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猫守紀行  作者: ミスター
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パレード

「あ!お帰りイッチー!それとシショーも!」

宿の前を掃き掃除していたマルニに出迎えられた…シショー?


「ただいまマルニ……一応聞くがそのシショーってのはコレの事か?」

「……コレじゃない…パー子……だ…」

…気にいったのか?


「シショー、イッチーに付けてもらったの?…私も!私も欲しい!!」

…マルニなんて短い名前をどうしろと?


「……じー…」「ジー」

二人してこっち見んな。


「……ハァ、じゃあ、ルニな?」

マを取っただけである。

この俺にセンスを求めるな。


「むー、仕方ないそれでいいや!」

サウスちゃん達もおかえりー!!とサウス達の方へと興味が移ったマルニであった。


仕方ないとか…泣くぞ?


「ハァ…おい、パークファ「……パー子…」…どんだけ気にいってんだよ…さっさと来いよ?白達もな?マスターに飯頼んどくから、先行ってんぞ」


子供は染まりやすいというべきか…染まらなくてもいい奴に染まった気がするな。

……さっさと食堂に向かおう、何か疲れた。



「マスター飯頼む、お任せで。それとコレをサウスと黄助用に調理してくれないか?」

俺は飯を頼むついでにマスターに竜の肉の調理も頼む。


「ハハ、分かりました。それとコレは…少々時間がたって魔力が抜けてますが……ドラゴンの肉ですか?ご自分でお食べにならないので?」


美味しいですよ?と言ってくるマスター、少々惹かれるが…


「ちょっと遅れたがスタンピードの時に活躍してくれたご褒美なんだよ。頼めるか?」

分かりました、と厨房に引っ込んでいくマスター。


「魔力が抜けてるって事は、喰っても階位は上がらないかもしれんな…まあ、いいか」


白用に取ってきた竜の血…どうしようかねぇ。

一応舐めさせてみるか?


「まあ、嫌がったら捨てればいいか…」

もしかしたら、飛んだり、火とか吹けるようになるかもしれん…ちょっと楽しみだ。


そんな事を考えているとサウスに跨ったパークファと黄助を抱え、白を頭にのせたマルニが入って来た。

おい、パー子そこは降りて黄助たちをサウスに乗せて来いよ…

いや、先に行った俺も悪いがね?


サウスと黄助は何時もの様に食堂の端の方に陣取り食事を待つ。

黄助を置いたマルニが白を持って歩いて来た。


「イッチー、何で先に行っちゃうの?駄目だよ白ちゃんを置いて行ったら」

よいしょ、と隣に座るマルニ…


「ああ、すまんな。でも、先に飯頼んどくって言っといただろうよ」

「むー、そうだけど…」

何だ?何が問題だっだんだ?


「ハハハ、マルニはイチナくんによく懐いてますね。ハイこれ今日のお勧めです」


うおっ!?

「マ、マスターか…本気であんた何者だよ…全く気付かなかったぞ?」

すでに料理が並んでいるだと!?

…マスターが暗殺者なら死んだことすら気づかないだろうな。


「…私はしがない食堂の親父ですよ。それと、サウス達にはもう持っていきましたから。ごゆっくり」


マスターなら魔王だって暗殺出来るんじゃねぇのか?

いつの間にかマルニの分と白の分も並んでるし…


そんな事を考えているといつの間にかサウスと黄助がこっちに来ていた。


「キュ~ン?」「がぅ?」

自分の皿に盛られた料理に戸惑って食べて良いか聞きに来たようだ…

チラリとそちらを見ると…うむ、俺のお勧めより豪華である。


「食っても良いぞ、アレはスタンピードで頑張ったご褒美だからな。ちょいと遅くなったがね?」

「ガウッ!!」「がぅ」と各々返事し食事に戻る。

うん、嬉しそうに食べてくれてるな…よかった。

「み~?」

「あ~、白には一応『血』を取って来たが…要るか?」

正直、俺なら断る。


「……み」

どっちだ?分からんぞ?

