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猫守紀行  作者: ミスター
18/141

マルニと友達。あと王子

9/16行間修正と微妙な調整入れました。

「あ~、体痛え…床で寝るもんじゃねえな」

最近ベッドに慣れたからか、それとも加護を使ったからか。

起き上がると体が軋む。

ギシギシと鳴る関節を伸ばし、ベッドの上で眠るルナを覗き込む。


「…クフッ…クフフッ…」

どんな夢を見ているのやら…

こりゃ、起きそうもないな。


刀を持ち、裏の井戸に向かい歩き出す。

途中で受付に居る女将さんに「昨夜はお楽しみでしたね?」と、からかわれながらも顔を洗い食堂へ着いた。



「ほかほかでした!」

ニコニコのマルニが昨夜の感想をお客さんに言っていた。


ちなみに女将さんから聞いたんだが。

白達は昨日、マルニと一緒に食堂の一角で寝たらしい。

サウスの毛に埋もれ温かかったそうな。


「あ!イッチー!サウスちゃん、あったかいんだよ!」

俺を見つけて走って来たマルニは唐突にそんな事を言っていた。

「うん、そうだな。おはような?」


イッチー聞いてないなー!と白や黄助、サウスがいかにホワホワ(優しく)でホカホカ(温か)であるかを俺の周りをクルクルと纏わりついて、興奮気味に説明してくるマルニ。


ほとんどが擬音で表現されるため見ている分には面白い。

ホワホワとホカホカは何となくの解読のため正しいかは、マルニのみぞ知る。


カウンターに行き直接、飯を注文して出来たら取りに行く。

マスターはこちらを見ては頬を緩ませている、他のお客さんも同様だ。


小さなウェイトレスさんは俺の前に座りホットケーキを食べながら、フカフカホワホワ言ってる。

口のまわりがシロップでべたべたになっているのを拭ってやりながら、擬音の説明に適当に相槌を打つ。


「やあ!おはよう!イッチーナ!」

「その名は止めろアホウ……何でお前がここにいる?」


突然声を掛けてきたのは、第二王子のバスハールだった。


もちろん変装はしてるが、付け髭は半分剥がれてるし、赤髪のかつらからは白に近い灰色の髪が覗いてる…もうチョイ何とか出来なかったのか?


「何でって、もちろんアイリンが動物たちに会いたいって言うからお忍びで連れてきちゃったよ!」

何で護衛なしで王族が直接来るんだよ…そんな事は呼び出せばいいだろうが。


「はぁ、まあいい。それで?アイリンはどうしたよ?」


「うん?…あれ?…ハグレチャッタ?ど、ど、ど、ど、どうしよう!?イッチーナ!…アイリンと一緒に来るのは、今日が初めてだからちょっとテンション上がっちゃってたから…これで何かあったらマーミナに殺されちゃうよう!」


コイツがココに来たのはある意味幸いだったのかねぇ。


「はぁ、ったく…サウス!」

サウスは分かったと言うようにすぐに立ち上がりこっちに来た。


「アイリン…この前、背に乗せた女の子の臭いを覚えてるか?あの子が迷子なんでお前の鼻を借りたい。いけるか?」


もちろんだと言っているのか一度吼え、出口に向かうサウス。

本当に家の仔たちは頭がいい。


「黄助は白を頼む…白、黄助の言う事をよく聞くように。バス…で良いか。バスお前はルナが起きてきたら事情を説明してここで待て、ルナはお前の護衛って事でよろしく」

黄助と白の返事を聞いて頷き。

近くに来たサウスの頭を撫でる。


「ルナって誰さ?」と聞いて来たので「お前のよく知ってる奴だよ」とだけ答えておく。


ぽかんとしてるマルニの頭を一度撫で。

「急用ができたんでな、代わりにコイツを置いていくからしっかり教えてやってく」

とバスハールに押し付けサウスと宿を後にする。



「さて、サウス。どっちだ?」

ガウッ!と吼え、走り出すサウスを追う。


走るサウスを見て驚く人が少ない?なんでだ?

ガルゥ?とサウスが立ち止り頭を捻っている…


「屋台通りか…ココの入ったのは間違いないのか?」

フンフン頷くサウス、そうか間違いないか。

頭を一撫でして、サウスと共に屋台通りへ入って行く。


何の肉だかよく分からない赤い蒲焼を売ってる屋台のおっさんに声を掛けられた。


「お?昨日のガードウルフじゃねえか。今日は白いのとマルニは一緒じゃないのか?」


「ん?昨日来たのかコイツが…サウス責めてるわけじゃないからな?」


サウスを見ると耳をたたんで、しょぼくれていた…お前、モンスターだよね?

