見ると仲間内でくっちゃべってるのが数人、これは俺と同じで内容を聞いてなかった奴らだな。

期待に目を輝かせる奴らが数人…背中に巨大な斧を背負った傷だらけのゴリムキ冒険者が目を少年のように輝かせている様は、目を逸らしたくなるほどだ。


「ほうほう、これがアチキの旦那候補どすか…」


……何?…またか?


「彼女が『時の魔女』サリューナ・サリス様だ…サリューナ様、彼らは旦那候補では有りません。彼女の子を預ける『里親候補』です」

サリスだと?

ルナと同じ苗字…親族か?


それに里親候補ってお前…まあ、旦那よりはましだが。


「そうどしたな、残念どすえ…」

捕食者の目で俺を見るな…


サリューナは端的に言えば、異世界人の『芸者風味』だ。

着物っぽい何かを着て下駄っぽい何かを履いている…

あくまで何かであって着物ではないし、下駄でもない。

目鼻立ちはハッキリとしていて外国人が着物を着たらこうなります、みたいな感じである。


髪型は何だろうな…パイナップルみたいだ…

髪の色や瞳の色はルナと同じ色。

額にはルナよりも長い10cmほどの角が生えている。

腰には杖がある…ここいらが魔女っぽい…のか?


「おんし等に預かって欲しいのは最近亡くなった友人の子どす、男親だけでは育てられない種族でしてなぁ…ほんの50年ほど預かって欲しいんどす」


50年って…半世紀ですか?

それに何だ?また空気がピリピリし始めた……何か来る?


上か!?


俺は空を見上げる…鳥が居た。

「彼がアチキの友人の旦那、Sランクモンスターの『ストレンジャー』のマーチ君どすえ」


マーチ君…少々デカすぎやしないかね?

羽を広げた姿は20メートルは有るんじゃないか?

それに、ストレンジャー…旅人ねぇ、外見は決して渡り鳥には見えない。


なにせ…鶏だ。

羽と尾羽は長いが鶏だ。

赤い鶏冠に純白の体毛…それが空を飛ぶさまは違和感しかない。


これがピリピリとした感覚の元らしい。


ズゥン…と重そうな音を立て着地するマーチ君。

流石はSランクモンスター威圧感が半端ない。

そこに居るだけで思わず『刻波』の柄に手が行ってしまうほどの…鶏のくせに。


「くはっ!何だコレ…良いねぇコンナのも居るのかココは」


他の冒険者は威圧感に参っているようだが…あ、白達はどうした?


サウスはパークファを乗せたまま1歩も下がるまいと踏ん張っているし、黄助は白を守ろうと前に出て唸っている。

白は…何か地面が気になる様子、小さい手でコリコリと掘り返している。


…何かあんのか、ソコ?


「驚きどす…マーチ君を前にして、戦意を失うどころか笑みを浮かべるなんて信じがたい胆力しとりますなぁ」


「そいつぁどうも…で?子供を預かるとか言ってたが…テストでもあんのか?マーチと戦うとかよ?」

正直この怪獣に勝てる気がしないが、鶏に負けるのも癪だ。

やるなら一太刀…深い傷を負わせてやろうじゃないか。


俺が殺気を放つとマーチ君も目を細める。


「待て待て!?アマサカ殿は本当に聞いてなかったのだな…城が崩壊するから止めてくれ、何のために城に呼んだと思っているのだ…サリューナ様も止めてください」


「どうどす?この子で?……ほうか、なら決定どすな」

コイツ、アイリンと同じで動物と話せるのか?


「マーチ君の子はおんしに預ける事になりもした、大事に育ててなぁ」


……何でだ?


「アマサカ殿…もとよりマーチ殿の気当たりに耐えられる者から選出する予定だったのだよ。…説明したのだが聞いてなかったようだね」


「まさかマーチ君に殺気までぶつけるとは思わんかったどす。マーチ君も感心しとったよ?」


あれか?俺一人で空回ってただけか?


「……イチナ…恥ず…かしい…」

お前、大丈夫だったのか?