「み!!」

…分からん、取りあえず出してみるか。

マスターに適当な皿を提供してもらいそこに『血』を入れる…

しっかし、子猫に舐めさせる物じゃねぇよな…コレは。


白は血の入った皿に顔を近づけチロリと一舐め……白を光が包んだ。


食堂の客は何事かとこっちに注目している…まずったな、ここでやるべきじゃなかった。

これで竜の鱗や翼が生えたら中々に面倒な事になるかもしれん。


光が収まりそこに居たのは……?


ん?

「み!!」

着ぐるみ…そう、竜の着ぐるみを着た白だった…おかしい、鎧白の方が強そうだ。

あれか?魔力が抜けたのが影響してんのか?


何と言うか…翼はなんだコレ?ゴムに近い何かで飛べそうもない。

体はまあ、デフォルメした竜のぬいぐるみの口の所から白の顔が出ているため間抜けであるが愛らしい。

…おい、背中にジッパーが付いてんぞ?脱げるのかコレ?


防御、攻撃ともに0のドラゴン白の完成である…

もう、白の変身はファッションとして捉えた方が良いな。


「わあ~!白ちゃん可愛い!!」

マルニは嬉しそうだな?

白は動きにくそうだが…あ、こけた。


「君、その子を売ってくれないか?金は幾らでも出そう」


「あ?テメェ今、何て言った?」

白を見て和んでいるとバカが声を掛けて来た…家族を売れだと?

殺気が漏れる前に他の客からの声が聞こえた…


「何を言ってるんだ!白たんは『白守』が居てこそあの無防備を晒すんだぞ!?」

「『白守』に何言ってるんだ!?消されるぞ!?バカな事は止めろ!!」

「そうよ!白ちゃんは皆のアイドルでしょう!?何独り占めしようとしてるのよ!『撲殺魔道』が来るわよ!?」

「俺は黄助の方が良いけどな…あの何が有っても動じない処とか憧れるぜ」

「いや、やっぱりサウスだろ?あのギルドに行けない時の顔とか…惚れたね」


……すまんちょっと待て、何で俺の二つ名が広まってるんだ?

それと『撲殺魔道』ってのは、一人しか思い当たらないがアリーナンの事か?

アイツはナマハゲか何かか?

いやまあ、確かにちょーとキツメのお仕置をしてやろうかとは思ったが…

流石に消すまでは行かないぞ?


しかし、地味にサウスと黄助にもファンが居るんだな…何か濃そうだが。


「ハァ…もういいや。お前の面を見るのも不快だ。ここの客に感謝しろよ?アホウが…」

そう言って席を立つ。


マルニの頭を一撫でし、サウスと黄助に部屋に戻るな?と告げる。

ドラゴン白を机の上から拾い上げ俺は部屋に戻るのだった。



部屋に戻り窓を開け煙草に火を着ける…

窓枠に腰掛け紫煙を吐き出す。


「あ、そういや、明日はパレードが有るんだったか?…面倒な事がなきゃいいんだがねぇ」

まあ、勇者のパレードの地点で十分に面倒なんだが。

そっちには、巻き込まないで欲しいもんだ。

俺は一介の冒険者でしかない、斬った張った出来ない相手は苦手なんだよな。


「……寝るか」

白がベッドに登ろうと必死にジャンプしてるのを見て煙草を消して寝床に向かう。

いつの間にか竜の着ぐるみは消えていた。


白をベッドに上げてやると枕の横で丸くなった。

「お休み白」

「み……」

白を一撫でして、窓に戻る。


「で?何の用だよ…お前が居ると寝れねぇんだが?」

ガナが気配を消して部屋の隅に立っていた…

思いっきり視界に入るから邪魔なんだよお前。


「おや?お気づきでしたか?寝てもらって構いませんよ。私が用が有るのはパークファですから」

なら出てけ、何が悲しくて暗殺者の居る部屋で寝なきゃならんのだ…

パークファ?アレは論外だ。


「パークファなら下の階でサウスと戯れてんだろうよ…なあ、ガナ返品は利くか?」


「私はそのことについて最終確認をしに来たのですよ。明日、勇者様達が本国に帰りますからね。帰ったら勇者様達は魔王討伐の旅に出るでしょう、今度は私達暗部では無くまともな護衛が付くでしょうが」

