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猫守紀行  作者: ミスター
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帰還そして脱力兵器

「ねえ?何してんの、お前…」

俺がアリーナンを俵抱きにしてテントを出て目にしたものは、伏せたサウスとそれにうつ伏せに乗り顔を埋めるパークファだった。


「……?…終わった?…」

顔を埋めたまま答えるパークファ…せめて顔くらい上げろ。

濃い茶色のショートヘアーが風になびく…?

あ、コイツ頭巾外してやがる。


「ああ、終わったよ。お前に聞きたい事もある。顔を上げてくれないか?」

俺を狙った時、勇者に反応したという事は勇者の誰かが狙ったという事だろうし。

北条以外に思いつかんが…


「…駄目……今ライバルの感触を覚えてる最中…」

パークファはぐりぐりとサウスに顔を押し付ける。


木から落としたサウスをライバルと認定したのか?

それで何故こうなった?

…サウスは迷惑そうに顔を顰めている。


コレはしばらく終わりそうもないな…


先に俺の腹の治療に行くか…ソルファも迎えに行かなきゃならんし。


「ハァ…サウス、そいつ離れそうもないからそのまま行くぞ?」


「ガウ……」

サウスが立ち上がるとパークファは色んな所に這わせていた手足を胴体のホールドへと移行し落とされる事を防ぐ…ダッコちゃんかよ。



「あ、イチナさん。ようやく治療を受ける気になったんですね!」

治療用のテントに入るとソルファに見つかりそんな事を言われた。


「元々、報告を終えてから来る心算だったんだよ…受ける気がないとは言ってない」


俺を担当する男の治癒術師はかなり疲労困憊の様子…

頬がこけて、顔色も悪い…

目にクマまで出来ている…


「おい、先生…あんたの方が治療が必要なんじゃないのか?」


「ハ、ハハ…よく言われます。小規模のスタンピードだと連れてくる治癒術師が少ないんです…それが今回は被害が大きくて、増員が来るまで大変でしたよ」

そう言いながらも治癒魔法をかけてくれる。


「僕の患者は貴方で最後です。魔力も無くなりブースターアクセも壊れましたから。あとは増員の方たちにお任せして仮眠を取らせていただきます…」


「ああ、是非そうしてくれ。お疲れ様」


「ありがとう…はい、終わったよ。あと、大分血を流しているみたいだから、しっかり食べてよく寝る事ですね」

腹の傷は跡形も無かった…すげぇな。


治療が終わり外に出る。


「治療終わったみたいですね?」


そこにはマシマリ・ガナが居た。

ルナやソルファに睨まれながらも自然体で立っている。

あ、アリーナンは気絶してるからソルファに預けてある。

パークファは…変わらずサウスに顔を埋めているな。


おお、一瞬ガナが微妙な顔をしたぞ…

パークファは監視かと思っていたが、まさかホントに押し付けられただけか?


「何しに来た?…まあ、お前に聞きたいことも有ったから好都合だが」


「聞きたいこと?何ですかね?答えられる事なら何でも聞いてください」

そうかい、答えられる事ならねぇ?


「バーマックとハフロス「もう、問題ないですよ?」…問題ないってのはどういう意味だ?」


「そのままですよ、我々は調べた事実を『善意』でお知らせしただけ。それを勘違いして脅しと取ったのはあちらですから。全く困った物ですね?」


あのバーマックのおっさんが俺に頭を下げるほどの情報を『善意』ねぇ?

その調べた事実ってのを脅しと聞こえるタイミングで言ったこと自体『悪意』に満ちているんだがね?


「なら手柄を奪って何が目的だ?」


「実はですね、わが国で勇者と言えば聖人の勇者様なのですよ…パレサートではガイア商会と有名ですよ?それに代わって逆星の勇者様は特に目立つことも無く訓練や用意されたモンスターと戦う日々でしたから知名度が無い。北条様は悪評が目立ちますが…」


「だから、他国で魔族を倒したという実績が欲しかったと?まるでこの国でスタンピードが起こることを知っていたみたいだな、お前」


「ええ、知っていましたよ?我がパレサートには予知巫女がおりますので」


予知巫女?


