準備期間
クリスマスに間に合わなんだ…。
メリークリスマス!(遅)
マキサックside
今俺は窮地に立っているッス。
その原因は勿論チナさんッス。
しばらくは部屋で休んだり、適当なおかずを作って食べたりで問題はなかったんスが。
大広間でチナさんが漏らした「暇だ」の一言に背筋が寒くなったッス。
最近サボっていた氣の訓練。
氣の錬度を見て一瞬でサボっていた事がばれたッス…。
そして始まった地獄。
「取りあえず、俺の氣を受け流してみようか実戦形式で」
そういってチナさんにとっての極少量の氣を纏わせた拳や蹴りの弾幕に身を晒す事になりました(真顔)
顔傾けながら、左腕でパリィをかけると、顔の横を風が奔る。
次はどこに来ると意識を戻すと、次の瞬間は腹に衝撃が来た。
これはなんとか身を捻り、物理的に抉られながらもなんとか氣だけは流す事に成功。
おおっと、一瞬かすった処が抉れた気がしたッスが気のせいにしとくッス。
…もうちょっと、さばきやすい速度と威力でお願い出来ませんでしょうか?そうッスか、駄目ッスか。
と、考えていたらもう一度腹に来たッス。
あ、今度は無理ッスね。
「ぐふぉっ!?」
あ、足が、一瞬浮いたッス…。
これ、最大級の再生の加護が無かったら胃の中身じゃなく、体の中身ぶちまけてるレベルッスね!?貫通的な意味で!
これで全然本気じゃないのが痛い程分かるからツライッス…。
「おいコラ、受け流せっつってんだろうが。体に打ち込んだ氣、爆発させずに消すの面倒なんだからよ。氣さえ流せりゃお前の肉体ならどうとでもなるようにしてんだ。何回かは出来てんだ。そのまま体で覚えろ。こんなイージーモードで躓いてんじゃねぇよ、俺ガキの頃はジジイにこれの5倍の速度の拳風に晒されたんだからな?ガキに出来て大人に出来ねぇ訳がねぇ、モノにして見せろレスラー」
「イージーモードがハードッス…!これの5倍の速度って、なんで子供の頃さばけたんスかチナさん…」
「あ?そんなもん生存本能に決まってんだろうが。ジジイ相手だぞ?常識なんぞありゃしねぇよ。威力は無いスピードだけの拳だったけどな氣はこもってる拳だ。逃げも許されんし、会得しなきゃ死ぬ」
サボってた自分が悪いんスけど、失敗した時に普通に追撃してくるのは本当に止めて欲しいッス…。
チナさんのお爺さんも相当ッスけど、いろんな意味でチナさんも負けてないッス。
避ければいい?駄目ッス。
そもそも俺の図体でチナさんの攻撃を完全に回避できるとか微塵も思えないッス。
というか氣を使ってくる敵が居ないのに、氣の受け流し訓練とは如何なものすかね?
口に出したら心が折れそうな返答が返って来そうなんで言わないッスが、久しぶりの理不尽を感じるッス。
いや、弱気は駄目ッス。例素羅は受けの最高峰、タッグ戦でもないのに逃げには……あ。
そんな事を考えていると、ふと田中さんと目が合ったッス。そして、自然と体が動いていたんスよ。
「トゥオウ!」
「うお!?って、行き成り転がってどうした?…休憩いれるか?」
その場から跳び上がり前転、そして床を転がり、這いながら田中さんに手を伸ばす。
一連の行動に虚を突かれたチナさん、困惑してるみたいッスね。
追撃もなしに見送ってくれたッス。
さぁ!さぁ!タッチしてくれッス!