それを俺に聞かせてどうするんだ…そっちで勝手にやってくれ。


その時、部屋のドアが開きパークファが入って来た…


「……堪能…満足……寝る…」

そう言って『ベッド』に潜り込むパー子…おい。

「何してやがる、お前がソコで寝たら俺が寝れねぇだろうが」


「……大丈夫…床…良い…」

断片的過ぎて分からねぇよ。


「パークファ、最終確認と今まで怠った報告を聞きに来ました。起きなさい」

え?コイツ報告すらしてないのか?

その声にムクリと起き上がるパークファ。


「……?……」

あ、コイツ分かってない。

何が分かってないって、多分ガナの事も、だ。


「……!…マーシー…やほー…」

誰だそれは。

ガナは眉間を揉んでいる…そうだな、そうなるよな?


「パークファ。私の名前と任務を行ってみなさい」

「……マーシー・オカシラ・ガマ…任務は…サウスに1日抱き着く事…」


お頭がミドルネームになってる…

もう全体的に違う、こいつはマシマス・ガナだ。

そしてお前の任務は監視で、ソレはお前の願望だ。


もう、アレじゃないか?最終確認とか無駄じゃないか?


「おいガナよぅ…確認、要るのか?」


「……これは、無駄ですね。しかし、中々に衝撃でした…まさか隊長の名前すら憶えてないとは…アマサカ様この子をよろしく。口封じする意味すら無さそうですし…」


ハァ…返品は無理か、仕方ない。


「あいよ、適当にやるさ「……今から?…H…」…パー子、伏せ」

ボフッとベッドに伏せて動かなくなるパークファ。

…寝息が聞こえてきた、寝たのか?


「見事に調教してますね…では、お任せしました」

そう言って俺の座っている窓から出て行くガナ…


さて、俺は何処で寝ようかねぇ…まあ、結局床で寝る事にしたんだが。



パンッ!パンッ!というクラッカーのような破裂音で目が覚める…

白が俺を起こそうと服をよじ登っているのが目に入った…破裂音で固まっているな。


パークファは…居ないなサウスの所か?


「おはよう白」

「み~…」

なんだ?起こせなかった事が不満か?愛い奴だな。


ん?……何か空気がピリピリしてる?

嫌な感じだ…

白が落ちないように支えながら起き上がる。


「イッチー!パレード!パレードだよ!まだ寝てるの!?」

バンッ!とドアを開けてマルニが入って来た。


…さっきのは気のせいか?


「あ~、はいはい。起きたよ、今な…おはようルニ」

きょとんとした顔のマルニ…覚えてないのか?


「…?あ!私の事だった!おはようイッチー!パレードだよ!勇者様達が見られるんだって!今日は、パパもお母さんもお休みして皆で見に行くからお客さん起こしてきなさいって」