マルニとしても犬のお散歩のつもりだったんだろう。

今はそんな事よりアイリンが先だ。


「ちょっと聞きたいんだか、12歳くらいの女の子を見なかったか?迷子でな、捜してくるように頼まれたんだ」

容姿はバスハールと同じように変装している可能性が高いため省略する。


「女の子ねぇ…覚えてねえな?」

チラチラと自分の商品を見ながらそう言うおっさん。


ふむ……


「そうか、時間も勿体ないし。他の人に聞くわ」

「いやいや!そこは買う流れだろう!?くっ、そうだ!買ったら思い出すよ!?」

必死だなおっさん、だが!


「ハッ!今思い出さない物を、買ったら思い出すとは笑止!…今思い出せば買うかもしれないがね?」


「よ~し!分かった!思い出したぜ!女の子なら屋台を覗いてはフラフラと奥に行ったぜ!さあ、どうだ!これで……」


おっさんに最後まで言わせない内に俺は走り出した。

ちゃんと買う『かも』って言ったじゃないか。

そこ、ひどいとか言わない。


走りながらも注意し、探していると…見つけた。


「ふぅ…マーミナは何処に行ったのかしら?バスハお兄様まで迷子になっちゃうなんて」

その両手には屋台で買ったであろう食べ物が握られており。

城の中で会った時よりイキイキした表情をしたアイリンがいた。


「…ハァ、ようやく見つけたぞ?」

え?と俺とサウスに気づいたアイリンは慌てて手に持った食べ物を後ろに隠す。


「あ、あの…コレは…」

「ああ、気にするな。俺は迷子を捜しに来ただけだ。取りはしねぇよ」


「迷子?…あっ!私が迷子だったんですか?」

本当に分かっていなかったとは…

アイリンは恥ずかしかったのか顔を赤く染めてウ~ウ~唸っている。


「ほれ、サウスに乗りな。お兄様がお待ちだ」

サウスに乗せてやろうとアイリンを持ち上げたようとした時。


「姫様を放せ!この下郎が!!」

「あ、マーミナ」


マーミナ?アイリンの視線の方へと振り向くと般若の顔をした女兵士が剣を向けて突撃してきた。

アイリンを放して剣をよける。

般若は俺とアイリンの間に守るように入った。


「貴様…やはりバスハール殿下と同類だったか。それ以上姫様に近づいたら斬る!」


えぇー……


「俺はそのバスハールから頼まれて探しに来たんだが…ちいと理不尽じゃないか?」

いや、別に頼まれた訳じゃないが。


「ふん!信用できんな!」

「マーミナ!イチナさんに失礼ですよ!…ごめんなさいイチナさん。マーミナは私の事になるとちょっぴり怖くなるんです。いつもは凄く優しいんですよ?」


ちょっぴり?今も般若の顔で睨んできてるが…

アイリンに叱られようやく剣を収めるマーミナだった。


「まあ、いいか。とりあえず宿に戻ろう。そこにバスハールもいるから」

宿と聞いてマーミナは再び剣に手を伸ばす。

バスハールも居ると言っただろうが…


俺をアイリンに近寄らせまいとするマーミナがアイリンをサウスに乗せたのは意外だった。

サウスに乗せた時「姫様を乗せるのだ、丁重にな」と柔らかい表情で言っていたのが印象的だ。

動物好きなのかもしれないな。


「そうだアイリン。今から行く宿に10歳くらいの女の子が居るんだがその子もサウス達が好きでなアイリンの友達に良いかと思うんだが」


「お、お友達…マーミナ!どうしましょう!緊張してきちゃったわ!」

「落ち着いてください姫様。…貴様、そのような場所にバスハール殿下を置いて来たのか?」

え?何かまずかったのか?


話を聞いただけでガチガチになったアイリンとどこか心配そうなマーミナを連れて何事も無く宿に戻ってきた。


ルナを見つけ声を掛ける。


「ただいま。迷子は確保してきたぞ」

そう言いながら食堂の前に来るとと何か空気が殺気立っていた…


「おい、ルナ。何でこんな殺気立ってんだ?バスハールは中に居るのか?」


「イ、イチナか。ルナ……夢ではなかったんじゃな。この殺気は…まあ、中に入れば分かるじゃろ。バス坊が原因じゃしの。ああ、そうじゃバス坊の護衛は本職が来たから止めてきたぞ?」


は?バスハールが原因?