「はぁ!?嫌だよなんか嫌だよ!?来るな!それやっちゃたら最後な感じするもん!来るな!来るなぁ!?」
「あらあら、神が助けを求める者を拒絶しては駄目よ?…大丈夫よ、後で治してあげるから」
「あ、駄目、だ、らめぇー!」
「田中キメェ、ちと黙れ。ああこれプロレスの試合とかであるあれか。…いや、今お前の特訓中だよ?ここはリングじゃねぇんだ自重しろよ。そして俺の話を聞け。休憩いれるかって聞いてんだろうか」
盛大に拒絶する田中さんの背後からフレアリア様の手が伸び、田中さんの手を掴みこちらへと伸ばしてくれたッス。
パンと軽い音が鳴る。
「さあ、田中さん!タッグ戦ッスよ!行って下さいッス!」
「はぁ!?なに言ってんのこの筋肉!?お前の特訓だろ!!あ、ちょっと待って、ねぇ、おい、聞けよ筋肉!!待って、投げようとしないで!!俺神様よ…うふぉぁ!?」
タッチした手をそのまま掴み、チナさんに向かって投げる。
田中さんは縦に二回転程しながら一直線にチナさんの元へと向かって行くッス。
俺はその隙にさらに転がり治癒の神様であるフレアリア様の元に移動したッス。
「…はぁ、なにやってんだよ。……そういや、神って氣使えんのかね?おい田中ちと使って見せろ。使えなかったら取りあえず体験しようか。マキサックは休憩な」
「使ってみせろって、この体勢で!?まずは降ろして!首が捥げちゃう!むしろ掴まれた時折れたかと思ったよ!?体だけ飛んでいくかと思ったよ!そもそもそんな簡単に出来るもんなの?「無理だな」なんて理不尽!?」
投げられた田中さんはチナさんによってアイアンクローでキャッチされ宙吊りになっていたッス。
一回首を始点に回転したかと思ったッス、流石神様、頑丈ッス。
叫ぶ田中さんにチナさんを押しつけて休憩に入るッス。
キッチンから汲んで来た水をあおり、落ち着いたところで気付いた。
「…そういえば、さっきチナさん休憩いれるかって聞いて無かったスか?」
《そうだぞ。気付いて次元に押し付けたのかと感心した。が、天然か。死ね》
俺の独り言に答えてくれたのは、ベルトのバックルに宿った再生の神ヘルベア様だったッス。
見た目が小さな妖精さんなだけに汚い言葉が俺の心に突き刺さるッス…。
「氣…、氣ってなんだよ…。こう?こうか?これが氣か?」
「アホウ。そりゃただの神気だ。垂れ流すなもったいねぇ。あ、それ魔力な。チッ、田中のくせに垂れ流す量だけで俺の5倍の魔力とか、…取りあえず殴らせろ」
「嫌だよ!?それに5倍どころか10「ふんっ!」べぶらっ!?」
田中さんが垂れ流す神気に頬が引きつるッスけど、余計な事を言って空を舞う田中さんに別の意味で頬が引きつったッス。
言わなきゃいいのにと思うのは悪くないと思うッス。
俺もよくチナさんに殴られたけど、それは出来なかったからッスからね…。
大丈夫、命の危険を感じれば自然と出来るものッス!
床に顔面から着地した田中さんにそう声を掛けようとしたら、白目をむいて痙攣していたッス。
……絶賛命の危機だったッス…!
でも、頭がパンッ!てならなかっただけでも流石神ッスね。
「…やべ、ついマキサック殴る感覚でやっちまった。治癒頼むわ」
「はいはい。しかし神気の貫通を事も無げにやってますが、どうやっているのですか?」
「あ、それは純粋な威力な気がするッス…」
呟き程度の自分の言葉はスルーされ、チナさんが俺も分かんねぇんだけどなぁ…。と言いながら椅子に座った時だったッス。
フレアリア様が声を上げたのは。
「はい、これで大丈夫ですよ。…あら?邪神の彼から連絡が来たみたいよ」
「なに?」
「マジッスか……」
その時のチナさんの嬉しそうな笑顔を俺はきっと忘れないと思うッス。
sideout
イチナside
思ったより随分と早い気がするねぇ。
いいことだ。全くいいことだ。
アリーナンには悪いが、領地は諦めて貰おう。
アルケイドとの勝負もつけなきゃならんし、アルスも仕留めにゃならん。
被害とか考えてられねぇ。
「今送られてきた神気を音に変換してあげるわね」
そう言うとフレアリアは空中に神気で術式を書き、そこに左手を当てた。
『繋がったか。先に言う、そちらの言葉は届かない。一方的で悪いが、万全で臨むにはあと二日欲しい。二日後また連絡する』
それだけ言ってノイズの掛かったようなエギュニートからの連絡はブツリときれた…。
…がっかり、がっかりだよ。
万全を期すためには、あと二日は欲しいだ?