それと、区切りがおかしい。


そんな事を考えているとマーチ君が頭を縦に振った…

俺が恥ずかしいと肯定したのか?…俺、鶏肉大好きなんだよね……頑張っちゃうよ?


…む?違うのか?何度も首を振って…何かを落とそうとしている?

ピタリと動きが止まったと思ったら一際首を逸らし…前へ!!


「ぶほぉ!?」

俺のみぞおちに黄色い弾丸が突き刺さった。


痛みを堪えみぞおちに手を当てる…何かフカッとした…

弾丸を掴んで目の前に持って来る。


ひよこだ…縁日とかでよく見る手に乗るひよこだ。

え?これが子供?サイズおかしくない?


手の平に乗せて観察する。

手を啄むなエサは乗ってないんだよ。


ひよこのフォルム、ひよこの産毛…だが翼と尾羽は長めである。

そして、まるで寝癖のようにアホ毛が1本生えていた…

これ羽毛、だよな?何でこんな形状になるんだ?


コイツ飛べるんじゃねぇか?

試しに上に放ってみる。

マーチ君から殺気が飛んできた…この親バカが殺気を放つくらいなら預けるな。


「…ぴ!?」

懸命に羽をバタつかせフラフラと飛び俺の頭に着地。

抗議のために俺の頭皮を攻撃してくるひよこ…いてぇんだよ!?


頭から引きはがし再び手の平へ。

手をつつくのを止めろ。


「……コレを預かればいいのか?」

コレと言われたのが不服だったのか手をより激しくつつく。


「そうどす。名前はそちらで決めてもらって良いそうどすえ?これから50年よろしゅうなぁ……どうどすか?アチキの旦那はんにでも…」

捕食者はお断りです。


間に合ってます。と丁重にお断りした。

残念どすなぁ、と言ってマーチ君に乗るサリューナ…空を飛ぶ魔法か、良いなぁ…


マーチ君は俺…いや、ひよこをじっと見つめて別れを告げる…

ひよこも手をつつくのを止めてマーチ君を見ていた。


「ぴ!!」

その声に頷くマーチ君。

俺にはさっぱりだがサリューナは「良かったどすなぁ」などと言っている…

今の「ぴ」に何が込められていたのかちょっと知りたくなった。


マーチ君は空を見上げ浮かんでいく……は?

ああ、サリューナが魔法を使っているようだ。

ある程度まで高度が上がると羽を広げ嘴を開く…まさか鳴くのか!?


「ピヨ~~~~~~~!!!」


……ソコはコケコッコだろうが。

実に癪だが鈴の鳴るような美しい声だった…


飛び去るマーチ君を見ながらひよこの名前を考える。


「そういや、お前は雄か?雌か?どっちだ?」

一度だけ顔を上げるひよこ、すぐに手をつつく作業に戻る…何がお前をそうさせる?


生憎とひよこの雄雌なんぞ分かる訳がない…もう思いつくままいくか。

今しがたマーチ君が飛び立った空を見上げる。

「……天、お前の名前は『テン』な」

色で付けると黄助と被る。


「…ぴ!」

顔を上げて返事するテン。

それじゃぁ、戻るとしましょうか。

存在を無視されていた王様に挨拶しその場を後にする。


パークファはサウスが、黄助と白はリュックに。

そしてテンは俺の頭に…つつくなよ?

シリアスが裸足で逃げていく布陣だな。


そんな一人動物園の俺を引きとめる人物が居た。


「イチナさん!あの…その…お、お茶でもいかがでしょう?」

アイリン、実に嬉しいんだが後ろでマーミナがものっそい般若顔で睨んでるんだが。


「だ、駄目ですか?」

般若が殺気を放ち始めたな…


「ああ、時間もあるしお邪魔しようかねぇ」

はい!と嬉しそうに歩き出すアイリン…そっちは練兵場ですよ?

ああ、動物と戯れたいんだな?今回は1匹増えたからな楽しんでくれたまえ。


俺は般若に睨まれたまま練兵場へと足を運ぶのだった。


あ~煙草すいてぇ…


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