なるほど要は店を空けるからさっさと出でけって事ね。


「あいよ、準備したらすぐ出るって女将さんに伝えてくれ」

分かった~!と走り次の部屋へと向かうマルニだった。



準備を終え下の階でサウス達と合流して外に出る。

そのまま大通りまで出てくると人でごった返していた…


断続的に鳴る破裂音に我慢できずに白はドラゴン白となっている。

確かに竜の着ぐるみなら耳は隠れるから多少は大丈夫か…


現在、動物タワーの上にぷるぷる震える竜が君臨している。


「しっかし……こんなに人が居たんだな、流石『王都』って処かねぇ」

どの人も一目勇者様を見ようと出て来たのだろう。


ここぞとばかりに稼ごうと屋台を出している人も居れば、パフォーマンスで稼ごうとピエロや勇者の紙芝居何かも有る…

これだけ人が居れば当然…


「づおぅ!腕!!腕が折れる!!」

スリもいる。


「アホウ、狙うならもっと金持ちを狙え…」

ゴキリと関節を外してやった、俺って優しい。


ほんぎゃーー!!と叫びながら逃げるスリ。


む?周りから5メートルほど距離を取られた気がする…

まあ、いいかこれで歩きやすくなったしな。


「………イチナに…スリは…無理無茶無謀…」

右手に蒲焼、左手に焼き鳥を装備して現れたパー子…満喫してるな。


「そうじゃのぅ、今のはかなりの手練れのスリじゃったぞ?」

……何でフル装備なんですかね?まあ、俺もなんだが。


周りを見渡すと結構いる…完全装備の冒険者が。

「ルナ、何か起こるのか?」


「さあの、朝起きたら精霊がざわついておったからの…他のも同じような物じゃろうよ」

まあ、俺も嫌な感じがしたから何時も通りの装備なんだがね…


「我はこのまま見回って見るつもりじゃ、イチナはどうする?」

見回りね…まあ、パレードに興味も無いしな。


「ああ、俺も見回って見る…ルナ、パーク「……パー子…」…パー子頼んでもいいか?」

ルナがこたえる前にパー子が答える。


「……マイ…ホーム…サウス…」

取り敢えず、だ。

サウスはお前の家じゃねぇ。


「ハァ…すまんルナ忘れてくれ。コイツは俺が連れてくわ…力抜けるけどな」

起こるかどうかも分からん事だしな…


「むぅ…仕方ないのぅ、気を付けての?」

あいよ、と返事してルナと別れる。

残ったのは両手を食べ物で塞がれたちびっ子だけ…


「取り敢えず、そのベタベタの状態でサウスに触るなよ?」


「……うぃ…むしゅー…」

そう言って蒲焼を齧るパークファだった。


パレードを横目で見ながら見回る俺達。

勇者の姿が見えた瞬間、一際大きな歓声が上がった。


この国の騎士に囲まれて中央の屋根のない大きめの馬車から勇者達が手を振っていた…


騒がしい大通りから少し外れた所…人気のない裏通りから声が聞こえる…


「アレが今回の勇者か…中々お目出度そうな顔だな…」

「そうだな、どうする?……仕掛けるか?」


おいおい、随分と物騒な話じゃないか…


「いや…奴等には討伐の旅に出てもらう。途中で死んでも仕方ない、自分が弱かっただけの話だ」

「ふ~ん、面倒臭いな…ヤッちまえば良いのに」


「ここで仕掛けると誰がやったかばれる…ただでさえ勘のいい冒険者は油断なく見回っているのだ、2人では作戦も練れん」


反勇者勢力って処か?……朝感じたのはこれか?

まあ、聞いちまったしねぇ…


「よう、お二人さん。何でそんな所で見てんだ?もっと前に来たらどうだよ」

そこで初めて二人の姿を確認した。


2人は若草色のローブを目深に被り、その姿からの情報は体格くらいしか無い。

両方共、肌の露出を徹底的に避けている…

一人は細身で手には黒い革の手袋をしている。

もう一人は大柄でローブを着ていても分かるほど筋肉質だ、こちらは手にガントレットをしていた。


「見ろ、これが勘のいい冒険者だ」

「へへっなるほど、確かに…お前一人かよ」


いんや、サウスやパークファ、黄助に白。

まあ、戦力になるのは2匹だけだが、ちゃんといますよ?


「どこに目ついてんだよ?居るだろうがちゃんと」


動物タワーと左手に焼き鳥を握りしめたちびっ子を指さす。

白はまだドラゴン白のまま、ぷるぷるしてる…

そろそろ花火も終わるだろうから、もうちょっと我慢しろよ?