まあ、その日のうちに行けるとは思ってなかったし、下手したら一週間くらい掛かるかなとか思ってたから、十分短いと言えるだが。
しかしだ、俺はすでに期待してスイッチを入れてしまっている。
チビーズでも居れば構い倒して発散出来るんだがねぇ…。
しかし、二日は半端だ、鍛錬しても身に付く期間じゃねぇしなぁ。
一週間くらいあると思ってたからマキサックの鍛錬してた訳だし。
休んでてもいいんだが、大戦の前だ、鍛錬は絶やしたくないよなぁ。
「…何してろってんだよあの野郎。…取りあえず、田中とマキサックは俺と実戦組手丸一日な。残り一日は体を休めるのに使わせてやろう」
「何でオレっちまでぇ!?お、オレっち、袋ん中に引き籠って神気溜めとくからマキサック行けよ!」
「嫌ッス。チナさん、俺達で発散するの止めて欲しいッス、切実に」
「ならマキサック、連合軍の奴等はもういねぇの?どうせ監視で残ってんだろ?ちょっと遊んで来たいんだけど」
二人は俺の言葉を聞いて、顔を見合わせ一拍置いた後。
止めたげてよぉ!!と二人が同時に声が上げ俺の腰に縋りつ来た。
仲良いなお前等、そんな必死に止めなくてもいいじゃねぇか。暑苦しい。
そんな二人の反応を見てフレアリアは止めもせずに哂っている。
取りあえず、縋りついてくる二人は暑苦しいので軽く拳骨を落としてその辺に転がしておく。
田中は上手くいったが、マキサックは加減が難しい。
ちょっと陥没した、もしかしたら上手く逝ったかもしれん…。
きっと再生の神が上手くやってくれるはずだ。
なんだか「どうやったらこんな形状になるんだよ」とかぶつくさ言ってたが、もう外見は治ってるし。
まあ、逝ったとしても、三途の川でもあれば甘坂の御歴々に会って逃げ帰ってくんだろ。
さて、田中とマキサックに断られちまったし、あと二日どうしようかねぇ…。
…仮想ジジイ相手に斬り結ぶか。
まあ、二日もありゃアリーナンの領地からの避難くらい済んでんだろ。
そういや、一切連絡がねぇが、ルナ達は上手くやってんのかね?
…あ、バルドカールから鱗貰って、シェルパのガルレンズのおっさんになんか作って貰うか。
そうと決まれば……連絡手段がねぇな。
もう一回あそこまで行くのも面倒だし、大人しく待つか…。
sideout
ファルナークside
我等は、通された客室で、話し合いがしたいと言うバルマストを訝しみながらも席に着く。
城の給仕が紅茶を入れ、茶菓子を出す。
給仕に礼を言いながら紅茶に口を付け、こちらに艶然と微笑むバルマストは、アリーナン以上に様になっておった。
我らが警戒して口を付けぬのを見て、同じポットから入れられた紅茶を率先して飲むか。
これでは飲まぬ訳にはいかんの。
我は何時でもクロノフール様に時を止めれるよう準備をお願いし、一口だけ紅茶に口を付けてからバルマストの話を視線で促す。
が、その視線に答えたのは別の人物じゃった。
「その視線、白亜教に入りたいのね?水臭いわ、もちろんよ!」
「少し黙って、アリーナン。…ごめんなさいね、空気の読めない盟主様で」
バルマストはそう言いながらアリーナンを部屋の中に何故か居る巨大な黒猫に押し付けた。
アリーナンは乙女がやってはならん顔でその猫の体に溺れていく。
ふむぅ、流石に扱い方を心得とるの。
「あなた達、こちらにつく気は無いかしら?」
「何を言っとるんじゃおぬし。有る無し以前の問題じゃろう。なにより…」
「あなた達のリーダー甘坂一南も一緒に、よ」
イチナも一緒にじゃと?それこそアルスや他の魔軍の将が納得せんじゃろう。
我等は魔族を斬りすぎておる。ここで戦闘になっておらんのが不思議なくらいじゃ。
「邪神の使徒と甘坂は倒すべき相手ですが、あなた達が口利きをしてくれるのならば甘坂とは手を取り合えると私は思っています。いえ、正直に言いましょう。私はあなたの持つ、いえあなた達と共にある『世界に介入した』神々が一番怖い。ですから人間である甘坂よりも神を宿すあなた達を敵に回したくは無いの。たとえそれが白亜教の神であっても」
「随分と正直じゃの」
「そりゃ、神様相手だからじゃない?嘘ついてもばれちゃう的な。この場にはアリョーシャちゃんもクロノフール様もノバッチも居るんだし」
「え?そうなのですか?……あの、ノバディラ様は出来ない見たいです」
「初めて~、聞きました~」
我も確認のため、クロノフール様に声を掛けた。