「貴様!知っておって何故、王にしらせなんだ!!」

ルナの意見はもっともだな。

知らせてりゃ、2000人の犠牲を減らせたかもしれん。


「もちろん知らせましたとも。だからこそ小規模のスタンピードに5000人もだしたのでしょう。知らせないで外交問題にしたくありませんしね?」


あ~、確かに1000に対して5000は多いなとは思ったんだよな。

「その予知巫女ってのはどこまで分かるんだ?魔王復活が分かってたから勇者召喚したんだろ?」


「ええ、その通りです…ただアマサカ様はイレギュラーのようであなたが関わる事に関しては見えなくなるそうです。ですからどんな人物かを確かめるのと監視も任務に入っています。パークファは監視要員なのですが……」

そりゃそうだ、神様が白を拉致る時について来た余計な物だからな、俺は。


今までの会話の中で一度も顔を上げていないパークファを見るガナ…


「………満足…違った…感触覚えた…」

お前、楽しんでただけなのかよ!?


顔を上げたパークファは日に当たってない白い肌なのに頭巾の目出しの部分だけが日焼けしてクッキリと跡が残っていた…

瞳の色は焦げ茶色。

満足と言いながらも無表情を貫くソレはガナに通ずるものがある。

美少女?美少年?…どっちとも取れる中性的な顔立ちだが、行動が自由すぎる。


間違いなく、監視役には向いていない。


「…?…お頭?……監視してる…だいじょぶ…」

サウスにまたがったまま、ガナに向かいサムズアップ。


「人選を間違えましたね…」

ガナが表情を歪める…貴重なシーンかもしれない。

そうだろうさ、俺ですらそう思う。


「て事は、だ。俺を暗殺しようとした『勇者』は居ないって事か?」


「ええ…パークファの行動は今一把握できませんから、適当に依頼者をでっち上げたんです。もちろんその場で殺される事も可能性としては有りましたが…あなた方より先に北条様に報告していただかねばなりませんので。その時間稼ぎをかねて、ですね」


まあ、確かにコレの相手で時間を微妙に使ったが…

正直本職が来ていた方が時間稼ぎになったと思う。


「ああそれと、北条様は手柄を奪う事以外には無関係ですのであしからず」

一応あの件には加担してんだなあのアホウは。


「知名度だけ上がってもアイツ等は『勇者』だ。張りぼてじゃ話にならんぞ?分かってんのか?」

魔王退治に張りぼてじゃ困るんだがね?


「……ええ、分かっていますよ」

本当かねぇ?


「……まあ、いいさ。お前の国のパレサートが本気で魔王を退治する気が有るんなら、先ずは有能な師でも探すこった…俺は御免だがね。北条だったか?この前の時、剣を受けたが基礎すらサボってんじゃないのかアレ?」


俺の監視よりアイツの監視をした方が良いと思う。


「分かりました…探してみますよ。それでは失礼します」

そう言って去って行くガネ…パークファはサウスの上から手を振ってお見送りしていた。

しかし、サウスから降りる気配はない…サワサワと毛並みを楽しんでいるようだ。


「そろそろ、戻るか?」

と言ってもこの陣地にはハフロスに連れてこられたからここが何処なのか俺は知らないが。


「そうじゃのう、ここにおっても仕方ないしの」

ルナが歩き出すので着いていく…


「あっ!ちょっと待ってください!?…ほらアリー起きて!」

まだ、気絶してたのか…


「俺が抱えてく。黄助と白を頼むな?」

そう言って黄助の入ったリュックを渡し白をリュックのポケットに入れる…こら、暴れるな。

み~!み~!と暴れ中々入ってくれない。


「白くらいでしたら手で持ちますよ…ふふっ可愛いですよね白」

ほらおいで?と伸ばされた手に収まる白。


ああ、可愛いな…


「?…どうしたんですか、イチナさん?」


「あ~いや、何でもないさ。」

流石に見惚れてたなんて言えないだろう?

俺はアリーナンを肩に担ぐ。


「イ、イチナさん流石にソレは……」

何故そんなに引いているのか分かりかねるな?

アリーナンの正しい持ち方だろう?コレは。


ルナに付いて行って、ここに来た時に出た場所へ向かってみようか?



そこには結構な数の冒険者たちがそろっていた…


「マーニャ、俺等の帰りはどうするんだ?まさか徒歩か?」

マーニャを見つけ問いかける。


あの時ギルドに居た連中はココに飛ばされてきたがその他の奴らはどうなんだ?

明らかに数が多いんだが?