「………外道か貴様」

白とパークファを見て、細身ローブが罵倒してきた。


「まず、お前の事を知らねえよ…で?ここでやるか?せっかくのパレードに水を差すのは戴けないがねぇ」

俺的にはどっちでもいいが、朝の感覚が何なのかは知りたいねぇ。


「ここで戦うと他の奴等も集まってくるか…まあ、いい帰るぞ」

「はあ!?いいのかよ!聞かれたかもしれないんだぜ?」


ええ、ばっちり聞いてましたよ?


「構わん。もとより、この格好で長く居れるとも思っていなかった。元々確認に来たのだ、問題は無い」

「わかったよ『ジャン』」


ジャン?……コイツ、ルナから逃げた魔族か。

そうか、だから肌を隠してるのか…確かに最大の反勇者勢力だわな。


どうするかねぇ…

ここで仕留めて置いた方が面倒は無さそうだが……ヤルか。


俺はチラリと黄助にアイコンタクトを取る。

俺の意図が分かったのか上に乗る白をパークファに放り投げた。


「み!?」

反応して片手で白の胴体を鷲掴むパークファ…もうちょっと何とかならんかね?


その間に魔石を取り出しバックルのジョニーに押し込む。

「む?…貴様何をしている?我々は引くと…」


「すまんな、ぐっ!…お前さんたちが『魔族』じゃなきゃそれでもよかったんだがね…」

バックルから魔力が補充される。


サウスが黄助の首を噛んで持ちジャン達の退路を塞ぐべく反対の通路へと放り投げた。

着地と同時に若虎へと変わる黄助。

何時でも魔法が撃てる位置に移動し毛を逆立て戦闘態勢に入るサウス。


胴体鷲掴みから竜の着ぐるみの羽を持つ事にしたパークファ。

鷲掴みにされ少々ぐったりしている白……おい、大丈夫なのか!?


「……いつ気づいた?露出は避けていたが」

まあ、だろうね?


「以前ガネ…だったか?ソイツが漏らしたんだよスタンピードに関わった魔族の名前をな、覚えててよかったぜ…」


「お前がガネを殺した冒険者か…よかったなジューデ、兄の仇だぞ」

「…お前が…殺す!!!」

おおぅ、まさか弟だとは…でもまあ。


「戦場に出たんだその覚悟は…無かったかもしれんなアレは」

ガネの最期を思い出して尻すぼみになってしまった…


ジューデはローブの中から黒い刀身の剣を取り出す。

俺に殺気が突き刺さる。

そう睨むな、相手は俺が務めるからよ。


俺は煙草を取り出し火を着ける…さて。


「やろうか?」

その一言でジューデは俺に向かって突っ込んできた。

俺も一匁時貞を抜き迎撃する。


「ちっ!ウィップティガーにマギウルフか…厄介な」

ジャンは冷静に『逃げ』に徹している。

サウスの魔法に同じような風の刃をぶつけて相殺している事から『目』と『反射神経』は良いようだ、黄助の鞭も器用に逸らし躱している…退路を探しているのか?


「よそ見してんな!!テメェの相手は俺だろうが!!」


ジューデは剣撃に加え、イメージ魔法で闇を固め槍を作り放ってくる。

剣は受け流し、槍は叩き落としながら隙を窺う…

あんまり時間を掛けてられんのだよな…黄助的に。


……よし、攻めに転じようか。


ジューデが剣を振り、戻すと同時に深く踏み込む。

右中段から胴体を柄で殴りそのまま斬撃に繋げ、返す刀で腕を落とした。


「があああ!!くそが!」


腕を落とされ離れるジューデ…

ちっ腹は斬れなかったな…鎧を中に着込んでいたか…

感触がおかしかったから、返す刀には魔力を通したんだが…正解だったな。


落ちた腕の肌色は青、これで肌色とかだったら笑える。

そうだったら、俺はただの危険人物でしかない。


ガヤガヤと大通りの方が騒がしくなってきた誰か気づいて援軍でも呼んでくれたかね?