すると、我にだけ聞こえるように指向性を持たせた念話が届く。
《契約系統の神なら出来るでしょうが、私達には出来ませんよ。ですが、大して問題無いでしょう。…おや?彼女顔が引き攣っていますね。神気は感じられても神の数は正確に捉えられていなかったようですね…》
そう言われて、バルマストの顔を確認すると、確かに引き攣っておった。
流石にこの場に3柱も居るとは思わんかったか。
しかし、バルマストの動揺も一瞬で、すぐに平静を取り戻す。
まあ、少なくとも神を敵にしたくは無いと言う言葉に嘘は無いんじゃろう。
「…それで、返事を頂けますか?勿論要望があれば可能な限り応えます。会談の中止も視野に入れてありますので」
平時なら考えるかもしれんが…、
我が何故王城という面倒臭い場所に来たのか教えておかねばならんかの…。
あまり教えてこ奴に対策を練られても面白くないんじゃが。
もう、ザル坊にはシャーニスから伝わっておるじゃろうし、言ってしまうか。
「すまんがのバルマスト。我がここに来たのは王都に警告とおぬしらとの戦いに手を出さぬように言いに来たんじゃ。もっともアルスが王都に居るせいで全部無駄じゃけどな。全軍退きあげてツァイネン領に帰ってくれんか?さもなくば王都が滅ぶぞ、物理的に」
「甘坂は確かに強いですが、我等魔軍は使徒の軍勢。それに無辜の民を故意に殺傷するような男なのですか?」
「俺様王子は違うよ?でも邪神の使徒が俺様王子と一緒に来るからね。あの人は容赦なんてしないと思うなー。ここでやると一切合財灰燼に化せ!とかやりそう。結局俺様王子が止めに入ってその戦闘の余波で王都が灰燼に…、まであるよ!」
「なんてものを引き合わせているんですか…!」
バルマストに答えたアンナの返答に我等が一斉に頷くと、バルマストは頭を抱えた。
「いや、我等の及ばぬ処で手を結んでおったのだからどうしようもあるまい。そもそも王真と使徒様が止めれんかった時点でどうしようもないわ」
「通信来た時マジでビビったよねぇ。アイぽんはどうよ?」
「そうですね、イチナさんが何を考えてるのか分かりませんでした」
「私は~、ついに頭沸いたんだと~、思いました~」
我等の言葉を聞いて深いため息を吐きだすバルマスト。
少々不憫ではあるの…。
そんな時じゃった、部屋の扉がノックされ外された。
バルマストが許可を出すと、失礼しますと断りをいれ入って来た。
「盟主様、バルマスト様。そろそろ会談のお時間です」
「そう…、もうそんな時間…。アリーナンが居ないと進まない話ですから、少しの間だけ待たせて置いてちょうだい。アルス様には、王様のお相手をお願いしましょう。もし帰ろうとしたら『老将が変わるがわる聞かせるぬこ愛についての考察20時間』とだけ伝えて置いて」
「は、はぁ…。しかし、そのような有意義な時間を過ごせるのではアルス様は帰ってしまわれるのでは?いえ、失礼しました。確かにお伝えします」
そう言って女官は部屋を離れていく。
我、酷い罰じゃなと思ったんじゃが、女官はそうは思わんかったらしい。
外を見た時も思ったが、その20時間を有意義と思える時点でもう駄目じゃろ…。
思想が根付いてしまったら、魔王を倒そうが神を倒そうがアリーナンを倒そうが無駄じゃ。
選ぶのも、染まるのも、広めるのも民なんじゃから。厄介じゃの宗教っちゅうのは。
しかし、アルスは一応神なのだから自由に振舞っても文句は言われないはずなんじゃがの。
少々同情してしまうわい。
「まあ、どれだけ時間を掛けようが我らが頷く事は無いんじゃがな」
「ええ、そうでしょうね。…アリーナン、ちょっとこっちに来なさい」
「うへ、うへへへ……むあ?なによバルさん。今私はこの仔と「いいから耳を貸しなさい」ちょ、耳を引っ張らないで!」
まるでお仕置きされている子供のように耳を引っ張られ、巨大黒猫から引き剥がされるアリーナン。
そのままバルマストはアリーナンの腕を掴み、耳元に口を寄せボソボソと小声で言い始めた。
そして、腕を放されたアリーナンが口を開く。
「…駄目よ!!盟主として、信者に不利に働く行為は認められないわ!」
何を言いだしとるんじゃアリーナンは?
いや待て、バルマストが囁いた後にこれならば意味が無い訳が無い。
さしずめ神々を止める一手と言うところか…!
まだ間に合う、引っ叩いてでも止めねば!