「ああ、イチナさん。今ギルドに居なかった、参加メンバーの確認中です。それが終わったらギルドマスターが結界を張って転移という事になります。あぶれた人は自力で帰って来てくださいって事ですね。」


しばらくは待ちか。


「あと、支払は明日になりますし。魔石の買い取りは明後日以降になります。単純に混雑するのと事務が追い付かないんです。了承してくださいね?」


まあ、魔石を売るのは別にいいかなと思っているし。

支払さえきちんとしてくれれば問題ない。


ブースターアクセってのがどんな物か早く見たいからさっさと帰りたいんだがね…


そんな事を考えていると結界が張られ、何の合図も無く『跳んだ』


「ぐおっ!?臭ぇ!?……サウス!黄助!無事か!?」


「キャウン!?」サウスが臭いにやられたようだが、何処に居るか確認できない。

ギルドはすし詰め状態だ…


ハフロスの声が響く。

「窓の近くの人はすぐに開けてください!!風魔法が使える人は臭いを外へ!!!入口の近くにいる人はすぐに出てください!!」


「うお!臭っさ!?」「ヤバいだろコレ!?」「ああ…濃い香り…スーハー」


喧々囂々の地獄絵図。


臭いに慣れたはずの冒険者の叫び声…ソレほどの物だった。

もうこの建物立て替えたほうが良いんじゃないか?

臭いが染みついているし、さらに自分たちの汗の臭いでひどい事になっていた…


それと、最後の一人は確実にマーニャだろ。


今までいた戦場よりも戦場らしいギルド内であった。


ようやく人が捌けてきた…サウスは何処だ?

黄助とサウスは白に鼻を寄せ、しのいでいた…

サウスはダメージがデカいのか伏せの状態だが。


それとパークファ、サウスから降りなさい。


「キュ~ン…」「がぅ…」

元気のないサウスと黄助。

「み!」

シャキーン!!と四足で立つ元気な白。


「……しゃきーん……」

くちで言ってサウスに抱き着いたままのパークファ。


俺はパークファをサウスから引きはがす。


「……あ~れ~~…」

…コイツ、どこでこんな知識を仕入れてくるんだ?


「サウス、黄助。息止めろ、出るぞ」

黄助と白を拾い、サウスと出口に向かう。


パークファ?ちゃんと付いてきてるよ。

トコトコと足音させてな。


ギルドを出でやっと一息ついた。

「なんだろうな…必ず行かなきゃならんギルドに、これ程行きたくないと思うとは…」


「全くじゃ…ひどい目にあったわ…これなら歩いて帰った方がましじゃった」

「そうですね…まだ鼻に残ってますよ」

「マーニャあの中で深呼吸してたわ…信じらんない」


いつの間にか近くにルナ達が来ていた。


「さて、どうする?俺的には、もう宿に向かって休みたい所だが…」


ブースターアクセも気になるんだが。

疲れた、ギルドで一番消耗したってどうゆう事だよ…


皆から賛同をもらった…あれ?


「そういや、パークファはどうすんだ?」

コイツ金とか持ってんの?


「……私…監視?のために同じ部屋……」

イヤンイヤンと無表情で体をくねらせるパークファ…監視にクエスチョンは要らない。


「イカン!!イカンぞ!それは!我を差し置いて同衾するなど言語道断!!」

誰が一緒の布団で寝ると言った?


「そうです!慎みをもってください!イチナさん…駄目ですよ?」

何で俺だ?二人ともプレッシャーが凄いんだが…


「そうよ!!白たんと一緒に寝るのはこの私よ!!」

すっこんでろ、アリーナン…そんな話はしてない。


「……大丈夫…体には自信がある…」

アリーナン並みのまな板で何を言ってやがるんだコイツは…火に油を注ぐんじゃねぇ。


「イチナはこの無い乳の方が良いのか!?…我じゃいかんのか?」

そんな事をしょんぼりしながら言うんじゃねぇよ、皆見てんだろうが…


「あんた良い事言うじゃない!!そうよ…イチナ!!私も体には自信があるわ!!」

パークファと肩を組んで、のたまうアリーナン…


「その宣言を聞いて、俺にどうしろと?…あとルナ俺は『有る』方が好みだ」

そ、そうか!とホッとしているルナ。

…?何でソルファまで胸を撫で下ろしてるんだ?


「……ガーン…私が気にいったっていうのは…嘘だったのね…しくしく…」

無表情で口に出すパークファと…

「くっ!今度こそ私の時代キター!と思ったのに…」

何だお前の時代って…


アレだ、種類は違うが脱力兵器が増えたんだな?

完全にヤル気を持っていかれる組み合わせだなコイツ等は…


戦闘中に発動しない事を祈るばかりだ。


「ハァ…取り敢えず宿に戻ろう…パークファの事は、もう女将さんに丸投げだ」


疲れたんだよ、俺は…

それなら文句も出ないだろうと思い、歩き出す。


……そろそろ、他の国やら町にも行ってみたいんだがねぇ。

取り敢えずは、休もう……



途中白に飛び掛かるアリーナンを迎撃するアクシデントが有ったのも重なり、これ以上ないくらいに脱力した体を引きずり宿へと向かう俺達だった……


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