「ちっ!まずいな…ジューデ!ここでやられる訳にはいかん!何とか引くぞ!」

「コイツを相手に引く?冗談じゃねえ!!」

ジャンは今更ながらに仇と言った事を後悔し始めた様子。


そんな時、現れたのはルナ…では無く勇者様御一行(北条除く)だった。

…おい主賓、パレードはどうした。


「貴方達こんな所で何を……キャア!?う、腕!?貴方大丈夫ですか!?すぐに応急処置を…」

お前がこんな所で何してんだよ…それとそいつは魔族だ。


「おい、委員長近づくな。そいつは魔族だ」

刀を抜いたままの俺を見てキッと睨んでくる。


「魔族だから何ですか?怪我をしている人を治しちゃいけないんですか!?」


「そういう事じゃねぇよ…お前等も止めろよ、こっちは時間が押してんだ邪魔すんな」

差別は駄目だよ甘坂さん…と言う巴。

止めるどころか俺の前に割って入る。


ちっ!黄助のタイムリミットだ…流石にサウスだけでは止めきれん。

もう一つ魔石を使うか?…いや、勇者様が居れば同じ事か…

「サウス、黄助を回収……おい魔族、もう好きにしろ…逃げるなり勇者を殺すなり、な」


刀の血を払い鞘に納める。

ジューデの治療をしていた委員長は「え?」と声を上げるももう遅い。


「ハ、ハハまさか勇者に助けられるとはな……ジューデ行くぞ、態々この国のメンツを潰してまで我々魔族を助けてくれたんだ。命を貰うのはしばらく待とう」


国のメンツねぇ…確かに良かれと思って催したパレードで、主賓が途中で居なくなるってのは戴けない。


「おい、テメェだけは俺が殺す!絶対だ!!」

相手してやるよ、いくらでもな。


ジャンとジューデはそう言って裏路地に消えていく…


嫌な沈黙が訪れる。


「……ん…終わった?…」

お前今まで何処に…ああ、蒲焼買に行ってたのか…白は頭の上に乗せている。


「ハァ…終わったよ、逃がしちまったがねぇ……止めろよ、ガナ」

本当に何で来たんだよこいつ等…

俺は気配を消して近づいてきたガナに問う。


「申し訳ありません、馬車から戦闘が見えたようで止める間もなく……お一人は残られたので何とか収拾は付けました」


ガナが心底、申し訳無さそうに謝る…

北条も偶には役に立つな。


「おい、ガナ。アイツ等言ってた事を伝えるぞ?」

ガナは顔を顰めハイと答えた。


俺は戦闘に入る前に立ち聞きしたことをガナに伝える。


「まあ、そういう事だ。今度の護衛はしっかり選ぶこったな…面倒事に巻き込むなよ?」

「……そう、ですか。貴重な情報ありがとうございます」


しっかし、あいつ等があのピリつく感覚の正体だったのか?

何か違う気がするんだよなぁ…


「あの、ごめんなさい。まさか私たちのためにだったなんて…」

「ごめんね、甘坂さん。あなたの事を誤解してたみたいだ」

「すいません」

ん?委員長達は何を言ってるんだ?

そして最後のツインテール君、初めて声を聴いた気がするぞ?


「いや、俺はあの細身を残しておくと面倒だと思っただけでな?」

お前等の為では無いんだ、そんな目で見ないでくれ。


「……ツ…ンデ…レ…」

違ぇ、そして区切りがおかしい。


「ハァ…もういいや、それで…お前等さっさと戻れよ」

俺の気力は溜息と共に消えていく。


パレードにもどった委員長達。

その後は、滞りなく事は進み勇者達は帰っていった…

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