我とそれに気付いたハチカファが動き出すが、がくりと足が止まる。
正確には我とハチカファだけで無く、アイリンとアンナも同様にじゃな。
…これは肉体の時を止められたの。言葉も発せぬ。
何をなさるか、クロノフール様。
《まあ、落ち着いて彼女の顔を見てください。ほら、盟主の言葉は最後まで聞きましょう。私達に向けての言葉のようですし》
顔を見ろと?…別に普通じゃが?至って真顔で語るその様は異様でもあるが。
これは魔力の乗った言霊を流し込まれたか?
それにしたって雑じゃろバルマストよ、目の前でやって神に気付かれぬと思ったのか?
…いや気付いても、こちらの神々が聞く姿勢にはいっとるわ。
まあ、元々白亜教の神な訳じゃしな。ある程度、残念なのは仕方ないのかのぅ。
イチナでもなければ神々の意思を人が左右する事なぞ無理じゃし。
「…信者はいわばあなた達の同士。居るんでしょう白メイツ。白亜教の神として、白メイツとして、あなた達がやるべき事は戦いじゃないわ 。見守る事よ!」
(…いいのかしら盟主がこんなに単純で。このままいくと白ちゃんに会えないわよと囁いただけでこの反応。……私も実物に会ってみたいわぁ)
なぜかバルマストがトリップし始めたんじゃが?
いかん、少し怖い。魔族もアリーナン化が進んでおったか…!
《確かに我々が介入するのは一方的過ぎるかもしれません。ですが、相手は神と使徒です。確約はしかねますね。彼女達を傷つけた場合の甘坂さんの反応が私は何よりも怖い》
アリーナンの言葉に、神々を代表して答えたのはクロノフール様じゃった。
その言葉にバルマストは厳しい顔ををしておる、イチナへの警戒を何段階か上げたようじゃ。
「…こちらから甘坂に呼び掛ける事は可能ですか?」
《もちろん出来ます。あちらには治癒の神も再生の神もいますから。繋げますか?》
バルマストは、いえ、結構です。とだけ呟き、なにやら考える仕草をする。
しかし、それは一瞬の事でこちらに向き直った。
あと、クロノフール様、次元の神もおること忘れておらんか?
もしかして態とかの?ある意味究極の移動手段じゃし。
次元の神様ならば連絡すればこの部屋にでもイチナを送り込めるはずじゃ。
「…申し訳ありませんが、あなた方にはもうしばらくこの王城に逗留して頂きたい」
「ふむ、拘束では無く、己の意思で残れと?」
どうやら次元の神様への連絡は見送りかの?
「あなた達の武器を取り上げた処で、中に宿る神様をどうにか出来るとも思えませんし、その武器を操るあなた達を拘束するのも難しい。ですが、私もこの王都を戦場にするのは御免です。場を用意できるまで連絡要員に一名でもいいので逗留して頂きたいのと、どれほどの猶予があるかを甘坂に聞いて頂きたい。私が聞くよりあなた達が聞いた方が余計な駆け引きをしなくていいでしょう」
まあ確かに、間違いなく警戒されるじゃろうし、下手したらイチナだけ突貫してくるじゃろうしな。
「一人でいいんですか?なら私が…!」
「駄目ですよ~、姫様は素の戦闘力があれですから~」
「ならば私が残ろうではないか!」
「アンナはアリーナンと相性が良さそうじゃから、却下じゃ。我が残ろう」
「快諾、感謝します。では私はアルス様と王に会談の延期とこの件の報告に行って来ましょう……行くわよ、アリーナン。…起きなさい」
「………ふぁっ!?寝てない、寝てないわ。ザーニャタンの背中が気持ち良すぎてよだれを垂らしてなんてないわよ!?ちょ、耳、また耳!引っ張らないで!」
《流石盟主ですね。憧れて痺れます。では、神気ネットワークの出番ですね。取りあえず砂の神に現状報告しておきます》
バルマストに耳を引っ張られながら部屋を出ていったアリーナンは捨て置いて、心配そうにこちらを見ているアイリンの頭を撫でてやる。
そしてクロノフール様何処に憧れて痺れる要素があると言うのか。
いや、一切聞きたくは無いから別にいいんじゃが。
「ファルナーク様…」
「なぁに心配するでない。我等には神様がついとるんじゃ。それに危なくなったら次元の神にヒーローを呼んでもらうからの」
「なにそれ、うらやま。そして逆に心配」
うむ、言った我そう思う。
sideout