「何言ってんだよ、お前」


「王家は業が深いのじゃよ。…そ、それよりもイチナ。我が起きたらお主の部屋におったのだが…いや、やはり言わなくてもよい!」

恥ずかしくて聞けるか!と言って飛び出していくファルナーク。

何もなかったんだがな…


行く前にこの殺気の理由を教えて行け。


仕方なしに食堂に入る俺達。

少々構えても仕方のない殺気の量だ…


食堂に入って理由はすぐに分かった。


「…でどうかな?僕のお嫁さんにならないかな?」

付き合いは短いが子供っぽい奴だと思っていたのが凛々しい顔をして口説いている。


「んー?でもね、ここにはお母さんとかパパとかサウスちゃんとかいるから他の所に行くの嫌だな」


マルニをだが…マーミナは俺がアレと同類といったのか?勘弁してくれ…


しかし、業が深いってこの事かよ……


机の上にはかつらと付け髭が置いてある。

殺気を放ってる連中は王子と分かっているから手を出せずじまいだ。


女将さんとマスターは相手が王子でも手を出しそうだが…

どうやら、厨房で王子の護衛に抑えられているようだ。

厨房からの殺気が一番強い。


取りあえず、だ。

無言でバスハールに近づき拳骨を落とす。

「お母さんも納得してkギャイン!?」


痛さにのた打ち回るバスハールを無視してマルニに声を掛ける。


「よう、ただいまマルニ。お前さんの友達に成れそうな奴連れて来たから遊んでやってくれ…白、黄助ただいま。お前たちもアイリンに挨拶してきな」

そう言ってアイリンの方に視線を向ける。


「おかえりイッチー!友達?あの子?…あっサウスちゃんに乗ってる!」

私も~!とアイリンの方へ走って行くマルニ。


流石のマーミナもマルニに向かって剣を抜く事は無かった。

二人で白達の魅力について話しているようだし、すぐにでも友達になるだろう。


その場にいた客からは拍手が上がる。

マルニはこの店の客全員の孫や娘扱いだから仕方ない。


マルニが白達を連れてアイリンを自分の部屋に招待した所でバスハールが復活した。


「いちちち。痛いじゃないかイッチーナ。いきなり何するんだよ」

「ああ、スマンスマン足りなかったか?特別にもう一発進呈しよう」

俺は笑顔で拳を握る。


「いりません!本当に痛いんだからソレ!」

バスハールは頭を抱え後ずさる。

そんなに力は入れてないんだがな…


厨房からガチャガチャと鎧を鳴らし護衛達が出てきた。


「貴様、王子に何をするー」

野太い声の棒読みで王子に見えないようにサムズアップ付きだ。


お前等、護衛だろう…全く素晴らしい忠誠心だな。


ところどころ鎧がへこんでいる…女将さん達にやられたのか?

さすが元『女将の拳亭』その拳は硬そうだ。


後ろから女将さんも出てきた。

マスターは…厨房を片付けているようだ。


「いや~悪かったね。代わりに殴って貰ってさ。アタシらがやるとそのままリンチになるから手を出せなくてね。流石に王子をリンチにしたとなると捕まっちまうからね」

あんた達も悪かったね殴っちまってさ、と護衛に声を掛ける女将さん。

鎧の凹みはやはり女将さんによる物のようだ。


冒険者が多く集うこの食堂でのリンチ…軽く死ねるな。


「ああ、女将さん。マルニちゃんを王家にくれませんか?大事にしますよ?」

そう言うのは最初にやるべきだろう。

少なくとも護衛で抑えてからやることじゃない。


「却下だよ。10000年後に出直してきな」

「ぐぅ、でも、僕は諦めませんからね!」

そう言って一人で出て行くバスハール。

護衛の人たちが頭を下げながら追いかけて行った…おい、アイリンはどうする?


「はぁ、仕方ない。アイリンは後で送って行くか…」

ついでに祭壇で付加袋を作っても良いな。


そういえば…

「女将さん、アリーナン達はどうしたんだ?」


「あの子たちなら朝早くから出てるよ。最近遊んでばかりだったからね。そろそろ資金が底をついたんじゃないのかい?討伐系だったらしばらく戻ってこないんじゃないかね?」


…そういえば俺もあれからギルドに行ってないな。

まあ、いいか。

目標は有るが急いでいる訳でもないしな。


アイリンが帰るまでに袋を調達しないとな。

今、硬貨が入ってる奴で良いのかね?


そんな事を考えながら、マルニの居ない食堂で静かな時間を過ごす俺だった。

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